170 :Monolith兵:2014/07/16(水) 05:57:40
ネタSS「憂鬱日本欧州大戦 -蛙たちの咆哮-」


 フランスで起きたクーデターの情報はイギリスのみならず、世界中に広がった。
 日本では夢幻会の者たちが頭を抱え、国民はフランス人の突然の暴挙に怒りの声をあげた。
 アメリカでは、フランスの抜けた穴に入り込もうと、様々な工作を始めていた。
 イタリアでは、これを機に連合国入りをしようと、フランスの政府側を支持する表明を出し、いつでも援軍を出せるようにと国境付近に軍を派遣した。
 ソ連では、己の策略がうまくいった事に筆髭がほくそ笑み、欧州戦線で大攻勢に打って出る事を決定した。

 そして、フランスと国境を接するドイツでは、当てにしていたフランスが事実上の内戦に突入した事に、政府内で声を荒げる者たちが続出した。

「あの馬鹿共め!我が国が戦争の準備を進めている内に後方で騒ぐなど!?」

「イギリスと共同して占領してやろうか!?」

 ブラウヒッチュ将軍は、フランスのしでかした事によってソ連への反抗の準備が無駄になった事でフランスを汚く罵った。軍部のみならず他の閣僚からも賛同の声が上がり、一時会議室はフランスへの悪罵罵倒が渦巻いた。
 アデナウァーは、何度も止めようと声をかけたが、それは聞き入られなかった。
 フランスでクーデターが起きて以降ソ連の攻勢は強まっており、フィンランド戦線はいつ崩壊してもおかしくない状態であった。現在の連合軍の主力であるフランス軍が、本国のクーデター勃発の情報を知り浮き足立っているのが原因だった。また、フランス本国からの補給が途絶える事を恐れてもいた。

 だが何よりも、ソ連がとうとうドイツに宣戦布告してきた事が、彼らをこれほど怒らせていた。
 事前の計画ならば、ソ連との戦争開始でフランスからは部隊が大量に輸送されて来る予定だったのだが、クーデターによりそれも見通しが立っていなかった。
 何とかソ連軍の侵攻は押しとどめているが、フランスからの援軍がなければ防衛一辺倒しか出来ずに、戦局を変える事は到底出来そうも無かった。最悪の場合、つまりフランスが敵対する可能性も否定できず、国防計画の見直しが急務だった。

「いい加減にしろ!愚痴を言うのなら後にしろ。今必要なのは、これから如何に戦争を進めていくかだ!」

 アデナウァーはヒートアップした罵倒発表会に嫌気がさし、机に思い切り拳を叩きつけ怒鳴った。普段温厚なアデナウァーのその行動に、会議室は静まり返った。幾人かは自分のこれまでの言動を思い出したのか、居心地悪そうにきょろきょろと周囲を見渡していた。

「ブラウヒッチュ司令官、ソ連の侵攻は完全に防げているのだな?」

「はい。ソ連軍は確かに大軍でポーランド戦の時よりも強くなっていますが、一歩もドイツ領には入らせてません。また、我が軍のみならず編入した元ポーランド軍の将兵の士気も高く、ソ連軍を確実に撃退しています。」

「うむ。空軍はどうか?」

「はい。空軍は制空権を完全に把握しています。幾度かソ連軍による都市爆撃が行われましたが、ほぼ防ぐ事に成功しています。ただ、こちらからの継続しての爆撃は消耗が激しく困難です。ソ連軍の航空機の航続距離は短く、我が軍に比べてその技量も未熟ですが、数が多くこちらの爆撃機の消耗も無視できません。」

 フーゴ・シュペルレ空軍司令官が、ドイツの防空は完璧ではあるものの、ソ連への反撃は難しい事を伝えると、アデナウァーはため息をついた。ちなみに、シュペルレはナチス党の重鎮ヘルマン・ゲーリングと親しい事から、ナチス信奉者であると疑いを持たれたが、ナチス信奉者である証拠もなかったので、司令官として引き続き空軍に在籍していた。
 なお、ドイツ空軍はゲーリングの意向で急降下爆撃に強く傾倒しており、双発機にまで急降下爆撃ができるよう要求するなど戦術空軍であった。よって戦略爆撃が可能な期待は皆無だったのだが、日本やイギリスとの交流が進むにつれて、戦略爆撃が可能な機体が必要と結論付けた。英国の四発爆撃機は開発が遅れているので、必然的に日本の新鋭爆撃機100式重爆連山のライセンス生産が決定していた。

171 :Monolith兵:2014/07/16(水) 05:58:01
「とりあえず守りは万全だという事だな。では、フランスに対してどんな対策が取れるかを考えよう。まずは今のフランスの詳しい状況を知りたい。」

「はい。現在解っている限り、クーデターはパリで1月6日に起こりました。クーデターの首謀者はエドゥアール・グラディエ、レノー内閣の国防相です。」

 現役閣僚がクーデターを起こしたと聞いた出席者達は目を剥いた。これまで、反戦派議員がクーデターを起こしたと聞いていただけだったが、現役閣僚が、それもよりによって国防相が起こしたとなるのは予想外だった。

「レノー首相やルブラン大統領らの要人はパリを脱出し、ボルドーに政府を移した模様です。かなりの人数が脱出できたようで、フランス政府は無事です。ただ、クーデター側には軍の一部が協力しているらしく、パリでは政府側とクーデター側の部隊がにらみ合っている状況です。」

「では、クーデターは事実上失敗したと言うことか?」

「今のところはそう言えます。ただ、今後軍や政府内でクーデター側に組する者が出ないとも言えません。」

 一先ずドイツの防衛は問題ない事を理解したアデナウァーは、フランスの状況を聞いて胸を撫で下ろした。少なくともフランスが今すぐ敵に回るとか、停戦するとか言う心配はなさそうだった。
 その上で、アデナウァーはフランスへの対策を会議室にいる者達に尋ねた。ちなみに、海軍司令官として出席しているレーダー提督は、国防に関して一切尋ねられる事がなかったために、涙が出そうになるのを堪えていた。

「陸軍としましては、フィンランド支援として準備中であった5個師団をフランス国境へと振り向けようと考えております。」

「まあ、政治的圧力にはなるだろう。だが、フィンランドは苦しいと聞く。フィンランドで敗北すれば、こちらへの圧力が強まるかも知れんぞ?」

「ですが他に有力な部隊がありません。西部に存在する部隊は訓練中の軽歩兵師団が6個程度です。」

「ではその部隊を派遣しよう。今回は軍事的圧力ではなく、政治的圧力が目的だ。下手に重装備な部隊を派遣して、フランスが過剰反応を示しても困る。」

「ではそのようにいたします。」

 アデナウァーの示した案をブラウヒッチェは受け入れた。彼としてもフランスに有力な部隊を取られるのは本意ではなかったが、外交的圧力のための部隊派遣という名目でそれを回避することが出来、彼自身もほっとしていた。

「空軍はどうか?」

「空軍としては、陸軍同様訓練部隊を派遣する予定だ。断っておくが、訓練部隊には確かに新鋭機が配備されていますが、作戦能力は皆無だ。これは理解してもらいたい。」

 シュペルレはアデナウァーに釘をさした。もしフランスと事を構える事になれば、訓練部隊は何も出来ずに壊滅する可能性すらあるのだ。

「それは解っている。フランスとの軍事衝突は私も本意ではない。ボルドー政府とは綿密に連携をとる。それから、イギリスや日本ともだ。これらの部隊には絶対にフランスと事を構えるなと厳命しろ。外相は、フランスにクーデターを早期に収束させるよう他国と連携して強く抗議しろ。」

 アデナウァーの言葉に、出席者達は頷いた。
 こうして、ドイツのフランスへの対抗策は決定した。

172 :Monolith兵:2014/07/16(水) 05:59:25
 さて、ドイツでフランスへの行動方針が決定された頃、当のフランスではボルドーに避難した政府がパリ奪還の方策を練っていた。
 ルノーら政府の要人達は、クーデター直前に密告によりグラディエがクーデターを起こすという事を知り、脱出できていた。

「クーデター側について部隊はそれほど多くはありません。国防相の命令とは言え、パリに進軍せよと言う命令に疑問を持った部隊が少なくなく、現在確認できているのは、パリで我が方と睨み合いをしている2個師団に過ぎません。他の部隊はこちらを正統な政府として支持しています。また、フィンランド派遣軍もこちらの支持を表明し、海軍も全てこちら側についています。」

「最悪の事態は免れたか・・・。」

 ルブラン大統領が疲れた顔で呟いた。幾人かの議員はクーデター側についており、脱出できなかった議員も多数いた。

「ですが事態は深刻です。パリがクーデター側に占拠されてしまい、各種業務に支障がでています。また、バルト海とエーゲ海に展開する艦隊が英海軍との連携に問題がでており、ソ連軍の仮装巡洋艦や潜水艦の進出を許した可能性があります。」

 臨時に国防相に任命したマキシム・ウェイガン大将が現状を説明すると、閣僚らからはため息が漏れた。パリが反乱軍に占拠されたため、政府のみならず軍の業務にも支障をきたしていた。具体的には、兵器の生産計画やフィンランドへの追加派兵計画、部隊の訓練や移動や兵站などの計画の実行が困難になっていたのだ。陸軍総司令官兼参謀総長のモーリス・ガムランがクーデター側についた事も痛手だった。

 また、それのみならず国境付近にドイツが部隊を派遣しており、この対処も問題だった。幸い訓練部隊である事が判明し、こちらも対抗上部隊を派遣したが、これはドイツから早く事態を収拾せよと言うメッセージだと言うことは誰の目にも明らかだった。

 そして、イタリア軍も国境付近に20万にも及ぶ部隊を展開していた。こちらは重武装の部隊であり、「クーデター軍掃討に協力する用意がある」という名目の元だったが、それがいつ未回収のイタリアを奪おうとする可能性があり、油断出来なかった。

173 :Monolith兵:2014/07/16(水) 06:00:34
 ルノーはガムランの能力に疑問を持っており、幾度としてガムランの更迭を試みたが、その度にダラディエに妨害されたため、ガムランは未だに陸軍の全てを取り仕切っていたのだ。
ちなみに、ガムランは積極的にクーデター側についたのではなく、クーデター発生の報告を受けても何ら指示を出さずに寝室に入ったため、クーデター側に組したと政府側は判断していた。梅毒による思考力の低下が彼の命運を決めていた。

「出来る限りフィンランドへの派兵は行おう。それと、ドイツにも部隊を送る。ここで我々が諦めればフランスは永久に世界の笑い者となってしまう。時間はかかるだろうが、これは絶対に必要な事なのだ。頼む。」

 ルノーの言葉に閣僚達は難しい顔をした。
 政府側は軍の支持は受けたが完全に掌握できたとは言えなかった。そこでルノーは部隊をフィンランドとドイツに送り、フィンランドではイギリス軍の指揮下に、ドイツではドイツ軍の指揮下に部隊を置く事で、国内の潜在的な反乱勢力を減らそうとしたのだった。
 だが、陸軍が半身不随になっている現在では、派遣できる兵力は高が知れているし、既存の部隊の兵站も厳しいのが現状だった。
 また、クーデターが起きパリが占拠されたために、閣僚達の間では厭戦感情が広がっていた。フランスが分裂するくらいならソ連と講和しようと言う意見が出るのも無理がなかった。

「それから、今回のクーデターはソ連による謀略である可能性がある。日本からソ連がフランスで武装蜂起する計画があるという連絡があった。」

 ルノーが日本からの情報を伝えると、閣僚達は驚愕した。彼らは今回のクーデターは、あくまで国内勢力である反戦派が起こしたものであると考えていたからだ。

「日本はフランス大使館を通じてクーデターが起きる前、1月4日にはこの情報を伝えてきた。だが、どこかでこの情報は握りつぶされたようだ。つまり、外務省に共産主義者が、ソ連のシンパが存在するという事だ。
 それと、グラディエの後援団体の一つである市民反戦運動には、多数の共産主義者が出入りしているという情報提供がイギリスからあった。我が国の諜報関係者は首の上にカボチャでも乗せているらしい。」

 ルノーは外国から今回のクーデターの真相を伝えられ、自国の諜報組織が余りにも貧弱な事に皮肉を言った。皮肉は兎も角、その内容に閣僚らは衝撃を受けた。フランスに共産主義者がいる事は知っていたが、ここまで根を張っていた事は彼らは知らなかったのだ。これでは、どこに共産主義者が潜伏しているかわかった物ではなかった。
 そして、パリが占拠されたことにより、政府や軍の機密情報がソ連に流出した可能性は高く、反抗作戦は一から見直しをしなければならなくなった。もっとも、フランスが内戦状態にあるために反抗は事実上不可能となっていたが。

「これからフランスはソ連と国内の共産主義者と言う二つの敵と戦う事になる。だが、クーデターを防げなかった私ではこの戦いを乗り切るには力不足であると実感した。よって、私は首相を辞職し、後継はペタン元帥を指名する。」

 そう言うと、レノーは会議に出席していたペタン元帥に視線を向けた。閣僚らも元帥に目を剥けた。

「こんな老体ですが、フランスの勝利のために尽力しましょう。」

「ありがとうございます。我々も出来る限りのサポートを行います。」

 こうして、フランスは国内と国外という二つの戦場で戦う準備を始めた。

174 :Monolith兵:2014/07/16(水) 06:01:19
 ペタン元帥がボルドー政府の首相に任命された事はフランス国内のみならず世界中に伝えられた。
 首相に就任したペタン元帥は、早速フランス国内にラジオ演説を行い、今回のクーデターがソ連の陰謀であり、パリを占領している勢力は共産主義者であると言い、国民に共産主義者根絶のための協力を求めた。
 そして、パリが戦場となり戦火にさらされる可能性を指摘した上で、国民に覚悟を求めた。

「先の大戦の際、我々はパリの陥落を覚悟した。戦火によりパリが廃墟になる事を覚悟した。翻って、現在はどうか?フランスは確かに直接の戦火には晒されてはいなかった。
 だが、ソ連と繋がった共産主義者達はは我が国の誇るべき首都で、卑劣にもクーデターを起こした。パリを守るために、我々は誇りを忘れて悪魔のような侵略者に膝を屈するのか?
 否、断じてそのような事はしてはならない!たとえパリが廃墟となったとしても我々は勝利する。勝利し、世界にフランスここにありと示そうではないか!さあ諸君戦おう!栄光の勝利の為に戦おうではないか!」

 ペタン元帥はたとえパリが廃墟となっても、卑劣なソ連と反乱軍は叩きのめすと宣言し、国民に理解を求めた。この演説で、クーデターが共産主義者によって起こされた事を知った国民は、卑劣なソ連と共産主義者立ちの行いに激高して、徹底抗戦を主張するペタン元帥を支持した。

 一方で、パリに陣取るクーデター政権は内部分裂が起き始めていた。

「俺達が共産主義者だって!こんな事出鱈目だ!」

「だが考えて見れば、武装した連中がいるけどあの武器はどこから調達したんだ?」

「俺、支部長が赤旗振って革命万歳って言っているところ見ちまったんだ。何かの間違いだと思っていたけど、共産主義者なのかも。」

 このような会話がそこかしこで行われ、中にはボルドー政府に投降するものも現れ始めていた。

「お前ら俺達を騙したな!反戦派とか言いながら、ソ連の為に俺達を良い様に使ったんだろ!?」

「おいおい何言ってるんだ、真の平和のために、革命のためには些細なことだろ。」

「やっぱりこいつら共産主義者だ!良くも騙してくれたな!!」

 クーデター政権内部では、このように共産主義者と単なる反戦派との間で争いが起き、ボルドー政府がパリ解放のための行動をする前に、パリは戦場になりつつあった。
 クーデター政権側についた陸軍内部でもこのような分裂が起きており、銃撃戦すら起きるようになっていた。

 その情報を知ったペタン元帥は、クーデター側に投降を勧告すると共に、陸軍の投入を決定した。

「共産主義者を1人も逃がすな!ただし共産主義者以外で投降する者は1等減刑する。」

 ペタン元帥は、このようにクーデター政権内部での内部分裂を加速させた上で、大部隊でパリを制圧するよう命令した。
 パリではそこかしこで戦闘が始まり、一部では砲撃戦すら起きていた。砲弾が建物に着弾し崩れ落ち、火に包まれる様はフランス国民の心に大きな傷を作っていた。

 だが、国民はそれでも共産主義者達の殲滅を望んだ。もしパリの破壊を恐れ共産主義者達が生き残れば、ポーランドで起きた悲劇がフランスでも起きるかもしれないのだ。
 故に、フランス国民はクーデターを起こしパリを戦場にした共産主義者と、現役閣僚でありながら共産主義者についたダラディエを憎んだ。

 最も、ダラディエ自身はこのまま戦争を続ければ、フランスは勝利したとしても貧弱な兵器によって多数の戦死者と積み重なった債権により、列強として存在できない可能性を危惧してクーデターを起こしたのだった。後援団体の反戦団体が、まさか共産主義者の隠れ蓑だと言う事など、夢にも思っていなかったのだ。

「もはや、私は全フランス国民の敵か。ならば、精々絶対的な悪として共産主義者共々滅んでやる!」

 彼自身もソ連の陰謀によって良い様に動かされた事に憤りを感じていたが、こうなった以上は共産主義者をフランスから排除する為の生贄になるつもりだった。彼は信頼できる軍人達に、共産主義者達を出来る限り殺害するように指示を出すと、彼らがクーデターに参加したのは自分が強制した為であり自由意志によるものでは無い事を書面にしたため、彼らに託した。

「共産主義者どもを殺した後はボルドー政府軍に投降しろ。それから、私は悪魔のような共産主義者であったと宣伝しろ。この戦闘で市民もかなり巻き込まれているだろう。それも全て私のせいだと宣伝するんだ。ボルドー政府は必ずこの話に乗る。」

 ダラディエは付き従ってくれた彼らにそう言い、ボルドー政府に後の事を託した。なお、彼の遺体は損傷が激しく、彼だと断定するのにかなり時間がかかったそうである。

175 :Monolith兵:2014/07/16(水) 06:03:54
 パリを巡る戦いは結局2ヶ月にも及ぶ長期戦となった。武装した共産主義者は市民の中にまぎれて政府軍を攻撃したために、市民や味方への誤射や拷問が頻発した。また味方のふりをして背後から銃撃を加える反乱軍兵士もおり、パリにおける戦闘は泥沼に突入してしまった。
 その為、パリは多くの建物が破壊され、ノートルダム大聖堂やリュクサンブール宮殿、ブルボン宮殿といった歴史的価値がある建物も、共産主義者が立てこもり激しい戦闘が行われ半壊しかつての面影は失われた。
 それ以外にも各種博物館や学校も共産主義者が立てこもって抵抗したために、多くが破壊された。一部の共産主義者はエッフェル塔や凱旋門といったパリを代表する建築物を破壊して、フランス国民の精神に一撃をいれようとしたが、政府軍は最優先でそれらを奪還したが、凱旋門こそ無傷だったがエッフェル塔は支柱の一つが破壊され傾いてしまい、倒壊は免れなかった。

 パリにおける戦闘が終了したのは、3月14日になってからだった。クーデター発生から実に2ヶ月と1週間が経っていた。
 ペタン元帥は未だ黒煙がもうもうと立ち上がるパリを飛行機から見ていた。いくら戦闘が終了したと言っても、パリは瓦礫の山と化しており、崩壊の危険性のある建物も多かった。また、反乱軍はほぼ掃討されたと言っても、生き残りがいる可能性は排除しきれないために、飛行機での視察になったのだった。

「これは酷いな。1次大戦でも守られたパリは、遠くはなれたソ連によって破壊されたか。」

「これでは当分ボルドーから戻れませんな。」

「パリの本格的な復興は戦争が終わってからになるだろうな。その為にも、一刻も早く攻勢を進めなければならない。」


 パリが破壊された事で、フランス国民は悲しみにくれた。あえてパリを戦場にした政府を批判する者もいたが、大多数はソ連を憎み、声高に報復を叫んでいた。

「ソ連を倒せ!スターリンを処刑しろ!スターリンの首は木に吊るされるのがお似合いだ!」

「第2次モスクワ遠征だ!!今度はドイツイギリスと一緒にモスクワをぶち壊せ!」

 国民はそのようなシュプレヒコールを上げて各地で報復を叫ぶデモ行進を行った。これまで一方的に殴られたため、国民は勝利に飢えていた。

「何とか政府と軍の機能は回復したものの、フィンランドでは連合軍が依然不利。ドイツではフランス軍が到着したものの、突破は未だならず、か・・・。」

176 :Monolith兵:2014/07/16(水) 06:04:25
 フランスはパリ奪還と同時にフィンランドとドイツにも軍を送っていたが、未だ戦局は厳しいままだった。フィンランドでは、フランスが内戦で身動きが取れないうちにソ連軍の大攻勢によりマンネルハイム線が崩壊。連合軍はVT防衛戦まで後退したが再編成の間もなくソ連に追撃され、更に後方のVKT防衛線まで後退を余儀なくされた。
 幸い、フランスが混乱から立ち直り、フィンランドへ増派を行ったために再度防衛体制を整える事ができたが、連合国からはフランスの不手際に対して批判の声が上がっていた。

 そして、フィンランドへ多くの兵力を割かれたために、ドイツへの派遣兵力が大きく削られてしまった。結果、反攻に移るのは難しいのが現状だった。
 なお、この頃にはドイツ・フランス共に300万を超える兵力を有しイギリスも100万以上の兵力を保有していた。
 しかし、ソ連軍もその兵力を大きく増やして600万以上の兵力を有しており、フランスの兵器が貧弱な上に兵站に問題を抱えていたため、連合軍の足を引っ張っていた。

「我が軍は抜本的な改革が必要です。特に戦力の運用見直しと新兵器開発は急務です。」

「解っている。その為の戦車の集中運用だ。それに、何のために英独日から人を呼んだのだ。」

「当面は既存兵器の改良と他国兵器のライセンス生産ですか・・・。」

 フランス軍はこれまでの戦訓から、軍の抜本的な改革が必要と判断していた。これまではモルガンなどの保守派等により、それらの改革案は握りつぶされていたが、皮肉にもクーデターが彼らの発言力を奪った結果、急速に改革が進められていた。
 特に力を入れたのは、連合国各国から軍人や技術者を呼びこみ、フランス軍の改革に役立てようと言うことだった。そして、各国の兵器のライセンス生産も視野に入れていた。

 そして、各国の軍人や技術者がフランス軍の実態を知ったとき、彼らは絶叫を上げた。

「未だに伝書鳩だと!フランスは未だに19世紀のままなのか!」

「戦車は歩兵の支援が任務?戦車は集中運用してこそ意味があるのだ!」

「まともな対戦車砲がない・・・。最大でも47mmだと?これでどうやってソ連の戦車と戦えって言うんだ。」

 彼らは口々にフランス軍の旧態依然とした体制と兵器を批判した。そして、当面は各国兵器のライセンス生産で乗り切ろうとしたのだが、ここでも問題がでてきた。

「97jの量産ができる製造能力が無い・・・。Ⅳ号戦車の製造は何とか可能だが・・・。」

「生産体制が酷すぎる。部品が工場に届いてないじゃないか!これでどうやって兵器を生産しろというのだ!!」

「どうしてこうなるまで放っておいた。まずは工業を、いや経済から見直さないと・・・。」

 フランスが望んでいた97式中戦車のライセンス生産は技術的に難しく、フランス軍を悲しませた。
 それどころか、日英独に比べて工業力が低いために、ソ連に対抗できそうな戦車や戦闘機のライセンス生産も厳しい状況だった。

 幸いにも、各国の協力もありそれらの問題は着々と解決していったのだが、それでもフランスが世界有数の陸軍国としての栄光を取り戻すのは当分先だった。

「だが、我々にはソ連には無い圧倒的な海軍力がある。これを使わない手は無い!」

 翌日、ペタン元帥は仏海軍司令官と共にロンドンへと飛び、新しく首相となったチャーチルにフランスの作戦を説明した。チャーチルは余りにも大胆な作戦に驚くと共に、フランスが勝利を貪欲に求めていることに好感を持ち、作戦を実施する事に同意した。

おわり

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最終更新:2014年09月26日 18:35