276 :Monolith兵:2014/07/17(木) 01:25:12
ネタSS「
憂鬱日本欧州大戦 -蛙たちの咆哮②-」
パリが戦場となりフランス国民は、ソ連への報復と勝利を求めた。だが、戦局は連合国にやや不利であり、陸戦で勝利は望めそうも無かった。
そこで、ペタン首相はソ連より圧倒的に勝っている海軍力でソ連に一撃を加える作戦を計画した。それはイギリスも賛成し、更には日本やドイツも加えた連合国全体の一大作戦となった。
そして、彼らは大海原・・・ではなく大氷原を航行していた。
「どうやらクロンシュタット島には辿り着けそうだな。」
「最初作戦案を聞いたときには正気を疑いましたが、思ったよりも順調ですね。」
そう話し合っているのは、フッド艦長のアーヴィン・グレニーと連合軍艦隊を率いるチャールズ・フォーブス提督だった。
連合軍艦隊が航行している海域はフィンランド湾であったが、通常3月はまだ海面が凍結しており、通常艦船が航行する事は不可能であった。
そこで、フランスは当時唯一大型砕氷船を持っていたドイツに頼み、ファウスト号という砕氷船を借り受けた。これは元々ナチス政権時代にソ連向けに建造されていた船だったが、第2次世界大戦勃発と共に行き先も無く港で燻っていた所を引っ張り出されていた。
ファウスト号はフィンランドの氷結した海面を次々と切り開き、13隻の戦艦がその後に続いていた。
「しかし、改めて見ると豪勢な作戦だな。戦艦が13隻にバルト海には支援の為の空母が2隻。更にはフィンランドとドイツから500機もの航空機が支援に来るとか。」
「イギリスとドイツが本格的に戦時体制に入ったから、航空機にも余裕が出始めているようですね。それに、カナダで建設中の兵器工場は凄まじい規模だとか。これが完成したら連合軍の反抗も夢では無いでしょう。」
この作戦は凍りついたフィンランド湾を砕氷船で切り進み、戦艦による艦砲射撃でクロンシュタット軍港やレニングラードの湾岸設備を破壊しようという、かなり冒険的な物であった。
この作戦で障害となるのは、氷結した海面は勿論、クロンシュタットやレニングラードの要塞砲や港を守る航空隊であった。これに対処するために、フィンランドとドイツ、更には大日本帝国第2次遣欧艦隊の空母2隻から艦載機が全力出撃してくる手はずだった。日本の空母艦載機はこれまでの戦いでかなり消耗していたが、それでも100機を超える機体が稼動可能であり、合計600機にも及ぶ航空機がこの作戦に投入される予定であった。
「噂をすれば影だ。」
フォーブス提督が呟き、上空を指差すとそこには日本海軍母艦航空隊(艦爆・艦攻)とドイツ空軍の大編隊が飛行しているのが見えた。その姿を認めた各艦の乗組員は、手を振ったり帽子を振ったりして歓声をあげていた。
彼らはフィンランドから来る予定の日英の編隊と共に要塞砲を破壊する任務を請け負っており、攻撃後は制空権を確保する予定だった。空母艦載機(艦戦)は彼らが帰った後の艦隊防空任務のために投入される予定だった。
なお、艦攻は800キロ爆弾を搭載しており、湾岸設備を破壊する予定だった。魚雷で戦艦を撃沈したいと零す搭乗員もいたが、氷結した海面に魚雷を投下しても意味は無く、水平爆撃での爆撃となったのだった。
「ビスマルクが遅れています!」
艦隊後尾を見張っていた下士官からの報告にフォーブス提督は苦虫を潰したような顔をした。
「だからやつらを連れてきたくなかったのだ。」
ドイツ海軍は、この作戦に虎の子の新型戦艦ビスマルクを投入する事を条件にファウスト号を貸しており、それを英仏海軍は了承した。ビスマルクは420mm砲を搭載する世界最大の戦艦ではあったが、元の設計が381mm砲戦艦であり不具合が頻発していた。また、その不具合の解決のためにドック入りを繰り返しており、将兵の練度ははっきり言って低かった。
ドイツがビスマルクを派遣したのは、第2次世界大戦勃発以降発言力が低下している事に危機感を覚えたドイツ海軍が、地位向上を目的として決定した事だった。ソ連との戦争の戦場は必然的に陸であり、味方に日英仏と言う世界有数の海軍国が存在するため、ドイツ海軍は陰に隠れっぱなしだった。
「このままでは戦争中にも関わらず、海軍算が削減されてしまう。」
そんな危機感から、クロンシュタット及びレニングラードへの戦艦での攻撃する作戦に参加したのだった。
277 :Monolith兵:2014/07/17(木) 01:26:22
「まあ、お守りをするのが1隻だけなのはありがたい。正直フランス艦隊の手綱を握るのに大変だと思っていたからな。」
「フランス海軍も、パリが焼かれて動きが変わりました。以前は何かと我々に突っかかってきていましたが、黙々と動いていますからね。正直不気味です。」
「ロンドンが破壊されたらと考えたらフランス人達の気持ちが解るだろう。奴らは今や復讐の鬼だ。ソ連を叩く以外の事は考えていないだろう。それが吉と出るか凶と出るかは置いておくとしてな。」
グレニー艦長はロンドンが破壊される光景を想像しゾッとした。確かにそうなれば自分達も復習しか考えられなくなるだろう。
「なによりも、今や彼らはフランスの希望であり誇りなのだ。・・・もし今回の作戦が失敗すればもはやフランス海軍の地位は底辺に落ち、フランス国民の心が折れてしまうかもしれない。最悪の場合連合軍からの脱退もありうる。」
「ま、まさか。」
「これまで敗戦続きでしかもパリが破壊されたのだ。自分達は圧倒的な弱者であると信じてしまえばその可能性もある。だから、今回の作戦は何が何でも成功させなければならない!」
フォーブス提督の言葉にグレニー艦長は深く頷いた。
278 :Monolith兵:2014/07/17(木) 01:27:00
そして彼らはとうとうクロンシュタット軍港を射程圏内に捉えた。
「イギリスや日本はきちんと仕事を果たしてくれたようだな。おお、我が空軍がまたひとつ要塞砲を破壊したようだぞ。」
黒煙をあげる軍港を双眼鏡で見ながらビスマルク艦長エルンスト・リンデマンは呟いた。
「旗艦フッドより攻撃せよという命令が届きました。」
「よし、目標クロンシュタット軍港、攻撃を開始せよ。420mm砲の威力を見せてやろう。」
副長が攻撃開始を復唱すると、砲術長が命令を復唱し砲撃に必要な諸元を入力した。このデータを提供したのは日本海軍から今作戦に参加した戦艦金剛であり、搭載するレーダーとコンピューターにより光学測量よりも正確な情報を艦隊に提供していた。
ファニーウォーの間に日本から実用レーダーの技術情報と実物の提供を受けていた連合国各国(+ドイツ)だったが、それらを量産して艦に搭載するという事はまだ出来ていなかった。
と言うのも、英仏はフィンランドで防空網構築のためにレーダーの需要が大きく、ドイツはソ連国境に大量のレーダーを配備する必要があったからだ。フィンランドでは初期こそ実戦ゆえのミスが頻発したが、現在では運用にも慣れており、以前よりも強力な防空網が構築されていた。
そのお陰で、今回の作戦に大量の航空機を投入可能になったのだ。
「諸元入力完了。発射準備完了しました。」
「コンゴウ発砲!イギリスとフランス艦隊も攻撃開始しました!」
「よし、ビスマルクも続け!」
他の戦艦が発砲を始めているのを見て、ビスマルクも攻撃を開始した。だが、その攻撃は空しくも軍港の手前に着弾した。
「どうした戦術長!全く届いていないぞ!」
「すいません。仰角が間違っていたようです。すぐに修正します。」
砲術長はすぐさま入力データを修正し、第2射は見事軍港付近に着弾した。
「よし、このまま続けて撃て!」
ビスマルクの初の実戦とあって、艦橋は熱気に包まれた。特に第4斉射で一際大きな爆炎が立ち上がった時には艦橋は歓声に包まれた。
なお、この時の艦隊はほぼ停止状態であった為に、特に諸元情報を変える必要も無く練度の低いビスマルクでも撃てば当たるという状況だった。
279 :Monolith兵:2014/07/17(木) 01:28:21
だが、こちらの攻撃が労も無く当たるということは敵も当て易いということである。
「仏戦艦ブルターニュに着弾。損害は無い模様。」
「英戦艦レゾリューションに火災発生!」
「仏戦艦パリに着弾。後部マストが傾いています。」
何発も被弾した艦も出始めたが、その殆どは18cm砲であり戦艦には致命傷にはならなかった。むしろ、隠されていた要塞砲が砲撃や急降下爆撃で破壊されるだけであった。
そして、フランス艦隊は怒りに燃えていた。今回の作戦に参加したクールベ級戦艦だったが、4番艦パリが被弾した瞬間フランス人達は憤怒した。パリの仇をパリが取るという験を担いだ戦艦パリの参加だったが、それが被弾したのである。二度までもパリを破壊するのかという怒りがフランス人達を支配していた。
「フッドより入電。進撃を再開する、以上です。」
クロンシュタット軍港が爆撃と砲撃で粗方破壊されると、艦隊は再び進撃を再開した。目指すのはクロンシュタットの奥にある大型港であるレニングラードである。
勿論移動中も艦隊はクロンシュタットに残された数少ない建造物を砲撃するのを忘れなかった。凍結した海を砕氷船を先頭に進む以上、低速で移動するため命中率は高かった。むしろ、残弾を気にしなければならないほどであった。
こうして、クロンシュタット及びレニングラードへの奇襲は成功した。この作戦では仏戦艦ブルターニュと英戦艦レパルスが触雷で失われたが、それでもクロンシュタットとレニングラードを破壊したのは、連合国が初めて掴んだ勝利であり、連合国各国を、とりわけフランス国民を勇気付けることができた。
なお、意外にも活躍したビスマルクであったが航空攻撃を受け後部マストと煙突が半ばまでが失われた。また三番砲塔の砲身が破裂しそれが砲塔内の弾薬に誘爆し、第3砲塔が吹き飛んだ。幸いにも被害がそれ以上拡大する事は無く、沈没前提で出撃させた海軍上層部を喜ばせる事になった。
そして、勝利の報告はそれだけではなかった。ヨーロッパから遠く離れた極東の地で、大日本帝国がもう一つの勝利を手にしていたのだ。
1941年3月。連合軍はようやく殴られてばかりの存在では無い事を証明した。だが、それはすぐさま反攻に移れる事を意味した事では無い事は、ほかならぬ連合国の首脳達が一番理解していた。
おわり
最終更新:2014年09月26日 18:43