- 700. ひゅうが 2011/11/28(月) 19:53:48
- ※ 盛り上がっているようなので妄想掌編を書いてみました。
――儀式
――20XX年8月15日
いったいどこで間違ってしまったのだろうか。
元老院臨時議長と臨時政府代表をつとめるロルメスはこの日何度目かになる溜息をついていた。
たんたんたん・・・と音を立ててランチ(内火艇)が港を進んでいく。
船上から振り返れば、かつては繁栄を極めた首都はほとんどすべてが亡骸と化していた。
彼らの「敵」となった者たちの呼称でいう「89式戦略弾道ミサイル」の10個の再突入体にしまいこまれた200キロトン級水爆の炸裂により、首都圏の半径20キロあまりは蒸発し、さらに周辺の都市圏には木造家屋(祖国の低所得者層の大半がこのような家に住んでいた)が密集していたがために大火に見舞われ、さらに多くの犠牲者を出していた。
さらには、生存者たちは次々と原因不明の病に倒れて死んでいく。
犠牲者の数はこの首都だけで300万を超えるだろう。
この惨状は首都だけではない。
国内の主要港湾と工業都市群は軒並みこういった類の攻撃を受けて機能がマヒ。
軍事施設に至っては何らかの精密誘導兵器群によりピンポイントで無力化されている。
でなければ復讐の刃はとうに放たれていた――いや、刃は赤子の手をひねるようにかわされていたのだろうが――はずだったのだ。
生き残った政治家たちが立ち上げた臨時政府は復讐を叫んだ。
だが、もう遅かった。
海上油田を破壊し、4隻の巡視船を撃沈し1000名以上を殺戮した挙句に併合要求をつきつけた身の程知らず相手に容赦するほどあの覇権国家は甘くはなかった。
スロリアの植民地軍は開戦初日に制空権を奪われたうえで一方的な航空攻撃を受け続けて壊滅。
繰り返される戦略爆撃で司令部が消滅したため、国防軍部隊は混乱を続け、その間にニホン本土から緊急展開した機動軍団に細切れにされていった。
スロリア全土が彼らの手におちるまで、2カ月もかからなかった。
この時点で戦力の半分以上・・・実質的な主力が全滅していた祖国に対し、ニホンはアカサカ宣言と呼ばれる無条件降伏要求を突き付けた。
臨時政府は・・・あのナードラはただ怒ることしかできない政治家たちを抑えきれなかった。
最後に残された海上艦隊を糾合し、挑んだ決戦では首都の眼前で6万トンを超える巨大戦艦に味方艦隊が叩きつぶされる様子を見せつけられ、とどめとばかりに廃墟と化した首都の玄関口に半日にわたる「戦略艦砲射撃」を加えられた。
こうなってしまえばもうとるべき手段はなかった。
「全軍の無条件降伏」が承諾されたのも無理もない。
すでにスロリアの軍は武装解除されており、あとは残った海軍艦艇と大小の武器を引き渡すだけ。
それだけで祖国の「本土」は存続を――「無害な存在」としてのみ存在を許されるのだ。
交渉にあたった時、全土占領を覚悟していた担当者はこう言われたという。
「あなたがたが引きこもっているならそれで結構。我々は外に出ない限りは無視します。ですが・・・もうあなたがたが『外』で好きにやることは許しません。せいぜい焼け野原でのたれ死んでください。」
祖国を焦土としながらも占領の屈辱を与えないのは、ただ慈悲からではない
この過酷すぎる現実を受け入れられなかった人々は相次いで命を絶っていた。
その中には、臨時政府の首班であったナードラも含まれていた。
ロルメスは顔を上げた。
戦艦「ヤマト」。ニホンの古名を冠した戦艦の艦上では、もはや存在しないローリダという国の消滅を確認する文書が彼を待っている。
「あとは野となれ山となれ・・・か。」
ローリダの亡骸が野に還るのに必要な時間は、思ったより短そうだった。
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最終更新:2012年01月01日 21:43