27 :Monolith兵:2014/08/27(水) 23:20:59
ネタSS「
憂鬱日本欧州大戦 -紳士たちの嗜み②-」
イギリスが腹黒く策略を巡らせている頃、日本は東京の料亭でも策を練る面々がいた。言わずと知れた
夢幻会の会合メンバー達だ。
「イギリスは
アメリカをインドへ誘引して蟻地獄ならぬインド人地獄に嵌めるつもりのようだ。」
「我が国もそれを支援しましょう。それと、奉天軍の連中がやらかしてくれたので、中華大陸にアメリカを引きずり込むいい理由が出来ました。」
日本は同盟国であるイギリスに協力し、アメリカをインドへ引きずり込もうと画策していた。それと同時に、中華大陸でもアメリカを泥沼に嵌めて、アメリカの国力を殺ぎ落とそうと策略を練っていた。
「それはいいとして、欧州の情勢はどうなのだ?」
「はい。イタリアは連合国へ降伏しました。講和会議は新国王妃の出身国のベルギーで行われる予定です。以降は連合国の一員として行動する事になるでしょう。
それと反抗作戦は当初5月の予定でしたが、6月に変更になりました。またイタリアの連合国参加により、バルカン半島を北上する案が浮上しています。」
田中の報告に会合のメンバー達は顔をしかめた。史実ではドイツがバルカン侵攻でバルバロッサ作戦を1ヶ月遅れで開始した事により敗北しているのだ。
「失敗フラグ・・・とは思いたくありませんね。史実と違いフランスとイギリス、それに日本とも同盟しているのですから。」
「それよりもイタリアが頼りなくないか?バルカンをイタリアに任せたらソ連軍が再び南下して来そうなんだが・・・。」
「イタリアはもう裏切ったからジンクス的には連合国は大丈夫なはずだ。ただ、イタリアを助けるために各国が戦力を振り向ける可能性も・・・。」
列強の全てを敵に回しているとなれば、いかに強力な冬将軍に守られていると言えど、ソ連に勝機はほぼ無い事は明らかであった。
だが、それでも史実を知るものとしては一抹の不安を抱えずに入られなかった。特にイタリアは、南仏では意外にもフランス相手に善戦したが、それ以外では史実同様のヘタリア振りを晒したために、不安を抱える者は多かった。
「それは冬季装備をしっかりするよう各国に強くいうほか無いだろうな。
それに、ロシア遠征に一度失敗したフランスも骨身にしみている・・・はずだ。」
伏見宮は、開戦以降不甲斐ないフランスを引合いに出したものの、余り自信を持っていえなかった。一度あった事は二度ある事もあるのだ。
「だ、大丈夫でしょう。英独仏ともフィンランドで冬の厳しさに慣れているでしょうし、新兵器も続々と登場しています。」
「イタリアは史実でもアフリカ戦線やバルバロッサ作戦で活躍しています。冬のアルプスで行動できた事からも、冬季戦装備はかなり充実していると考えられます。」
嶋田は微妙な空気を打破すべく、敢えて明るい声で希望的観測を述べた。東条もそれに続き、史実でのイタリアの奮戦や南仏戦線での活躍から、イタリアは戦力としてあてに出来ると補足した。
「だが、ソ連も新兵器を出してきている。それも、連合国よりも早くだ。
もっとも、我々の方が質が高いがな。」
東条は嶋田の楽観論に戒めを入れつつ、それでも連合国の方が有利であろうと断言した。
ソ連は41年末から次々と強力な新兵器を繰り出してきていた。
戦車ではT-39/85(1942年型T-39)やJS戦車
シリーズ、航空機ではLa-5やIl-2、Tu-2といった強力な新兵器を繰り出してきていた。
28 :Monolith兵:2014/08/27(水) 23:22:21
だが、連合国も同時期に新兵器を続々と登場させていた。
フランスはシャールB1bisを原型に70口径75mm砲を搭載した単一砲塔戦車シャールB3中戦車を開発、生産していた。(ただし不具合多発。一部ではリベット止めも行っていた。)
また、各種自走対戦車砲の成功に味を占めたフランス軍は、ライセンス生産していたⅣ号戦車を突撃砲に改造していた。B1quaの生産が終了していたため、生産に余力のあった70口径75mm砲を搭載したⅣ号突撃砲は、史実Ⅳ号駆逐戦車の再現そのものだった。(一方ドイツでは65口径76.2mm砲を載せたⅣ号駆逐戦車が作られた。)
航空機も最高速度670km/hを誇るVG.39bis戦闘機やB-17にも勝る性能のM.B.162爆撃機が量産されており、かつての貧弱だったフランス軍の面影は徐々に薄れていた。
また、イギリスは開発がようやく終了した17ポンド砲の弱装弾仕様、77mmHVを搭載したキャバリエ(Ⅳ号戦車)スペシャルを生産していた。
他にも、17ポンド砲を搭載したクロムウェル巡航戦車(史実チャレンジャー)の試作車が完成しており、42年末から量産が開始される予定だった。
更に、ドイツや日本との技術交流でグリフォンエンジンが史実より早く実用化され、少数だったが既に生産が開始されていた。
一方、フランスのVG.39の成功を見て、二重反転プロペラ戦闘機の開発を進めており、「流石英国だ。」と一部の転生者を喜ばせていた。
そしてドイツは、念願の97式中戦車を超える戦車、Ⅵ号戦車パンターの開発を完了していた。Ⅴ号ではなくⅥ号なのは、既に97jがⅣ号戦車と並びドイツの主力中戦車となっており、事実上のⅤ号戦車と認識されていたためであった。
パンター中戦車は56口径88mm砲を丸みの帯びた砲塔に収め、避弾経始を考慮して傾斜を付けた装甲は最大100mmにも達していた。懸架方式はトーションバーを採用し、エンジンは97jの物(流星)を流用していたが、紛れも無くドイツ製戦車だった。
なお、ちょび髭がいない為ティーガーとは命名されなかった。また史実パンターも97jが存在するために開発される事は無かった。
だが、パンターを初めて見た杉山大将は冷や汗を流していた。欧州へ来る前はドイツ戦車に乗れるかもと思っていた彼だったが、目の前の戦車は余りにも記憶の中にあるパンターとは違っていたのだ。
(何でT-44になってるんだ!)
そう、ドイツの誇る新鋭戦車は、史実ソ連のT-44戦車に酷似していたのだ。
ちなみに、日本では翌年に和製T-34/85とも言える3式中戦車のロールアウトが待っていたが、パンターの登場により彼らはショックを受ける事になる。
全ては和製T-34と言える97式中戦車をドイツに見せたのが原因だったので、彼らの自業自得であったが。
29 :Monolith兵:2014/08/27(水) 23:23:18
「日本が史実ソ連戦車を開発し、ドイツは史実ソ連戦車しかもT-44もどきを開発しているとは・・・。フランスは史実パンターもどきで、まともなのはイギリスだけか・・・。」
「そのイギリスですが、ドイツの新型戦車を見てライセンス生産を検討しているそうです。」
「くそっ!ドイツもこいつもソ連戦車ばかり!こうなれば日本でドイツ戦車を再現っ!・・・3式も史実ソ連戦車だった・・・。」
憧れのドイツ戦車が無くなってしまったため、一部のメンバーは混乱していた。だが、東条は更に混乱に拍車をかける情報を告げた。
「T-44もどきのパンターだが、どうやら大口径砲に換装出来る様に余裕を持たせているようだ。大きさは史実パンター並で外見はT-44の事から、むしろT-54に88mm砲を載せたという方が適切かもしれない。」
その言葉はメンバー達に衝撃を与えた。
「3式ですら量産は来年、4式に至っては再来年。それなのに、ドイツは4式相当の戦車を投入してきたのか!」
「いや、大口径砲に換装しても性能的には4式より低い。
だが、長期に渡って生産すれば生産価格は低下するし、登場時期が早い事から改良型も次々と出てくるだろう。
つまり、ドイツは日本の4式戦車の数倍、いや下手すると10倍近い数の主力戦車を配備することが可能なんだよ!!」
「な、なんだってー!?」
そこで落ち着いたのか、騒いでいた陸軍関係者はおとなしくなった。色々チートしてきたはずなのに、あっさりとドイツに抜かれたのは流石にショックだったらしい。
「馬鹿騒ぎはそれくらいにして、味方なのだから問題ないのでは?」
「まあそうなのですが、これまで世界最先端を走ってきたのでショックが・・・。」
「あのフランスがパンターもどきを作ったり、二重反転プロペラで烈風並の戦闘機作ったりしているのを見てつい・・・。ドイツは日本よりも更に先を行っているし・・・。」
「VG.39のお陰でイギリスも英国面を全力発揮しそうだし、ドイツはドイツでDo335なんて物作っているし・・・。」
近衛の言葉に東条ら陸軍軍人達は頭を掻きながら言い訳をゴニョゴニョと言った。
だが、元々海軍国の日本が陸軍大国のドイツより優秀な戦車を一時的に保有し、ドイツでライセンス生産されたのは十分な業績だった。
また、フランスのVG.39の成功を受けてイギリスもドイツも二重反転プロペラやら串形エンジンやらの戦闘機の開発を開始・加速させており、一部の者を喜ばせる一方で常識人を自称する者達は生産性の低下を懸念していた。
30 :Monolith兵:2014/08/27(水) 23:27:11
「陸軍の事情は置いておいて、次は海軍です。辻君はフランスに艦艇の売却を打診するよう古賀中将たちに提案してきたようですが?」
「はい。辻さんからの提案は日仏両国に利益のある事だと考えています。」
嶋田はフランスに艦艇を売却すべく、既に各部署の説得や連携に奔走していた。
日本は対独戦を意識して建艦計画を立てていたが、ヒットラーの死亡によりそれも白紙に戻り、海軍の整備計画は低調にならざる得なかった。
しかし、米ソ不可侵条約締結により対米戦を意識して既に起工していた艦艇の建造速度を上げると共に、航路防衛用の戦時急造艦を大量に起工していた。
だが、その後のアメリカ側の連合国、特に日本への態度の軟化で対米戦の可能性は限りなく低くなり、結果使う当ての無い大量の艦が港に係留されることになった。
海軍としては、使い道の無いこれらの艦艇をフランスへ売却できれば維持費の削減になるし、新たな艦艇の整備に当てる資金も確保できる為に、諸手を上げて賛成していた。
ちなみに、アメリカが旧式艦の売却をフランスに打診していたが、フランスはそれを丁寧に断っていた。
「大蔵省としても、無駄飯食らいが減るのは嬉しい事です。」
大蔵省を代表して出席している男がさりげなく毒を混ぜて発言した。彼は、辻が後継者候補として見ている男で、辻ほど腹黒くは無いものの嶋田は苦手としていた。
「それから、古賀さんからの情報ではフランス海軍は戦艦や空母と艦載機の購入も考えているようです。赤城の買取や伊吹型戦艦の購入は出来ないかと言う話も出ているようです。」
「流石に正規空母や戦艦の売却は難しいぞ。」
「それは彼らも解っているようです。古賀さんの推測では、彼らが真に欲しているのは、祥鳳型空母や富士型超重巡洋艦ではないかと。」
嶋田の言葉を聞いて伏見宮を始めとする面々は頭をかしげた。
主力艦を殆ど失ったフランスが、戦艦を欲しがるのは理解できる。目の前で航空機で戦艦を沈めたので、空母を欲しがるのも理解できる。
だが、軽空母と言っていい祥鳳型空母や、戦艦として使うには中途半端な富士型超重巡を欲しがるのは奇妙であったのだ。
「フランス海軍は、日本が正規空母や戦艦を手放さないだろ事を予想しているようです。
そこで、正規空母ではないもののアングルトデッキを持つ新型空母の祥鳳型や、ある程度戦艦の代用として使え、空母の護衛としても十分な性能を持つ富士型を欲しているようです。
それと、中部地中海海戦の戦訓から艦艇の高速性を重視しているようです。アメリカからの旧式戦艦の売却の打診を断ったのも、それがあると考えられます。
ただ、彼らが一番欲しているのは、電子技術であろうと思われます。彼らは電子兵装の有無がどれほどの戦力差を生むか身を持って実感しましたから。」
それを聞いた会合のメンバー達は納得し何度も頷いた。
フランス海軍は、日本の持つ世界で最も進んだ艦上機と空母、何よりも電子兵装を欲しているのである。正規の空母や戦艦では無いものの、それに準じる祥鳳型や富士型を購入して研究し、自前でより高性能な艦艇を建造しようと言うのだ。
ネックになるのは戦艦派の動向だったが、彼らは戦後の新型戦艦の建造を条件に富士型超重巡の売却に賛成していた。嶋田は量産型辻との折衝で胃を荒らしつつも、何とか戦後に新戦艦建造の確約を取り付け、戦艦派を喜ばせていた。
「それなら解らない事ではない。どうだろうか?」
「反対する理由はありません。」
「海軍としては特に。ただ、トランジスタなど最新の電子機器は流石に販売できん。烈風改の売却ももう少し経ってからの方がいいだろう。」
「それは勿論。」
三菱や倉崎の出席者達は、艦艇売却に伴う艦の新規建造による利益を考えて真っ先に賛成した。
一方、軍関係者は売却自体は兎も角、最新の電子兵装を売らないように釘を指した。嶋田はすぐさま同意し、三菱や倉崎も了承した。ロールアウト間近の烈風改や最新鋭の電探等の売却は、日本が有利な立場にいるためには絶対に出来ないことであった。
それに、金蔓にわざわざ最初から最新鋭の装備を売りこむ必要も無かった。
31 :Monolith兵:2014/08/27(水) 23:27:43
そうして、細々とした残りの議題も片付けその日の会合は終了した。
「いやぁ、今日は有意義な一日でしたよ。」
「本当に。」
三菱と倉崎の出席者は笑いあいながら料理と酒に舌鼓を打っていた。艦艇や航空機の売却で利益を得られるとあっては、自然と笑顔になるというものだった。
「ところで、倉崎会長はどちらへ?」
ふと、嶋田はやたらに濃い爺がいない事を倉崎の出席者に尋ねた。
「会長なら、ロマンを求めるとか言ってフランスへ行きましたよ。何でも、ロマンを共に語り合える者がフランスにいるとか。」
「え゛?」
一方、その頃フランス・アルスナル国営航空工廠では。
「これは素晴らしい!エンテ型推進式プロペラ、計算上は750km/hを発揮可能だと!」
「これに、あなた方の持つ二重反転プロペラの技術が組み合わされば、800km/hすら超えるでしょう。」
「素晴らしい!是非この設計図を私に譲っていただきたい。正直、現行機の改良には限界が見え初めています。ですが、この航空機ならまだ先がある!」
「いいでしょう。出来れば私達も開発に参加したいと思っています。」
「勿論だとも!我々で究極の戦闘機を作ろうではないか!!」
そして、倉崎重蔵とV.G.39の生みの親の1人であるヴェルニスはがっちりと硬い握手を交わした。
おわり
最終更新:2014年09月26日 19:11