288 :Monolith兵:2014/09/17(水) 01:36:24
ネタSS「憂鬱日本欧州大戦 -ちょび髭のいないバルバロッサ-」


 1942年6月22日、これまで殴られっ放しだった連合国はとうとう反攻に転じた。
 元々は5月に予定されていた反抗作戦だったが、対イタリア戦の影響で6月にずれ込んでいた。
 だが、イタリア戦に勝利し、イタリアが共産陣営から離脱し連合国側についた結果、周囲を連合国に囲まれたユーゴスラビアが連合国側になびき、バルカン半島を北上する事が可能になっていた。

 一方、中欧ではハンガリーが連合国側に立ちソ連に宣戦布告。即日英独軍を主力とした連合軍は、ハンガリー領を経由しソ連及びルーマニアへと侵攻した。
 ソ連はハンガリーの動きを事前に察知したが、すぐさま大軍を移動させることも出来ず、ドイツ軍の侵攻を許してしまった。
 そして、ルーマニアへの侵攻もスムーズに進んだ。強固な陣地が殆ど無く、駐留するソ連軍以外に連合軍に敵対する者は少なく、殆どの民衆は解放者として連合軍を受け入れた。ルーマニア軍の中には、連合軍の侵攻に呼応してソ連軍へ攻撃を行う部隊も少なくなかった。
 その結果、ルーマニアを巡る戦闘は僅か半月で終了し、共産政権を追い出したルーマニアには一時的に軍政がひかれた物の、ルーマニア人による臨時政府が発足次第権限を移行する予定であった。

 ルーマニアでの軍事行動が順調に進む一方、ブルガリアには北から英独軍が南からはイタリア軍が侵攻していた。普通ならばブルガリアは完全に詰んだ状態であるのだが、イタリア軍はブルガリアで抗戦するソ連軍相手に敗走し、ギリシャ軍や連合軍のギリシャ派遣軍が救援に向かうという事が何度も起きていた。
 そんな状態であるから、ソ連軍はブルガリア南部では優位に立っており、ブルガリア随一の港町ヴァルナに海上輸送で大量の兵力や兵器を輸送していた為、戦線は膠着していた。

 だが、北方から侵攻する英独軍相手には劣勢で、前線は徐々に南下していた。ブルガリア陥落も時間の問題かと思われた。
 しかし、ソ連軍はウクライナでドイツ軍を迎え撃つ準備を整えつつあり、ブルガリアとウクライナの二方面で戦闘を行わなくてはならない連合軍南方軍集団は厳しい状況に置かれつつあった。

289 :Monolith兵:2014/09/17(水) 01:37:03
 大反抗が始まってからおよそ1ヵ月後の7月下旬、東京ではこれからの方針を話し合うための会合が行われていた。
 なお、近衛はロンドンで行われる連合国首脳による会議の為に既に船上の人だった。

「ルーマニアは僅か半月で奪還。連合国側になったルーマニアとギリシャにユーゴスラビアと完全に囲まれたブルガリアの陥落も時間の問題でしょう。」

「それからトルコが動員を開始しています。ソ連もそれを感知し、厳重な抗議と恫喝を行っているようですが、トルコの腹は完全に決まっているようです。」

 永田と田中の報告に伏見宮は頷いた。ルーマニアがあっさりと陥落し、トルコの事実上の参戦にソ連は慌てふためいていた。急いでルーマニア方面に部隊を派遣したものの、ドイツ軍を主力とする連合軍は快進撃を続けていた。
 そして、一部の部隊は既にキエフ近郊まで迫っており、ソ連軍は電撃戦を続ける連合軍を押し留めるために各戦線から戦力を抽出せざる得なかった。

「ポーランドでは、とうとうソ連軍の防衛戦を突破しました。フィンランドでもフランス軍がカレリアの森林地帯を機甲部隊で突破し、ソ連軍の後背を突く事に成功しています。レニングラードに到達するのも時間の問題でしょう。」

 ソ連軍は1000万を超える大軍を擁していたが、巨大な植民地と動員力を持つ英仏、精強なドイツ・ポーランド軍のみならず、日本にフィンランドを相手にしている為に、各地に兵力を派遣しなければならず1941年末ごろから戦況は膠着状態に陥っていた。
 そこに、トルコの動員開始とルーマニアからの侵攻に兵力を割かねばならず、他の戦線から予備兵力を引き抜くしかなかった。
 そして、予備兵力の少なくなったポーランドとフィンランドでは、連合軍がとうとうソ連軍の陣地を抜くことに成功していた。連合国は完全に戦時体制に移行していた為、ソ連軍に引けを取らないほどの兵力があり、それを支える工業力は完全にソ連を突き放していた。

「これで連合軍の勝利は確実ですな。」

「まだ油断は出来ません。ソ連軍は未だ増強を続けている上に、次々と新兵器を出してきています。
 また、ウクライナ方面の連合軍(南方軍集団)は当初は快進撃を続けていましたが、ソ連軍は態勢を建て直しつつあります。最悪の場合、ウクライナ方面で反抗作戦の失敗もありえます。」

 各地での戦線突破や勝利の報告に会合メンバーの1人が楽観した発言をしたが、永田はあえて悲観的な予測を口にして嗜めた。悲観的と書いたが、実際にウクライナ方面ではソ連軍によるインフラの破壊やトラック等の不足により補給に支障が出ており、最前線ではソ連軍が集結しつつあり、連合軍の損害は日増しに増えていた。その為、ウクライナ戦線は電撃戦から消耗戦へと移行しつつあり、反抗作戦の失敗は十分ありうる事であった。

 連合軍もトラックを増産したり物資を空輸したりと、様々な方法で補給不足を解消しようとしていたが、史実よりも低い工業力の上に兵器生産にリソースを取られてしまい兵站を支えるトラックの生産は低調で、空輸は十分な量を輸送できなかった。アメリカに大量のトラック等の自動車を発注したものの、それらが生産され到着するのにはかなりの時間が必要だった。

290 :Monolith兵:2014/09/17(水) 01:38:28
「その件に関してウクライナ方面の連合軍を支援するために、イギリスは黒海に進出してウクライナの港を奪取しようとしています。
 トルコが連合国側についた今、黒海への道は開けました。ここで、黒海の制海権を奪うことが出来れば、ブルガリアへの補給を断ち切る事が出来ますし、連合軍は兵力の移動や補給も容易となります。」

 海軍大臣となったばかりの嶋田の言葉にメンバー達はざわめいた。
 と言うのも、黒海はソ連海軍の本拠地とも言えるところだからだ。そして何より狭い内海と海峡のせいで、外洋海軍にとっては鬼門とも言える場所であり、容易に制海権を奪うことは出来ないと考えられていたからだ。

「黒海は狭いために艦隊決戦は基本的に行えません。それに加え、ソ連海軍は恐らく艦隊温存主義に走る物と思われます。
 そこで、ソ連海軍の根拠地であるセヴァストポリへの攻撃は海軍のみならず、英独空軍及び陸軍も参加します。
 今回の作戦ではイギリス海軍が主力となりますが、日本海軍も艦艇を投入する予定です。」

 嶋田もメンバー達の懸念を理解しており、陸海空の全てを投入して攻略すると説明した。
 今回の作戦では、要塞化されているセヴァストポリをいかに攻略するかが焦点となっていた。そこで、ドイツは列車砲ドーラや自走臼砲カール等を投入する予定だった。また、トルコやルーマニアへ進出した連合軍の航空部隊も投入する予定だった。
 海軍は、陸空軍支援の為に対地砲撃やソ連海軍の艦艇や輸送船を相手にする事になる予定だった。イギリス海軍が主力に、日本からは金剛と2個駆逐隊が、ほぼ壊滅状態であったがフランス海軍も駆逐艦や水雷艇を黒海に派遣する準備を進めていた。イタリア海軍は稼動可能な艦がほぼ無く、魚雷艇が僅かに投入される程度だった。

 それらの事を聞いたメンバー達は納得したように何度も頷いていた。
 そもそも海軍としては、狭い上に土地勘も無い黒海で艦隊決戦する気など全く無かった。どう考えても自殺行為であったし、唯でさえ格下と思われていたイタリア海軍に正規空母が沈められ、損害に過敏になっていたのだ。


(黒海に日本艦隊が進出するなんて、どこの火葬戦記だよ!聞いた事も無い名前の艦が沢山いるわ、狭い内海で艦砲射撃する戦艦の護衛したり、船団を潜水艦や魚雷艇から守らなくてはならないわ・・・。ああ不幸だ。
 それになんで俺が海軍大臣なんだ。辻の後継者達と接する機会が嫌でも増えるじゃないか!)

 嶋田は内心でそんな愚痴を延々と言い続けており、かなりの負担とストレスと抱えていた。特に、今回の作戦は必要性は高かったものの、イギリス海軍の思惑がかなり反映されていた事が嶋田に一抹の不安を抱かせていた。
 と言うのも、イギリス海軍は第2次世界大戦が始まって以来、世界最強の海軍に相応しい活躍が出来ていなかったからだ。緒戦に起きたバルト海でのソ連海軍との戦闘は相手がさっさと撤退してしまい、駆逐艦を何隻か沈めた以外はまともな戦果は上げられなかった。
 また、クロンシュタット・レニングラード奇襲はフランス主導だったし、中部地中海海戦はフランスと日本海軍が主力だった。かろうじて英空母航空隊が活躍したが、イギリスの戦艦は全く活躍できなかった。
 いくら陸戦が主とは言え、ここでイギリス海軍ここにありと言う戦果を上げなければ、戦後イギリス海軍は縮小、特に戦艦は整理の対象となってしまうと、イギリス海軍の大鑑巨砲主義者達は危惧したのだ。
 そこで目を付けたのが黒海でのソ連海軍の牙城の攻略であったのだ。

(クリミア戦争の時はセヴァストポリを攻略できたけど被害も大きかったからな。ああ胃が痛い。)

 嶋田は胃の辺りをさすりながら、被害がどれほどのものになるか考えて憂鬱になっていた。


 余談だが、ドイツ海軍はこの一大作戦を指を銜えて見るだけしかなかった。と言うのも、バルト海での北方軍集団の支援を行うのに手一杯でそんな余裕は一切無かった。
 再就役なったビスマルクは以前と見違えるほどまともな戦艦となっていたが、それ故にバルト海で他の大型艦艇と共に活躍する事を期待されていたし、数の多いSボートは地中海まで回航するには小型過ぎた。
 ちなみに、ビスマルクが北方軍集団を支援すると聞いた英仏軍の将兵達は、「どうせまた砲身が破裂するんじゃないの?」とか「今度こそバルト海で漁礁になるのか?」等と陰口を叩いていたと言う。それを知った某提督は涙を流しながら胃薬を飲んだという。

291 :Monolith兵:2014/09/17(水) 01:39:07
 ウクライナで英独軍が補給不足で苦しんでいる頃、ポーランドでは独仏軍がソ連軍を各地で次々と撃破していた。
 ドイツはソ連軍の猛攻から東プロイセンとダンチィヒ、グディニアを守りきれていた為、ソ連軍を半包囲できる状態だった。その上に、ソ連軍はウクライナ方面に戦力を引き抜いていたため、連合軍の大攻勢を押し留める戦力が無かったのだ。

 これまでは連合軍の軍備が整っていなかったり、フランスの内戦、イランやインドへのソ連軍侵攻、イタリアの参戦などが重なり、連合軍はその戦力をポーランドに集中させる事が出来なかった。
 だが、インド戦線を除いてそれらが解決した今、ポーランド戦線には独仏波英日、合計600万にも及ぶ大軍が存在しており、それらが一斉にソ連への総攻撃を開始したのだ。北欧やバルカン半島に極東アジアにも兵力を貼り付けているソ連軍は、連合軍の攻勢に耐える事は出来ず、連合国はとうとうソ連軍の防衛陣地を突破する事が出来たのだった。

 そして、連合軍の中でドイツ軍に編入されたポーランド人達は特に士気が高く、死を恐れる事無く戦い続けるその姿に、味方からは尊敬を敵からは畏怖の念をもたれていた。彼らは何としてでもワルシャワを奪還する為、その持てる限りの力を発揮していたのだ。
 なお、ドイツが第2次世界大戦に参戦してから、ポーランドの再独立の声が上がり、ドイツ、自由ポーランド、ダンツィヒ自治政府の3者はポーランドの再独立に向けて動き出していたが、それは思わぬところからの反対に遭った。

「ポーランド将兵は今やドイツ軍に取っては絶対に必要な存在だ。もし彼らがいなくなればドイツ軍は崩壊してしまう!」

「ポーランドが独立したら当然ポーランド軍もドイツ軍から分離する事になる!そうなればドイツは組織として立ちいかなくなってしまう。」

 ドイツ軍人達は、ポーランドの独立はドイツ軍の弱体化に繋がると主張し、思いなおすように政治家達に要望した。
 また、ポーランド軍人達もポーランドの再独立には反対した。

「もしここでポーランドが独立すれば、ようやく噛み合い始めたドイツ軍との連携が取れなくなってしまう!それ以前に、ドイツ軍が組織として成り立たないぞ!!」

「ポーランド軍に戻って、また貧弱な戦車に乗れっていうのか!俺はドイツの戦車以外には乗らないぞ!!」

 ポーランド将兵達は、ドイツ軍人との連携が上手くいっているのに、ここで再独立すればこれまでの努力が水泡に帰すのではないかと危惧した。また、ドイツの優秀な兵器に触れた彼らは、再独立すれば英仏から貧弱な兵器を供与されるのではないかと恐れたのだ。

 結局、ドイツ軍の将官士官が十分育つまでポーランド軍はドイツ軍に組み込まれたままという事になった。再独立も自由ポーランド政府とダンツィヒ自治政府が協力して進めるものの、時期を見て独立するという事で落ち着いた。
 その結果、亡命政権であるはずの自由ポーランドがドイツ占領下のポーランド領で活動するという訳の解らない事態となった。元々、ドイツによるっポーランドの保護占領を正当化するための亡命政府だったが、名実共に形だけになってしまったのだ。
 なお、元ポーランド大統領でダンツィヒ自治政府首相イグナツィ・モシチツキと、自由ポーランド大統領ヴワディスワフ・ラチュキェヴィチが同じ部屋の並んだ机で仕事をしている写真は、日本人に欧州政治は複雑怪奇と印象付ける事になる。

292 :Monolith兵:2014/09/17(水) 01:39:39
「とうとうここまで来れた・・・。」

 ドイツ国防陸軍第1ポーランド軍団長スタニスワフ・マチェク大将は97j指揮戦車のハッチから身を乗り出し、崩れた建物や瓦礫が広がる光景を見ながら感慨深く呟いた。かつて栄華を誇った都市の成れの果てを見たマチェクの体はかすかに震えており、両目からは涙があふれ出ていた。

「やった!やったぞ!とうとうワルシャワを奪還したんだ!」

「俺の家はあそこら辺にあったんだ。・・・今じゃ瓦礫の山だけどな。」

「俺達はやったんだ!ポーランド万歳!ドイツ万歳!連合国万歳!」

 そう、連合国はとうとうワルシャワを奪還したのだ。ポーランド兵達はワルシャワを奪還した事に喜び、かつての首都が瓦礫と廃墟になっている事に悲しみ、同盟国に感謝したりとワルシャワを奪還した事を思い思いに表現していた。
 だが、ワルシャワ市街地にはまだ少数ながらソ連軍が残っている為、気を抜く事は出来なかったし、150kmほど離れた都市ビャウィストクにはかなりの数のソ連軍が集結している様子であり、これを撃破しないことには完全にワルシャワを奪還できたとは言えなかった。

「敵が体勢を整える前に攻撃を仕掛ける必要がある。時間は奴らの味方だ。補給はどうなっている?」

「現在半数の部隊で補給が終わりました。戦車を有する部隊を優先して行っていますが、補給が終わるのは明日の昼ごろになりそうです。」

「他の部隊は?」

「ロンメル軍団は既にビャウィストクへと向かっておりますそれと、第7装甲師団がルブリンで敵中に孤立したフランス軍を支援しています。」

 参謀の報告にマチェクは溜息をついた。
 既に2年以上に渡りドイツ軍に所属しているマチェクは、ロンメルが機動戦を重視する反面補給を軽視するきらいがある事を理解していた。ポーランド撤退戦では、徹底した機動戦で大量のソ連軍の侵攻を遅らせたが、補給切れで放棄した戦車等が結構な数存在した。反抗作戦が始まってからも、ロンメルが指揮する軍団は単独でソ連軍の後方へ回りこんだり、燃料不足で1個戦車連隊が丸ごと脱落したりと話題に事欠かなかった。
 マチェクは、そんなロンメルのサポートをする事が多かった。大戦初期にポーランド撤退戦で名が知られるようになったマチェクとロンメルは、何かとペアを組む事が多く、今回もワルシャワ奪還にマチェクとロンメルの率いる2個軍団が投入されていた。

 だが、マチェクがため息をついたのはその事についてでは無かった。

「宮崎中将もつくづく貧乏籤を引かされるな。
 全く、あの蛙共は!ドイツといいイギリスといい、他の国の足を引っ張る事しか知らんのか!」

 ポーランド戦では真っ先に崩れてポーランド軍に助けられ、ファニーウォーが終わったかと思えば内戦を起こしフィンランド戦線を崩壊させ、イタリアには無敵のマジノ線(アルパイン線)を包囲されて敗北寸前になりと、ことごとく他の連合国の足を引っ張ってばかりだった。
 だからこそ、今回フランス将兵達は汚名挽回とばかりに張り切っていたのだが、それが空回りしてしまっていたのだ。

「まあ、宮崎中将が救援に向かったのなら大丈夫だろう。そんな事よりもロンメルの突撃馬鹿が補給不足で立ち往生するだろうから、明日の朝には発つぞ。補給の終わった部隊は出発準備をするように。終わっていない部隊は、後からでもいい。」

 マチェクはソ連軍に時間を与えたくなかった。もしソ連軍が時間を得たら、後方から戦力が送られて来る可能性があるし、そうでなくとも再編成や夜戦陣地戦を行われたら攻勢が頓挫しかねない。
 かと言って、ロンメルほど補給を軽視するつもりは無かった。元々自動車化騎兵を引きいていた彼は、自動車化部隊や機甲部隊がどれほど大食らいかよく知っていたからだ。

「今週中にはポーランド国境の向こう側へソ連軍を叩きだすぞ!」

 マチェクの宣言に、周りの参謀達は大声で賛意を示した。
 ポーランド領全域の回復は、ポーランド人達全員の願いだった。それが今、達成されようとしているのだ。


おわり

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最終更新:2014年09月28日 09:21