973. ひゅうが 2011/12/04(日) 14:14:29
ホワイトスター・ブラッククロス世界の片隅にて

――1945年8月27日  日本皇国  帝都東京  GHQ総司令部


ドワイライト・アイゼンハワーは憂鬱だった。
道を歩いていると憎悪に満ちた視線を投げかけられるのには慣れていたし、時には唾を吐きかけられることも。
しかし真面目な日本人は破壊活動はせず、ただ侮蔑でもって彼ら占領軍に相対していたのだった。
それはそうだろう。
彼の祖国はとんでもなく理不尽な理由でこの国に戦争を吹っかけ、長引きそうになるや毒ガスを使用した無差別攻撃でもってこの国を屈服させたのだから。

そして、茶番に満ちた裁判で指導者をつるしあげる傍らで、匪賊以外の何物でもない自称連合軍兵士たちにこの国の半分を凌辱させていたのだから。
検閲は、まったく効果を発揮していなかった。
ともすれば検閲を行う日系人の側がサボタージュを行い、米本土で無邪気に「日本人を一掃して新たな州を作ろう」だの、「人口を削減して農業国にしてやろう」、極めつけは「天皇をいかにして残虐に殺すか」といった言説を行っている連中をゲリラ的に紹介していたのだから。

だが、そんな動きももう終わる。
アメリカ合衆国はドイツ第3帝国を盟主とする枢軸国に対し宣戦を布告した。
と同時に、インド亜大陸各所と中華民国首都北京、上海などに対し核ミサイル攻撃が行われ、両国の政府は事実上消滅している。
日本人抹殺を発言し、中華民国総統  張学良と一緒に非難を浴びていたロング前大統領にかわって大統領となったトマス・デューイはこの大戦を戦い抜くために日本の再軍備を要請するハラだったのだ。

その象徴となる人物が、この第一生命には招かれている。
アイゼンハワーは応接室の扉を開いた。

「お待たせしました。シマダ閣下。」

「なに。君らはこの国の絶対君主のようなものだ。我々を煮るなり焼くなり殺すなり――好きにするといいさ。」

爽やかな笑顔で毒を吐いたのは、これまで裁判という名のリンチで死刑を宣告されそうになっていた男、嶋田繁太郎だった。
中華民国を侵略し、恩をあだで返した罪と戦争を起こした罪、謀略の罪などで訴追されていた彼は、今やGHQの命令で自由の身となっている。

「その点について、お話が。」

「分かっている。わが国を占領する100万余の大軍をインド・東アジア戦線に向かわせたいのだろう?それに原爆実験に供する予定だったわが海軍の新旧の艦を復活させることも。」

白鳳の建造再開指示は聞いていたよ。と嶋田は吐き捨てた。
大神海軍工廠でキールを据え付けられたままになっていたヤマトタイプの戦艦についても再開指示が出ている。
と同時に――

「関東地方を占領している中華民国軍は、撤収することになっています。」

「当然だな。奴らがこの国でやったことを思えば、軍法会議にかけられないのが不思議だ。
――アイゼンハワー閣下。これだけは言わせてもらいますぞ。」

嶋田の目が血走っている。

「あなたがたは、自分たちの手前勝手な都合でこの国やアジアを引っかき回し、わが国を凌辱した。何が正義だ。貴様らはインディアンを大量殺戮して国土を広げた頃と何も変わっていない。そして手前勝手な理屈で我々から取り上げた武器や工場を持たせ、さも恩着せがましく言うのだろう?我々は忘れないぞ。人を人とも思わず毒ガスをばらまき、沈みゆく船から脱出した船員を機銃掃射し、あげく本土を占領し略奪暴行の限りを尽くした貴様らを。」

口調は平坦だった。
アイゼンハワーは、ディーイ大統領から託された「友邦となりたい」という要望がかなえられることは永久になくなったということを悟った。
嶋田前首相が言ったような感情は、日本人の大方の見方なのだろう。でなければ、スパイ網に核兵器やミサイル技術を持っていかれるような粗を開けたりはしない。

「今は協力しましょう。ですが――ワシントンやニューヨークが核の炎に焼かれ、白人相手に有色人種たちが大暴動を繰り広げるような未来が、今から楽しみですな。」

嶋田の予言は、のちに的中することになる。


【あとがき】――ホワイトスター・ブラッククロス世界ネタでした。
バッドエンド気味なので、嶋田さんに思い切り毒を吐かせてみました。
いや、この世界の米国は原作の日本以上の苦難をもって対独戦を遂行しなければいけないでしょうね。その苦闘が楽しみです(邪笑)。
なお、本作はネタです。

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最終更新:2012年01月01日 21:54