107 :四〇艦隊の人:2014/02/10(月) 01:36:13
二〇XX年、ユーラシア大陸の一角、かつて中華民国と呼ばれた国があり、今は複数の軍閥が血みどろの闘争を繰り広げている場所で一つの武装勢力が決起した。
青い布を目印にした彼らは青巾党と名乗り、中華の復権と軍閥の排除、攘夷を掲げて活動を開始する。
蜂起当初は単なる一弱小武装勢力であり、どこかの軍閥にあっさり吹き飛ばされるだろうと思われていた彼らは予想外に善戦し、蜂起から三年で軍閥としては一番規模の大きかった北京軍閥を崩壊させ勢力下に入れてしまったのである。
この事態にいまや世界そのものといっても良い列強各国、特にその中の三大国である日英独は驚愕、すぐさま彼らの裏に何がいるのかを調べ上げ、そして背後にアメリカ合衆国がいることを確認した。
アメリカは先の第二次世界大戦で日本を中心とする国際連盟に敗北、以降連盟によって国土の半分を分割統治され、その影響力は地に墜されていた。
しかし、アメリカの復権を狙うものたちは列強の力を殺ぐべく、中華の内乱を中華の外にまで飛び火させ、その隙に強いアメリカの復権を狙っていたのだ。
この動きに掣肘を加えるべく国際連盟は中華への出兵を決議、中華に近く、歴史的に見ても成立時から反中国家である大日本帝国はこの決議に従い南部方面総軍第六軍から第六二師団と六四師団、北部方面総軍第七軍から第七三師団と第七一機甲師団、そして近衛と北部方面総軍のみが有する兵科、第一一独立捜索剣虎兵大隊が中国大陸に出征した。

しかし出征した彼らを凶事が襲う。
出征から二ヵ月後、中国大地震発生。
この地震で第一一剣虎兵大隊は極めて大規模な崖崩れと崩落に巻き込まれ死者二四二名、剣牙虎二〇頭、騎馬四八頭、行方不明者一〇二三名、剣牙虎三一七頭、騎馬三五二頭の大損害を受けてしまったのである。
第七一機甲師団の必死の捜索でも生存者は見つからず、その後第一一独立捜索剣虎兵大隊は時期の関係で本土に居たため生き残った第一一四剣虎兵中隊を中心に再編されることになる。


「何だよ、これ…………」

そのころ第一一一剣虎騎兵中隊の隊長を勤める二七歳の若き青年将校は彼の猫である「恋姫(れんき)」が顔を舐めるのにも気づかず呆然としていた。
あたりはなんだか意味も無くムカついてくるほど青い空と白い雲、見渡す限りどこまでも続く果てしなく広い草原、そして第一一大隊の同僚や、戦友たちが多少ふらつきながらも、ある者はまだ立ち上がれていない同僚や戦友たちに手を貸し、ある者は分隊単位で周辺の警戒に赴き、またある者は散らかった物資や兵器の回収と野営の準備に向かっていた。

「…………尉!北郷大尉!!」
「……ッ!!岩崎軍曹か!?状況を報告しろ!」

彼の中隊の先任下士官が彼に呼びかけているのに気がつき、彼は呆然とする一人の青年から、大日本帝国陸軍士官学校を恩賜の軍刀組として卒業した若き青年将校に戻った。

「第一中隊のみですが点呼を取りました。現在全三五三名中二九一名、剣牙虎一五〇頭中一三九頭、騎馬四〇〇頭中三一一頭がいます。また、斉藤少尉、飯田曹長が行方不明です。このため物資の回収と負傷者の救助を第二、第三中隊に任せ、自分の独断で第一中隊は分隊ごとに周辺の捜索に出しました。また、第二中隊長、荻窪中尉の無事を確認しました。しかし橋本大隊長、ならびに第三中隊長、瀬島大尉が行方不明です。現在第三中隊は佐藤少尉が指揮を執っています」
「よろしい、では現時刻を持って私が大隊の指揮権を掌握する。分隊ごとの周辺警戒は続行させろ。荻窪中尉、佐藤少尉に可及的速やかさで以って状況を報告せよ、と伝えろ。伝令後軍曹は司令部小隊の状況を確認せよ」
「了解、……落ち着けよ?北郷候補生」
「自分は落ち着いているであります!岩崎教官!……軍曹、職務にもどれ」
「了解」

かつての士官学校剣虎兵科で自分の教官だった部下が走っていくのを見送って、大日本帝国陸軍第一一独立捜索剣虎兵大隊第一一一剣虎騎兵中隊隊長北郷一刀大尉はもう一度深いため息をついた。

「何がどうなってんだよ……」


108 :四〇艦隊の人:2014/02/10(月) 01:37:19
三時間後。
各中隊の現状がまとまったとの報告を受けた北郷は全ての士官と先任下士官を集めて会議を行った。

「第一中隊、全三五三名中三一七名、猫一五〇頭中一三九頭、騎馬四〇〇頭中三五二頭です。」と第一中隊第一小隊長斉藤少尉。
「第二中隊、全三五三名中三三五名、猫一五〇頭中一三六頭です」と第二中隊長荻窪中尉。
「第三中隊、全三八五名中三一三名、猫三〇頭中一八頭です。また瀬島大尉は以前行方不明のままです。そのため臨時に私が指揮を執っています」と第三中隊長代理の佐藤少尉。
「司令部小隊、全一一五名中三五名です。また橋本大隊長は行方不明のままです。」と司令部小隊先任曹長の新藤曹長。
「各隊合計で五五式自動小銃七八九挺、五五式自動騎兵銃三二〇挺、五六式狙撃銃二五挺、五九式軽機関銃一二〇挺、六.五mm実包三千万発、九mm弾一万発、一二.七mm機関砲四五挺、一二.七mm機関砲弾一〇〇〇万発、八一mm迫撃砲三〇門、八一mm迫撃砲弾九〇〇〇発、一二〇mm迫撃砲五門、一二〇mm迫撃砲弾一〇〇〇発、六〇式機動戦闘車四両、四〇mm砲弾五〇〇〇発、自動二輪四八両、指揮通信車二両、五七式装輪装甲車六両、一五五mm自走砲一両、一五五mm榴弾一〇〇発、兵員用トラック三五両、輸送用トラック六八両、燃料輸送車一五両、水輸送車六両、糧食は人間用が三ヶ月分、猫用が二週間分、騎馬用が二カ月分、飲用水は半年分です。大部分は他部隊への補給物資ですが、合計して計上しました」と大隊補給参謀の後藤中尉。
「現在のところ衛星、及び他部隊との交信は全て途絶状態です。復旧の見込みは立っておりません。ですが第一中隊の派遣した偵察分隊との連絡は可能です」と大隊情報参謀の冴島中尉。
「現在のところ目立った負傷者は無し。起き上がり際にふらついて足を捻ったアホは一人いるが唾でもつけときゃ直るだろう。医薬品は現在のところ、人用、獣用共に定数を維持している」と橘軍医中佐。
「天測を用いて現在の緯度を算出しました。およそ北緯四〇度付近であると思われます。日没後に再度天測を行い現在位置を算出します。ですが……」と次席参謀の三島中尉。
「どうした、報告は明瞭にしろ!」と後藤中尉。

口ごもった三島中尉を怒鳴りつけた後藤中尉も、三島中尉の次の言葉で黙り込んだ。

「この時期の割りに妙に暖かいです。もしかしたらもっとずれているかも知れません。とにかく日没後にもう一度天測を行います。もう一つ、軽く周辺を見て回りましたが、どうやらこの地点は窪地に位置しているようです。襲撃を警戒するべく、なるべく早期に東側二キロの地点にある丘陵地帯に移動するべきと具申します」

北郷が三島中尉の意見を容れて丘陵地帯への移動を命じようとしたときだった。
司令部小隊の通信兵が猛烈な勢いで駆け込んできた。

「報告します!偵察に出ていた第一中隊第五分隊が所属不明の武装勢力を確認!黄色い旗を掲げ、頭部に黄色い布をつけています!数およそ一〇〇内騎兵一〇!また武装勢力の進行方向に中規模の村落を発見!本隊からの位置、約六キロ!武装勢力の村への接触まで約一時間!」

通信兵の報告が終わると後藤中尉がまず切り出した。

「北郷大尉、これは好機です。第一、第二中隊を出して村落を確保、賊を攻撃しましょう。うまくいけば一時的な拠点を入手できます」

しかし、荻窪中尉はこれに反対。

「危険です。まだ村落と武装勢力の関係が明らかになっていません。最悪交戦中に後ろから撃たれる可能性があります」

佐藤少尉は折衷案を提案した。

「部隊を村の近くに集めて、賊の出方を窺うのはどうでしょう?賊の仲間なら村ごと潰せば良いですし、賊に襲われているようなら賊の側面なり、後方なりからぶん殴ってやれば良いと愚考します。シナ人が内ゲバで減るのは大歓迎ですし」

北郷は折衷案を採用した。

「佐藤少尉の案を採用する。第一中隊は直ちに集結、第二小隊は先行しろ。荻窪中尉、第二小隊と共に先行、状況を見て臨機応変に対応しろ。佐藤少尉、司令部小隊と共に東方二キロの地点に宿営地を設営。別命あるまで防衛に努めろ」

109 :四〇艦隊の人:2014/02/10(月) 01:38:31
戦闘そのものはほぼ一瞬で集結した。
碌な訓練も受けていない賊が、数も質も勝る剣虎騎兵中隊の突撃を受ければ、蹂躙されるのみである。
この戦闘での第一一大隊の損害はほぼゼロだったこともそれを示している。
むしろ問題はその後に発生した。
話は変わるが古来より日本人は剣牙虎と松風馬、大和大犬という三種の日本亜大陸群固有の猛獣と共生関係を築いてきた。
これは日本が開国した後も変わらず、当時の外国人はこういった猛獣を飼いならし、共に戦う日本人に驚愕したという記録が残っている。
しかしこの大陸の住民にとって虎というのは手をつけられない猛獣であった。
そんなのが一〇〇匹以上、普段目にする馬の三回り近く大きな馬にまたがった人間と共にやってきたら何が起こるか?
パニックである。

何とか村人たちのパニックを抑えた第一、第二中隊が第一一大隊が宿営地としている丘陵に帰り着いたとき時刻は既に二一〇〇時を過ぎていた。
北郷は疲労を押して幹部会議に出席することにしたが、彼は会議を行う天幕に向かう途中とんでもないものを発見してしまう。
それは天高く上がった“満月”の姿。
昨日の月齢は〇、新月だった。
会議は極めて紛糾した。情報のために生かしておいた賊、正式名称黄巾賊と村民から得た情報によると、現在地点は漢帝国の并州、現在の刺史は董卓だというが、「そのような戯言が信じられるか!」という後藤中尉、佐藤少尉と、「目の前にある以上それを信じるしかない」という荻窪中尉が対立したのだ。
結局北郷の仲裁で決議は翌朝に持ち越されることとなる。
そして翌朝、会議では三島中尉が「賊やあの程度の村の村民が三国時代の知識を持っているとは考えにくい。なんにせよ目の前にあるのだから受け入れるべき」という主張で後藤中尉派を沈黙させ、とにかく祖国への帰還を目指して情報収集に当たることとなった。
しかし、そんな第一一大隊にある客が訪れる。

「并州刺史、董卓様からの使いで参りました、賈文和と申します」
「同じく、張文遠や」

110 :四〇艦隊の人:2014/02/10(月) 01:40:26
とりあえずここまで……。
個人的に一番好きなキャラの登場まで書いて力尽きた……。
……皆さんの反応が怖い。
 

最終更新:2014年12月21日 01:55