859 :四〇艦隊の人:2014/02/21(金) 23:08:39
初遭遇を終えた北郷大尉が、并州刺史董卓が派遣した二人の使者、賈文和、張文遠を会議用の天幕に通し、彼女達が連れてきた護衛の兵を陣の近くで待機させるように指示し、兵が案内して行った所で、事実上の主席参謀になっている後藤真澄中尉が突然意見具申した。

「北郷大尉、意見具申します。政府及び全上級司令部との連絡が途絶してから二四時間が経過しました。よって戦時指揮権継承規定第五章第三四条に基づき、大日本帝国陸軍臨時第一一総軍を編成、北郷大尉が指揮官に就任すべきと具申します。……これは自分個人の意見ではなく、第一一大隊全参謀の総意です」

場に静粛が訪れた。
その静粛を最初に破ったのは第一中隊第二小隊長の小島和信少尉だった。

「自分は大尉に続きます」

その後に第一中隊第三小隊長の時田健一少尉と第一小隊長の斉藤貴之少尉が続いた。

「自分も大尉の決定を支持します。ですが、こんなわけのわからん状況である以上指揮は最上位階級の大尉が取るべきでしょう」
「大尉に続きます。どちらであれ、第一中隊の将兵は大尉に続くでしょう」

その後に第二中隊長荻窪頼雅中尉が発言した。

「異論ありません。帝国陸軍法、軍指揮権継承規定のいずれから見ても、後藤中尉の具申は妥当であると判断します」

第三中隊長代理佐藤肇少尉が発言した。

「異議無し。私は後藤中尉の具申を支持します」

おおむね士官達の意見が出揃ったのをみて後藤中尉が発言した。

「北郷大尉、ご決断を」

北郷は自身にとっては最も考えたくない事態に陥った事を改めて突きつけられた気分だった。
戦時指揮権継承規定第五章とは要約すると、『国家間の全面核戦争の末に日本本土が壊滅した』という状況を想定したものである。
そのような状況で最後の一個分隊になるまで全ての大日本帝国軍が戦いを続け、そして敵国を地球上から抹消した後に日本の再興を図る、そういう状況に発動されるものである。
しかし、今の状況はまさしく指揮権継承規定第五章第三四条の適用条件を満たしている。
第34条は『上級指揮官が全滅ないしはその指揮下に入ることが著しく困難と認められる場合は、その時点で指揮官ならびに幕僚の賛意を得て臨時上級司令部の設置が認められる。当該司令部ならびに隷下部隊は極力その戦力の保全につとめ、指揮命令系統への復帰を目指すべし』と定めている。
自身がおそらくこの大陸に存在する大日本帝国軍の中で最上位階級にある。
“北郷一刀”にとってこの状況は受け入れ難いものだったが、大日本帝国陸軍北郷一刀剣虎兵大尉はこの状況からの逃避を是としなかった。

「……わかった。現時刻一五二〇時を以って大日本帝国陸軍臨時第一一総軍を編成、私が司令官に就任する。同時に後藤中尉、貴官を臨時第一一総軍参謀長に任命する。後藤中尉、直ちに正装を着用し会談に同席せよ」
「了解」



【ネタ】北郷一刀君と一〇〇〇人と六〇〇頭の愉快な仲間たちは外史に放り込まれたようです【その三】



大陸に渡ってからはまったく袖を通す機会の無かった大日本帝国陸軍の尉官正装の上袖と国防記念賞の隣に加えられた緊急指揮官権限章は、左肋に佩用した功五級金鵄勲章と共に北郷に重圧を加えていた。
投げ出すことができればどれほど楽だろうか、と思うが彼の価値観はその逃避を是とするようにはできていなかった。
そんな北郷の元に彼の猫の『恋姫』が擦り寄ってきた。
『恋姫』は剣牙虎としては比較的小柄だが第一一大隊の群れの頭だ。
北郷とは彼女の母親からの付き合いである。
普段あまり擦り寄ってくる猫ではないが今日は何かかまってほしい気分だったらしい。
流石にこれから会談なのに正装に毛をつけられるのは避けたい北郷に追い払われて、『恋姫』はどこかしょんぼりとした格好でどこかに去って行った。
どうせ夜になれば戻ってくるので放っておき、北郷は後藤中尉と共に会議用の天幕に急いだ。

860 :四〇艦隊の人:2014/02/21(金) 23:10:00
一方その頃、会議用天幕に通された詠と霞は謎の黒い液体と黒い粒が入っている茶色の丸いものを前に戸惑っていた。
先ほど自分達を案内した兵士の一人が自分達をこの軽そうな長机と椅子に座らせ、一度引っ込んだ後に再度やってきた際に持ってきたものである。
その兵士は盆を片手に下がって行き、後には謎の物体を前に戸惑う二人が残されたわけである。
詠の頭脳はこれには毒は入っていないということを確信している。
ここで自分達を暗殺する利点はまったく無いし、この隊の指揮官だという男はそういった悪辣さとは無縁の男に見えた。
副官らしき女はどうかわからないが、指揮官が交渉すると目の前で発言したことを反故にするほど肝が据わっているようには見えなかった。
一方霞もこの何かが毒ではないことはなんとなくわかっていた。
彼女はまだ荒削りだが、知略と武勇の双方を兼ね備えた名将になりうる人物である。
彼女の直感はこれは毒ではないことを注げていた。

しかし、見たことも聞いたことも無いものを口に含めるか?といわれると、たいていの人間は躊躇するものである。
結局二人は北郷達が来るまで出されたもの、コーヒーとチョコチップクッキーには手をつけなかった。


「改めまして、大日本帝国陸軍臨時第一一総軍司令官北郷一刀大尉です」
「同じく、臨時第一一総軍参謀長後藤真澄中尉です」
「并州刺史、董卓様からの使いで参りました、姓を賈、名を駆、字を文和と申します」
「同じく、姓は張、名は遼、字は文遠や」

会談はまず自己紹介から始まった。
お互いの状況と些細な常識まで含んだ情報を交換した後、詠は今回の訪問の本題を切り出した。

「さて、改めてお聞きします。并州に参る気はございませんか?」
「……即答が必要ですか?」
「いえ、すぐにでなくとも結構です。ですがそう時間は無いでしょうね。この州でも黄巾賊の活動が確認されていますし、他所も貴方方に無理矢理にでもお誘いを掛けてくるでしょう。あまり時間をかけるのはよろしくないと思いますよ?」
「フム……………………」

北郷に代わって舌戦を展開していた後藤中尉が沈黙したときだった。
本部小隊の通信兵が会議用の天幕に駆け込んできた。

「大尉、緊急事態です!警戒八班が接近中の黄巾賊を捕捉!敵数およそ五〇〇〇内騎兵一〇〇〇!まっすぐこちらに向かってきます!接触まで約二時間!」
「!?」
「そりゃ大事やな」
「総員戦闘配置。警戒八班には接触を維持させろ。第一中隊に集結命令。猫達を集めろ。第二、第三中隊は直ちに出撃、宿営地から五kmの敵の予想進路上に鉄条網と簡易遮蔽物を構築、一二.七mmと軽迫を設置しろ。塹壕は余裕が有ったらで良い。現時刻を持って第一一大隊本隊の指揮を荻窪中尉に委任する。……賈文和殿と張文遠殿はどうされますか?」

北郷の問いかけに対し、詠は一瞬言葉に詰まったが、霞は詠よりもある意味冷静で、ある意味短絡的だった。

「ウチも付いてって良え?騎兵五〇〇や、邪魔はせんで?」

北郷は内心舌打ちをした。
こちらの武力をチラつかせて相手に譲歩を迫る心算であったがここで張文遠の参戦を許してしまうと、相手に戦果を掻っ攫われてしまう可能性がある。
軍事的に見ても自分の指揮下に無く、連携も十分とはいえない部隊と共同作戦を行うことは推奨できない行為だ。
しかし、これを受けないとなると相手方に過度にこちらに対する警戒心を抱かせてしまう危険性がある。
火力の差があるのである程度は何とかなるだろうが、同士討ちや誤射の危険も否定できない。

「……良いでしょう、歩兵と陣地で敵を受け止めた後騎兵で左翼から仕掛けます。同士討ちを避けるため歩兵への攻撃に集中してください」

結局、北郷は張文遠の部隊の同行を認めた。
今は時間が惜しかったからである。

「大尉!?よろしいのですか?」
「わかったで。右からで良え?」
「結構です。中尉、今は問答している時間が惜しい。第三中隊の車両部隊と共に大隊司令部で留守居を頼む」
「……了解」

様々な思惑の元に第一一独立捜索剣虎兵大隊は戦場に向かう。


861 :四〇艦隊の人:2014/02/21(金) 23:13:28
以上ここまで。
次から戦争、残念ですが黄巾党の皆さんには生贄になってもらいましょう(邪笑)

……それにしても一刀君はともかく恋姫勢がなんか別人な気がする……。
 

最終更新:2014年12月21日 01:56