465 :ひゅうが:2015/01/06(火) 03:13:44
惑星日本ネタ――――「水星(火星)年代記のようなもの」 その12.5 【閑話 その時】
――西暦1983年5月13日
「出かけた先で見つけたのは、御出迎えの宇宙艦隊か…」
「いつからここはSFの世界になったんでしょうかね?」
「それを言うなら三隻の船団が水星へ向かうことがすでにSF的ですよ副長殿。」
「で、どうされます?」
「先方はご丁寧に満艦飾だから、こちらもそれに応じるべきだと船長としては思う。」
「同感です。副長としても同意いたします。ということは?」
「こちらも登舷礼で応じよう。各員、船外活動準備。」
このようなやりとりの末、合衆国宇宙船「ニューホライズン1号」でなされた後、修正噴射を行った宇宙船は、完全に並行艦列を整えた。
通信タイムラグが最低2分半かかることから、この航海では船長にはヒューストンの飛行管制主任とならぶ権限が与えられていた。
裏を返せばそのためにオルドリン飛行士という経験豊かな人物が選ばれたのでもあるが。
オルドリン船長とアームストロング副長、マイケル・コリンズ航宙長ら三名はいずれも1回以上の宇宙飛行経験を有しており、ことにオルドリン船長はジェミニ計画において安全紐なしでの宇宙遊泳を成功させていた人物である。
アームストロング船長も、月面着陸船模擬機の事故で制御不能となった後の対処など、突発事態に対応できる人物であった。
コリンズ飛行士もテストパイロット上がりで、宇宙空間で異常回転するジェミニカプセルを立て直すことに成功した凄腕である。
これらの人々の判断は、事後報告でヒューストンに伝えられ、混乱する管制センターからなし崩し的に承認を得た。
軌道変更要請を受けたところで念のために宇宙服を着装していた彼らは、航行担当としてオルドリン船長を残し、研究者や外交担当者の別もなく船体上部へと上がる。
時間が20分も関わらなかったことは、まず上出来といっていいだろう。
普通ならば、1時間単位での準備期間を必要とするのが船外活動であるのだから。
水星中央標準時午前5時12分、テキサス時間で午後6時57分。
大日本帝国宇宙軍が誇る内惑星艦隊の最精鋭、第1艦隊と、出発をわざわざのばした昭和43年度(註:水星年では58年は43年半ほどである)第8次木星派遣船団が満艦飾と登舷礼で出迎える中、「ニューホライズン1号」は8名のうち6名を船体上部へと出して登舷礼を敢行。
これだけでも蒼星こと地球側では史上初である。
466 :ひゅうが:2015/01/06(火) 03:14:21
3分近い時間を経てこの光景を見守る人々はその光景に目を見開いた。
「デカい…」
「艦隊と思しき船団の平均全長は600メートル以上。後方の船団は5キロ近いです!」
「こちらは250メートルあまり…笑い話にもならないですね。」
「これだけの宇宙艦隊、地上からの打ち上げはほぼ不可能です。やったとしても数千回単位で大重量打ち上げ機で地上から打ち上げなければ…」
「間違いなくティトゥス(イザナミ)上に大規模月面基地とドック群を持っていますよ。」
「バカな。なぜ我々の水星観測網に引っ掛からなかった?」
「ラグランジュ点にいれば小型小惑星にありがちな軌道運動をしませんからね。それにあの暗灰白色塗装と鏡面の合わせ技、赤外線放射を最低にしつつ空間に溶け込むのを目指しているように見える。
間違いなく戦闘艦ですよ。」
「宇宙戦艦か。トレッカーあたりが好きそうだなぁ…」
「おい見ろ!まだまだ増えるぞ!数は?」
「すでに100以上。うちがえっちら積んでいったシャトルみたいなのも混じっていますね。いずれも乗組員らしき宇宙服が船外活動中。」
「敬意を示しているのでは?こちらの登舷礼の様式は向こうも知っているのでしょうし。」
「しかし、やられたな…こりゃ号外が出るのは確実だよ。」
「どうします?」
「知らんよ。むしろ教えてくれ。」
「見てください!砲塔…らしきものが旋回しています!」
このときモニターを全員が注視していなかったのであれば、テキサス州ヒューストンの人々は周辺宙域の窒素やアルゴン濃度などが急上昇したことを知ったかもしれない。
それらの物質は、エアゾル分子の中に封じ込められており、時間をかけて「霧状」に散布されていったのだ。
そのため、宙域には艦隊を取り巻くように微粒子の雲が生じている。
そして、
「おいおい…礼砲か?」
艦隊から放たれたものは軌道爆雷射出機や主砲から放たれた21発の高エネルギー荷電粒子のビーム。
それらは周囲の微粒子に加え、イザナミの磁力線に沿うようにしてひとつの反応を引き起こす。
そして、高エネルギーの荷電粒子が微粒子にぶつかって起こるのは…
「オーロラ…」
人工オーロラ。
惑星大気上層部で発生している美しい自然現象が、人工的に再現されたのだ。
有人軌道実験室スカイラブにおいて予定されている実験も存在したが、宇宙艦隊はこれをこともあろうに惑星を回る衛星軌道上で再現してのけたのだった。
「宇宙艦隊から発光信号!」
――発:大日本帝国宇宙艦隊 総旗艦 宇宙戦艦(SBB-191)「播磨」
宛:アメリカ合衆国航空宇宙局 惑星間航行級船「ニュー・ホライズン1号」
本文:「遠き星と星との間との間に今出会う幸運と貴船乗組員の勇気に敬意を。ようこそ大日本帝国へ。我々は貴船の来航を歓迎する。」
最終更新:2015年01月17日 15:53