816 :ひゅうが:2014/12/28(日) 14:35:05
―――西暦20XX年 水星 帝都東京
「まったく、一時はどうなることかと思ったが意外となんとかなるものなんですなぁ…」
「それはこちらも同じです。まさか――」
二人の男がいた。
季節は冬。一人はどてらを着て緑茶をすすりながら某社の雪見だいふくを食べており、網一人は優雅に紅茶を飲みながらスコーンを食べている。
ティータイムセットがこたつの天板の上にのっているために若干手狭だったが、3DTVが「ゆくとしくるとし」を流しているのをボケっと見ていた二人にとってはまったく問題なかった。
二人とも、見た目は若い。
だが、この時代、見た目で人物を判断するのは禁物である。
二人の言葉は十分以上に老成し、そしてそれを楽しむすべを身につけたものだった。
「「まさか・・・地球を挟んで隣同士の惑星国家になるなんてなぁ・・・」」
かつて嶋田繁太郎だった男と、ハリファックスと呼ばれた男はかつての先人たちの苦労を思いながら平和にこうして過ごせることの喜びをかみしめていた。
そう。
太陽系第二惑星金星をその領域とする大英帝国、そして太陽系第四惑星水星をその版図とする大日本帝国は同盟国だった。
いずれも故郷は第3惑星地球。
彼らはその上で第2次大戦とその後の攻防を生き延びた経験を持ちながらこの異世界へと魂ごとやってきていたのだった。
だが、水星はそのまま地球型惑星そっくりの(ただし自然環境は5千万年前相当)惑星となり火星とはまるで正反対の水のあふれる星になっており、金星は逆に灼熱の星から石炭紀の地球のような緑の大森林で覆われた星になっていた。
二人や、その同類たちは何者かの意図を感じざるを得なかった。
なぜなら、金星の上空には太陽光を遮る「日傘」のようなものがあり、それがすっぽり金星を覆って快適な気候に地上を保ち、さらには水星も金星も、生命体の起源は同じく地球であるということがDNA解析で明らかとなっていたからである。
何者かがテラフォーミングや生命体の播種を行い、3惑星をすみよくしたのは確実であった。
もっともそれ以上の痕跡は確認できず、「日傘」にも銘板やコントロールユニットらしい四角い物体(その形状からモノリスと呼ばれている)以外には手がかりはないのだが。
そして、二つの惑星に生きるものたちは今から200年ほど前に互いの存在を知る。
数十年を経ずして宇宙空間で出会った二国は、互いの起源を知って仰天する。
西暦でいうところの1615年、突然に別の星に飛ばされたという点で彼らは共通していたのだ。
二国は互いに不可侵条約を締結すると、その故郷である地球への調査を開始。
しかし、転移を引き起こすようなものは何も見つからず、地球上国家の干渉も想像されたためにすぐに調査は打ち切られた。
基本的には広大な領域を有する彼らにとって、地球へわざわざ危険を冒して干渉する意義が見いだせなかったのだ。
幾分選民的だった大英帝国も、地球上で吹き荒れていた帝国主義の嵐の前には閉口し、放置を決め込んだ。
彼ら自らの存在が知られたら何をいわれるか分からず、果てしなく「面倒くさい」というのが彼らの共通した見方だった。
しかし、地球上でとどまっていてほしいという二つの星の願いは裏切られ、20世紀半ばに入ると地球人類も宇宙への進出を開始。
地上では大量の核兵器が配備されるに及び、二つの帝国は軍事同盟を締結。
世界の覇権を二分して争っているのに、その世界を数回焼き尽くすだけの戦力を蓄えた迷惑な二大国に対して協同であたることとなった。
目的はただひとつ。
「月や小惑星帯に進出されて資源地帯に割って入られたり、隕石爆撃が可能となる前に地球圏に米ソを押さえ込む。」
そのために十分な戦力を日英は持っていた。
互いが疑心暗鬼になっていた時代に築かれた迎撃網と宇宙艦隊は、今や頼もしい友軍だった。
817 :ひゅうが:2014/12/28(日) 14:35:50
かくて、西暦1961年、宇宙から地上に向けて一通の「祝電」が送られる。
「初飛行おめでとう。太陽系宇宙の一員として我々は諸君を歓迎する。」
即座に地球軌道上に宇宙艦隊が展開し、「友好使節」がワシントンとモスクワ、パリやバチカンを訪れたあたり完全な砲艦外交だった。
以来、地球の二大国は技術開発に狂奔するも、互いに日英のどちらかについて相手を攻め滅ぼす誘惑から疑心暗鬼が消えず緊張緩和が成立したりしなかったりで予算上の制約からいまだに往還飛行を成し遂げられていなかった。
先日、20年の航海の果てに無人探査機をアルファ・ケンタウリへと送り込むことに成功し、地球に似た居住可能惑星を発見した日英とは雲泥の差である。
あと数世紀は太陽系での両国の覇権は続くだろう。
さらに・・・
「バルタン星の人々の中にも個を主張する世代の数が増えていると聞いて一悶着あると心配していましたが…」
「気の良い連中ですよ。大きさはもとより、遺伝子操作にも禁忌がない種族ですから、むしろ地球人化するのも増えています。」
嶋田繁太郎であった男はいまでこそ笑っていられるが、接触当時は大変だった。
ある狂った科学者の実験で母星を失った彼らが水星にやってきたのは、今から40年ほど前になる。
20億以上の人口に焦ったものの、群体のような生物であるために納得すれば小型化して現地法を守り順応することができる彼らは速やかに社会に溶け込んでいった。
群体といっても個性はあるようで、現在は口コミならぬテレパシーもどきによって人間に混じって生活するのが流行している。
見た目にこだわりがないため、バルタン星人を皮切りとして訪れることが増えた異星人たちの中では彼らはいちばん人間社会に溶け込んでいた。
「超光速航行実験も年内にはじまります。10年もせずにケンタウリへ移民第一陣を送り出せるはずです。あそこはスペシウム濃度が濃いのでバルタンさんも人間体でしか行けないのが難点ですが・・・彼らにとっては念願の自分たちだけの大地を持てるはずです。」
「確か、ノルマント…原地球海底人類とピット星人の技術供与でしたか?」
「土星開発で思った以上に資源が見つかりましたからね。作ること自体は前々から出来たのですが…」
嶋田は、自分が接待するうちにピット星人やノルマントの人々が日本酒を気に入ったことやら「地球人類なのに平和的」と思われた(誤解された)ことは言わないことにした。
「なべて世はこともなし…いいことですな。」
ハリファックスも上機嫌で頷く。
そう、平和が一番だ。
そう思っていたのだが――
「閣下!大変です!金星のヴィクトリア海の海底に巨大な黄金の怪獣が――」
「何だと!」
――なお、出現した怪獣は彼らの前世で有名だった特撮番組の中からキングギドラと名付けられた。
嶋田やハリファックスの「飲み仲間&鍋仲間」である異星人たちと協力して「スサノオ作戦」と呼ばれる太陽系防衛計画が実行されるのは、この数時間後の話となる。
どっとはらい。
最終更新:2015年01月17日 16:46