938 :ひゅうが:2014/12/30(火) 03:08:46


 惑星日本ネタ―――「水星(火星)年代記のようなもの」 その10.5 【四人よれば… 地球の事情2】



――――西暦1980年現在、蒼星世界を三分する超大国は3つある。
 ひとつは大英帝国。二度に亘る世界大戦において終盤まで中立を維持しつつ国力を温存したために欧州列強唯一の「勝者」となり、植民地化したアジア・アフリカやオセアニアを造園家のように統治し続けた「植民地から利益を上げる唯一の国家」である。
第二次世界大戦の結果、英独連合といわれるようになった経済的・軍事的同盟によって世界の陸地の7分の2を支配するこの国家は、21世紀を見据えてインドの自治権付与など帝国内部の改革に余念がなかった。
 もうひとつはソヴィエト社会主義共和国連邦。帝政ロシアの崩壊とともに誕生した史上初の社会主義国家である。その強みは強力な国家統制により成立した重工業や科学技術分野への重点投資と全土で自給可能とさえいわれる豊かな国土である。
単体でも巨大であるのだが、彼らは貪欲に周囲へ勢力圏を拡張し続け、二度目の大戦においてはフランス第三帝国を打ち負かしドイツから極東を奪取したことから南は黄河のほとり、北は北極点付近、東は太平洋の日付変更線、西は大西洋に至る巨大な勢力圏を築くに至っている。その総面積たるやユーラシア大陸の75%に達する。
 そして最後はアメリカ合衆国。北米大陸の半分以上を国土とした大陸国家であり、国内でほぼすべての資源を自給し、単体で世界の半分にも達する膨大な生産力を持つ国家である。
その勢力圏に南米から北太平洋のほぼ全域、そして一部アフリカも含むこの国家は、超大国の筆頭であった。

これら超大国の力関係は、まずアメリカ合衆国が他を大きく引き離し、次点でバランスのとれた大英帝国、そして大半の国土が北の凍土であるために見た目の割には国力が限られたソ連というものである。
外交関係は、その国家としての特殊性から米英間のゆるやかな連携により海上から包囲されるのがソ連という構図が半世紀以上も続いていた。
第2次大戦の末期にこの三国が手を組んだ時もそれはかわっていない。
地球の海洋は、巨大な大英帝国グランドフリートの遊弋するバスタブであり、合衆国は巨大な空軍と欧州の陸軍や極東の自国陸軍の連携によってソ連を封じ込める構図となっている。
その手足となり、表向きの手を汚して勢力圏の維持を図るのはかつての欧州列強の役割だった。
ある意味、安定しているともいえる。
有色人種の希望という名分のもとでリベラルな政策をとり、ついには国家社会主義政策の名の下で戦い完膚なきまでに敗北した新華建設運動(新華=ドイツ領と歴史上は記される)領なき今、世界は急速すぎる革命運動を抑止するように立ち回っていたのだった。

歴史を俯瞰するように見るならば、この半世紀あまりを経て蒼星世界はかつてしゃべる家具や奴隷扱いだった有色人種をゆるやかに二等から一等半程度の市民として受け入れる時期に当たる。
その差別的な「区別」の是非はともかくとして、おもしろいことにこれらの差別が一番ゆるやかであったのは劣勢のソ連である。
彼らの主義主張のもとであれば「党」の中で出世し、ついには国家の指導者にも成り上がれるという点では彼らはこの世界の過激派であった。
次点で大英帝国。彼らは分割して統治せよの格言通り、徹底的に支配下地域を分割した。かつては民族を二つに割り、現在はそうして割られた民族の上下を割った。大英帝国を支える行政機構の従事者や社会への参加者とそれ以外とで。表向き武力を使わずに行われたこの政策は一部の例外を除いて大英帝国という巨大なシステムを1世紀かけて一体化させることに成功している。
 意外なことに、合衆国はこれらに比べると比較的遅れていた。その歴史的経緯から有色人種への公民権付与がなされたのはつい数年前であるし、未だに本国の一部地域では彼らはおおっぴらに町を歩くことができなかったのだ。
過激なソ連を除けば、「有色人種の知的水準は白人に劣る」という教育度を考えない統計結果が流布していたこともあり、こうした彼らの言う「区別」は正当化されていた。
そして、他人種はそれを受け入れざるを得なかった。
世界を分割する力となった科学技術が彼らをそう規定してしまったのである。この誤りは、遺伝子ゲノム解読や分子生物学的なアプローチが本格化する時期まで、そしてそれが還元されるまでただされることはないだろうし、実際なかった。

939 :ひゅうが:2014/12/30(火) 03:09:37

この三国は、互いに原子核分裂を用いた大威力弾頭を向け合った冷戦のさなかにあった。
この時代では迎撃困難である大洋間弾道ミサイルに搭載されたそれは、ボタン1つで敵国の首都はおろか、その全土を一方的に焼き尽くすことさえできる。
そうした性質から、三大国は相応の核戦力を維持し、それによって「もし全面戦争を行えば自国が全滅させられる」という均衡状態を作っていた。
まさに「冷たい戦争」。
そんな状況では、各地の国境や民族紛争などの小競り合いのほかは、様々な機会をとらえての競争こそが「戦争」となり得る。
とりわけ、弾道ミサイル技術に直結できる上に将来的なフロンティアでありもう分割する大地のない地球ではない他の天体への到達を目的とした「宇宙開発競争」は三大国が力を入れるにふさわしい「戦争」だった。

1969年から1974年にかけて米ソ英の順で到達に成功した月面、そして――太陽系第四惑星「水星」。
1980年に三大国が「水星」への有人飛行計画を相次いで発表したのはこうした歴史的・軍事的・政治的経緯があった。




―――JAPANという名の人類が存在する国家。そこへ到達することにより、市場を、そして友好国を得て冷戦における政治的立場を有利にする。
そうした思惑だけではなく、三大国は青く輝く4000万キロから1億8000万キロ彼方の地球型天体を「避難所」として使用することを考えていたという。
この当時蒼星上に配備されていた核兵器は、全土を2回は破壊し尽くす程度の異常な量だった。
先制攻撃への対処のためとはいえ、一つ間違えば人類絶滅を誘発しかねないこの状況は一部の人々に危機感を抱かせるには十分だったのだ。
幸い、水星の技術レベルは19世紀半ばから末期頃相当。
地球の極超短波を拾えたために電波技術は発達していたようだが、一惑星がひとつの国家であるのなら軍事力は著しく弱体だろう。

いざとなれば強硬姿勢もとれる。
そして築くのだ。核戦争後の祖国再建と人類再興の砦を。
そうした半分夢想の入った願望は、穏健なものでは「文明の記憶や文化の保存」、ある程度硬軟織り交ぜたものでは「水星内での王室を含めた亡命政府の設置(許可あるいは実力による執行を問わず)」、強硬なものでは「水星を同盟国として安全圏を確保し核戦争を有利に進める」といった構想まで千差万別にあらわれる。
こうした構想は軍の一部や危機管理機関の内部にとどまっていたもののその第一歩として、「有人水星飛行による交渉」が選択されるのもまた当然だった。
こうして、宇宙開発に対して軍と政治の両方がこれを支持し、財政当局もまた核戦争時の「安全装置」としてこれを支持した。

そう。政財軍官が一致したとき、できないことはあまりない。

80年代前半、驚くべき熱意で水星有人飛行が推進されたのは、こうした理由からだった。

940 :ひゅうが:2014/12/30(火) 03:10:15
―――【蛇足】



「なぜ生まれたときに我々の世界でいう火星有人飛行ができていたのか、知ったときが疑問に思ったが我々からしたら迷惑な話だよ、まったく。」

「コノミン…触手のペン入れってこんなに面倒だったんですね。というか読んだらドン引きしますよ地球のヒト。」

「何をいう。今はなき火星人触手モノの魅力をこの世界にもだな――」


どっとはらい。

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最終更新:2015年01月17日 16:49