19 :Monolith兵:2014/12/09(火) 07:45:19
火星
転移ネタSS「講義」
火星にやってきたアメリカ人とロシア人達は約1ヶ月の隔離期間を経て、用人との会談や火星各地への視察を繰り返していた。その合間、彼らは火星に関する詳しい情報を日本人達から学んでいた。
「火星に転移してから10地球年、約5火星年間にも及ぶ大飢饉で推定450万人以上もの餓死者を出し、その後30地球年で人口が半減した事は前回お話しました。
今回の講義では、火星の開拓についてお話します。」
米ソからやってきた客人達を前に、帝国大学教授の歴史学者が流暢な英語で講義の始まりを告げた。
「日本が転移したのは9月で、火星でも秋だったと言われています。火星暦では17月ですね。火星暦に慣れるのは時間がかかるでしょうが、一月28日で月の数が倍になったと覚えればいいでしょう。
それは兎も角、地球の倍近い冬により、最初の1火星年で約200万以上もの餓死者を出したため、当時の政府である徳川幕府は、早急に対策を取る必要に刈られました。
米本位制や租税の見直しや稲作から畑作への転換。特に関東以北では稲作が幕府の命令で禁止され、代わりに麦雑穀の他ジャガイモやサツマイモ等の栽培が行われるようになりました。関東以南では東北や北陸から仕入れた種籾を配り、何とか稲作が続けられました。
それでも低温と低日照、更には疫病の蔓延で21火星年にも渡る人口減少が続く事になります。」
そこまで言った教授は何か質問は無いかと尋ねた。すぐさまアメリカ人の1人が挙手した。
「米本位制と言うのは、日本独特の貨幣システムと聞きましたが、そんなにスムーズに貨幣システムの変更が行えたのですか?」
「そこまでスムーズと言う程ではなかった様です。
ですが、各地で諸藩の反乱や農民一揆が頻発していた事からも解りますが、当時の日本は生きるか死ぬかの瀬戸際でした。実際東北や北陸では一時的に戦国時代に逆戻りしていた時期もあります。
このような状況ですから、無理やりに米本位制を金本位制へと転換し、稲作から雑穀類や芋類への転作を半ば強制したような状況だったようです。勿論諸藩は幕府の政策転換に不満はあったものの、幕府は譜代大名らと協力し、軍事力でそれを押さえつけました。反乱や一揆も容赦なく鎮圧されました。
つまり、当時の幕府の政策は常に綱渡りだったのです。現在私達がこうしていられるのは奇跡と言っても過言ではないほどです。」
地球人達は改めて火星人達の辿ってきた厳しく苦しい歴史を知り、よくも今まで生き残れたものだと感心した。
「それはさておき、日本の農業生産力は地球にいた頃と比較にならないほど低下しました。それを補うためには海外へ進出するしかないと、当時の幕府要人達は考えたようです。
そうして、日本は海外へ進出する事になりましたが、当然犠牲は出ました。航海技術が高いオランダ人などを雇い入れ、各地の水軍から人を掻き集め大量の船を造ったものの、どこに陸地があるかすら解らない状況です。多くの犠牲が出ましたが、現在の瑞穂大陸を発見し入植を始めました。
ですが、ここからも苦難の連続でした。」
「何か危険な動物がいたのですか?」
「火星は地球の3分の1の重力です。それゆえに、私達のように生物は巨大化する傾向があります。
瑞穂大陸に上陸した者達が目にしたのは、これまで見た事が無いような巨木の森や巨大な虫や両生類の数々でした。
火星は何者かが惑星改造した後、彼らの母星の生物を持ち込んだようです。ですが、地球の哺乳類や爬虫類、鳥類に相当する生物は持ち込まれなかったようです。」
教授はそう言うと、室内の照明を落としスクリーンを広げてプロジェクターを動かし始めた。
20 :Monolith兵:2014/12/09(火) 07:47:35
「これはミズホオオゴキブリと呼ばれる虫ですが、地球産のゴキブリと比べて非常に大きく体長はは最大60cmにも達します。一応ゴキブリとは言っていますが、実際には地球のゴキブリとは何の関係もありません。姿かたちが似ている事からゴキブリと呼ばれていますし、他の火星生物に関しても同様です。
次の虫は、全長1mにも達するワラジムシ、ミズホダイオウワラジムシです。コイツはワラジムシとは言うものの、地球で言う甲虫類のように硬い殻で覆われています。
こういった虫の類は、初期の開拓において脅威となりました。ミズホオオゴキブリは食料を漁るどころか革製品や服までを食べる悪食で、しかも数が多い事から開拓者にとって常に悩みの種でした。
また、ミズホダイオウワラジムシは草食ですが、田畑を荒らしまわる害虫です。駆除しようにも、硬い殻で守られている為に生半可な攻撃では倒せません。
基本的に臆病で攻撃力も低いですが、槍や刀、銃などの武器を使わない限り致命傷を与える事は難しく、開拓地の農民は田畑の見回りをする際は常に武装していたそうです。
殺虫剤が開発されて以降、これらの被害は減りましたが、最近では薬剤耐性を持った虫も出現しつつあります。」
教授は続けて何種類もの虫や両生類を紹介して言ったが、どれもが地球では考えられないほど巨大であり、地球人達は口をあんぐり開けてそれを見ていた。
教授の講義は続き、火星の環境が如何に厳しいかが詳しく述べられていき、害虫駆除のために軍隊が幾度として出動したと言う話を聞いた時などは地球人達は声を上げて驚愕した。
「・・・とこのように、犠牲を払いながらも開拓地は大陸奥地へと進んで行きました。
また、火星への転移から10火星年も経つと、ようやく開拓地でも余裕が出来始め、生産された食料が日本へと運ばれていく様になりました。
しかし、ここで悲劇が起きます。そう、キノコ禍です。」
そこまで話した教授は、当時の開拓の様子を描いた絵をスクリーンに映した。
「先ほども行ったように、火星には哺乳類や鳥類、爬虫類は存在せず、脊椎動物と言えるのは魚類と両生類のみです。よって、人間が罹患する病気はかなり少ないはずです。当時の人々はそれを知らなかったでしょうが、これは幸運な事でした。
ですが、その幸運も長くは続きませんでした。火星暦(転移した年を元年とする)11年に地球で言うところのサバ高原にあった開拓村が全滅しました。
何らかの疫病だと考えられ、村は死者もろとも燃やされましたが、その時に開拓村から戻った者達は恐ろしい物を肺の中に宿していました。」
それごこれです。と言って教授はガラス瓶に密封された何かを取り出した。
「これはヒトヨリタケと呼ばれるキノコです。人食いキノコや悪魔茸という別称もあります。
このキノコの胞子は人間などの肺へ入り込み、そこで増殖します。致死率が高く、非常に危険な病気です。
このキノコが開拓村を全滅に追い込んだ犯人です。このキノコは開拓村から帰還した者達の肺に潜み、成長するに連れ患者は酷いせきやたんが出て、周囲に大量の胞子をばら撒き、最終的には死に至ります。
ヒトヨリタケは各地で猛威を振るい、日本本土へも入り込んできました。その結果、食糧不足が改善されつつあった日本は再び危機に直面します。
キノコ病に対する有効な手段が無かったため、罹患者は瞬く間に増え死者も比例しました。推定で200万近くが10火星年余りで死亡したと言われています。」
そして、教授は「現在も患者は出続けています。」と言ったものだから、地球人達は慌てふためいた。当時の人口の2割近くがキノコ病で死んだと聞かされて、彼らは欧州におけるペスト禍を思い浮かべたのだ。14世紀のペストの大流行では、人口の約3割が死亡したのだ。
しかも、それが現在でも罹患者を出し続けていると言うのだ。
「まあ、現在ではワクチンも存在しますし、発症しても治療薬は存在しますので安心してください。」
ニヤニヤと意地悪そうに笑う教授は安心するように言った。この時、アメリカ人とロシア人はこの教授の事が苦手になってしまっていた。
「おや、もう時間になりましたね。それでは今回の講義を終了します。」
教授はお辞儀をするとガラス瓶を手に持とうとした。が、そのては運悪くガラス瓶の表面を滑ってしまい、ビンは床に落ち粉々に砕け散ってしまった。
「あっ・・・。」
この後、部屋にいた全員が病院へと救急車で緊急搬送されたのは言うまでもない事である。
おわり
21 :Monolith兵:2014/12/09(火) 08:07:45
火星をテラフォーミングした誰かは、高等生物を火星へ持ってくる前に火星を放棄したために、哺乳類や爬虫類に鳥類に相当する生物が存在しないという設定です。
魚類や両生類までは地球と差異が小さいだろうし、虫(昆虫)は生物が生存可能な惑星では必ず存在するといわれているほどなので、地球の虫と大差は無いだろうと思います。
そして、重力が小さいから巨大化して開拓村を襲ってくるモンスターに。w
まあ、そこまで戦闘力は高くないし、防御力は高くても反射ですぐさま逃げるので農業では厄介だけど、生命的な脅威は(食料不足以外)無いです。
そして、キノコ病は人間版冬虫夏草と考えてください。火星の街中で激しいせきをする人を見かけたら要注意。
色々突っ込みどころあるだろうけど、これが私の精一杯なので勘弁してください。
私のSS呼んでも火星の脅威が解りづらかった人は、下記のアドレスへゴー!
↓キノコに滅ぼされた開拓村。
ttp://matome.naver.jp/odai/2139391133914472101/2139391181314753703
ついでに火星の農業事情について。
ttp://www.afpbb.com/articles/-/2411009?pid=3080753
ttp://wc2014.2ch.net/test/read.cgi/future/1284810924/
最終更新:2015年01月17日 16:51