209 :Monolith兵:2014/12/11(木) 16:09:34
火星
転移ネタSS「軍事」
地球の重力にようやく慣れた火星人達は、ようやく地球各地へと視察が出来るようになっていた。視察先は基本的に列強各国で、訪れた先々で彼らは盛大な歓待を受けたものの、やはり火星人達の容姿は地球人達の興味の対象だった。
成年男子の平均身長が243センチもあるものの体重が軽くひょろ長い体系をした火星人は、多くの地球人にとって奇妙に見えたものの、地球人では絶対に成し得ない体系に憧れる者も少なからずいた。
そんな中、1989年にアメリカ合衆国によるパナマ侵攻、翌年にイラクのクウェート侵攻、1991年には湾岸戦争が勃発した。
地球では毎年のように戦争が起きている事に火星人たちは恐怖すると共に、地球の軍事力を調査する絶好の機会だと考え、積極的に情報を集めていた。
「地球(
アメリカ)の軍事力レベルは確かに日本と同程度らしいな。」
「だが、奴らは容赦という物を知らない。10年前に起きたイランイラク戦争では、毒ガスまで使用されたんだぞ!いや、第2次世界大戦では核兵器まで投入された。地球人は余りにも軍事力に頼りすぎている!」
現在進行している湾岸戦争は誘導爆弾やミサイルを多用したため、ハイテク戦争とすら呼ばれていた。日本はこれらの技術を保有していたものの、当然ながら実戦に投入した事は無かった為、貴重な戦訓となっていた。
だが、地球の戦争は火星人の想像を超えて容赦が無かった。市街地に対する爆撃や油田などへの攻撃、更には中立国への攻撃や軍の移動などは、外交と戦争の経験が少ない日本人達にとって予想だにしない事であった。
何より、毒ガスや核兵器を人間相手に使う地球の戦争は火星人達には余りにショッキングだった。
火星では毒ガスは蟲退治に使う物だという認識だったし、核兵器は原子力技術の研究の過程で必要な物という程度の認識だった。
余談だが、火星では石油も石炭も天然ガスも算出しない。僅かに日本本土で化石燃料が算出するが、産出量が少ない上に製鉄やプラスチックの原料とする為に、火力発電に使うわけにはいかなかった。
その為、火星での発電は水力と原子力が主流で、二酸化炭素の排出が少ないため、地球の環境保護主義者達からは熱い視線を送られていた。
もっとも、地球温暖化問題は火星人からすれば何て贅沢な悩みなんだと思っていたりもしていた。とにかく二酸化炭素の排出源が少ないため、むしろ寒冷化の方が問題になっているほどなのだ。
210 :Monolith兵:2014/12/11(木) 16:10:23
「火星でも概念上はあったし訓練も行っていた。だが、人間相手にここまでやるとは・・・。」
「別に食料が不足している訳でも無いのに、ここまで非情になれるとは・・・。平和ボケしている本国の連中がこれを知れば卒倒するぞ。」
湾岸戦争は歴史上初めてTV中継された戦争であった。家庭で戦争の推移を目に出来た為、地球では多くの人に衝撃を与えていたが、火星人はそれ以上に衝撃を受けていた。
米ソ両国からTVや新聞などよりも詳しい情報を得ていたものの、初めて目にする実戦に、半数が軍人である火星からの訪問者達は動揺していた。
「地球の戦争を知るいい機会だが、まあ火星でこのような事は起きそうに無いだろうな。」
「誰と戦争するんだ?どっかの自治政府が独立戦争でも始めると言うのか?」
「そもそも地球の戦訓を火星で反映できるのか?」
殆どの火星人達にとって戦争観は、戦国時代や元和の大天変の動乱の頃で止まってしまっていた。各地の植民地が反旗を翻そうにも、火星の驚異的な自然やキノコ病に翻弄され、日本本国にも植民地にもそんな力は無かった。その結果、自治権を巡って小競り合いがあったりもしたが、この数百年にも渡って本格的な戦争の無い時代が続いていた。
勿論火星にも航空機や戦車、ミサイルに誘導爆弾などが存在したものの、訓練以外では使う予定が全く無い置物だというのが一般的な国民の見方だった。
そして、果して火星で地球の戦争の戦訓が生かせるかどうかも問題だった。実戦での使用があるかは兎も角、地球人達に火星の軍事力を見せ付けて、舐められるのを防ぎたいと軍上層部(+転生者)では考えてはいたが、日本軍最大の戦力は膨大な距離だったので、軍事力の整備は予算の無駄と談じる議員や官僚も少なく無かった。
「蟲相手にこんな重武装は必要ないからなぁ。」
日本軍にとっての敵は伝統的にも現実的にも火星の巨大昆虫だった。現代でも増えすぎた蟲が人里にやってきて荒らすのを撃退したり、蝗害を防ぐために間引きしたりと、蟲相手に出動する事もあった。
かつては疫病や食糧難から暴動が起き軍が出動した事もあったが、少なくとも20世紀に入って以降は人間相手に出動する事は無かった。
つまり、地球の軍事情報を収集しても活用出来ない可能性が高かったのだ。
「ま、まあ、本国に地球の現状を知ってもらうにはいい機会だろう。それにこの情報が何に役立つかまだ解らないわけだし。」
だからと言って、軍事関連の情報収集を怠る訳にも行かなかった。技術レベルが現在は地球に並んでいるものの、将来もそうだとは言いきれなかった。(最も技術開発が多少遅れたとしても国防上は何ら影響は出ないが。)
また、地球人の好戦性を前面に出せば、軍事予算が増加するのではないかと彼は考えていた。 予算獲得の口実を作った功績で、もっと昇進できるかもという願望が彼にはあった。
日本軍の戦力は、米ソの人口を足したよりも日本の人口は多いにも関わらず、アメリカ一国よりも少ないのだ。軍事予算増額の材料を提供した功績で、昇進するのも夢ではないと彼は思っていた。
そうして集められた情報は、火星へと送られた。送られてきた情報の数々は、火星政府や軍に地球人の好戦性の高さを更に印象付けると共に、将来へ備えて軍事・宇宙技術の開発の促進を決定させるに至った。
だが、膨大な技術開発予算の捻出のために正面戦力の削減が決定され、軍関係者を涙目にさせてしまうのだが、彼らには知る由も無かった。
おわり
最終更新:2015年01月17日 16:54