430 :ひゅうが:2015/02/06(金) 16:59:07
惑星日本ネタ―――「水星(火星)年代記のようなもの」 その14
――大日本帝国は、太陽系第四惑星をその本土とし、月ことその衛星イザナミ、小惑星帯の3つの準惑星と木星圏、そして探査が進みつつあった土星圏を領土化しつつある国家である。
国旗をたてている場所だけでいえば、すでに太陽系の大半を網羅している。
だからこそ、大日本帝国はほぼ全面開示ともいえるだけのある意味慇懃無礼をもって地球からの賓客を遇していたのである。
「軌道エレベーターをもって地上への降下を行われたい」
この要請は、隔離区画という名の月面都市の一角にやってきた新編された外務省からなされた。
このとき、月面都市のうち最古参である「吉野」の人口は30万以上。
迎賓館扱いとなった区画だけでその5パーセントというのだから豪勢である。
吉野の市長として楽隠居していた田中角栄市長自らの出迎えを受けた乗組員たちの映像を知る者も多いだろう。
その中にいる人物の中で、いわゆる生物学的な意味での人類が非常に限られていたことを知る者は逆に少ない。
この時点では日本人たちは蒼星上で生まれた病原体を恐れていたためであるが、ある意味では人類という存在が生物学的に大きな変質を遂げる直前の時代を象徴するような光景であったといえるかもしれない。
「諸君。私は日本側の提案を受けようと思う。」
月面都市の海――地下のかつてのマグマだまりである空洞を利用しクレーターに硬化テクタイトでサンドイッチされた循環水(太陽光での温度上昇と夜の部との温度差を利用して発電を行い、かつ熱循環をたすけている)層――の「上」に輝く水星を見上げながらオルドリン船長はそういった。
持込みを許可されている通信機と月のL5に係留されている母船を通じて連絡をとったヒューストンでも同意が示されていた。
正使としての役割を与えられた特命全権、トーマス・フォーリー特命全権もこれを了承。
検疫期間中も、彼らを接遇していた日本側担当者に対して希望を伝える。
「大日本帝国へと届ける予定であった物品類については当初の予定通りに大気圏降下を実施。しかし人員については視察をかねて軌道エレベーターを使用させていただければありがたい。」
これに対し、日本側は、降下船と水星軌道脱出船を日本側の軌道間輸送機内に収容して安全に降下させることも可能と回答したのだが、これは
アメリカ側が固辞した。
宇宙船をここまで持ってきたからには、それを使わないという選択肢は彼らに許されていないという世知辛い理由がそこにはあった。
そのかわり、降下にあたっては宇宙軍から先導機がつけられることになり、その飛行ルートを見てアメリカ側が絶句するという副産物もあったのだが。
「大気圏突入後すぐに宇宙へ戻れるのか…」
「驚いたら負けです。そう思いましょう。」
この頃になると、蒼星のNASA管制室にはアメリカ空軍の将帥やスカンク・ワークスの技術屋どもが集結して目を皿にしていたのだが、それは考えないことにした。
431 :ひゅうが:2015/02/06(金) 16:59:42
月面での検疫期間は、彼らにとって情報収集の期間となった。
誰だって何日も閉じ込められては気が滅入る。
そのため、日本側の担当者として彼らつきになっていた倉崎という名前の人物が薄層モニター端末を彼らに情報端末として譲渡したのだ。
金属質の裏面に「SONY」というマークの入ったこの端末は、驚くべきことにコンピューターだった。
しかも、カラー液晶らしきもので映像や音楽を楽しむこともでき、また図書館のように情報検索もできた。
ただしイヤホンや充電器は有線式だった。
宇宙空間の無重力状況で使用するのであればこちらの方が小物がどこかへいってしまう心配がないためだったが、それがオルドリン船長たちには逆に不自然に思えたという。
「ええ~と、ハイスクール向けの映像で恐縮なのですが、とりあえずはこんな感じのものをご覧になられた方が面倒が少ないでしょうな。」
暇に飽かせて蒼星から送られてきた質問集の内容をぶつけるアメリカ側の学者や外交団たちに困惑したらしい日本側担当者はそういってから、各自の端末にファイルを転送。
いわゆる社会科や日本史の授業で使われる映像教材集を、隔離室内の投影機でも上映できるようにした。
あとで考えれば当然なのだが、質問をいくつも浴びせられる側としてはおそらくこう言いたかったのだろう。
「繰々れ(ググれ)」と。
なお、このファイルは、数秒を待たずに蒼星規格へとエンコードされたあとであきれるほど遅い惑星間回線を通じて送られていたが、いくら圧縮しても数十時間がかかったことを付け加えておく。
――「みなさんこんにちは。高等学校日本史甲の時間です。この日本という国がどのようにして今のようなかたちになったのかをお勉強していきましょう!」
にっこり笑う女性のオリエンタルスマイルとともに、「地球」人たちが知らない極東の歴史が語られ始めた。
最終更新:2015年02月06日 23:31