二人が初めて対戦しているのを妨害するために、元グループアイドルの少女が爆弾(性能低)を設置、交代で壇上上がったルーデルが、舞台から降りようとする舞をかばって負傷、ルーデルの怪我の状態を知った舞は「勝負が出来ない」と知り落ち込んでしまう。
自分に対抗できる逸材に興奮していたのに、こんなことでアイドルをやめることになる(普通顔に怪我したやめると思う)ライバルを思い、自分もやめようとする・・・が、ルーデルの復活ゲリラライブ(インターネットの動画アップサイト生中継)をみて元気がわく、そしてルーデルから「待っていろ。戦友!!」という励ましに頑張る。
の、SSなのですが・・・>>64様の世界観だと、事故にあってから日高舞とぶつかり合っているのですよね・・・
248-249様も>>64様の設定使ってるし、ちょこっと訂正した方がいいのか?とも思いましたが、独自路線で行くことにします。
でも設定はいろいろ有用そうなので、使っていきます。無断使用にならないよね?
あ、作者はアイマスをよく知らんです。その辺宜しくお願いします。
四〇艦隊の人様
支援SS 憂鬱×アイドルマスター×ストパン?
女装アイドル(本人全否定)秋月涼は、ハンナ・U・ルーデルが所属するプロダクションに、一カ月のレンタル移籍している。
当初はハンナの(女性であるにもか関わらず)男らしい、ワイルドな印象に惹かれての事だった。
しかし・・・最大の誤算は、彼女がワーカーホリックの権化のような人物、であった事だろう。
今日も今日とて疲れ切った涼は、TV局のベンチに座り込んで、ぐったりしていた。
「ぅぁ・・・」
声を出すも、疲れて出てこない。
疲れさせた張本人は既にこの場にはいない。次の仕事の為に動いているからだ。
どこにそんな体力があるのか問い詰めてみたいが、「しらん。いつもこんな感じだ。」と言う回答が容易に想像できるので、絶対聞かない。
聞いたら聞いたで「情けない、もっと鍛えてやる!」とまで言いそうだからだ。
なので今は体力回復に努めた方がいい。
「お疲れ様。」
「あ・・・どうもです。」
ぐてぇ~っとしていたら、いつの間にか横にプロデューサーが立っていた。
彼はハンナをプロデュース・・・ではなく、調整・抑え役として雇われているような人物だった。
しかし有能であるのは間違いなく、ハンナが急に入れるゲリラライブをしっかりセッティングできるのだから、その能力は凄まじい。
最も、スケジュールの移動時間を休憩時間を割り当てたりしているので、ハンナは気付かない内に必要な休息を得ているのだが、本人は全く気が付いていない。
涼としてはとてもありがたい事だ。
彼から渡されたスポーツドリンクをコクコク飲み、ほっと一息つく。
「どうだい。慣れたかな?」
「・・・慣れる以前に死にそうです。」
目が死んでいる。
その目に見覚えがあるので苦笑しかない。
「自分も前まではそう思っていたよ。でも、彼女の情熱は本物だし。やりがいもある。」
「そうですか?何と言うか・・・暴走気味じゃ?」
「そうだね。」
あっさり同意してしまった。
「でもねぇ・・・彼女が目標としている人物を思えば、これぐらいしないといけないとも思うよ。」
「目標・・・伝説に挑むからですか?」
この業界での伝説と言えば、一人しかいない。
【日高舞】
急にあらわれた革新的アイドル。
強烈な個性とカリスマで、瞬く間に世間を席巻し、他のアイドルグループからファンを奪い取った怪物。
妨害にもめげず、寧ろ妨害を利用すらした異才。
彼女の前に的は無く、追いすがる者もいない。
そうともまで言われている存在・・・
だが、それに挑んだ人物が一人だけいた。
それこそハンナ・U・ルーデルだ。
「そう言えば・・・ハンナさんは、どうやってスカウトしたんですか?」
「スカウト?してないよ。」
「え?」
目を見開いて驚く。
そりゃそうだ。スカウトでないとなると、自分から売り込みに来たという事だ。
驚いている涼を見て、プロデューサーは笑う。
「元々ウチは広告代理店だった。
小さかった会社は社長の陣頭指揮で大きくなっていって、今ではそれなりの大きさになっている。
いろんな商品、企業、民間の広告を幅広く扱う過程で、社長は【日高舞】を見て思ったらしい。
『彼女のような存在を自分の手で生み出してみたい』ってね。」
それは聞いたことがある。
インタビューに答え、その雑誌を少しだけ読んだことがあった。
「元々野心が高かったらしい。
彼女の前に何人かスカウトしてみたけど、デビューして売り上げが好調だったのは三人だけ。
正直、社長も気落ちしていたらしいよ。
『自分には人を見る目がないのか?』ってね。
そんな時だったよ。彼女がやってきたのは・・・」
『広告を見てきた。アイドルを募集しているらしいな。日高舞に勝ちたいので鍛えてくれ。』
だよ?そう言って笑う彼を見るが、その時からワイルド・・・と言うか、ちょっとずれていたのかと絶句する。
どうも理由としては歌を歌ってみたら受けが良かった。しかし、「日高舞には劣る」という発言に対抗心を燃やし。
アイドルになるため、片端から応募と突撃をしていたらしい。
だが大半は冗談だと思って消されたそうだ。
まぁ、それだけ【日高舞】と言うネームは凄まじいモノで、現実離れしていたのだろう。
だが社長は彼女に光を見出した。
あの怪物に対抗するには、個性が必要だ。
それもタダの個性ではなく、型破りで打っ飛ぶモノが、だ!
ハンナはその日からキツイレッスンを受け始めたらしい。
彼女は文句も言わず、泣く事もなく、弱音を吐かずに実行した。
そして初デビューは彼女の代名詞となるゲリラライブからだった。
当初はあまり受けがよろしくなかったらしい。
日高舞の偽物
レプリカ
マネだけのアイドル
散々な評価に社長は項垂れた・・・が、ハンナは違う。
寧ろそれは自分の歌が下手だからで、劣っているから。
そう評価し、更にレッスンに打ち込んだ。
そして評価は徐々に変わっていく。
ファンが付き始め。応援団が付く。
全滅傾向だったグループアイドルの減少を、更に加速させ、売り上げも好調に伸び始めた。
いつの間にか社長が引っ張るのではなく、彼女が引っ張っていた。
そして、とうとうある日・・・ハンナは日高舞に対して勝負を挑んだ。
―――
――――――
―――――――――
[ 伝説 日高舞 VS 追撃者 ハンナ・U・ルーデル ]
横断幕に書かれた文字を社頭はじっと見つめている。
場所は開けた埋立地。
未だ買い手がつかず、ただ広いだけの場所が、数日前からの足場組でかなりの賑わいをみせている。
自動販売機すらなかったというのに、今では五・六台並んで設置されているのは、鼻が利く企業ならでは。
屋台も立ち並んでいて、すでに並んでいる客、今来た客に対して売りさばくのに忙しい。
そんな光景を、仮事務所のプレハブ小屋から見下ろしていた。
「凄まじい熱気だ・・・これほどの熱気は感じた事が無いな。」
「でしょう。ひぃふぅ・・・」
社長は隣に並んだ重役を、かなり出ている部分を一度見てから彼を軽くに睨む。
「まったく・・・少しはやせたらどうかね?」
「いやぁ・・・日本食は美味しいのがいけないのですよ。」
「基本的な日本食はヘルシーだが?」
「にくとうふはおいしいですね!」
処置なし、内心で軽く頭を振るうと、再び外を見ながら問うた。
「彼女は?」
「準備万端、いつでも行けるようです・・・ふぅふぅ」
「そうか・・・」
社長は頷くと過去を振りかえる。
そして今を思う。
短い様で長かった。
伝説に挑むと言った当初は、社員から猛烈な引止めと反対があったものだ。
最初は小さな実績をコツコツと積み上げ、堅実に成績を上げていく。
だが・・・これといった人物が入ってこなかった。
今はハンナがいるが、その前に筆頭だった愛称ビス子では太刀打ちできないと判断していた。
ビス子も悪いアイドルではない。むしろいい方だと言える。
しかし、伝説の個性とカリスマには太刀打ちできるほどではなかった。
「さて・・・どうなるかな?」
これから始まる前代未聞、史上初めての戦いに思いをはせた。
―――――――――
「ふふ・・・」
日高舞は興奮していた。
それはそうだろう、何しろこの戦いは特別と言っていいモノだ。
デビュー当時は全てがライバルだった。
妨害有り、嫌がらせ有り、大変だった。
それでもめげずに奮闘し、ファンを増やしていっていた。
ライバル達を押しのけ、前に前に・・・ただひたすらに突き進んでいた。
ただ歌が好きだから、だからこそ負けたくない。
勝負するなら、アイドルならば歌でやれ!
そう言って実行し続けて・・・頂点にまで上り詰めて・・・静かになってしまった。
ふと振り返れば、ライバル達は姿を消していた。
自分が彼等を駆逐していた。
強烈なカリスマは、他のライバル達に圧倒的な差を見せつけ、叩き潰してしまっていた。
最初は「それでも誰かが横に並び立つ!」そう信じていた。
しかし・・・いつまでたっても、自分とタメを張れるレベルの実力者は現れなかった。
頂点に立ってしまったが故の孤独感・・・
何時も通りに振舞っていたが、その胸の虚空だけはどうしても埋まらない。
様々な事に挑戦してみるが、それでも・・・
だから彼女の事を知ったときは、期待感と不安があったものだ。
ハンナのデビューを見たのは偶然であったが、その歌唱力は舞を刺激するには十分だった。
コイツは絶対上にくる!!
そう確信した。
そしてそれは現実となる。
最初はまだまだと言う感じの歌が、だんだんレベルが向上していき、ついには!
『ハンナさんのファンですか。』
『ええ、でも前までは違いました。』
『そうなのですか?』
『もともと日高舞のファンだったんですけど、彼女のリズム感に惹かれて・・・』
自分からファンをもぎ取ってみせた!
こんなに嬉しい事は無く、悔しい事もない。
いや、悔しい思いは昔によくした。
久々の思い・・・
「あんたは・・・ライバルになれるかな?」
呟いて歩を進める。
そして目の前の“それ”に足をかけると、プロデューサーが駆け寄ってきた。
「舞、だいじょうぶか?」
「ん? 大丈夫よ。少し興奮しているけど・・・」
「そうか・・・」
ホッと溜息をつく彼を見て、小さく笑う。
「心配しちゃった?」
「ああ・・・彼女を見つけるまで、どこか無理をしているような・・・
隙間を必死に埋めているような気がしたからね」
どうやら彼には御見通しだったようだ。
流石に長年一緒にいるわけではない。
二人で笑いあうとスタッフが駆け寄ってきた。
どうやら時間らしい。
「それじゃ、気をつけて。」
「はん! 私はいつも全力全開よ!」
「だから僕が心配するのさ。」
苦笑する彼を尻目に、彼女は“それ”の真上に陣取る。
「さぁ・・・」
マイクにスイッチを入れ。呼応するかのように“それ”が機関部を始動させる。
「「スタートだ!!」」
日高舞とプロデューサーの声が重なって、“それ”は全速力で前に突進した。
僅かな距離を走り、目の前にかけられていた垂れ幕が一気に巻き上がって進路を開ける。
飛び出した先はライブ会場。
舞は振り落とされないよう仁王立ちで“それ”・・・日本陸軍の最新戦車の上で歌い始めた。
会場にいた観客は、いきなり突入してきた戦車に度肝を抜かれ、最初は悲鳴が上がっていた。
だが、その戦車の上に目的の人物がいるとわかると、一気に大歓声に変わる。
日高舞お得意のサプライズだ。
軍事ヲタクでもある何人かが最新戦車に感涙しているのを尻目に歌を歌い続ける。
戦車の轟音に負けない声量と、振動に崩れないリズムは驚嘆すべきものだ。
戦車は一本道を通ってそのままステージに乗りあがる。
豪快な乗り上げにファンは一瞬唖然としたが、舞は気にせずに歌い続けている。
寧ろサーフィンしているかのような楽しげな顔だ。
戦車はそのままアドリブでドリフトを敢行して、貸し出しでついてきていた軍の高官を卒倒させる。
戦車の砲が観客席に向き、その上を軽快に舞が歩いて、先端で軽く跳躍して降りる。
詩の半分を歌い切り、残り半分はステージで歌う。
その間、戦車は豪華な飾り物としてステージの上を占領。
陸の王者のドリフトにビビっていたバックダンサー達は、慌てて踊り始めるが完全に観客の視線は舞と戦車に分捕られている。哀れ。
歌が終わり、舞がマイクを高く上げる。
(どうよ! これに負けない事がアンタにできる!)
内心でどこからか見ているはずのハンナに対して挑発する。
爆破的な感性を心地よく聞いていると、妙な音が聞こえ始めた。
ゥゥゥゥ・・・・・・
何だろうと視線をだけを左右に動かしてみる。
しかし視界には何も映らない。
ゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・
音は観客の歓声を徐々に上回り始めていってる。
ようやく音に気が付いた観客の一部がざわめき始めた。
そして、ようやく音が上から響いている事に気が付き、舞は上空を煽り見る。
上空には一筋の光が・・・否、電飾等でデコレーションされた・・・
ウウウウウウゥゥゥゥゥ!!!!!!!
第二次大戦で動いていた艦上爆撃機が急降下してくる姿だった。
既に急降下爆撃の体勢をとっている機体は、まっしぐらに会場に突進してくる。
再び観客から悲鳴が上がった。
爆撃機はそんな声をダイブレーキで圧し潰しながら突進する。
その途中でくるりと反転してコクピットを開いた。
「まさか・・・」
舞が呻くのと同時にコクピットから、誰かが外に飛び出した。
機体はすぐに離れるように移動し、人影は尾翼にぶつからずにそのまま会場中央に向けて落下する。
機体は観客席の上で上昇に転じていったが、猛烈な風が襲ってきて悲鳴を広げる。
飛び出した人影はパラシュートを開いたが、高さが少しだけ足りない。
勢いを殺し切れず、そのまま叩きつけられるかと思った・・・が、人影は見事な五点着地を見せて降り立った。
風が一瞬、舞の後ろから吹いて会場を抜けていく。
その風によって人影の上に落ちるはずだったパラシュートが、後ろにゆっくりと落ちた。
人影はマイクを持つと、
「待たせたな。」
とだけ言った。
自分に負けず劣らずの登場に、さらなる興奮と冷や汗が垂れる。
そうだ、これだ!
何時からか自分は、間髪入れずに後輩に対して手を差し伸べる様になっていた。
そうじゃない。
自分が欲しかったのは共に肩を並べるライバルだ!
昔いたライバルが、今目の前にいる。
ミュージックが流れ始めた。
彼女のデビュー曲で十八番・・・〔ダイビング・ボンバー〕。
(最初から飛ばす気なのね!)
自然とマイクを握る手に脂汗が出てきて力がこもる。
目の前で歌うハンナは自然に歩いてくる。
まるで散歩しているかのようにゆっくりと、ごく自然に歩く。
しかしその歩みには力があり、迫力があり、意思の強さがあった。
ただ歩いているだけだというのに凄まじいプレッシャーが舞を襲っている。
最初は静かだった観客は、誰かが咆哮すると一気に全員が爆発するように叫んだ。
その歓声は自分の時と全く同じに聞こえる。
自分の歌いに酔いしれていた人々は、ハンナが掻っ攫っていた。
そして舞台に上がってくるのを見て自然と道を譲る。
舞の顔にはまだ余裕と、楽しそうな笑みが浮かんでいる。
対してハンナの顔にも余裕と笑みがある。
歌は舞台に上がってちょうど終った。
王者と挑戦者が向かい合うと、歓声が自然にやんだ。
ハンナがマイクを向ける。
「またせたかな?」
「いいえ。待っている間も楽しかったわ。」
「そうか、だが待たせたのは悪い事だ。」
「そうね。でも、良い女は待っていても男を立たせるものよ。」
「ふむ、努力しよう。」
二人の会話が静かになった会場に響く・・・
「「さぁ、勝負と行くか!!!」」
獰猛な笑みを浮かべて二人は宣言し、観客は沸いた。
―――――――――
24時間ライブ。
交互に歌い勝負をつける・・・と言っても、ぶっ続けで歌えるわけではない。
適度な休憩とケアが必要だ。
その為、今回はデビューして間もないアイドルや、お互いの事務所のアイドルも参戦している。
その一つ【ダイアモンド・スピード】の四人が控室で項垂れていた。
「はぁぁぁ・・・疲れたネ~」
「姐さん、はい紅茶・・・」
「あ、ハル姉ぇ・・・私にもちょうだ「自分で入れて」ヒェ~・・・」
「仕方ないわね。私がいれてあげるわ「キリ姉ぇまじ天使」後で要求するから」
「そ、そんな・・・ヒェェェ・・・」
アイスティーを四人で飲んで人心地つく。
「いやぁ、まさかだったよねぇ~」
噂好きのギターがアハハと笑って話を切り出した。
それに頷くのは帰国子女のボーカルだ。
「そうですネ~。私もびっくりデス!」
「デビュー間もない私達が、この舞台に出られるだけでも・・・」
メガネのドラムが頷いてしみじみと言うと、ベースの娘がお茶を再び入れなおして席に着いた。
「それにしても・・・二人の歌唱力凄くないですか?」
「ああ、それは私も思いましたネ~」
「私達より歌っているのに、衰えが見えないよねぇ・・・」
「日高舞さんはわかりますが、ハンナさんも人間じゃないです。」
四人は同じ思いで頷いた。
「そう言えば、いま【川内シスターズ】が出ているんだっけ?」
「うんそう・・・ぅて、お姉ぇ!それ私のお菓子!!」
「あ、ごめんネ~。美味しかったから」(テヘペロ
「ヒェェェ!!」
「ヒーちゃん、うるさいよ。あ、でもこれおいしい・・・」
「・・・三人とも、太りますよ。」
メガネをクィと上げていうと、石造の様に固まった。
そんなメンバーを見て溜息をつくと、お茶のお変わりを貰いに外に出ていく。
すると、ちょうどハンナ・U・ルーデルと同じ所属の愛称ビス子がいた。
「む、御苦労さま。」
「いえ・・・」
彼女も飲み物を貰い行く途中だったらしく、二人は並んで歩いていく。
周りではスタッフが忙しく走り回っていて、注意していかねばならない。
「キャッ!」
「あ、すみません!」
少しだけ余所見をしていたら、スタッフ女性とぶつかってしまった。
幸いどちらも倒れなかったが、スタッフは大きなカバンを抱えていてちょっとだけフラフラしている。
ずれたメガネを直しつつ謝ると、女性は急いでいるのか軽く会釈だけして行ってしまった。
「・・・忙しそうね。」
「どこも人手が足りないのさ。」
二人は去っていった女性を見送って再び歩きはじめる。
ただ立っているだけでも迷惑になってしまうからだ。
「それにしても中々疾走感のある歌を歌うわね。私にはまねできないわ。」
「そうでしょうか。私は貴方のよう堅実性が欲しいのですけど・・・」
「ドラムの貴方が言うか?」
「あら。あれでも堅実的にやっていますよ?」
「そうなのか? 結構自由にやっているように思える・・・」
「ボーカルが自由すぎて・・・」
「うちのハンナと同じか・・・」
同じ苦労を知る二人は苦笑するしかない。
飲み物を貰い、控室に戻った二人だがそのまま舞台袖に行く。
ステージでは【川内シスターズ】が歌っている。
「あの子達も大変だったわ・・・」
「ボーカルの子だけ注目されて、一時調子に乗って・・・」
「干されたけど、もう一度頑張りなおして今がある・・・」
「今じゃ中堅所「もうすぐ昇格するらしいわ」そうなの?」
ビス子が隣をみると、無駄にメガネをキラン♪とさせて答えた。
「ええ、これでも情報通ですので!」
「そ、そう・・・」
若干引け腰になり、「こいつ意外とやばい?」と思っていると、反対の舞台袖にぶつかったスタッフが立っていた。
ボーっとしていて【川内シスターズ】を見つめている。
もしかしてアイドル志望の子なのだろうか?
こちらの視線に気が付いたのか、ハッとしたのが見えた。
軽く手を振ると、慌ててお辞儀をして奥に引っ込んでいく。
手荷物を置いてだ。
その行動に不信感を抱いたビス子は、反対側に回ろうと踵を返す。
「あら、どうしました?」
丁度その時、舞台の真ん中に空いた穴から舞が飛び上がってきた。
そしてそのまま歌い始める。
「いや、あのスタッフが荷物を忘れたみたいだから、届けに。」
「そうですか、お供します。」
二人はいそいそと最短ルートで回り込み、おいていった手荷物を持った。
手荷物は見た目よりも重く、ずっしりしているが、鍛えているの問題ない。
すぐに近くのスタッフに女性の特徴を言うと、案内してもらえた。
そこは後ろのライトの所で、あまり人がいない場所だった。
案内のスタッフに声をかけられて、女性が振り向くと驚いた顔で二人を見る。
「え、えっと・・・なんでしょうか?」
「手荷物を忘れたようなので、それを届けに。」
「あ・・・すみません。有難うございます。」
「いや、それよりもジッと【川内シスターズ】を見ていたようだが、アイドル志望者なのかな?」
「・・・憧れていた・・・と言う感じです。」
「意気込みがあるならうちに来ないか?」
ビス子が誘ってみるが、女性は首を横に振った。
「才能がないと言われているので・・・」
「それは・・・」
ビス子がそれでも誘おとしたが、止められた。
止めた人物を見ると、少しずれたメガネを直して言う。
「無理に誘ってもいい結果は出ないでしょう。」
「・・・それもそうか・・・済まないな。」
「いえ・・・」
二人はそのまま女性に別れを告げて去った。
―――――――――
焦った。
ばれたのかと思った。
だが時間がない・・・
安心できる距離でやりたかったが、不審な行動はそう何度も出来ない。
アイドル二人が去るのを見計らい、大急ぎで舞台袖に向かう。
自分はアイドルだった。
グループアイドルの一員だった。
その時自分は輝いていた。
メインではなかったけれど、それでもTV出演はできた。
あの時、自分は輝いていたと言える。
だけど・・・あの怪物が出てきてからはだめだ。
私達は頑張った。
だけどあの歌にはかなわなかった。
グループが解散してしまい私は途方に暮れた。
思い切ってソロでやってみたけれど、評価は散々・・・
どうしてこうなった?
どうしてこうなったの?
あの時の輝きがなぜ失われた?
アイツが悪いんだ・・・
アイツさえ現れなければ・・・
―――――――――
舞台は最高潮に達していた。
いや、最高潮のまま推移している。
二人のアイドルによる対決は、観客を燃え上がらせ続けているのだ。
途中途中に休憩をはさんでいるのだが、熱気はとどまる所を知らない。
生放送の視聴率も過去最高値をたたき出している。
これほどの注目度は過去に類を見ないだろう。
誇れるものだ。
舞は思う。
アイツが来てくれて本当にありがたいと。
不完全燃焼のまま引退するかと思えたアイドル人生は、再び燃え上っている。
しかもこの間にもアイツは成長しているのだ。
恐るべきライバルだ。だが自分も成長している。
ライバルとしてあり続けるためにだ。
歌い終わり、ハンナに交代する。
「どうよ。」
「負けんさ。」
短い言葉を交わして、お互いの拳を軽くぶつけ合う。
舞台袖に下がっても控え室にはなかなか戻らない。
アイツの歌を、意思を、胸に刻みつけたいと思って・・・
ふと見ると、舞台袖に妙なものがあるのに気が付いた。
スタッフの忘れもの?
なんて無粋な。
後で持って行ってもらおうと思い、歩みを進め・・・荷物らしきモノの前まで来て、
「日高!」
急に、ハンナに呼び止められた。
振り返ると必死の形相の彼女がいる。
「な・・・」
なに、と言うおとしたが腕を掴まれて引っ張られた。
何が何だかわからない。
巻き込むように引っ張られて舞台から落下してしまう。
下には落下した時用のマットがあるから大丈夫だ。
だけどなぜ彼女がそんな行動をしたのかわからない。
混乱する舞の目の前で、ハンナは・・・光に包まれた。
同時に轟音が響き渡る。
「え?」
マットの上に落ちた舞は、轟音と閃光に混乱し切ってしまう。
何が起きた?
光って音が鳴って・・・煙が・・・え?
「ハンナァァァァァ!!」
舞はよやく理解した。
あの邪魔物は爆弾だったのだと、自分はハンナに助けられたのだと。
急いで起上り舞台に上がろうとする。
落ちた衝撃で体が痛いがそんなモノは無視だ。
観客が爆発に驚いて騒いでいるのを尻目に何とかよじ登る。
そして最悪な光景を見てしまった。
ライバルは舞台中央まで吹き飛ばされていた。
片足があらぬ方向に曲がり・・・顔から血が流れ出ている。
「ぁぁ・・・」
その状態を見て腰を抜かしたように座り込んでしまう。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
舞に絶望が襲いかかった。
―――――――――
犯人はすぐに捕まった。
不審な行動をしていた女性スタッフを、【ダイアモンド・スピード】【川内シスターズ】【バトルシップ“ビスマルク”】の面々が逃走の邪魔をし、捕縛したのだ。
犯人は廃れたアイドルグループの一人、逆恨みだった。
幸いハンナ・U・ルーデル容態は安定しており、命に別状はないらしい。
しかし、そんなことは舞にとっては別にどうでもいい。
問題は勝負がうやむやになった事。
そして・・・ハンナがアイドルをやめる事だ。
顔に負傷したアイドルが、その後も受け入れられるとは思えない。
どんなに苦労しようとも、傷と言うハンデは重すぎるのだ。
せっかくのライバルが、こんなつまらない事でいなくなってしまう。
どうせ狙うならば控室にいるときにしてくれればいいのに・・・
犯人は舞台から去るのと、この世から去るのを一緒にしたかったらしい。
憎たらしい演出だ。
目の前に犯人がいたら殺してしまいそうだ。
落ち込んだ舞の活動は、ハンナが現れる前よりも落ち込んだ。
番組出演依頼を蹴り、新しい歌も歌わない。
部屋に閉じこもったまま出てこないのだ。
あまりの重傷に会社も匙を投げるしかない。
「んむ・・・」
起上って洗面所に向かう。
洗面所にある鏡を見ると、不機嫌で不健康な顔があった。
「・・・」
アイドル失格の顔に苦笑する。
取りあえず顔を洗い、朝食をとろうとするが・・・何もなかった。
仕方がないのでプロデューサーに電話して、持ってきてもらおうとする。
手を受話器に伸ばしたところで電話が鳴った。
「もしもし・・・」
『おはよう。』
電話の先にいたのは頼もうとした人物だった。
「それだけ? なら、お願いしたい事があるんだけど?」
『お願いはきくけど、それよりもPCを開いてくれ。』
「ん? なんで??」
『いいから。インターネットの動画サイト・・・どこでもいいから開いてほしい。』
何だろうと思いつつも、言われるがままにノロノロとPCを起動させる。
そしてインターネットをつないで、取りあえず手短な場所を開く。
「開いたけど・・・」
『生放送の枠があるだろう。君にとって一番の清涼剤になるはずだ。』
「はぁ?」
そう言って電話は切れてしまった。
用事を言う前に切れたことに若干腹を立てたが、取りあえず生放送の所を開くとどこかの広場が写った。
―――――――――
「ふぅ・・・社長には迷惑を掛けるなぁ・・・」
「ふん、これくらいやらないとアイツに届かない。」
「それは同意するよ。というか身体、大丈夫なのかい?」
「誰に言っているんだ。ファンが待っているのに、寝ていられるか!」
「はは、キミらしい・・・さて、そろそろ時間だ。」
「ああ、いってくる!」
―――――――――
広場をただ映しているカメラが、急に小さなステージの方向を向いた。
訝しむと、そのステージに誰かが上がってきた。
「ぇ・・・」
それは最後に見ていた衣装を着込んでいた。
「うそ・・・」
その姿は全く変わっていなかった。
「ハンナ・・・アンタ!」
PCの画面枠をがっしり掴んで覗き込む。
画面内で、顔に横一文字の傷をつけたハンナ・U・ルーデルが立っていた。
有名人の突然の登場に、歩いていた通行人が足を止めていく。
『済まないが聞いて行ってくれ。私の歌をな!!』
そしてミュージックが流れ始め。
たった一人のコンサートが開始された。
画面にはすぐにコメントが流れていく。
―本物?
―本物だ!
―あ、傷がある。
―いたそ~
―良く出られるよな。
いろんなコメントが流れ始めて画面を瞬く間に覆っていく。
「ああもう、うざたい!」
コメントを消すモードにして一心不乱に見る。
画面内で歌い踊る姿は、あの爆発で負傷したのが嘘のようだ。
足を骨折したのに一週間で治したのだろうか?
いや、そんなことはどうでもいい。
「ハンナ・・・アンタ、諦めていなかったんだ。」
自分は勝手に思い込んでいた。
ハンナはアイドルをやめると・・・勝手に思い込んでいた。
だが、ライバルはそれをものともせずに出てきた。
むしろ傷がいい感じに見えてくる。
その姿を見て自分を思う。
なにしていたのだろう。
勝手に落ち込んで、勝手に塞ぎこんで・・・
失望されていないだろうか?呆れられていないだろうか?
不安が巻き起こる。
画面内では集まり始めた通行人と言う観客を前に、熱唱する彼女が映っている。
楽しそうに、生き生きと。
彼女はまるで変わっていない。
以前と同じだ。
そして歌い終わり。興奮している観客に対して少しだっけ答えると、視線をカメラの方に向けた。
「っ・・・!?」
視線が合ったような気がした。
カメラを指差してマイクに向かってハンナは言う。
『待っていろよ、戦友! もう一度勝負だ!!』
彼女はステージから去っていった。
画面を消して近くの椅子にどっかりと座る。
「まっていろよ・・・か・・・」
宣言された。ならばどうする?
「くくく・・・あはははははは!!」
大声で笑い、消した画面を睨み付ける。
「今度はこっちから吹っかけてやる!!!」
―――――――――
――――――
―――
「これが大体の顛末かな?」
「すごすぎます・・・」
とんでもない話を聞かされて、涼はただただ圧倒されるしかない。
「一応第二回戦も開催されたんだけど・・・」
「あ、知っています。引き分け・・・でしたよね。」
「うん、今じゃ毎年恒例行事だよ。」
デスマーチ確定行事だね、と笑うプロデューサーの顔は死んでいた。
ああ、この人も苦労しているんだ・・・と同情していると、急に肩を叩かれた。
「今年は君もやるんだ。」
「え?」
話が分からない。
「レンタル最終日、その日が行事に選ばれたんだ・・・渋谷凛も来るから、頑張ってくれ。」
そう言って彼は去っていく。
そ言葉を聞いていたが何処か信じられなかった。
当たり前だ、自分がそんな大それた戦闘に巻き込まれる?
今は渋谷凛と言う凄まじい人まで参加してやるのに自分も!!??
「ぎゃ・・・ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」
悲鳴が静かな通路に響き渡る。
彼n・・・失礼、彼女の悲鳴は誰にも届かなかった。
以上です。
書きたいもの書いたらえらい長くなった。
疲れたので投稿と同時に寝ます。
ああ、零編も書かないといけないのに・・・
最終更新:2015年02月12日 11:53