今回はネタ話のつもりで書いているので、現実的にはありえない様な描写がある可能性がありますが突っ込まないでくださいお願いします(土下座)
強くてニューゲームというネタの関係上、最強物になる可能性があります。
苦手な方はご注意ください。








太陽が今日も元気に照りつける暑い夏の日。
事務所の近くの電信柱に張り付いた蝉がやかましく鳴く昼下がり。
渋谷凛は彼女の所属事務所、CGプロのある雑居ビルの前で呆然としていた。

「…………なにこれ?」

事務所の前の道路には黒塗りで窓にスモークの張られた自動車が六台、そして見るからに堅気に見えない男たちが十数人屯していた。
凛は右を見て、左を見て、空を見上げた。
相変わらず空は抜けるような快晴で、辺りにはセミの鳴き声が響いている。
視線を下ろし、目の前に広がる景色が変わらないことを確認した凛は、大きなため息をついてもう一度呟いた。

「…………なにこれ?」



【ネタ】渋谷凛は平行世界で二週目に挑むようです【番外編その2】



屯している男達の集団をよく観察した凛は、この集団は三つのグループに分けられることに気がついた。
どれも黒のスーツを着こなして文字通り身動ぎもしないが、よく見ていると互いに互いを警戒している。
二つはあまり日に焼けていないが、残りの一つは日焼け、と言うよりは潮焼けしている。
どちらにせよ、見た目が暑苦しいことに変わりはないが。

「…………」

というよりもこの二、三ヶ月でずいぶんと妙な人脈の増えた凛にとって一つは見覚えのあるものだった。
そのことに気付いた凛は潮焼けした集団のほうから事務所に入ることにした。
通りすがりに潮焼けしている集団の一人に声をかける。

「任務ご苦労様」

声をかけられた男は反射的に踵を合わせて敬礼をかえそうとしたが直前に思いとどまり、目礼を返すのに留まった。
それを確認した凛はそのまま事務所に入っていった。
なんとなく覚えのある気配を凛は感じていた。

事務所は混沌とした空間と化していた。
現在事務所の休憩所、普段は暇人の溜り場と化しているスペースに居るのは七人。
もはや色々と諦めたような、むしろ悟りを開いたかのような表情で椅子に座っているみくに、紅茶を啜りながら何か書き物をしているアナスタシアと、その脇に控えるいつも通りのメイド服に身を包んだのあ。
事務所の異常、と言うか惨状をまったく気にかけずノートと教科書を前に何かをしている幸子。
長椅子に座って温泉のパンフレットを眺めて悦に入っている楓と、長椅子に寝転がり飴を舐めながら誰かが持ち込んだオカルト雑誌、「月刊アトランティス」を流し読みしている杏。
そして事務所の壁際にて直立不動で待機している黒服二人と、彼らのそばで背比べをしているきらりである。
正直杏までならまだこの事務所の通常の範囲内だ。
しかし、事務所の中にむさ苦しい黒服が二人も立っているのは異常事態である。
しかも片方は顔見知りだった。

「お久しぶりです。渋谷様」
「…………どうも。ていうかこんなとこで何してるんですか?新堂大尉?」
「任務です。とあるVIPがこちらを訪問すると言うので護衛を命じられました」
「新堂さんが護衛しているって事は…………ああ、あの人ですか…………と言うかあの人暇なんですか?仮にもこの国のトップでしょ?」
「…………何も言わないであげて下さい。ここ一ヶ月ほど睡眠時間の一日平均が三時間を切られておりますので」
「…………大変なんだね、あの人も」
「…………たまの憂さ晴らしに付き合わされる我々護衛官はまだマシです。閣下と同じ仕事量をこなさなければならない和久井君など最近何時見ても虚ろな目をしてまして…………」
「…………あーえーと…………その…………お疲れ様です」

この国を支える政治家とそれを支える人達の背負った悲哀にかける労いの言葉が、今の凛にはそれしか思い浮かばなかった。


応接室にいるのは六人。
コの字型に並んでいるソファーの縦棒のソファーには社長とちひろが座っており、社長は平然とお茶を啜っているが頬が若干引きつっていて、ちひろはいつもの笑顔を浮かべているが、よく見ると表情がまったく動いてない。
そしてコの字横棒二本の内一本に座るのは凛のよく知っている男達だった。

「東雲さんでしたか、下のもう一つは」
「やあ、凛くん。元気そうで何よりだ」
「どうも、お久しぶりです。渋谷凛さん」
「…………神崎首相、部下の皆さんに苦労かけるのは慎んだ方が良いのでは?」
「フム、善処はしましょう」

眉間に皺を寄せたこの国の統治の実務を担う政治家と、世界最強の空母戦闘群を指揮する男。
そして見知らぬ初老の男性と、

「…………何よ?」
「…………殴りこみ?」
「何でそうなるのよ!?」

凛のライバルの一人、先日の対決では凛が僅差で勝ち星を手にした765プロの看板ユニットのメンバー、水瀬伊織が座っていた。

まとめると次のような経緯らしい。
まず訪れたのは東雲海軍中将。
東雲は市ヶ谷の兵部省へと出向いたついでに、仕事の依頼を携えてCGプロを訪れた。
ちなみに彼が兵部省に赴いた理由はトラックに展開していた瑞鳳空母戦闘群の本土帰還に伴い、ローテーションでトラック泊地へと進出する海鳳空母戦闘群の航行計画の確認と、兵部省の最新の世界情勢分析を受け取りに行くためだ。
そしてCGプロに持ってきた仕事は今年十月に迫った信濃型航空母艦の弐番艦『加賀』の進水式と、それに被る形で行われる海軍兵学校文化祭への出演の依頼である。

その後水瀬伊織と彼女の父、水瀬大吾が来襲。
理由は、水瀬家には二人の息子と一人の娘が居るのだが、この次男に水瀬恭二郎という人物が居る。
一族始まって以来の天才児と呼ばれる一方かなりの…………いや、とんでもない変人だったらしく、帝国大学に在学中いきなり『家は継がん!!なぜなら(中略)で私はカリフォルニアに行くからだ!!』と一族郎党の集まる席にて、奇怪なポーズで謎の効果音を背負って言い放ち、飛び出して行ったっきり行方知らずになってしまった。
その噂の変人、水瀬恭二郎が最近帰国して、新興のアイドルプロダクション、シンデレラガールズプロダクションでプロデューサーをやっていると聞きつけた水瀬父と末娘の伊織は次男が逃走する隙を与えぬようCGプロを電撃訪問。
言うまでもなく先日CGプロに入社した某プロデューサーのことである。

その後神崎がやってきた。
「不肖の娘がアイドルになると言って家を飛び出して、東京にあるでアイドルになっている」とかなり年の離れた弟に泣きつかれた神崎は内心無視して一日休暇にしようかとも考えた。
しかし実の娘のように可愛がってきた姪の事なので、「たまの休みに姪の顔を見に行くのも悪くない」と考え直し秘書官に本日の予定を伝えた。
余談だがこの日の朝、仕事に出かけようとしたCGプロの某厨二病アイドルが謎の寒気を感じたらしい。


そしてこの三者がほぼ同時に、それこそ五分に満たない短時間で立て続けにやってきたのだ。
あんな空気にもなろう。
そしてあの異常事態でも慌てるどころか平常運転を維持し、そればかりか自分のペースに引きずり込もうとするあたり自分の同僚たちは大物である。

かくして、この小さな事務所に列強筆頭国の首相、世界最強海軍の事実上のナンバー5、日本7位の財閥の当主とその娘、そして今をときめくトップアイドル、『魔人シンデレラ』が一同に会するという異常事態が発生した。


その後何が起きたかは語るまい。
某厨二病アイドルが伯父の眼光に威圧されて涙目になったり、某総理大臣と某海軍提督が前世ぶりの頭痛に襲われたり、財閥当主とその次男が乱闘を繰り広げたり、『魔人シンデレラ』と『竜宮小町』による場外舌戦が行われたりしたが、些細なことである。

961プロ。
現在業界で最も影響力のあるアイドルプロダクションである。
その立派なビルの立派な社長室で、黒井崇男は報告書を睨み付けていた。
報告書の内容は前回と変わらず、そろそろ頭から“新人”の文字が取れそうな新人アイドル、渋谷凛に関するものである。
黒井は報告書を睨み付けながら先日のイベントの顛末を思い返していた。

先日の大規模イベントで961プロを含む挑戦者側は渋谷凛の前に敗北を喫したが、同時にある意味では勝利した。
点数の最終結果は233対226。
雪月花等の日程その他の都合で参加できなかったユニットもあるが、現状国内最高ランクのアイドル達を八組選抜してぶつけた結果としては大敗と言っていい。
特に主力と言える如月千早と竜宮小町の双方を破られた765プロは、今頃双方の担当が対応に苦慮している事だろう。
まあ、765に関してはあそこは全員がCランクオーバーという割とおかしい事務所なので、たいした打撃にはなっていないだろうが。
ともかく渋谷凛は自らの実力で業界最強を証明して見せた。
…………短期決戦においては。

黒井と彼のスタッフはこのイベントを組むにあたってCGプロと渋谷凛の実力を徹底的に分析した。
渋谷凛の強みは常識離れした才能と対応力、そしてカリスマである。
対する弱点は体力、持久力の低さ、そして事務所の規模だ。
ほぼ才能だけで、そこそこの才能を持ったアイドル達と彼ら彼女らの積み重ねた一、二年の経験の差を引っ繰り返してくる『魔人シンデレラ』も、単純な反復動作の積み重ねで得られる体力、持久力だけはどうしようもない。
事実彼女がランクアップに取得してきた点数の大半はほぼLIVEバトルで積み重ねたものであり、大規模イベントにはほとんど顔を出していない。
更に大規模な仕事が入れば前一日と後二日は完全に休息にまわして体力の温存を図っている。

『渋谷凛は同ランク、同年代のアイドル達と比べると体力が著しく低い』

この分析結果を基に黒井が打倒渋谷凛、打倒CGプロのために立てた策が先日の大規模合同イベント、『アイドルLIVEロワイヤル』である。
渋谷凛に勝てればそれで良し、仮に負けてもこれまでの結果から見れば最低三日、長ければ一週間渋谷凛を行動不能に追い込めるだろう。
渋谷凛さえいなければCGプロはCランク二人が主力の、ちょっと探せば割と見つかる小さなアイドルプロダクションだ。
961プロの規模なら同とでも料理できるだろう。
更にそれらとは別に最低限の目標として現在抱えているE、Fランクや候補生といった二軍、三軍級にも機会と経験を与えることができる。
まあ、まず有り得ないだろうが、彼ら彼女らの中から第二の渋谷凛が出てくる可能性も無い訳ではない。
修羅場に放り込まれれば化ける人間と言うのも居る事は居るのだ。
とにかく、このような思惑で黒井はこの大規模イベントを提案した。


策はほぼ計画通りに進んだ。
八組の選抜メンバーは渋谷凛に敗れたが、渋谷凛は想定どおり休息状態に入り、現在三日目である。
しかし黒井はCGプロの対応に疑問を抱いていた。
『アイドルLIVEロワイヤル』で渋谷凛とCGプロは四曲もの新曲投入を行った。
言ってみるなら渋谷凛とCGプロは戦略的な勝利を捨て、全力で戦術的勝利を取りに来たのだ。
それは黒井の常識、ひいては業界の定石から完全に逸脱した行為だったからだ。
「CGプロは最後の勝利と栄光ある敗北を選んだ」等と揶揄している者も居る。
しかし黒井はこの状況に不気味さを感じていた。
CGプロがこのような行動に打って出た理由は考えられる範囲で二つ。
一つは文字通り絶望的な反撃を仕掛けてきた、もう一つはこちらの読みに致命的な誤りがあった可能性だ。
例えばCGプロは現在渋谷凛に匹敵、最悪凌駕する特大級の原石を抱えている等…………。
言ってみるなら呂布が病で寝込んでいるという情報を得て敵の城を覗いてみたら、量産された呂布が闊歩していたような…………。
不気味な妄想に行き着いた黒井は頭を振ってそれを頭から追い出した。
渋谷凛が一時抜けた穴を塞ぐべくCGプロのCランク、島村卯月と本田未央、更にCランク昇格間近と見られている前川みくが奮闘しているが、それでも戦力差は歴然としている。
他社もCGプロに奪われたリソースの奪回に動き出しているため、徐々にCGプロは締め付けられつつある。
近いうちに何らかのアクションがあるだろう。
そう考えて黒井は他の仕事に戻った。
千人近い社員を抱える企業の社長である彼はいつまでも一つの事に関わっていられないのだ。


後日、黒井はこの日の妄想が正しかった事を嫌というほど味わう破目になる。




以上ここまで。
時間が空いてしまうと自分が何を書こうとしていたか等を思い出せなくて困ります。
次も何時になるかは分かりませんが舞っていてくださる方がいるならどうか気長にお待ちいただければと思います。

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最終更新:2015年02月13日 23:29