689 :名無しさん:2014/04/06(日) 01:11:29
第一一大隊は并州騎兵隊と共に自らの四倍近い黄巾賊を殲滅することに成功した。
しかし、第一一大隊の士官達には更なる大問題が待っていた。

「この世界は我々の歴史につながっていない?どういうことだ?」
「今まで得た情報からでも我々の知る歴史との差異が出ています。仮にこの世界が三国志演義の世界だったとしても、既に呂布が董卓の下にいるという時点で、我々の知る世界との乖離が起きています」
「しかしそれだけで断定するのは性急ではないか?史書も演義も所詮は人の書いたものだ。事実との乖離があってもおかしくは無い」
「…………曹操、袁紹、袁術、公孫賛、孫策、孫権……張遼、賈駆、呂布、董卓とあわせて最低でも十人の三国志時代の人物が女性として存在しているようです。これは帰還後の并州兵からも聞き出しました。おそらく事実と見てよいでしょう」
「………………」



【ネタ】北郷一刀君と一〇〇〇人と六〇〇頭の愉快な仲間たちは外史に放り込まれたようです【その六】



時刻はまもなく日が暮れようとしている時間。
幹部会議に出席していた人間の多くは頭痛や歯痛をこらえているような顔をしていた。
自分たちのアドバンテージの一つだと思っていた「未来」が、実はまったく当てにならないものかもしれないのだ。
混乱する士官たちの中でまず最初に荻窪中尉が口を開いた。

「まずこれだけは確認しておきたい。我々は祖国に帰れるのか?」

それに対して三島中尉は長い沈黙の後こう答えた。

「…………なんとも言えません。我々がどうしてこの世界に来たのかも不明な以上、我々が確実に帰れる方法は…………」
「…………なるほど」

再び天幕を沈黙が支配する。
この状況からでは建設的な意見が出ないと判断した北郷は会議を一時中断、明朝〇七〇〇に再開することにした。


会議を中断させた北郷は彼のもう一頭の相棒である馬の『夜風(よかぜ)』の元に向かった。
『夜風』は夜闇のように黒い毛を風になびかせながら足元の草を食んでいたが、北郷が声をかけて近寄ってくるのを見て顔を上げた。
『夜風』の近くに行くまで気がつかなかったが、夜風の影に人がいた。
薄紫の髪に袴、上には昼に北郷が貸してそのままになっていた帝国陸軍の四型迷彩服の上衣を着ている。

「張文遠殿ですか。何か御用ですか?」
「……!?…………北郷……殿か?」

690 :四〇艦隊の人:2014/04/06(日) 01:13:11
日が落ちた後、常日頃の習慣で武器の手入れを終わらせた霞は一人『天の御使い』軍の陣地内をふらついていた。
彼女と一緒に来た詠と并州騎兵隊の兵は、『天の御使い』軍の兵達に食事を振舞われている。
霞も誘われたのだが断った。
先ほどの戦闘の後で胃の内容物が無くなるまで吐いたためか、何か食べる気分にはなれなかった。
そうしてぶらつきながら、霞は先ほどの戦闘を思い返していた。

(ほとんどの死体は体の一部が消えていた)

彼女も人間を縦に両断することは出来なくは無い。
同僚の恋にいたっては、一振りで大の大人を十人単位で肉塊に変えることができる。
しかし黄巾賊の死体は、体の一部が消し飛ばされていた。
獣に喰いちぎられたのとはまた違う、すさまじい力でえぐり飛ばされたかの様な痕だった。
しかもそういった死体が見渡す限りに転がっていたのである。

(ウチにあれが出来るか?)

出来なくは無い。
ただし必要以上に力をかけるのは自分にも得物にも悪影響が出るからやりたくない。
しかし日本軍はそのようなことをやってのけた。
武器の違いと言ってしまうのは簡単だ。
しかし先ほどの戦闘で本隊にいた兵士の一人に聞くと、彼らの兵士になってからの平均は三年程、長くても八年を超えるものはいないとの答えが返ってきた。
霞は武人である。
物心ついたときから武を磨いてきた。

(ウチの今までは何やったんや?)

相手が恋ならまだ納得できる。
彼女の身体能力は人間を大きく突き放し、もはや怪物の領域だ。
しかし、相手はここ五年程度で兵士になった相手である。
だが彼女が十数年間を費やして磨いてきた武で出来ないことを、彼らは当然のようにやって見せた。
霞の自信は大きく揺らいでいた。


いつしか霞は日本軍の使用している馬止めの近くに来ていた。
そこでは日本軍の馬たちが思い思いに草を食んでいる。
ふと既視感を感じて霞は一頭の馬に目を向けた
昼に霞を乗せて帰ってきた日本軍の将の北郷の馬だ。
黒い巨馬は霞が近寄っていくと、ちらりと霞を眺め、何度かにおいをかいだ後、また草を食むのに戻った。
霞は恐る恐る巨馬を撫で始める。
黒馬が特に嫌がりもせずに受け入れているのを感じて、霞はもう少し黒馬の近くに寄ったそのときだった。

「張文遠殿ですか。何か御用ですか?」
「!?…………北郷……殿か?」

黒馬、『夜風』の首をなでていた霞は、馬体の影で北郷の接近に気がつくのが遅れた。
『夜風』は北郷と霞を同時に眺めながらのんびりと草を食み続けている。
北郷はそのままぼんやりと『夜風』を眺め始め、霞は気まずい気持ちのまま『夜風』をなでるのに戻った。

「…………な、なあ!」
「?」
「……昼間は……その……迷惑かけてもうた……ホンマにスマン」
「……ああ、お気になさらず。新兵はほぼ全員が通る道です」

恥ずかしさから小さくなっている霞だったが、不意に表情が引きつった。
手が辺りを彷徨い、何も掴む物が無いことに気がつくと顔が蒼褪め、体が震えだす。
同時に聞きなれた息遣いを感じた北郷は振り向いた。
北郷の後ろに虎がいた。

691 :四〇艦隊の人:2014/04/06(日) 01:15:13
『恋姫』はその日不機嫌だった。
あちらこちら連れ回されたかと思ったら、休む間もなく戦いに駆り出され、そして主人に構って貰おうと思えば、追っ払われた挙句また戦いに連れ出されたからである。
いつも変な四角くてやたらと硬い箱と一緒にいるヒトの雌達に思う存分かまわせたが、それでもまだ足りない。
夜になり、馬の肉をたらふく食って幾分機嫌を直した『恋姫』は主人にかまって貰おうとにおいをたどった。
よく主人と一緒にいる黒い馬のそばにいることを突き止めた『恋姫』は、そこで主人に自分をかまわせようと考え、主人の下に向かった。
果たして主人はそこにいたが、なんだか妙なおまけまでついていた。
やたらと肌の見える箇所の広い雌である。
なにやらおびえているようだが、それよりもこの雌からは主人のにおいがする。
近寄ってにおいを嗅いでみると、この雌のにおいに混じって主人のにおいがする。
それを確認すると、『恋姫』は黙って主人たちに背を向け、他の猫たちが集まっているところに向かった。
もはや『恋姫』にとって主にかまって貰えなかった事などどうでも良かった。
それより先に他の猫達に今見たことを広めるべし、だってその方が面白そうだから。
良くも悪くも彼女は人間では無かった。


一方剣牙虎の『恋姫』と違う視点を持つ人間の北郷は『恋姫』の行動に気を使っている余裕が無かった。
彼の目の前で張文遠は真っ青になって震えていた。
確かに虎に相対したときの反応としては正しいだろうが、先ほどの戦闘後の状態とあわせて見ると少々違った意味を持つ可能性が出てくる。

「張文遠殿」
「……な、何や?」
「恐ろしいですか?我々が」
「……ち、違う、違うんや!これは……」

口ではそう言っておきながらも体の震えはさらに大きくなっている。
それで北郷は確信した。
戦闘神経症(シェル・ショック)だ。


第一一大隊の軍医である橘真軍医中佐は疲れていた。
彼は医者と獣医両方の資格を持つ極めて有能な医者である。
彼はその日敵との戦闘で負傷した兵と捕虜になった敵兵の治療にあたっていた。
全員の治療を終えた彼は報告書を作成し、即席のコーヒーを淹れて休憩に入ろうとした。
しかし彼の休息には邪魔が入った。
北郷一刀剣虎兵大尉、現在の大隊の指揮官が昼間来た女の片割れを連れて入ってきたのである。
正直彼も驚いた。
大隊でも有数の堅物、今年で二七だと言うのに浮いた話の一つも無い北郷が今日会ったばかりの女を連れてやってきたのだ。

692 :四〇艦隊の人:2014/04/06(日) 01:16:06
「北郷大尉か、何のようだ?報告書は上げたはずだが?それとも何かね?そんな格好の女性との逢引を見せびらかしに来たのかね?それは良いご身分だな、さっさと自分の天幕にでも帰って長い時間でもすごしたらどうかね?私はこれでも忙しいんだ」
「橘先生、そんなこと言ってる場合ではありません、急患です」
「……ふーん?」

北郷に担ぎ込んできた女を椅子に座らせるように指示し、彼は患者に向き直った。

「で?」
「昼間、あれを見てしまいまして。見ていた限りでは嘔吐と貧血が見られました」
「ああ、ASDかなんかか。酒とか飲むほうかね?」

橘が可能な限りやさしく問いかけると女はコクリと頷いた。
彼女が肯定したのを確認すると橘は立ち上がり、救護車両の中の薬品用冷蔵庫から何か大きな茶色いビンを取り出した。
北郷はそれを見て頬を引きつらせる。
ラベルには『博麗』の文字。
日本酒の一升瓶である。

「……橘先生、なぜ医薬品用冷蔵庫から日本酒が出てくるのかお尋ねしてもよろしいですか?」
「酒の効能を無視して医薬品として認可しないお上が悪いのだ」

これ以上ない位のドヤ顔で屁理屈をこねる橘を見て、北郷は頭痛をこらえながらいろいろ諦めた様に溜息をついた。

「多少のつらいことなら酒飲んで寝てしまうのが一番良いものだ、とりあえず一杯」

そういって橘は霞にコップを渡した。
橘は一つ失敗を犯した。
霞がウワバミであることを知らなかった事である。
結果、橘はこっそりと溜め込んでいた日本酒二升を失った。


そして翌朝、北郷は二日酔いでもないのに頭を抱えることになる。

「……どういうつもりだ?荻窪中尉」
「具申したとおりです。第十一総軍の全力で以って并州州庁へ侵攻、并州を武力で以って制圧するべきと具申します」

第十一大隊の前途の見通しは未だ立たない。

693 :四〇艦隊の人:2014/04/06(日) 01:19:43
以上ここまで。
霞は実力があった分、北郷達第一一大隊の力により強い恐怖を感じました、ということでどうか一つ……。
今回も皆さんの反応が怖い……。

それにしても軍医=酒というイメージを最初に植えつけたのはいったい誰なんでしょうね?
松本零士でしょうか?

最終更新:2015年02月21日 16:57