ユフィルートしげちーSS 短編:ファーストキス

※ユフィルートしげちーSS本編より数年前の出来事です。



「今日も月が綺麗ですね」

五月下旬のある夜。カズシゲとソフィーはバルコニーに立ち、夜空を眺めていた。

「うん…そう、だね…」
「……?」

どこか上の空のカズシゲに、怪訝な顔をするソフィー。


「カズシゲさん?」
「…ねぇ、ソフィー」
「どうかしましたか?」
「なんでも今日は…キスの日なんだってさ」
「キスの日…ですか?」

首を傾げるソフィーに頷くカズシゲ。

「うん。日本の話だけどね」
「日本には本当にたくさんの記念日がありますよね…」
「そういうわけだから、その…えーっと、なんていうか…」
「…もしかして」
「その…僕もソフィーとキスしてみたいなって…」
「……」

恥ずかしそうなカズシゲの言葉に、さっと顔を赤くするソフィー。

「駄目かな…?」
「…駄目だなんてことは決して…ありません、けど…」
「…じゃあ、いいの?」
「…はい」

頬を酸漿(ほおずき)のように染めながら、ソフィーは恥ずかしげに頷いた。

カズシゲは小さく深呼吸すると、隣に立つソフィーと向かい合う。
一方、真っ赤な顔のまま目をギュッとつむり、ぷるぷると震えているソフィー。

(…ふふっ)

あまりにもガチガチになっているソフィーの様子に、カズシゲの緊張が緩む。

(まったく、本当に初心なんだから)

まあそんなところが好きなんだけどね、などと考えながら、カズシゲもゆっくりと目蓋を閉じる。

「んっ…」

ゆっくりと、二つの影が重なる。

10秒、20秒、30秒。
離れるタイミングが分からないのか、あるいは離れたくないのか。顔を寄せ合ったまま、動かないカズシゲとソフィー。
やがて息が続かなくなったのか、名残惜しげにゆっくりと唇が離れる。

「「……」」

気恥かしいのか、顔を赤くしながら互いに目を逸らし、もじもじする二人。

「……」

そんな中、ふとソフィーが顔を曇らせる。

「どうかした?」
「…いえ、何でもありません…」
「…今のキス、何か不味かったかな?どこか悪いところがあったのなら…」
「…いえ、カズシゲさんが悪いわけではありません。けれど…」

首を横に振ると、ソフィーは寂しそうな顔をする。

「その、キスの日でなければ…キスしていただけないのでしょうか…?」
「えっ…?」

予想外のソフィーの反応に、虚をつかれたような表情をして固まるカズシゲ。

「…申し訳ありません。我が儘を言ってしまって…」

それを困惑と取ったのか、ソフィーは恥じ入るような表情をして俯いてしまう。
そんなソフィーを、カズシゲは無言で抱き寄せる。

「きゃ…」
「…ごめんね」
「え?」
「謝るのは僕の方だよ。本当はキスの日なんてどうでもよかったんだ。僕はただ、ソフィーとキスしたかっただけで…でも言いだせなくて。キスの日ってのがあるって聞いて、それを口実にしてみただけなんだ。でもそれで変に誤解させちゃったみたいで…本当にごめん」
「そんな…私が勝手に誤解しただけですから…」

申し訳なさそうに言うカズシゲに、カズシゲは悪くない、と言うソフィー。

「…じゃあ、キスの日だからとかそんな理由がなくても、ソフィーにキスしても…いいかな?」
「…はい!」

カズシゲの言葉に、ソフィーは心から幸せそうな笑顔で答えた。

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最終更新:2015年05月24日 21:57