891 :yukikaze:2015/06/12(金) 22:47:16
どんどんいくよ。次はカンボジアネタ。

戦後夢幻会SS 『巨龍天に昇れず』


プノンペンにあるカンボジア平和維持軍の司令部は騒然とした雰囲気に包まれていた。
およそ彼らは大なり小なりコミュニストに対する嫌悪感(無知や限られた情報によって形成された偏見も大きかったが)を抱いていたのだが、現状は斜め上を通り越していた。
あるものは能面のような表情で報告書に視線を落とし、またある者は小声で呪詛の言葉を撒き散らしながら、硬く手を握りしめていた。
十人十色の表情を浮かべていた彼らであったが、しかし内面は完全に一つにまとまっていた。

『こんな外道どもに世界の覇権を握られれば世界の破滅だ』

442連隊戦闘団の殆ど独断専行で始まった、一つの収容所解放作戦によって明らかになった事実はそれだけの衝撃を持って迎えられたのだ。たった一人の人物を除いて。


「驚かれていないようですな。将軍」

アジア系の小柄な男が、目立たないように佇んでいる男に対して、控えめに声をかける。

「共産主義の悪しき側面はご理解していると思いますが? それに中華思想まで加わればどのような化学反応が起きても驚きませんよ」

そっけない言葉に男は内心苦笑を浮かべる。
共産主義云々についてはいささか言いたい所もあったが、中華思想については心の底から頷けた。
あの連中の傲慢としか言いようのない姿勢にはそれこそ有史以来悩まされてきたからだ。
共産主義者ではあったが、それ以上に愛国者である彼にとって、『中華』と名のつく連中は嫌悪感の対象でしかなかった。

「成程。大躍進に文化大革命。美名のもとに民衆を殺すのは彼らの十八番でしたな」
「挙句、手に負えなくなった道具を使い捨てするというのもです。まあ道具が愚かすぎるという事態を甘く見ていたようでもありますが」

全くだ。中南海はどうかはわからないが、クレムリンの住人達は、事実を知れば完全に卒倒するだろう。
自国民の大量虐殺もさることながら、その動機が『よこしまな思想を持つ存在など生きる価値はなく純粋な子供だけが生きる権利がある』など狂っているにも程がある。
しかもそれを手助けているのが、毛沢東の思想を狂信している紅衛兵なのだから、共産主義が今後どのようにみられるかを考えれば、まともな思考能力を持っている者ならば自明の理であった。
恐らくクレムリンの面子からすれば、許されるならばありとあらゆる核兵器をあの大陸に叩き込んで自分達は無関係であると叫びたいだろう。
勿論政治的にそのような事は出来る訳もないから、捏造だと言い張るか、あるいは中国を批判するかのどちらかであろうが、どちらであってもこちらには利益にはなる。
それにしてもあの女好きの赤い皇帝は何を考えているのやら。
あの中でもまともな存在であった周恩来や彭徳懐のような連中を、自らの手で粛清などしているのだから、明の朱元璋並みの猜疑心の持ち主なのだろうが。

892 :yukikaze:2015/06/12(金) 22:48:38
「これで我らの勝ちは確定しましたかな」
「最初から勝てる戦いですよ。元々地力が違います。選択肢でよほどの誤りを連続してしない限りは。
そう言った点で、今の大統領と司令官。そして閣下がいた事は大きかった」

そう言って、国連平和維持軍の顧問である林大将は、目の前にいる男に敬意の籠った視線で見つめる。

「いやはやこれは恥ずかしい。ペンダゴンで一目置かれる『カンリョーショーグン』に褒められるとは。
私の軍才も少しは見どころがあるようだ」
「何を言われる。今の世界において貴方ほどのゲリラ戦を熟知している将軍はいませんよ。少なくとも貴方の助言を侮る愚者はここにはいません。ヴォー・グエン・ザップ陸軍参謀総長閣下」


ヴォー・グエン・ザップ。
ベトナム独立戦争における英雄であり、赤いナポレオンの異名を持つ名将。
特にゲリラ戦においては生きる教科書と言っていい存在であり、だからこそ国防陸軍は、アメリカの内諾を得た上で、ベトナムとの交流の一環として、ザップを特別講師として幾度か講演してもらうなど関係を深めていた。
今回の派兵において、林がメークス司令官に『万難を排して招聘して欲しい』と言ったのも、この東南アジアの密林戦を知りうるものは、ザップ以上の者はいないと確信していたからに他ならなかった。

『ザップ将軍の智謀と経験は1個軍団に勝ります。何よりも彼は密林戦を誰よりも理解している。
陸軍大国のフランスが彼によって見るも無残な負け戦をしたことはご存じのはずでしょう』

反対する人間に対して行った林の説得に、誰も表面上は反対できなかった。
多くの人間は『陸軍大国フランス』という件で爆笑したかったのだが、曲がりなりにも彼らは同盟国である。『フランスが弱すぎただけだろ』などと言えないし、何より目の前の『カンリョーショーグン』に正面切って喧嘩を売る度胸ある者はいなかった。
演習で眉一つ動かさずに核戦争を行い、ステイツを滅ぼしてのけた男を怒らせて良いことなど万に一つもないからだ。
それに、ザップが失敗すれば、推薦した林にも責任を負わせ溜飲を下げられるのだ。

だが、彼らは1週間もたたないうちに、自分達の考えの甘さを突きつけられることになる。
まずザップは、平和維持軍が考案した作戦案が、失敗したフランス軍の二の舞になると発言した。
フランス軍が行い失敗した作戦とは、彼らがかつてアルジェリアで行ったヘリボーン作戦であった。
従来とは比べ物にならない速度で展開し、敵主力部隊を叩くというこの方式は、索敵不足と悪天候等により失敗に終わるのだが、そのコンセプトに関して平和維持軍は高く評価していた。
そして平和維持軍は、アメリカの豊富なヘリ戦力なら達成可能であるとしたのだが、ザップからすればそれでもなお甘いとしか言いようがなかった。
成程。確かにジャングルという機動困難な地を克服して、一定の装備を有する部隊を高速移動できるというのは魅力的ではある。その点はザップも十分に評価した。
しかしながら、ザップはヘリボーンによる1撃離脱戦というやり方は何の意味もないと一蹴していた。
そも歩兵の本義とは土地の獲得であり、そしてゲリラ戦で勝利する鉄則は、ゲリラに行動の自由を与えないことにあった。
極論ではあるが、仮に一人でもゲリラが残っていたら、その時点で掃討戦は失敗なのである。
たった一人のゲリラであっても、後方の破壊工作は十分に可能なのである。

次に林は、占領統治の甘さを指摘していた。
屯田兵的な意味合いのある『戦略村構想』を進めようとしていた行政官達に、戦略村が敵に寝返った場合、
敵に強固な拠点をプレゼントするだけだと一蹴してのけた。
そしてそれに反論する行政官達には、『戦略村構想による自衛手段の強化は、翻ってみればカンボジア政府の統治機能のなさを知らしめることになるのだが、それだけの政治的なマイナス条件への責任は取られるのでしょうな』という言葉に、何も言えなくなる事になる。

もっとも、ここまできれいに叩き潰した以上、彼らも対案を示さないといけない。
その点、彼らが立てた策は抜かりがなかった。

893 :yukikaze:2015/06/12(金) 22:49:25
大前提として、彼らはアメリカ軍が来た以上、こと正規戦において戦う限り負ける事はないと考えていた。
一時期の核兵器万能主義から脱したことにより、史実よりも早くバランスの取れた戦力編制に成功したアメリカ軍である。はっきり言って、正規軍の戦闘でがっぷり四つに戦った場合、世界中のいかなる国もアメリカ軍に勝てる可能性は低いと言ってよかった。
そうなった場合、ポル=ポト(というよりそれを支援する毛沢東)が採る戦略は二つ。
一つはゲリラ戦による敵後方の攪乱。そして消耗戦を取ることでの厭戦気分の増大である。
これはフランス軍やオーストラリア軍にも多用し、結果的に彼らを追い出しているのだから、彼らは自信を持って行ってくるであろう。

ではそれへの対抗策は何か?
簡単に言ってしまえば、正面戦線をアメリカ軍に任せる代わりに、後方の治安維持をカンボジア軍に任せるのである。
それなりの練度を誇るカンボジア軍であるが、装備の悪さと数の少なさが彼らの敗因となっていた。
ならば彼らの装備を更新すると共に、無理に師団クラスを増やすのではなく、中~小隊規模のパトロール部隊を頻繁に動かすことによって、ゲリラが動きにくいようにするのである。
無論、カンボジア軍だけでは足りないので、他国の軍(その筆頭は、数だけはそれなりだが、純軍事的には能力に疑問符がつけられるフィリピン軍)を使おうかとも考えたが、史実ベトナム戦争における余計な摩擦を記憶していた林が、トラブルが起きた時の面倒を嫌って廃案。
その代わりとして、アメリカ軍が大量に持ち込んできたヘリコプターを空中哨戒部隊として、組み込む事によって、数の問題に対応している。(ちなみにフィリピン軍は、比較的治安の良い地で、補給任務や後述するインフラ事業の手伝いを行うなど、この紛争においてドンパチとはほとんど無縁な状況であったが地域住民からは結構感謝されており、彼らが作った幹線道路は『マルコス道路』などと呼ばれることになる)

また、それに付随して、大量に持ち込まれたドルを利用して、政府統治下においての大々的なインフラ事業を立ち上げ、雇用と消費を促すことに全力を尽している。
ゲリラにとって大事なのは、彼らを受け入れる土壌があることであり、そしてゲリラ戦を熟知している林やザップにとっては、これ以上のゲリラの拡充を阻止するには、土壌そのものを潰すことが先決であった。
カンボジアの民衆にしても、真面目に働けば働くほど、彼らが想像もしなかったドルがきちんと彼らの手元に支払われ(中抜きがないよう、アメリカ軍が直接支払っていた)、更に働いている期間中ではあるが、工事場内に設置してある酒保から、格安で日用品が提供されるようにし、しかも、こうした日用品類などは、カンボジアの生産業者に発注していた事から、カンボジアの失業率は急激に下がり、それに呼応するように景気も上向きになり治安も向上。
カンボジアの役人や兵士達も、予算の着服や軍紀違反をすれば即座に解任され罪に問われる反面、真面目に仕事をしさえすれば、毎月ドルで給料の上乗せがあるのだから、腐敗することなど考えもせず、またたくまにカンボジア政府統治下において親アメリカの空気が高まることになる。

そうした上で彼らは初めて本格的にクメール・ルージュ征討に動くことになる。
戦線をメコン川流域を基準に設定した彼らは、半年間という準備期間を経て全戦線での攻勢を開始する。
もっとも、その動きは、アメリカ軍で主流となりつつあるエアランドバトル戦というよりは、どちらかと
いうと、ペタンやモンティが得意としていた、『多数の攻勢を起こすことでの敵司令部の飽和。また戦線を押し上げることによる敵運動戦の封じ込め』であり、一部からは『第一次大戦型の古臭い戦闘』と批判を受けていたが、林もザップも、そしてメークスも無視していた。
ここは歩兵の戦場なのだ。歩兵の戦場には歩兵の流儀があるのだ。
攻勢から一月後にはクラチエ州の全域とストゥントレン州の半分の完全制圧に成功。
現在はストゥントレン州の残りとラタナキリ州の北半分の解放へと歩を進めていたのだが・・・

894 :yukikaze:2015/06/12(金) 22:50:05
「これから先は少しばかりやりにくくなりますかな」
「ええ。『可哀想なカンボジアの人達を早く救え』という大合唱が沸き起こるでしょう。できるならもう少し早く言ってほしかった位ですが。そして無茶なペースでの進軍要求も」

林は軽く嘆息した。
民主主義体制下の軍人であるが故に、政治の決定に従わなければならないのは十分理解できるがだからと言って、有権者の人気を得る為に無茶を現場に押し付けられても困るのだ。
仮に無茶を押し付けるというのならば、それが達成できるための努力を政治サイドも努力しないといけないのだが、どうも彼らは現場には魔法の壺があると思い込んでいるのだ。

「タイ政府は良い顔をせんでしょうが、ベトナム軍の大規模派兵を考えなければならないですかな」
「ラオスの一件もありますからな。最終的にはあの地もこちら側に引き込まなければなりませんし。」

考えれば考えるほど頭の痛い問題であった。
メークス中将や林達が頭を悩ませていたのが、使える兵力が限定されているという事であった。
そもそもカンボジアに平和維持軍を展開させる事にアメリカ国内は消極的であった。
ここら辺はフランスやオーストラリアがポカをしてしまった影響もあるのだが、それ以上に重要なのが、東南アジアというアメリカにとってほとんどなじみがない地に対して、アメリカ国民が全く興味を持っていないことが大きかった。
無論、軍や国務省、議会上層部は、カンボジアの陥落は東南アジアの赤化に繋がりかねないとして平和維持軍の派遣を是と考えていたのだが、知識人階層を中心にこの頃沸き起こっていた毛沢東ブームや、議会や国務省一派の中にあった『ヨーロッパ第一主義』の影響から、本来求められていた1個軍6個師団はものの見事に削られてしまい、陸軍が2個師団(最終的にはこれに第101空中強襲師団や2~3個旅団加わることになる)及び組織存続に執念を燃やす海兵隊から2個師団のみ。
同盟国はというと、日本陸軍は極東の要であることから大規模に動かすことができずに1個旅団。
フィリピンは1個師団だが、前述したように戦闘面で期待は出来ず、タイとベトナムは戦力こそ期待できたが、歴史的問題から後々揉め事になりそうなので基地提供が主。
オーストラリアは痛い目を見たことから追加派兵などもってのほかであり、インドネシア軍はと言えば頼めば2個師団位は派兵してくれるかもしれないが、オーストラリアが過剰反応しかねない。
韓国? 揉め事増やすだけで何の役に立つと?
インド? パキスタンとドンパチしてんじゃねーよ、大概にしろよマジで。

だからこそ、メークス達は「動きが遅い」などと酷評されながらも、まずは後方の土台作りに勤しんでいたのだ。使える兵力がアメリカの5個師団と日米の4個旅団なのだから、無駄にできる兵力などどこにもないのだ。
だが、現状ではその兵力で何とかしないといけなくなる可能性が高いのだ。
今回の一件でアメリカからの更なる派兵は認められるだろうが、彼らが来るまでの時間を、アメリカの議会や市民が許してくれるかというと、難しい所ではあった。

「ここまでくるとメークス中将の裁量を超えますな」
「ベトナムに関しては私が抑えましょう。少なくとも国境沿いに展開していれば、ある程度の威圧にはなる筈です。もっとも、ポル・ポトや紅衛兵達の思考パターンからすれば、彼らの採る手段は一つな訳ですが」

そう言って、ザップは地図の一点を見る。

「シェムパン。彼らはここを目指すでしょう。ここが彼らの手に保持されていれば、まだ戦力はラオスに撤退できますが、ここを抑えられた場合・・・」
「ラタナキリ州からの撤退しかなく、あの山脈地帯を装備を持って超えるのは厳しいと」

その軍事的な妥当性に林も頷いた。
確かにラオスとの国境付近の街道を抑えているこの街を保持していれば、戦力単位で逃げ帰ることは可能である。
いや・・・あいつらは毛沢東を狂信している面子だ。
奴の大長征を真似て、敢えて山岳ルートで逃げるかもしれないな。
そういえば、うちのテロリストグループも同じようなことした挙句自滅した訳だが。
あるいは隣の男はそこまで判断しているのかもしれんな。
こちらの使える兵力が限定的である以上、自然の地の利を利用して敵を殲滅すると。
もっと言えば、大長征と違って、空からの猛爆撃もあれば、碌な補給拠点もない訳だから、飢えにも苦しむわけだ。史実のインパールのように『白骨街道』などと言われるかもしれんな。

無論、そうであっても、林は同情する気にはなれなかった。
連中がこの地でやらかした事は、彼らが如何なる目にあったとしても同情されない程、外道としか言えない代物であるからだ。

895 :yukikaze:2015/06/12(金) 22:50:50
「まずはこの線で話を纏めるしかないですかな」
「ラオスについてはタイルートで話をつけてもらいましょう。ラオス政府にしても、共産中国の進軍を黙認した以上、主要面子を捕縛することで誠意を見せてもらわなければ」

勿論、そのような事をした場合、ラオスは完全に共産中国の怒りを買ってしまう訳だが、史実では『アジアのバッテリー』としての役割を果たされる国である。
そんな戦略的に重要な国を、共産中国に牛耳られるなど願い下げであった。
まあラオス自身、『全世界の敵』認定などされたくもないだろうから、大規模な経済援助とアセアン加盟を餌にすれば全力で飛びつくであろうし、タイの面子もたつであろう。
ここら辺は、国務省から派遣されてきた面子に根回しをしておくことにしよう。
あのユダヤ系ドイツ人がしつこく言っていた『現実外交』とやらが完全破綻することが確定した以上、失点回復の機会は逃さないであろうし。
それにしても、国務省は、中華シンパがやっとおとなしくなったと思ったら、今度はあの手の手合いが出てくるあたり、本当に頭が痛いというか。
今はまだ声だけはデカい少数派だからいいにしても、あれが多数派になったらと思うとどれだけ振り回されることか。
現実外交? あれはどう考えても短期的視野から見た行き当たりばったり外交じゃないか。
史実でもあれのお蔭で極東情勢が散々に振り回されてしまった訳だが。
やはり、極東が軽くみられるからこそ客観的な情報の蓄積やそれを活かせる人材が少ないのか。
我が国にとっては情報面で優位に立てるが、情報意識の共有が出来ていないととんでもないことになりかねん。
今回は知日派のケネディ兄弟だったからよかったが、そうでなければどうなっていたか・・・

「林将軍?」
「失礼。少し考え事をしていました」

心配そうにこちらを覗き込むザップに、林は陳謝する。
少しばかり自分の世界に入り込んでいたようだ。

「そろそろ記者会見が始まる時間ですな」
「メークス閣下には存分に動いていただきましょう。未だに彼らに幻想を抱いている人間に己の無知と非常識を弁えさせるために」

この30分後。
全世界に向けて、メークスが怒りに満ちた声で糾弾した『クメール・ルージュによるジェノサイド』は、林やザップが予想したとおりの展開になっていく。
内容のあまりの凄まじさに懐疑的な質問をしたNYTの記者に、『これが捏造であったらどれだけよかったか』というメークスの発言は、誰の目から見ても正直な感情であった分、特にアメリカ市民には深い共感を抱かせることに成功し、更に収容所の公開や、救出した一般市民及び捕虜に対するインタビューなどで、当初、懐疑的な見方をしていた者や捏造論を唱えていた者ですら、事実と認めざるを得ない状況になっていた。
特に決定的であったのが、クレムリンが公式にカンボジアの一件を認め、カンボジア共産党や共産中国への批判を浴びせた事であろう。
一説によると枢機卿ルートからの情報によるものともされるが、中満問題で対立が明らかになっていたソ連にとって、共産中国の現政権を叩いて、親ソ政権を作った方がマシであったという判断があったのだが、これにより中国とクメール・ルージュは政治的に完全に敗北することになる。
当事者であるクメール・ルージュには反論する術はなく、事態の悪化にようやく気付いて焦った共産中国は遅まきながらに「我々は知らなかった。知っていれば手など貸さなかった」と言い訳を始めるのだが、収容所での虐殺に紅衛兵が絡んでいていたことが突きつけられたことでもはや如何なる弁明も認められることはなかった。
中共にできたのは、シェムパンでの決戦で包囲殲滅を食らい、半死半生の思いでラタナキリ州からラオスを経て逃げ延びた極わずかの紅衛兵達を「共産主義に泥を塗った愚か者」として党籍剥奪の上、公開処刑するという八つ当たりじみた事と、今回の一件を主導した毛沢東を『長期入院』にする事だけであった。

もっとも、今回の敗北は、共産中国がアジアの大国になれる可能性を消滅させるものでもあった。
一連の行動により『共産中国=最悪の独裁国家』というイメージが形作られ、彼らと手を組んだ瞬間政治的な悪名を浴びるという巨大なリスクを負うことになったからである。
そうした点で、彼らは雲に爪をかけることに失敗したのである。
21世紀になって尚、彼らは『アジアの超大国』ではなく『史上最悪の軍事独裁国家』『悪の帝国』『世界の癌』と呼ばれるように、火種の元として生きることになる。
最終更新:2017年10月01日 11:30