113 :Monolith兵:2015/06/24(水) 03:29:07

ネタSS「スパゲッティ・ウィズ・ミートボール」 その3


 1942年8月16日から始まった日本とアメリカとの間の戦争、太平洋戦争はそれまでの下馬評を覆すかのごとく、アメリカの一方的な劣勢の中続いていた。
 日本とアメリカの間には、非常に大きな国力と工業力の差があったため、海戦前は誰もがアメリカの優勢を信じて疑わなかった。開戦当初はともかくとして、最終的には物量でアメリカが押し切るだろうと考えていたのだ。
 だが、実際にはそれは覆された。ら・パルマ島のケンブレビエハ火山の噴火によって起こった大津波がアメリカ東海岸を軒並み飲み込んでしまい、アメリカ自慢の工業力は一気に低下してしまったのだ。
 これにより、アメリカ軍は戦力の拡充どころか兵站の維持にすら苦しむ事になり、日本は今が好機とばかりに攻勢を強めていた。
 アメリカは何とか有利な条件で講和できるように、ミッドウェーなどから撤退し、ハワイに戦力を集中させて日本艦隊を迎え撃つ準備を進めていた。


 一方で、欧州でも戦雲渦巻いていた。日英伊との戦争に勝利した欧州枢軸だったが、その被害は大きかった。独仏合計で70万以上もの死傷者は、ポーランド戦とフランス戦での両陣営の死傷者数を合計したよりも遥かに大きな数字だった。
 更に、バトル・オブ・ブリテンとバトル・オブ・イタリアにおいて大量の航空戦力を失った事で、ドイツ軍の懐事情は厳しかった。当初こそ、イタリア製の貧弱な航空機相手に無双していたドイツ空軍だったが、それも日本から大量の航空機が運ばれてくるまでだった。
 最終的には質量共に勝る枢軸軍相手に連合国は実質的敗北を喫する事になったが、十分な代償も得ていたのだ。

 このように、両陣営に甚大な被害を齎した欧州大戦は終結したが、ドイツは次の獲物にソ連を定めていた。独ソ不可侵条約とポーランド戦での協調など、独ソ関係は一見すると良好に見えたが、それは期間限定の物でしかなかった。ヒトラーとしては、連合国との戦争が終結した以上、再戦を挑まれる前にソ連を叩き潰しておきたかった。軍部もそれには同意していたが、戦力の再編に時間がかかってしまい、ソ連侵攻作戦・バルバロッサを発動できたのは42年8月に入った頃であった。
 ロシアの冬の凶悪さを考えるならば、来年に持ち越すべきだったのかもしれないが、その場合ソ連の防衛体制が強固な物となってしまい、下手をすると第1次世界大戦の西部戦線の再現になる可能性があった。それどころか、最悪の場合では米英と同盟される可能性すらあった。

「何としてでも、早期にソ連を叩き潰すのだ!」

 渋る陸軍上層部に対して、ヒトラーはそう檄を飛ばして今年中のバルバロッサ作戦の発動を要求した。史実では、ソ連軍を各地で蹂躙したドイツ軍であったが、連合国との戦争での損害に伴う作戦開始の遅れにより、ソ連軍に強固な陣地を構築する時間的余裕を与えてしまっていた。
 更には、冬戦争での戦訓から多種多様な新兵器を開発していた為、ドイツ軍は思わぬ苦境に立たされる事になった。ドイツ軍も、イタリア戦で対峙した97式戦車や96式戦闘機などに衝撃を受け、新兵器開発を進めていたが、1年以上の時間的アドバンテージもあり、ドイツ軍は思うように戦いを進める事は出来なかった。

 そこにきて、大西洋大津波の被害であった。フランスのみならずドイツも少なく無い被害を受けた結果、ソ連との戦争にも悪影響が出始めていた。もっとも、ソ連にしても火山の噴火と大津波による異常気象によってのた打ち回ってはいたが。
 こうして、枢軸とソ連との戦争は膠着状態に入ることになるのだった。

114 :Monolith兵:2015/06/24(水) 03:30:04
 1942年12月、中華大陸では青島が墜ち、太平洋ではウェーク島が日本軍の物になった頃、欧州では新たな動きがあった。

「津波で被災したアメリカ東海岸に人道支援を行いたいと?」

「ええ。ですが、我が国は知っての通り困窮しております。支援物資も、またそれを運ぶ船腹も足りません。ですので、アメリカ国民、とりわけイタリア系アメリカ人を救う為にはあなた方の協力が必要なのです。」

 ロンドンダウニング街にある首相官邸で、エドワード・ハリファックスは客人の訪問を受けていた。客人は駐英イタリア大使で、挨拶もそこそこに切り出された話に、ハリファックスは一瞬絶句してしまった。
 イタリアの同盟国である日本とアメリカが開戦して早3ヶ月。開戦当日に起きた大西洋大津波によって、アメリカは凄まじく弱体化し、戦災も相まってイギリスもまた国力の低下が著しかった。
 そして、イタリアはそんな米英と比べ物にならないほど苦しい状況下にあった。国土の大半を枢軸に奪われ、海軍こそ欧州でも有数の戦力を誇ってはいたものの、陸上戦力はほぼ潰滅し再建途上であり、空軍は何とか形だけ生き残っているような状態であった。現在イタリアが何とか生き永らえているのは、日本からの支援と、枢軸がソ連と戦争をしているからに他ならなかった。
 そんな状況下にも関わらず、イタリアはイギリスに対してアメリカ東海岸への支援を行おうと提案してきたのである。しかも、イタリアのスポンサーである日本と敵対しているアメリカを救おうと言うのだ。

(我が国と共にイタリアが東海岸に上陸すれば、アメリカはどう出るだろうか?)

 ハリファックスは目まぐるしく頭の中身を回転させていた。他国に支援を行うならばまずはそれを表明しなくてはならない。その場合、イタリアと共同で行う事になるだろう。となれば、日本と同盟を結んでいるイタリアをアメリカは警戒する事になるだろう。例え本当に人道支援だけを行うにしても。
 そうなれば、疑いの矛先は当然ながらイギリスにも向かう事になるだろう。となれば、アメリカは太平洋のみならず大西洋にも注意を向けなければならなくなる。それは、間接的ながら日本への支援にもなるはずである。

 ここまでハリファックスは一瞬で考え付いたが、恐らくそれ以外にも理由があるのだろう。だが、問題はそこではなかった。この提案はイギリスにも利益が少なからずあるのだ。なぜなら、国力の低下したイギリスでは、このまま枢軸と睨み合いを続けるのは困難だったからだ。
 今年の初め頃はその為にアメリカに擦り寄り、日伊を切り捨てたのだが、大西洋大津波によって状況は大きく変わった。アメリカは最早イギリスを助けるホワイトホースでは無くなった。東海岸は潰滅し、生き残った中・西部も日本相手の戦争に国力をすり減らし続けている。一方で、日本はアメリカ相手に連戦連勝を続けており、国力の低下は限定的だった。
 となれば、イギリスにとって頼りに出来る国は最早日本しかなかった。実は、イギリスは日本の中枢部である夢幻会なる秘密結社と渡りをつけ、日英同盟復活の可能性を探っていたのだが、余り芳しい結果を得られていなかった。

 そこにきて、イタリアからの提案であった。イタリアは前述のとおり、主に日本からの支援によって生き延びている状態だった。その日本がアメリカと戦争になった為、イタリアからも少数ではあったが義勇軍や艦艇が日本へと渡っていた。
 そして、イタリア義勇軍は寡兵ながらも各地で奮戦しており、日本のニュース映画やラジオや新聞などではイタリア義勇軍は一騎当千の勇者であるなどと言った報道がなされていた。その為、日本でのイタリア義勇軍の人気は天井知らずだった。(最も、それらはかなり話が盛られてはいたが。)
 その様子はイタリアが大々的に宣伝しているので、ハリファックスもよく知っていた。枢軸やイギリスを牽制する為に、日本との強い同盟関係を宣伝しているのだろうと考えていたが、イタリアを通じて日本との関係改善をなせる絶好の機会が訪れたのである。

115 :Monolith兵:2015/06/24(水) 03:30:38
(恐らく何らかの思惑がイタリアにはあるのだろうが、この機会を見過ごすわけにはいかない・・・。)

 ハリファックスは、顔を上げて駐英イタリア大使に向き直ると、イタリアからの提案を受け入れられるよう前向きに検討すると答えた。その返答は十分な物だったのだろうか、大使はにっこりと笑顔を作り、「ありがとうございます。」とハリファックスに礼を述べた。その後、数分ほど雑談に興じた2人だったが、予定していた時間を過ぎていた事に気付いた大使は、ソファーから立ち上がった。

「今日は有意義な話が出来て嬉しい限りです。」

「それは私も同じです。良い返事をお待ちしています。」

 そう言ってハリファックスと握手をした大使は、応接間から出ていった。
 この3日後、イギリスはイタリアと共同でアメリカ東部への人道支援を行う用意があると公表した。




 1943年2月、東京の某料亭で夢幻会の会合が行われていた。この席でアメリカの予期せぬ早期の崩壊による対米戦略の変更(主に星一号作戦の中止)や異常気象への対策などが話し合われた後、最後にイタリアに関しての報告が行われた。

「先ほど報告があったとおり、肺ペストと思われる疫病は拡大していますがイタリアとイギリスの支援もありメリーランド州で何とか拡大を食い止めています。
 また、各州ではなんら支援を寄越さない連邦政府を見限り、イタリアやイギリスに擦り寄る動きもあるようです。」

 イタリアとイギリスは、アメリカ東部への支援を行う根拠地として、まずはメリーランド州を選んでいた。ワシントンD.C.がある場所と言う事もあったが、ニューヨークで疫病が発生しているとの情報を得た為、第二候補だったメリーダンドに変更されたという経緯があった。

 国力が低下し困窮している英伊が支援できる物資の量などたかが知れてはいたが、それでも津波によって大きな被害を受けている東部州にとって、それらは神からの贈り物のようにも見えていた。また、日本からイタリアへ送られた支援物資も一部がアメリカへと送られていた。
 その結果として、東部州では連邦から離脱し、英伊の加護に入るべきではないかと言う議論がなされるようになっていた。特に、イギリス系やイタリア系のアメリカ国民は、英伊に取り入ろうと必死だった。
 その結果、連邦軍と州軍が睨み合いをする事態にまで発展していた。

「疫病の拡大する速度が低下しているというのは喜ばしい事だが、イタリアの行動はアメリカやイギリスに与する事ではないのか?
 アメリカが分裂するのは日本としては嬉しいが、立ち直った東部が再び日本と事を構えようとする可能性は無いのか?」

 伏見宮はイタリアの行動に疑問を呈した。確かに、傍目から見ればイタリアの行動はアメリカを助けるように見えているだろう。また、疫病の封じ込めを考える上では、イギリスとの関係改善も必要になっていた。

「いえ、イタリア人達も案外素晴らしい策士ですよ。」

 辻はそう言って、イタリアの狙いを説明していった。
 要するに、イタリアの目的はアメリカの分裂と言うのは誰もが解る事であった。だが、州単位の分断ではなく、イギリスを巻き込んでイタリア系とイギリス系、その他のアメリカ国民を分断しようとしているのだ。
 更には、一度日本を裏切ったイギリスが、今度はアメリカを裏切り再び日本へ擦り寄る姿を見せ付けることで、日本国民にイギリスに対する嫌悪感を植え付けようとしているのだ。
 そして、イギリスとイタリア、どちらの方が頼りになるかを日本に問うてもいた。

「暫くイタリアには自由にさせておきましょう。イギリスにはアメリカ東部への支援で国力を磨り潰してもらっえば、後は勝手に日本に完全に依存するようになるでしょう。
 後はじっくり搾り取ればいいだけです。勿論、イタリアにも分け前は与えなければなりませんし、ドイツやソ連の牽制に使える程度の国力は残しておかなければなりませんが。」

 淡々と説明する辻の様子に、会合のメンバー達は納得したと言う表情を見せた。伏見宮も深く頷き、「ならばイタリアの好きなようにさせるべきだな。」と相槌を打った。


「それと、イタリア関連でもう一つ報告があります。どうやらムッソリーニは生存しているようです。これまでイタリア経由で得たドイツ関係の情報の多くはムッソリーニが関係しているようです。」

「「「な、なんだってー!!」」」

116 :Monolith兵:2015/06/24(水) 03:31:10
 一方その頃ローマでは。

「ヘックチ!・・・美女が私の噂をしていると言うのか?」

 ムッソリーニは隠れ家としている下町の宿屋で報告書を読みながら一人ごちた。ムッソリーニは爆撃で建物の瓦礫の下敷きとなった物の、自力で脱出する事が出来ていたが、その頃には既にローマはドイツ軍の包囲下にあったため、脱出してイタリア政府と合流するのは不可能だった。
 幸いにしてレジスタンスや支持者達の助けもあり、回復したムッソリーニは各地で乱立していたレジスタンス組織を纏め上げ、独仏相手に諜報戦や破壊工作を繰り返していた。
 独仏も、急に纏まりのできたレジスタンスの事を不思議に思ったのだろう、各地で強引な捜査を進めムッソリーニの生存を突き止めていた。

 この事を報告されたヒットラーは、秘密警察や親衛隊に対して「ムッソリーニを捕まえろ!生死は問わん。」と命令し、イタリアファシスト党の党員やレジスタンスを時には武力を用いてまで各地で逮捕して回った。その多くは生きて帰る事は無かった。
 その為、占領地のイタリア人達の反独感情はこれまでに無いほどまで強まり、レジスタンス活動に参加する者は増加した。
 お陰で、ドイツ軍将校が娼婦によって一物に毒を塗られて腐らせたり、奪った制服でドイツ軍兵士に変装して食事に下剤を盛ったり、情報を盗み出したり等といった被害が増加していた。

 こうして手に入れた情報は、ナポリに遷都したイタリア政府へと送られたり、密かに共産主義者を通じてソ連へと渡したりしていた。勿論、それらの情報は日本へも渡っており、「パスタが007ばりに活躍しているだと・・・?」などと驚愕させていた。

「ドイツ軍の新型兵器開発はかなり進んでいるようだが、肝心の将兵の教育が遅れ気味か。このままソ連と永遠に殴り合ってくれれば嬉しい物だな。」

 その時、扉が乱暴に開かれ、見張りをしていたレジスタンスの1人が部屋へと倒れるように入ってきた。

「た、大変です!秘密警察がこちらにやってくるようです。早く逃げましょう!」

「全く、ドイツ人はせっかちでいかん。」

 ムッソリーニは読んでいた書類をかばんへと押し込めると、机の上に置いてあったベレッタM1938A短機関銃を手に取り、遊底を引いた。これで準備完了だ。逃亡生活が暫く続いた為、銃と書類だけをもって逃げるようになってしまっていた。

「さあいくぞ!」

 既に外からは散発的に銃声が響いており、レジスタンスとゲシュタポとの間で戦闘が始まっているようだった。これでは、ドイツ軍や親衛隊が駆けつけてくるのも時間の問題だった。ムッソリーニ達は、レジスタンスが敵を食い止めている内に、出来るだけ遠くに逃げなければならなかった。
 宿の裏口から外に出ると、狭い路地を縫うようにして駆け抜ける。レジスタンスの青年が何人もムッソリーニを守りながら走っているが、ムッソリーニも元兵士にしてかつてはローマ進軍を成し遂げた闘士である。
 時たま、親衛隊員や秘密警察らしい連中と銃撃戦を繰り広げるが、ムッソリーニも果敢に攻撃を行い、全ての敵を撃破していった。


 そして、ムッソリーニは今日もドイツ占領下のイタリアで、戦い続けている。全てはイタリア全土を取り戻す為に。



おわり

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最終更新:2017年10月22日 23:14