718 :Monolith兵:2015/05/20(水) 00:52:49
ネタSS「スパゲッティ・ウィズ・ミートボール」 その2
フランスがドイツに降伏すると、ドイツ軍は次の獲物としてイギリスとイタリアに狙いを定めた。イギリスとの間にはドーバー海峡が横たわっているために、海軍力が貧弱なドイツは航空戦力でイギリスの屈服しようとし、有名なバトル・オブ・ブリテンが始まる事になる。
一方で、イタリアとの間にはアルプス山脈が横たわっているものの、陸続きであった。その為、イタリアへの対応は主に陸軍が対応する事になった。逆に言うと、それはイタリアからもドイツへと侵攻する事が出来るという事でもあった。
フランスが降伏する以前、イタリアは対仏戦に掛かりっきりでほぼがら空きだったドイツ領に、正確には旧オーストリア領に向けて侵攻した。
だが、アルノルトシュタインにまで侵攻したイタリア軍はそこでドイツ陸軍1個師団によって進軍を阻まれた。アルノルトシュタインはガイル川の谷底にある街であり、防衛側には非常に有利な地形をしていた。その為、兵力に勝るイタリア軍といえども、それを突破するのは容易ではなかった。
結局、空軍の協力を得ながらアルノルトシュタインの陣地を突破できたのはこの1週間後であった。ドイツ軍もかなりの損害を受けていたものの、1週間という時間を稼いだ事で増援を呼ぶ事に成功していた。
そして、防衛線で負けたドイツ軍はガイル川に架かる全ての橋を爆破し、フィラハで増援の2個師団と共に抗戦の構えを見せた。そう、イタリア軍が橋を、特に鉄橋橋を復旧しようとするならば、フィラハのドイツ軍を何とか排除しなくてはならなくなったのだ。
フィラハもまた、アルノルトシュタイン同様ドラハ川が作った谷底にある街であったから、防衛側にとって非常に有利な地形であった。その上、イタリア軍は渡河してそれを排除しなくてはならなかった。当然、フィラハの敵を排除するには渡河しなくてはならず、しかし敵前で渡河するのは自殺行為であった。かと言って、渡河せずに橋の復旧を行うのは不可能であった。
また、フィラハに篭るドイツ軍と戦いつつ橋の復旧を行うのは、補給を山岳鉄道のみに頼るイタリア軍にとって余りにも重い負担だった。幾度として橋の復旧を試みて破壊された事で、それに拍車がかかる事になる。
それのみならず、ドイツ空軍がイタリア側の鉄道まで爆撃するようになると、細い兵站は更に細くなっていた。無論、イタリア空軍も指を咥えて見ていたわけではなく、激しい迎撃戦が行われた。また、多数の爆撃機を繰り出してフィラハを爆撃したりもしていた。
だが、それでも機体性能の差と経験の差からドイツ空軍の方に分が傾いていた。そのため、イタリア軍はフィラハの攻略に手間取り、3週間もの時間を費やす事になる。
そうこうしている内に、フランスはあっさりと降伏してしまい、フランスから多くの部隊がイタリア戦線へと向かっていく事になる。その為、一時期考えられていたスペインへの干渉は行われず、ジブラルタル攻略も行われる事は無かった。
そして、質・量のみならず兵站でも圧倒的なドイツ軍相手に、イタリア軍は抵抗したものの降伏する事になった。
719 :Monolith兵:2015/05/20(水) 00:53:28
そこからは坂を転がり落ちるように敗北を重ねる・・・、とは残念ながらならなかった。その理由は複数あった。
まず、大量のイタリア軍捕虜を得た事で、ドイツ軍の進撃が遅れたのが一つ。
次にイタリア軍の進撃を阻止するため、鉄道や橋を破壊した事で、アルプス越えに時間がかかったことが一つ。
そして、対フランス戦で少なく無い数の部隊が損耗しており、弾薬や物資の備蓄も余裕があるわけではなかった。フランスからオーストリアにまで強行軍だった事で、脱落した部隊も多く、再編成に時間がかかったという理由もあった。そのため、ドイツ軍のイタリア侵攻はフランス降伏から約2ヶ月後となる8月中ごろとなった。
なお、ドイツに侵攻した部隊が降伏後も、イタリア陸軍と空軍はアルプス山中で作戦行動を続けており、ドイツ軍はアルプス越えの最中に少なく無い数の兵力を失う事になる。
また、苦労してアルプスを越えてイタリア領へ侵攻したドイツ軍も、イタリア軍の築いた重厚な陣地の前にひれ伏す事になる。2ヶ月前にイタリア軍の晒した醜態を、今度はドイツ軍が晒す事になったのだ。
独伊国境でイタリア軍がドイツ軍を蹂躙していた頃、イタリアとスロベニアの国境の街ゴリツィアでもイタリア軍とドイツ軍の戦闘が行われていた。ドイツはスロベニアを恫喝し、フランス侵攻時のオランダのようにイタリアへの進撃路としていたのだ。
だが、この戦場でもイタリア軍の優位は変わらなかった。イゾンツォ川を渡河しなければならないドイツ軍は、兵力で勝っているにも関わらず敗北を喫する事になった。
実は、この戦いには日本が派遣した遣欧軍も参加していた。イタリア陸軍10個師団に加え、日本陸軍の2個師団が奮闘した結果、ドイツ陸軍約25万を撃退する事に成功していた。伊日連合軍の損害も少なくは無かったが、フランスを僅か1ヶ月で下したかのドイツ軍を撃退したとあって、日本軍のみならずイタリア軍の士気は鰻上りだった。
そう、イタリアとてれっきとした列強の一角なのだ。一方的にドイツに蹂躙される存在では無いのだと証明した事で、ドイツ軍上層部はその事をようやく思い出したのだ。
720 :Monolith兵:2015/05/20(水) 00:54:29
「フアォッッ!!」
未だ夜が明けぬ頃、ピエトロ・バドリオは寝ていたベッドの上で奇声を発しながら飛び起きた。3月とは言え部屋は夜という事もあり冷え込んでいたが、寝汗で寝巻きは濡れており、胸に手を当てなくても解るくらい動悸は激しかった。
見ていた夢は素晴らしかった。イタリアの最悪の時に、かつてイタリアが得た栄光の時の夢を見たのだ。だが、現実に引き戻された事で、寝起きは最悪だった。
「そうだ、私達は、イタリアは・・・。」
イタリアは確かにドイツ軍相手に善戦した。幾度と無くドイツ軍の侵攻を跳ね除け、多くの損害をドイツ軍に強いた。イタリアが受けた倍以上の損害をドイツ軍に与えたという話があるほどだ。
その為、イタリア軍の士気は上昇し、防衛戦と言う事もあり、戦況はイタリア軍に有利なまま推移した。
しかし、それもヴィシーフランスが参戦するまでの間であった。イギリスがノルウェーでフランス艦隊を攻撃した事で、ヴィシーフランスを枢軸側に追いやってしまったのだ。
ドイツはフランスに配慮してか、フランスへの攻撃は東側のみからしか行っていなかった。その為、イタリアはドイツの進行を食い止める事が出来ていた。
だが、ヴィシーフランスの参戦後は西側からも侵攻を受ける事になった。そして、イタリアにそれを防ぐだけの兵力は存在しなかった。日本からは大量の武器弾薬を輸入し、イギリスからも応援を受けていたが、世界有数の陸軍大国であるドイツとフランスを同時に相手にできるほどの国力をイタリアは持っていなかった。
アルプス山脈という要害を用いて、幾度と無く独仏軍を撃退したがそれも長くは続かなかった。やがて戦線は突破され、イタリア北部は独仏軍に蹂躙される事になる。
そこからは最早悪夢の如き展開であった。ゴリツィアの伊日軍は独仏の挟撃から逃れる事が出来たが、独伊国境付近の部隊は逃げ遅れてしまい、20万を超える将兵は降伏する事になる。
イタリアにとり圧倒的に不利な状況であったが、イタリア軍はそれでも頑強に抵抗した。ある師団はフランス軍5個師団の攻勢を1週間に渡り防いだ末に全滅した。ある大隊は10倍以上の戦力差にも関わらず、二度に渡りドイツ軍の機甲師団を撃退した。あるイタリア狙撃兵は、ドイツ軍旅団の司令部に忍び込み、司令官を射殺して生還した。
彼らは後方にある故郷を、そして母を、妻を、姉を、妹を、娘を守るために命を投げ捨てて戦い続けた。死を厭わないイタリア将兵の奮闘に、独仏軍将兵達はイタリア軍との戦闘で死傷し、少なく無い人数がノイローゼにかかり後送された。
皮肉な事に、この戦争でイタリア半島の住人達はようやくイタリア国民としての自覚が芽生えていた。その為、故郷奪還のため、故郷を守りきる為、バラバラだったイタリア人達の心は一つにまとまり始めていた。
そういった事もあり、ピサからフィレンツェを通りアンコーナにかけて行われた防衛戦では、1年近くにも渡り独仏軍に出血を強いた。一説では、イタリア戦線でのイタリア軍の死傷者は30万を超えたとされているが、独仏軍の損害はその倍以上の70万以上にも達したと言う。
また、日本軍もフィレンツェ防衛戦では奮闘し、多くの将兵が屍を晒す事になった。特に第18師団は、戦線が崩壊する中殿を務め、将兵の半数以上が戦死すると言う潰滅的打撃を受けた。それでも包囲せんとするドイツ軍の隙を突いて突破を果たし、アレッツォに何とか撤退できた第18師団はイタリア軍とアレッツォの市民に歓迎された。この事は、ローマで演劇となり、イタリアの対日感情をより高める事になる。
721 :Monolith兵:2015/05/20(水) 00:55:32
それほどの抵抗をしたイタリア軍と日本軍だったが、彼我の戦力差は覆しがたく、戦線は徐々に南下して行き1941年末にはローマの前面にまで前線が迫る状況となっていた。
イタリアのこの未曾有の危機に際し、日本は更に増援を送らざる得なかった。
夢幻会としては、イタリアに深入りするのは避けたかったのだが政治外交的な状況はそれを許さなかった。
幸いな事に、イタリア海軍は未だ健在であったので、遣欧艦隊は主に大西洋での活動が主となり、イタリアには艦艇の輸出で対応する事が出来た。フランス海軍は弱体化しており、イタリア海軍を牽制する為にヒトラーからのカナリア諸島奪還の出撃要請も拒否するしかなかった。イタリアは陸では劣勢であったが、海では優勢であったのだ。
そんな中、バトル・オブ・ブリテンは激しさを増していた。そして、最悪の事態が起きる。チャーチルの死である。これにより、イギリス国民の厭戦感情を抑える事が出来なくなり、イギリスはドイツとの講和を求める事になる。
悪い事は重なり、ローマに残り指揮を取り続けていたムッソリーニはフランス空軍による空爆で死亡した。空爆の最中にも関わらず、気丈にも執務を続けていたムッソリーニは空爆で破壊された建物の下敷きとなったのだ。その後、前線を突破したドイツ軍がローマにまで侵攻してきたため、下敷きとなったムッソリーニの死体は掘り出す間も無かった。後にドイツ軍が破壊されたファシスト党本部を掘り返したそうだが、殆どの死体の損傷が酷く、どの死体がムッソリーニなのか判別する事は不可能だったと言う。
あえて明るい話題をするならば、王族は既に南部へ避難しており、政府閣僚も避難する事ができていたのが不幸中の幸いであった。
講和の席上では、両国による激しい外交戦が展開されたが、結局はイギリスの実質的敗北となった。つまり、イギリスは現在枢軸国が支配している地域を枢軸国のものであると承認したのだ。
それは、イタリア政府と国民にとって悪夢だった。イタリア北部は独仏軍によって占領されており、イギリスはそれを枢軸国のものであると承認して、枢軸国と講和してしまったのだ。事実上、イタリアはイギリスに見捨てられたのだ!
見捨てられたのはイタリアだけではなかった。日本もまた、
アメリカを頼りにするイギリスの新政権に見捨てられていた。アメリカは新たなフロンティアとして、中国大陸での影響力拡大を進めており、その為には日本は目障りであった。イギリスもアメリカからの支援を引き出す為に、それに同調しており、その結果として裏切られ、見捨てられた者たち同士であるイタリアと日本は接近する事になった。いや、そうする以外に方法は無かったのだ。
722 :Monolith兵:2015/05/20(水) 00:56:49
「ドゥーチェが生きていれば・・・。」
イタリアにとり状況は最悪だった。イギリスには見捨てられ、新たな同盟国である日本はアメリカと事を構えようとしていた。そして、イタリアには日米の戦争に介入できるだけの国力も兵力も無かった。海軍の一部を派遣する事も出来るだろうが、大勢に影響を与える事は無いだろうと思われた。
そんな状況であったが、イタリアは日本以外に頼るべき国は無かった。イギリスはイタリアと日本を切り捨てる事で自国の安寧を手に入れていたので、イギリスと再び手を結ぶのは悪手だった。もしそんな事をしようとするならば、クーデターが起きるだろう。それほどまでに、イタリアでの反英感情は高かった。
アメリカと手を結ぶのも難しかった。日本には日本の思惑もあったのだろうが、イタリア人にとっては轡を並べて枢軸軍と戦った戦友だった。碌な支援をよこさなかったイギリスと違い、日本はイタリア人のために血を流した事で、国民の親日感情は強かった。その為、日本と事を構えようとするアメリカに対して反発感を持つものは少なくなかった。
なにより、イギリスがアメリカ側についていた事でイタリア人の不信感は強かった。アメリカもイギリスを贔屓しており、イタリアには碌な支援を寄越さなかった。純粋に国土奪還を求めるのならば、イギリス同様アメリカに擦り寄るのが正しいのだろうが、イギリスは自国の安寧の為にイタリアを裏切ったのだ。今度はイタリアをアメリカに売り渡すのではないかと疑うイタリア人は、政府の中でも多くいたのだ。
こうしてイタリアは日本と共に歩む道を選んだ。その道は厳しく険しい道であったが、イタリア人にとって最早頼るべき国は日本しかなかったのだ。
後に、「不屈のパスタ」や「日本最大の同盟国」といわれるイタリアの歩みは今始まったばかりなのだ。
なお、イタリアと同盟を結ばざる得なかった事で、夢幻会の会合では「日本\(^o^)/オワタ」とか「死亡フラグ乙・・・乙(´・ω・`)」といった声が数多く上がる事になるのだが、その事をイタリア人が知る事は永遠に無かったという。
おわり
723 :Monolith兵:2015/05/20(水) 00:58:26
という訳で、スパゲッティ・ウィズ・ミートボールの第2話をお送りします。
題名を見てピンと来た人もいると思いますが、スパゲッティはイタリア、ミートボールは日本の比喩です。要は、憂鬱世界で日本とイタリアが同盟したらどうなるか、という思いついたネタです。w
停戦までの間に全域を占領されたり降伏しないというのは、かなり滅茶苦茶な設定ですがそこは目をつぶってください。イタリアが結構酷い目にあっていますが、これからはマシになるはず・・・と思いたい。(´・ω・`)
ちなみに、イタリア人の感情としては以下の通りになります。
- ドイツ:滅ぼすべき敵。
- フランス:劣勢だと言うから無理してフォローしたのに、ドイツ側について侵略してきた恩知らず。
- イギリス:碌な支援を寄越さないわ、フランスをドイツ側に追いやるわ、イタリアを見捨てるわ、ドイツに並ぶ敵!
- アメリカ:イギリスさえ贔屓して無ければ、躊躇無く擦り寄ったのに・・・。
- 日本:戦友!日本とならば、英独相手にだって戦える。(勝てるとは言っていない)
最終更新:2017年10月22日 22:51