305 :Monolith兵:2014/09/25(木) 02:31:30
※このSSは拙著「富永恭次が鎮守府?に着任したようです」の続編です。
ネタSS「南雲忠一が海上保安庁に着任したようです」
1942年も終わりに差し掛かった頃、会合メンバー達は某料亭で話し合いをしていた。
「原爆は爆発したもののケンブレビエハ火山の崩落には至らず・・・。衝号作戦は失敗か。」
「その代わりに大西洋では突如として国籍不明の艦隊が誰彼構わずに攻撃を始めた・・・か。
イギリスも
アメリカも商船に護衛艦艇のみならず主力艦艇も失いかなり厳しい状態だな。」
イギリスは多くの商船と護衛艦艇のみならず主力艦艇も大損害を受け、シーレーンを失い風前の灯。アメリカも海軍が出動したものの、戦うたびに増強されている謎の艦隊に次々と沈められ、ほぼ潰滅した。
太平洋から戦力を引き抜こうにも日本と戦争状態にあり、
アジア艦隊が潰滅した今ハワイの太平洋艦隊は日本からアメリカを守る唯一の海上戦力であったため、引き抜く事は出来なかった。
「それと時を同じくして現れた艦娘たち・・・。なんて素晴らしいんだ!!」
「まさか現実に金剛たんを見る事が出来るとは。感無量だ。」
「雷ちゃんペロペロ!?」
大西洋に接する国々が苦難の時を迎えている時、日本は我が世の春を向かえていた。
と言うのも、アメリカは日本のみならず大西洋で突如として現れた国籍不明の艦隊に対処せねばならず、大西洋のシーレーンを守るために戦力を集中せざる得なかったからだ。
おかげで、太平洋には真珠湾の太平洋艦隊以外に目ぼしい戦力は存在せず、各地でアメリカ軍を撃破していた。米太平洋艦隊は動こうにも、戦力や物資を大西洋に取られている為に積極的な行動が出来ず、日本は圧倒的に優位な状況であった。
「所で、イギリスから日本に救援要請がありました。」
「今更どのような顔をして言ってきているんですか。」
腹黒紳士共め、と辻が悪態をついたが、他の会合メンバー達はお前が言うな、と心の中で突っ込みを入れていた。
「まあ、イギリスに倒られたら困ります。ある程度の支援は必要ですね。」
「裏切った事を後悔させてやりますよ。」
近衛の言葉に辻は渋々ながら頷いた。その上で、イギリスから更に搾り取ってやると宣言し、それを聞いた者達は(恨むのなら、自分達の行いを恨むんだな。)と心の中で手を合わせた。
「しかし、艦娘達が現れたという事は、大西洋で現れた連中は・・・。」
「深海棲艦と言うことですね。しかも、外見はアメリカの艦艇に似ています。しかし、中身は全くの別物ですよ。何ですかあれは?42年にジェット戦闘爆撃機が現れるなんて・・・。しかも魚雷も搭載可能と来た。」
「あれに対抗するには最低でも烈風改が必要だな。救いがあるとすれば、暫くは太平洋に出てこれないだろうと言うことか。」
嶋田は大西洋で現れた、深海棲艦の艦隊が運用する艦載機のチート加減に頭を抱えた。未だ日本は烈風改も配備しておらず、もし今深海棲艦と対峙したら大損害は必須だった。それのみならず、戦艦だけでも10隻近く確認されており、巡洋艦以下だと数えるのも馬鹿らしくなるほどの数であった。
だが、そんな化け物艦隊と対峙しているアメリカもチート国家だった。史実どおりならば、来年には正規空母だけで6隻、軽空母護衛空母も含めれば合計で30隻以上が就役する予定だった。
それのみならず、戦艦は4隻巡洋艦は11隻、駆逐艦以下に至っては400隻以上も就役する予定であった。駆潜艇や魚雷艇に至っては数えるのも馬鹿らしいほどだった。
だが、真に恐ろしいのはリバティ船に代表される輸送船を43年だけで1000万トン近く建造していることだった。
それを知った
夢幻会の者達は「深海棲艦相手でも勝てるんじゃね?」とか「やっぱチートだわコイツ等。」等と色々と諦めていた。
306 :Monolith兵:2014/09/25(木) 02:33:43
「アメリカが深海棲艦とやりあっている内に、何としてでも防衛体制を整える必要がある。」
伏見宮の言葉に会合メンバー達は頷いた。
「現在の艦艇の建造状況は順調です。大鳳も建造を再開し、来年には竣工する予定です。祥鳳型も来年から順次竣工しますし、富士型も追加建造を開始する予定です。
しかし、もし深海棲艦が相手となるとこれでも足りないかもしれません。奴らには国民がいなく引いては国家もありません。講和と言う選択肢はない可能性が高いです。」
嶋田の不安げな発言に会合メンバー達はため息をついた。
もしアメリカと深海棲艦との戦争で、深海棲艦が我が勝利すれば日本に侵攻してくるのは明白であった。いかな会合メンバーであろうと、深海棲艦を率いているのが富永恭二であると知らない以上、彼らにとって深海棲艦は敵であった。
ただ、いくら元日本人であると言っても、富永は余りに優勢な戦況と増強し続けている戦力に酔っており、大西洋外に侵攻する可能性は高かったが。
「現実に深海棲艦と対峙すると、艦これで艦娘を主力としていたのは間違いではなかったと言うわけですか・・・。」
「戦えば戦うほど強くなり、沈んでも次の艦が着ますからね・・・。」
「しかし、実際に現れた艦娘達は超旧式艦ばかりとはな・・・。最も新しい艦でも天龍だからな・・・。」
「天龍は一応水雷戦隊旗艦として使えないことも無いですが、海軍に組み込むのは難しいです。乗組員は女の子1人だけで、どの艦よりも練度が高いと言うのは・・・。損傷してもドッグに放り込んでおけば一日程度で修復されますし、弾薬燃料の消費量も少なくて済む。
やはり、今のまま海上保安庁で預かってもらうのが妥当でしょう。」
日本にだけ現れた艦娘達だったが、彼女達は前線で戦える程の能力を持っていはいなかった。最も古い艦は装甲コルベット龍驤で実用に耐えず、最も新しい艦である軽巡洋艦天龍は、一応前線に出れる能力を持っていたが、1隻だけほぼ無人の軽巡洋艦を組み込むのも無理があった。下手すれば幽霊船として海軍の士気を下げる可能性があったからだ。
なお、水雷艇駆逐艦霓(にじ)が防護巡洋艦和泉と衝突し両艦とも沈没する大惨事が起きたのだが、その後再び全く同じ艦娘が見つかり関係者の頭を悩ませていた。
「巡視船としてはどれも十分使えるのですからいいでしょう?むしろ人件費が必要無い分数を揃えられるんですから感謝していますよ。」
辻は艦娘の登場で海上保安庁の戦力がほぼ無料で増強できた事を喜んでいた。
海上保安庁は、海軍の旧式艦や海防艦を主力としていたがそれでも数が足りなかった。そこに現れた外見こそ超旧式艦ながら能力は十分な上に、乗組員が不要な機帆船や小型駆逐艦や軽巡洋艦だったのだ。その分、既存の巡視船や護衛艦艇をシーレーン防衛に投入する事が出来るようになっていた。
財政を預かる辻のみならず、少ない予算でどうやりくりしようかと頭を悩ましていた嶋田や伏見宮もこれに喜んだ。最も、伏見宮を始めとするMMJの面々はそれ以外の事でも喜んでいたが。
307 :Monolith兵:2014/09/25(木) 02:34:16
「ところで、これからも艦娘達は次々と見つかることだろう。そこで、海上保安庁の規模を拡張するべきではないかと思うのだがどうだろうか?」
伏見宮の提案に、多くの者は賛同した。
「同意する。だが、規模が多くなるという事はそれだけ機密も増え、予算も必要となる。
そこで、海上保安庁を運輸省から内務省に移管すると言うのはどうだろうか?」
内務省のドンである阿部の提案は他のメンバー達を絶句させた。
阿部としては、艦娘の情報が他国に漏れるのを防ぎたかったし、これから予算が増える以上抑えて置きたい部署であった。
だが他にも理由があった。なんと、彼は前世では熱烈な艦これゲーマー(廃人)だったのだ!
(海保を内務省で抑える事が出来れば、雷ちゃんprprがし放題になる!)
そんな秘めた理由も含めて、海保を押さえておきたかったのだ。
ちなみに、雷は吹雪型駆逐艦ではなく雷型(水雷艇)駆逐艦の一番艦である。艦の大きさが吹雪型の6分の1ほどのせいか、雷の外見(メンタルモデル)は小学生低学年程度の物であった。それが阿部には更に嬉しかった。
「・・・それは承服しかねますねぇ。それを言うのなら、全ての予算を出しているのは大蔵省ですよ?」
「海上保安庁は海上の安全を守る組織だ、そこは海軍と通じるところがある。他省庁へ移管すると言うのなら、海軍省が妥当なところではないのか?」
「いやいや、我が陸軍にも船舶部門は・・・」
「海軍としては陸軍の提案に絶対反対である!」
「こうなれば海保に移籍しよう!」
「海軍元帥が海軍の会組織に移籍などできるかー!馬鹿野郎!!」
そんなこんなで、会合はハチャメチャな状況となってしまった。
特に、伏見宮が「海保に行って艦娘とイチャラブするんだい。」と言い出してからは、それを阻止しようとする軍関係者と、その手があったかと言い出した者達の間で殴り合いが始まってしまった。
大乱闘にまで発展してしまった状況に、嶋田は胃の辺りを押さえて蹲っていた。これからアメリカや深海棲艦にどのように対処するべきか論議する時に、艦娘とイチャラブしたいと乱闘し始めたのだ。
「大丈夫ですか?嶋田さん。」
そんな嶋田の背中を東条は手で摩った。そのやさしさと常識人な東条に、嶋田は東条が仏のように見えてしまった。
「ありがとうございます。はぁ、なんでこんな事に・・・。」
「ははは・・・。所でですね、陸軍提督の可能性ってありませんか?」
嶋田はお前もか、と思い目の前が真っ暗になった。
結局この日、海保の所属は当面は今のままと言う事になり会合は無事(?)終わったのあった。
308 :Monolith兵:2014/09/25(木) 02:35:04
海上保安庁の所属を巡り大乱闘が行われてから暫くして、海上保安庁長官の南雲忠一は横須賀海上保安部を訪れていた。
海上保安庁は、巡視船や海防艦などを多く保有していたが、それに加えて最近は艦娘と言う女の子一人で動かせる艦が現れ始めていた。一応、夢幻会メンバーから艦これについて説明は受けていたが、始めて見た時は驚いていたが、今では慣れたものだった。
「しかし、船が増えたな。」
南雲は海上保安庁の利用している埠頭を見ながら呟いた。横須賀海上保安部は海軍の横須賀鎮守府に隣接して作られており、急造する艦船に対応するために新たな埠頭が作られている途中であった。
「見つかった艦娘の皆は全員ここに集められてますから。」
笠置型防護巡洋艦2番艦の千歳(アメリカ生まれ)は南雲の独り言に律儀に答えた。
日本政府(夢幻会)は艦娘の情報流出を恐れ、極力1箇所に彼女達を集める事にしていた。諸外国の大使館員や諜報員から彼女達の情報を守るためには1箇所に集めてしまう方が良いとされたのだ。
もっとも、日露戦争時代以前の代物にしか見えない帆船や、1次大戦の頃の小型駆逐艦等が海上保安庁に集められている事を知った彼らは、「日本は船が足りず大昔のスクラップを使っている。」と嘲笑しながら本国に報告していたが。
「所で、何か不自由は無いかな?何分君達との付き合いは試行錯誤の連続なんだ。」
「いいえ。こんなに旧式な私達でもお国のためになれるのなら何だって耐えて見せます。
・・・ただ、前線で戦えないのは・・・海軍にすらいられないのは辛いです。」
千歳の話に南雲は言葉に詰まった。防護巡洋艦千歳は、黄海海戦や日本海海戦、青島攻略戦にも参加した歴戦の艦だ。急降下爆撃の実験艦として最後を迎えたが、彼女達あっても今の日本と海軍なのである。
そう言った事を伝えたいと思ったものの、それは千歳も理解しているであろう。
「私も海防艦として近海警備は経験して来ました。日露戦争では海上輸送にも苦労しましたし、通商破壊艦隊に苦しめられました。
今の主力艦どころか飛行機や潜水艦にも対処できない私達では足手まといなだけです。
だから、私達の活躍の場を与えていただいた皆さんには本当に感謝しているんですよ?勿論提督にも。」
南雲は不覚にも涙が出そうになってしまい、顔を背けてしまった。彼女達の国を思う心が南雲には眩しすぎたのだ。
「今の私は海上保安庁長官なんだ。」
照れ隠しに今は提督ではないと言ったものの、千歳は「わかりました提督。」と返してきた。実は南雲は、会う人会う人に海上保安庁長官としてしか見られず辟易していた。
だが、彼女は自分を海軍中将として扱ってくれるので、それが嬉しかったが照れくさくもあった。
その時、海上保安庁の職員が書け寄ってきた。
「長官!新しい艦娘を発見したと報告が!?」
「そう慌てるな。艦娘の発見なんてもう驚くような事では・・・。」
「せ、戦艦なんです!新しい艦娘は!!」
その報告に南雲は笑みを浮かべた。戦艦という事は富士型か敷島型か。ロシアからの鹵獲艦や運がよければ河内型の可能性もあった。
これまで見つかった艦娘はいずれも軽巡洋艦以下の小型艦艇ばかりだったので、大型艦が配備できれば海上保安庁の発言権は大きくなるかもしれないという皮算用もあった。
「それで、富士型か敷島型か?」
「日本海海戦で一緒だった艦だったら嬉しいです。」
南雲と千歳は新たな艦娘の発見に純粋に喜んでいたが、海保職員の方はゼェゼェと苦しそうに息をして言葉を続けた。
「あ、新たな艦はせ、戦艦加賀、あの41サンチ砲戦艦の加賀なんです!!」
「「な、何だってー!」」
そして、この日から海上保安庁と海軍との間で戦艦加賀を巡って熾烈な戦いが繰り広げられ、南雲や嶋田の胃に大ダメージを与える事になるのだが、それはまた別の話である。
309 :Monolith兵:2014/09/25(木) 02:35:37
翌日、横須賀近海では。
「はぁ。……空はあんなに青いのに。」
彼女は空を見上げて小さくため息をついた。
今回彼女は横須賀近海の哨戒任務を行っていた。旧式艦の自分に出来る任務は警備や哨戒程度しかないことは理解していたが、かつて日清日露両戦役で活躍した記憶を持っていたため、現状に少しながら不満を持っていた。
「もう憎らしいったらありゃしないわ、あの戦艦!」
彼女は先ほど通り過ぎて行った超弩級戦艦の姿を思い出し、歯軋りした。戦艦加賀が発見されてから、海上保安庁どころか海軍までを巻き込んだお祭り騒ぎになっていた。普段は彼女を気にかけてくれる南雲やその他の海上保安庁の隊員達も、加賀にばかり目を向けていた。
つまり、あまたの戦場を駆け巡ってきた彼女には、実戦経験も無い女が大きな顔をしているのが気にいらなかったのだ。
「所詮戦艦と言っても、甲鉄艦だものね・・・。あれ?何故視界が歪んで・・・。」
その日、彼女は生まれて初めて涙の味を知った。
おわり
最終更新:2015年07月14日 18:11