455 :Monolith兵:2014/09/28(日) 06:24:34
ネタSS「南雲忠一が海上保安庁に着任したようです②」
「扶桑たちが近代化改装するようです」
甲鉄艦扶桑は悩んでいた。
戦艦加賀が発見されて以降、海軍と海保との間で所属を巡る綱引きが激しく行われ、南雲を始めとする幹部は皆どこか余裕の無い雰囲気であった。それでも、南雲は何かと彼女達旧式艦娘を気にかけてくれはしたが、段々とやつれていくのを見ると悲しかった。
扶桑は、現代に置いて活躍の場所等無い事を誰よりも理解していた。主砲は舷側にしか撃てない上に、仰角を殆ど取れずその射程は短かった。その他の砲も似たり寄ったりであり、何よりもわずか13ノットと言う余りの低速が扶桑の運用を難しくしていた。
海保は多忙な業務の合間に扶桑の改造案を試行錯誤していたが、芳しい成果を上げてはいなかった。全ては扶桑の基本設計が古すぎたのが原因だった。
扶桑はそんな海保の人たちの努力を知り、余りにも不甲斐ない自分に涙していた。
「ああ、私がもしあっちの扶桑だったらなぁ・・・。」
横須賀海上保安部の桟橋で、扶桑は1人沖合いを行く戦艦を見ながらため息をついた。ちなみに沖合いを行くのは戦艦扶桑ではなく山城であった。
扶桑に割り当てられた任務は基本的に近海警備であったが、哨戒艇や巡視艇でも行える任務だった。軍艦である彼女にとって、そのような任務を割り当てられるのは悔しかったが、彼女は現実を受け入れていた。
「ここにいたのか。」
後ろから突然話しかけられ振り向くと、そこには南雲長官がいた。扶桑は慌てて立ち上がり敬礼をしたが、南雲はきれいな答礼をして、「そのままでいいから。」と言って彼女の隣に腰をおろした。
その時気付いたのだが、南雲は1人ではなかった。
456 :Monolith兵:2014/09/28(日) 06:25:22
「紹介しよう。彼女が戦艦加賀だ。君の後輩になるな。」
「よろしくお願いします先輩。」
加賀は無表情に扶桑に挨拶した。しかも会釈も敬礼もしない。それに扶桑はムッとなった。
「今、加賀を巡って海軍とやりあってるのを知ってるだろう?私としては海軍に移籍するのも仕方ないと考えているが、海保の中には加賀を引きとめようとするものも多い。それとは逆に海軍には加賀の編入に難色を示すものもいる。君達は1人で艦を動かせるから、将官の間に動揺が起きるかもしれないと心配しているようだ。
だが、恐らく加賀は海保に留まるだろう。政府は君達艦娘を全て一箇所に留める方針のようだ。」
南雲は艦娘を一箇所に集める方針だと伝えたが、それが海保にのままなのか、そして海保が他の省に移る可能性には触れなかった。
一方で扶桑はそんな事を自分に話してどうするんだろうと思った。加賀がどうなろうと、自分には関係ないのだ。スクラップとして解体される日まで海保で働くだけだ。防護巡洋艦や駆逐艦ならばまだ使い道はあるだろうが、自分にはないと拗ねてしまっていた。
「所で、君は知らないかもしれないが、加賀は所々設計と違う所があるらしい。」
「私が生まれてからここに辿り着くまで何度かアメリカ海軍の艦艇と戦闘になりました。何度目かの戦闘後に気付いたら装備や設備、諸元が変わっていました。」
「どうやら君達は自力で近代化改装出来るらしい。それには戦闘による経験が必要だと私達は結論付けた。そこで、君にも近代化改修をしてもらいたい。」
扶桑は一瞬「近代化改装すれば活躍できる!」と考えたものの、前世?で自身に施されてきた近代化改装を思い出し落ち込んだ。
「提督・・・。提案ありがとうございます。でも、私の艦暦では・・・。」
「だからだ!加賀の近代化改装は誰も計画した事のないものだ。だから、君の近代化改装で誰も見た事のない甲鉄艦扶桑が現れるかもしれないんだ!いや、甲鉄艦で無く巡洋艦になるかもしれない。これは賭けかもしれないが、確かめないといけないことなんだ。」
その言葉に扶桑の心は揺れ動いた。もしかすると誰も見た事のない扶桑の姿が見れる。だが、扶桑には大きな不安があった。
「私は現代で戦闘なんて出来るのでしょうか?」
「詳細はまだ言えないが、今回の作戦は海軍との合同になる。と言うよりも海軍の元で
アメリカの拠点のひとつを攻略する事になる。
それと、艦娘達は全員出撃する。天龍や加賀も君達の護衛につくし、私も出撃する。」
南雲が自分達と一緒に出撃すると聞いて驚いた扶桑は、ちらりと加賀を見た。しかし、加賀は無表情のまま扶桑を見ていた。それを見て扶桑はムカッとした。自分には戦闘は無理だ、諦めろ。そんな事を言われた様な気がしたのだ。
「やります!いえ、やらせてください!」
そして、艦娘扶桑は戦場へ赴く事になったのであった。
そして、艦娘部隊創設以来最大の作戦がここに開始されるのであった。
457 :Monolith兵:2014/09/28(日) 06:27:56
そして、扶桑たちは無事作戦を終え、駆逐艦たちは全員近代化改装に成功した。装甲コルベットの金剛と比叡も、防護巡洋艦のような出で立ちとなり、本人は元より関係者達は大いに喜んだ。
そして、扶桑はと言うと・・・。
「ふふふ・・・・、近代化改修しても鈍足・・・。」
扶桑も近代化改装に成功していた。排水量が1000t近く増え、武装も24cm連装砲2基、15.2cm単装砲4基(以下略)という重武装で全てが砲塔式に改められていた。
だが、小型艦にそれほどの武装を詰め込んだ代償は大きかった。
「旋回したら速度が一気に落ちるし、主砲を撃ったら艦橋が衝撃で壊れそうになるし、速度も僅か16ノット・・・。」
扶桑は近代化改装による重武装化で欠陥がかなり生じていたのだ。小型の装甲巡洋艦と当初は思われていた近代化改装後の扶桑だったが、これらの欠陥によって外洋に出る事は難しい判断されていた。
つまり、彼女はこれまでと同じく近海警備しか出来ないのだ。
「私、何で近代化改装したのかしら・・・。海防戦艦なんて誰も必要としないじゃない・・・。ああ、今日もいい天気だわ・・・。」
今日も涙は塩辛かった。
だが、近海限定であったが使い勝手のいい彼女は、後日大陸や半島に派遣され忙しい日々を送る事になるのだが、完全に落ち込んでいるこの時の彼女は知る由もなかった。
おわり
最終更新:2015年07月14日 18:01