962 :Monolith兵:2014/11/29(土) 06:35:37
ネタSS「栄光の英国面よ永遠なれ -鳩足編-」


 1945年5月5日、日本とイギリスはセイロン沖で大規模な洋上演習を行った。
 この演習には、日本からは超大型空母『大鳳』、軽空母『紅鳳』、『海鳳』、戦艦『伊吹』、『鞍馬』を基幹とした大機動艦隊が派遣され、イギリスも装甲空母『イラストリアス』、『ヴィクトリアス』、巡洋戦艦『フッド』、戦艦『プリンスオブウェールズ』を中核とする、世界でも有数といえる機動艦隊を派遣していた。

 そんな中、日本海軍遣印艦隊旗艦伊吹の艦橋では派遣艦隊司令部の面々が言葉を交わしていた。

「イギリス本国は困窮していると聞くが、それでもこれだけの艦隊を印度に派遣できるのは、流石は大英帝国と言ったところか。」

「ですが、阿賀野型を空母随伴艦にしている所から見て、イギリス海軍の困窮はかなりの物なのでしょう。」

「しかし、イギリスはこの演習で新型兵器をお披露目する用意をしているとか。侮るのは危険です。」

 栗田中将や有馬少将などの艦隊司令部の者たちは、イギリス艦隊を見ながらイギリスの困窮具合を理解すると共に、慢心は危険だと話し合っていた。

「まあ、彼らの新兵器とやらを見させてもらおうか。それと、彼らは少なくとも今は味方だ。それを徹底するように。」

 山口の言葉に幕僚達は深く頷いた。日本海軍でもイギリスに対する不信感はかなり深く存在し、それがイギリスとの関係を拗れさせてしまう可能性もあった。それを戒めたのだ。
 そして、インド洋演習が始まった。


 まずお披露目されたのは、日本からは電探搭載の四式艦上警戒機『旭光』、イギリスからは戦闘雷撃機『ペレグリン』だった。
 日本はペレグリンの登場に当初は動揺したが、その思想が理に適っている事を理解すると、自国にもこのてのマルチロール機は必ず必要になると考えた。
 一方イギリスは、日本の高い電子技術を目の当たりにして驚愕した。イギリスでもレーダー搭載機は未だ研究中であり、自国よりも一足早く投入した日本海軍との差を実感していた。
 だが、ここまでならば何も問題なかった。

 次に4式戦疾風が登場すると、イギリス海軍の軍人達の顔がこわばった。

「日本人は何て化け物を作り出したのだ・・・。」

 プリンス・オブ・ウェールズの艦橋で、トーマス・フィリップス大将は疾風の性能を見て呟いた。そして、慌ててシーミーティアのお披露目を中止するよう指示した。
 フィリップスはミーティアでは疾風には勝てないと判断したのだ。

「危うく大恥をかくところだった。」

「しかし、これで戦闘機の開発計画は大幅に見直さなくてはならなくなりました。」

「ミーティアの性能を向上させたところで、あの化け物には勝てない。」

 イギリス海軍の司令部の面々は、これまで苦心して開発してきた新型戦闘機が登場する前に旧式化してしまった事に強い衝撃を受けていた。
 だが、これで引き下がるのはロイヤルネイビーの意地が許さなかった。

「参謀長、例のあれを投入するぞ。」

「あれ・・・をですか?」

「疾風の前には確かにどのような戦闘機も的でしかないだろう。だが、連中にやり込められたままでいいのか?」

 乗り気で無い参謀長を説き伏せ、フィリップスは今回のもう一つの目玉である新兵器を投入する事を決定した。実を言うとフィリップス自身も、当初はお披露目したくない類の物だったがこのままでは精神衛生上好ましくないと考えた上での判断だった。

963 :Monolith兵:2014/11/29(土) 06:36:41
 一方で、イギリス艦隊の動きを見て日本海軍は何があったのかと勘ぐっていた。
 情報局からの情報として、イギリスは今回の演習に噴進式戦闘機を投入する予定だと聞いていた。流石に疾風には劣るだろうが、イギリスの開発した噴進機がどの程度の性能かと期待していたのだ。
 だが、イギリスの空母から飛び立ったのは先ほどお披露目されたペレグリンだった。先ほどお披露目された時と違うのは、今回は大型のロケット弾らしきものを抱えているところであった。

「どういう事だ?」

 日本海軍の軍人達が不思議に思っていると、イギリス艦隊から連絡が入った。これより、標的艦に向かって攻撃を行うというものだった。
 それだけならば問題は無かったが、何とペレグリンは標的艦から10kmも離れた場所から抱えていた大型ロケットを発射したのだ。

「10kmも手前で発射しても届かないだろう。よしんば届いても、命中させるのは至難の業のはずだ。
 実際に、標的艦とは見当違いの方向に向かっているではないか。」

 参謀の1人はただの長距離ロケット弾かと拍子抜けし、軽い笑い声を上げた。
 だが、時間が経つに連れ、誰もが目の前の光景に釘付けになっていった。

「噴進弾は方向を調整しつつあり。標的艦への命中コースに入りました!」

「命中した・・・だと?」

「二式無線滑空誘導弾並か?いや、あれは連山程の大きさの機体でなければ運用できないのだぞ!単発機の烈風(ペレグリン)から発射できるなど・・・!」

「何時の間にあんなものを!」

 伊吹の艦橋は、ロケットが標的艦に命中した事で一気に騒がしくなった。ペレグリンから発射されたロケットは当初見当違いの方角へ飛翔していたが、徐々に軌道修正し終には命中してしまったのだ。
 そして、単発機のペレグリンから発射されたと言う事実は、イギリスの持つ誘導弾の性能は日本以上の物だという事でもあった。
 更に続けて別の標的艦2隻へも2機のペレグリンがロケットを命中させ、その射程距離の長さと命中率の高さに派印艦隊司令部を混乱の渦の中に落としこんだ。



 この事は、すぐさま日本本国へも伝えられ、イギリス侮りがたしという認識で海軍上層部は一致した。

「まさかイギリスがこんな隠し玉を出してくるとは・・・。」

「面目ない。海軍情報部はこの噴進弾の情報を全くつかめなかった。」

「情報では戦闘雷撃機と噴進式戦闘機のお披露目だと言う事だったが、腐っても鯛という事か。」

「疾風ならば発射される前に問題なく撃ち落とせるだろうが、発射されたら少々難しいな。それと、10kmという長射程だから対空砲も対米戦の時のような弾幕を張れないだろう。いや、射程が10km以上あると可能性もあるか・・・。」

 嶋田達海軍上層部は、海軍省に集まりイギリスがお披露目した対艦誘導ロケットについて話し合いをしていた。

「だがこれはイギリスとの協調が大事だと宣伝するいい材料になる。」

「警戒は必要だが、イギリスとの連携は枢軸と対抗するには必要不可欠だからな。」

 彼らはイギリスに対して不信感を持っていたものの、枢軸を相手にするにはイギリスとの関係を強化する必要があると理解していた。よって、今回の情報はイギリスとの連携は有用であると宣伝するにはいい材料となった。

「我が国でも同様の兵器は研究中だが、研究を速めなければならないな。」

「その為に大蔵省から予算を取って来いと?やれやれ、また胃薬を準備しなければならないのか。」

 嶋田のジョークに堀と山本は大きく笑った。

964 :Monolith兵:2014/11/29(土) 06:37:12
 日本海軍に一泡吹かせる事に成功したイギリス海軍だったが、イラストリアスの一角では今日殉職した勇敢な戦士の為に乗組員達が黙祷をささげていた。

「勇敢なる戦士達のお陰で、我々ロイヤルネイビーの誇りは守られた。彼らに感謝すると共に、死なせてしまった事を許して欲しい。」

 そうして黙祷が終わると、3枚の写真がパイロット控え室の壁に貼られた。

「勇敢なる誘導鳩達に敬礼!」

 艦長やパイロット達は写真に対して敬礼を行い、彼らの死を悼んだ。飾られた写真には3匹の鳩が写っていた。
 そう、今日投入した誘導ロケット弾の誘導装置は鳩を用いたものだったのである。アメリカから買い取ったSWODを発展させて長距離ロケット弾に搭載したのだが、これが意外にも高い性能を示した。
 そこで、イギリス軍ではSWODをペリカンミサイルと名づけ正式採用したのだった。そして、今回の演習でもその高い命中率が発揮され、ロイヤルネイビーの誇りは守られた。

 なお、ペリカンミサイルの情報は日本や枢軸へも伝わった。その中にはカリフォルニア共和国も存在したのだが、派遣将校からの情報でイギリスの新兵器の誘導装置に鳩が使われている可能性が指摘された。
 そこで、カリフォルニアでは情報収集の強化をすると共に、鳩プロジェクトを復活させる事を決定した。
 だが、不幸な事に鳩プロジェクトの中心的人物だったB.F.スキナーはイギリスからのスカウトで渡英してしまっており、鳩プロジェクトは復活早々躓く事になるのだった。


 完全なる余談だが、インド洋演習が行われた5月6日のイラストリアスの夕食は鶏肉料理だったそうである。

おわり

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最終更新:2015年07月14日 18:05