提督たちの憂鬱のキャラがギアス平行世界に転生
性格改変注意
提督たちの存在と歴史の変化によりギアス人物の過去も異なる






共通話8



結集計りし存在、それは史上最大のレジスタンス





皇歴2019年4月末日


極東では中華連邦より分離独立した新興国清と、清の属国でありながら南の大国と繋がっている高麗の胎動により動乱が巻き起ころうとしている中
もう一方の中心であるE.U.――ユーロピア共和国連合内でも長きに渡る政治腐敗のつけが噴出しようとしていた。




「欧州の犬めッ! この期に及んで更に税率を上げるだとッ!?」

怒りを露にしながら振り下ろした拳をテーブルへ叩き付けるのは濃い口髭を蓄えたトーブ・カンドーラと呼ばれる白い民族衣装に身を包んだサングラスの男。
男は憤懣やるかたないという様子で情報を持ってきたターバンの男に詰め寄る。

「四十人委員会のスポークスマン曰く、今までの低税率が金という血液の流れを悪くし、国を不況という名の病気に罹患させてしまったのだと息巻いておる」

経済というものは金の流れが正しく循環してこそ正常に機能する。
しかし一度国や個人が極端な蓄財と節約のみに走りだしてしまえば金の流れは堰き止められ、富の偏在が生じ、回るべき所に金が回らなくなる。
金が回ってこなければ物を買うことも出来なくなり、物が売れなければ店は潰れ、回す店が無ければ物も作られない。となれば製造業その物が止まってしまう。
社会や経済という血管に金という血液が流れなくなれば、やがては不況という名の病魔に犯され国は荒廃し滅び行く。
これは帝国主義・民主主義問わず、社会を動かしているのが貨幣である以上避けて通れない問題だ。

「その血液の流れを悪くし上流にダムを造って堰き止めているのは目先のこと自分達のことしか考えていない身勝手な欧州自身であろうがッ!」

しかしそれが人為的に行われているのならば、それは起こるべくして起こった不況であると言えよう。そして、人為的に起こす者達は皆自らの事しか考えない。
政治的無責任主義。大衆迎合主義。無関心主義。ユーロピアに蔓延る民主主義の末期的な病巣。
これらは総て自分達で作り出した悪性腫瘍であり、欧州諸国の国民と政府は何も手を打とうとはせずに唯症状が悪化していくのを黙って受け入れているだけ。
その影響を最も受けるのは常に後回しにされ切り捨てられる事となる地方。特にアフリカ地域や極東ロシアといった辺境と、そこに住まう国民達だ。

「王侯貴族を追い出したのも、ナポレオンを処刑したのも、民主政治を選んだのも、総て欧州の奴らが勝手に行い我々を巻き込んできたのではないか!
 我々はいつ如何なる時であろうと無関心でいたこともなければ上げるべき声とて上げ続けてきた! だが植民地扱いされている地方の声など欧州の連中は何一つ耳に入れようとはしない!
 奴らの言う大衆迎合の『大衆』に我々地方の民は入っていないのだからなッ!」

ユーロピア共和国連合という国は歪だ。
自由と民主主義を謳い、努力すれば報われる社会であるとされながらも享受できるのは全体の一部。
一部の富める者はより多くの富を得、今日食べる物にさえ有り付けない貧困層は年を追うごとに拡大。
雇用もなく住む場所もない路上生活者が増加し行く状況にありながら福祉政策は縮小の一途。
家が貧しいからと進学できない者に対しての救済措置であった奨学金制度も廃止。
5%の富裕層と95%の貧困層という明確な線引きが生まれ、努力の報われない資本主義・民主主義となりつつあった。

努力しようにも努力の場がない。
雇用しようにも雇用できる企業がない。
国庫に金がないので経済を立て直せない。

力も発言権も常に中央政府・欧州が握っていながら何ら国を良くする政策を打ち出さず、
目先の利益誘導を計っては膝元の欧州ですら廃れさせるという醜態を世界に晒し、現在進行形で荒廃を加速させていた。


地方政策などは更に酷く、貧困の救済を行わない上に現地政府の住民に対する横暴な振る舞いを取り締まるどころか寧ろ加担しているくらいなのだから、
これが本当に国民第一主義の民主国家、世界第五位の大国の姿なのかと疑いを持つほどだ。

なぜこうなってしまったのか。それは言わずもがな国家が傾く程の大不況と建国以来延々続く野放図な国家戦略に原因があった。
民衆の力で創り上げた人造国家には現代文明の命の源、世界一の財宝であるサクラダイト埋蔵量が少ない。
本当は国土を隅々まで調査していけば未知なる鉱脈が眠っているかも知れないというのに政府は調査を行ってこなかった。
豊かさを追い求めて始めた対外戦争も旧植民地にあったような小国相手ならばともかく、西へ進路を採りぶつかった極東の大国日本には逆に叩き返され、
大国中華連邦との幾度にも渡る国境紛争では敗北して国境線を北側に押し上げられる始末。
中央政府は『黄色い猿共の卑怯な戦法に敗れた』等の言い訳を述べていたが、日中戦争で日本に敗れた中華相手に劣勢を強いられている時点で、
国民は自国が中華よりも下であると認めざるを得なかった。
革命時に追い出した貴族達より財産を接収できなかった事で建国段階から躓いた国家財政。
立憲君主と絶対君主の日ブが突出している為に後塵を拝し続け、浮上することなく今日まで来た技術開発と国内産業。
20世紀に入ってからの戦争では敗戦続き。
多額の賠償金を日中に支払い領土まで削られたとなっては景気が良くなる要素は皆無である。
20世紀、21世紀、不況に続く不況。国難に続く国難に見舞われながら、それでも国が維持出来ているのはバラバラになれない世界情勢があるからに過ぎない。
そうでなければ疾の昔に地域ごとの分離独立騒ぎが起こり空中分解していたであろう。

そして地方諸国の者にとっては欧州人が持つ一種の国民病による悪影響もまた苦しみの一つ。
欧州社会に古くから根付いている人種差別だ。
昨今なりを潜めていたが極東の清国との対立が再び有色人差別を呼び覚ましてきたのだ。

元よりユーロピアの首脳――四十人委員会が口にする『大衆』とは欧州の民の事であり、アフリカや極東といった地方の住民、特に白人以外の人種は入っていない。
欧州の地方に対する差別意識は昔から何一つ変わって居らず、地方民は二等市民・三等市民であり、欧州の一等市民とは別枠なのだという区別すらされている。
当然の事ながら民主主義・資本主義の根幹の一つである『機会の平等』も辺境地域の住民には担保されて居らず、年を追う事に中央との格差は開いていくばかり。
更に長らく続く不況が欧州同様、それ以上の形と成って表れ、地方諸国を国丸ごと貧困層に変えてしまうという悪循環に陥っていった。
無論こういった状況に、若者を中心とした現地住民の不満が爆発し暴動へと発展するケースもあったが、その殆どは武力鎮圧され後に待っているのは苛烈極まりない徹底した弾圧。
国民主権たる民主国家で武力による弾圧など行えば普通は国民の手によって政権が崩壊するものだが、
欧州に広がる差別と無関心主義が腐敗した現政権を支え続けている為、不健全極まりない国家体制が今尚維持され続けている。

『遠いアフリカで何が起こっていても自分達には関係ない』

発言力も力も弱いアフリカ諸国は欧州諸国の心ある民衆に動いて貰うより手がないのが実情であるにも拘わらず、その欧州の人間が政治に無関心となっているのだから最早この国に自浄作用を期待するだけ無意味であった。
地方・辺境に関心のない欧州人は地方は地方行政府で面倒を見るべきだとし、二等市民以下の人間が住まう旧植民地であったアフリカ諸国の事など知らないと総てを丸投げにしていたのだ。

無論、欧州の人間にも言い分はある。

『国が傾くほどの大不況の中で他人の事など考えている余裕はない』

今を生きるので精一杯になりつつあるのは欧州の人間とて同じ。
差別主義者を除けば政府の地方政策はあまりに無責任なのではないかと考えている者もそれなりに存在していたが、自らや家族の生活とどちらを選ぶのかと問われれば彼等は迷うことなく自らを選ぶ。
これを責める権利はやはり地方民にもない。余程の正義感溢れる者でない限り、自らが同じ立場にあるのならば自分を優先するのが人間なのだから。

人は所詮誰かの犠牲の上に幸せを享受する。

誰かが幸せならば誰かが不幸になる。
皆が皆幸せを享受するのは不可能に近い。
今のユーロピアは欧州が不幸でアフリカ・極東地方は更に不幸という、より不幸にならないようにするため互いに不幸の押し付け合いをしているような状況にあった。
フランス州の大統領のように総てを現地政府に押し付けるのはどうかという最近になって意見を変えている政治家も少なからず居たが、所詮大勢ではなく極少数の意見でしかない。
ましてや白人至上主義な人種差別主義者の多い欧州人が、如何に自治権を与えたとはいえ有色人種や混ざり物の為に自らを犠牲にしようと思うか?
答えは『否』であった。

そんなことが幾度にも渡って繰り返されていればやがて体制に反旗を翻す勢力も出て来るであろう。サングラスの男が正にそれであった。
実際彼はレジスタンス組織『サハラの牙』を率い、アルジェリアを中心にマグレブ全域で欧州への抵抗運動を続けている。
彼が戦っている相手、今のユーロピア・アルジェリア行政府は欧州の犬と化しており、
欧州同様に自浄作用が働かないという民主主義の末期的状態に陥っていた。正しく欧州の地方版とでも言うべきそんな状況だ。
だが、いかに彼等が郷土を憂い抵抗運動をしようとしても、手榴弾や自動小銃、ロケット砲等の火器に少数のバミデスだけで強大な欧州軍相手に勝利を勝ち取る事など不可能。
欧州はアフリカなどの反乱を防ぐべく抵抗運動を行う政治集団やグループには徹底弾圧の姿勢で臨み、戦車や戦闘機、パンツァー・フンメルまでもを投入してくるのだからその戦力差は歴然だ。
国の土台が揺らいでいる中であっても対岸に位置するアフリカはマグレブ諸国への対応が迅速である辺り、流石は腐っても列強であると言えよう。
ならば何もせずにただ指を咥えて見ているだけなのか? そう問われれば一口に違うと断言する。
サングラスの男。サハラの牙の頭目でありマグレブ諸国内では『宰相』と呼ばれている彼は、自らが持つ人脈を頼り、
予てより友好的な付き合いをしていた知人に協力して欲しいと、本格的な武装闘争が可能となるだけの武器を売って欲しいと商談を持ち掛けたのだ。

「金ならば幾らでも用意する。欧州との継続的且つ大規模な闘争が可能となるだけの武器を売って欲しい」

ガナバディ。それが情報を持ってきた男の名であり宰相の協力者たる武器商人。
裏の世界では有名な技術屋にして、大金を積めば世界中何処へでも戦車やKMFを届けてくれるインド人の男である。
彼は得意先の一つであるサハラの牙とは設立当初からの付き合いがあり、同組織へは何かと肩入れをしていた。
事実、同組織において最大手の武器供給元がこの大柄の男なのだから信頼関係も並の物ではないだろう。

「相変わらず大した品揃えだな」
「期待に応えられるかどうかは分からんが、それなりに自信はある品を取り揃えているつもりだ」

ガナバディが手渡した写真にはマシンガンと固定キャノンが一対ずつ装備された無骨で丸みのある三本脚のKMFや、宰相も良く知る双頭のユーロピア製KMFパンツァー・フンメル等が写っている。
他にも中華、ユーロピア製の戦車や対戦車砲から機関銃・拳銃。中には日本製やブリタニア製と思わしき重火器まで多種多様な商品が、リスト化されたマニュアルには載っていた。

「しかし未だ純正のKMFは無いようだな。ラプラタ戦争でその有用性が示されたというアレがあれば、欧州人との戦闘も優位に進められるであろうに」
「無茶を言わんでくれぃ。純正KMFだけは日本とブリタニアが第三国に輸出を始めん事にはどうにもならんよ」

これだけ豊富な兵器を用意できる個人でやっている武器商人は世界広しと言えどガナバディくらいだが、それでも既存の陸戦兵器の概念を覆す戦闘力を持った純正のKMFだけは手に入れる事が出来ない。
皇暦2010年。南ブリタニア大陸東海岸中部に位置する国――ラプラタ民主連合共和国の全権を掌握した民主共和制原理主義組織の暴発により勃発したラプラタ戦争(南ブリタニア紛争)では
市街地・密林問わず、あらゆる環境下で高い機動性と地上走破性を発揮、まるでブリキの玩具を壊すかの如き容易さでラプラタの主力戦車を屠っていった人型機動兵器ナイトメアフレーム。
その戦闘力の高さと地上戦での有用性は、ラプラタに投入されたという情報が秘匿されていたにも拘わらず、時を追う事に第三国の知る処となっていたが、
開発国の日本とブリタニアが、保護国シーランド以外への輸出・ライセンスを認めていない為に実用化から二十年近くが経過した今現在でもその実態は謎に包まれている。

それ故に、今もって純正KMFの製造が可能な国は大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の二国のみであり他国では開発することすら不可能な先進技術の塊となっていた為、
日ブに対抗しようとする列強各国は独自開発を試み完成させる以外に道がなかった。
だが苦心の末に開発された中華連邦製の鋼髏やユーロピア製のパンツァー・フンメル、パンツァー・ヴェスペ、ガルドメアなどは所詮KMFに似せて造られただけのまがい物でしかなく、
本当の意味で実戦においての日ブ製KMFの対抗馬と成れているのかは甚だ疑問となる処。
列強で唯一蚊帳の外にいながら高度な技術力を持っていると目されるオセアニアならば既に開発・保有していても不思議ではない物の、
此方はそもそも鎖国状態にあり、名称さえ不明なオセアニア製KMFを手に入れられる可能性は日ブ製KMF以上に低く、まるで話にならなかった。
但し、宰相は物には例外もあるという事を知っている。

「しかし、先頃日本近海で拿捕された船から高麗製のKMFが発見されたというではないか」

そう、大した国力もない極東の小国高麗が二大超大国しか開発できない純正KMFらしき物を保有している。しかもそれを海外に輸出しようとしていたという。
となれば世界でも一、二を争う程に優秀な武器商人ガナバディなら既に実物を手に入れているのではと考えたのだ。
しかし生憎と宰相の期待する返答を彼は持ち合わせていなかった。

「残念だが手に入れてはおらん。仮に手に入れたとしてもあの様な粗悪品を良品に改良したりするのはほぼ不可能だ。
 やってやれない事はないが費用対効果ではマイナスになるからのぅ。ましてやそのまま売るなど商人のプライドに掛けてもできんよ」
「そんなに酷い物なのか?」
「酷いなんてもんじゃあない。摘発した日本で調査が行われておるようだが、操縦した陸軍のKMFデヴァイサーが幾人か病院送りになっておるらしい。KMFのプロとも言える日本軍のデヴァイサーがだぞ」

事実日本ではガナバディの言葉通り調査の途上で何人もの陸軍KMFパイロットが怪我をしている。
その中には『若い軍人が弛んでおるから高麗製KMF如きに舐められるのだッッ!』
と調査に当たっていた責任者の一人で、意気揚々と自ら乗り込んだ帝国陸軍大佐草壁如水も含まれていた。

「それにアレはブリタニアから漏れた技術を手にした中華連邦の宦官派が開発した品が流れ出た物だというから、高麗が開発した物でもない」
「宦官が?」
「ああ、高麗には宦官派……詰まるところ清国以外でまともな外交関係がある国は無い。
 宦官共が中華連邦――中華帝国にいた頃は高麗もまだ中華と付き合いがあったのだが、
 その最大の後援者である宦官が追い出された以上は中華にとってお荷物でしかないからと早々に縁を切っておるよ。
 何せ高麗と来たら何もできん癖にやれ『竹島がー、対馬がー、』と日本を煽るような事ばかりしておるでなあ。
 インド軍区もとばっちりを受ける可能性があるとして、中華帝国側に再三高麗との国交断絶を提案しておったわい。
 知って居ると思うがインドも昔中華に付き合う形で日本とかち合って酷い目にあった事があるから高麗のおかしな主張を耳にする度に気が気ではなかったよ」

インドには日中戦争で当時のインド軍区代表が大宦官の甘言に乗せられて、日本と連邦が係争中であった海南島と日本領台湾制圧の為に
南シナ海へと送り込んだ連邦海軍インド洋艦隊を半壊させられた苦い経験がある。
インドはあの一件から日本との武力衝突に発展するような危険を極力避けつつ、太平洋進出を堰き止められたことから反日姿勢を明確にしていた宦官達とも完全に関係を切っていた。
太平洋戦争で明らかにされた日本の圧倒的なる技術力と物量を目にして、連邦の不穏分子である高麗半島を切り捨てるべきだと真っ先に発言したのも時のインド代表。
このときはまだ日中戦争の敗戦から宦官が権勢を取り戻していない時期であったのと、時の天子も聡明な人物であった為にすんなりと事が進んでいた。

『高麗半島の民を中華より切り離すことは出来ぬか?』

インド代表に先立って述べられた天子の一言に、中華も少しは良くなるのではと見直され、
同時に宦官制度はいずれ連邦を荒廃させる要因となるのではないかという懸念をインド側に抱かせた時期でもあった。
とにかく連邦が日本と衝突する要因は僅かたりとも残してはならないとインド軍区は動いてきたのだ。

「日本との緩衝地帯としてある程度は影響力を残そうというのが半島を切り離した後、次の天子へと変わってから、
 宦官の権勢が再び強まってきてからの中華帝国の方針であったらしいが、
 インドから言わせてみればとんでもない話だった。いやはや中華の連中がやることには毎度苛立たしい思いをさせられたものだ」

その宦官達を切り離す歴史的快挙が成し遂げられたことに一番喜んだのは実はインドなのかも知れない。

「少し話が脱線してしまったが、要するに高麗には日ブが開発したような兵器を独自開発できるだけの国力も技術力も無い。
 となれば自ずと答えは出て来るだろう? 少し前にも宦官と通じていたとされるブリタニアの貴族が幾人も逮捕されている。
 随分と前からの付き合いであったとされとるから、大方純正KMFの設計図か何かが渡っておったんだろ。
 高麗製KMFがサザーランドと類似しておったからには、恐らく清国が手にしたのもサザーランド相当の機体だ」
「清国がサザーランドを手に入れて、保有しているやも知れぬと?」
「そういうことだ。独立したばかりの清国が大国E.U.相手に高飛車な態度を崩さぬ処か、今にも攻め込まんとしておるのが何よりの証拠となっておるからのぅ。
 つまり中華もE.U.も、揃って宦官共に出し抜かれた訳だ」
「成るほどな……」

国際政治の裏事情に詳しいガナバディの話を聞いて高麗のKMFの謎に一応の解を得た宰相であったが、だからといって清国へ打診してみるのもとは考えたりしない。
清国が独立時に開催された六カ国協議の席で日本への挑発を行った事。以前より日ブと宦官派の関係は良好であったとは言えない事など国際社会では常識だ。
敵の敵は味方というがそれも相手による。日本と敵対してでも清国製KMFを手に入れるだけの価値があるのかどうか? 一考の余地すらないだろう。

「何れにせよメイドインコリアの不確実な物を手に入れたところで御得意様である宰相さんに売るわけにはいかんよ。清国から買い付ける等の危ない橋を渡ろうとも思わんしな」
「そうか……、ん…・ならば仕方がないな」

武器商人としての腕は確かな男がここまで貶めたように言うのならば余程扱い勝手の悪い粗悪品なのだろうと、一時はKMFの取得を期待した宰相も諦めるしかなかった。
下手に手を出して乗り込ませた部下を事故で失うなど笑い話にもならない。

「ではフンメル20騎に鋼髏50騎。中華製98式120mm対戦車ロケットランチャー150。至急用意してくれ」
「やけに多いじゃないか。何かでかい作戦でも考えているのか?」
「……ペジャイア基地をやるつもりだ」


ペジャイア。ユーロピア共和国連合アルジェリア軍の要衝である大規模な軍事施設。マグレブ地方防衛拠点の一つだ。

『極東で欧州と清国が激突する時に乗じての総攻撃』

宰相の言葉に訪れる暫しの沈黙。これを断ち切ったのは他でもないガナバディだった。

「無茶だ……。お前さん死ぬぞ」

レジスタンス組織『サハラの牙』はマグレブ全域に支援者を持ち中核構成員97,000名と規模が大きく資金も潤沢。
とはいえ、所詮はアフリカの一武装勢力に過ぎない。
10年ほど前に南ブリタニアで大暴れしたようなペンタゴン級の戦力も無ければ、何十万もの兵力がある訳でもないのだ。
今までのようなゲリラ戦に徹するのならばともかくとして、アルジェリアの要衝ペジャイアを攻めるともなれば、E.U.正規軍との正面戦闘を覚悟しなければならない。
残念ながらサハラの牙にE.U.正規軍を打ち破る程の力は無く、ペジャイア襲撃作戦などという無謀極まる作戦を実行に移せば一人残らず全滅するところが容易に想像出来るというもの。

「だが死ぬ気でやらねば何も変わらぬ! それともお前はこのまま身勝手な欧州に搾取され続けるのを我慢していろとでもいうのか!?」

激昂する宰相。彼の言い分はわかる。ガナバディも裏家業をしている都合上欧州の金権政治や中華連邦大宦官の専横の実態を嫌と言うほど目にしている。
そも彼の扱う商品に欧州製がある時点でユーロピア軍からの横流しによる裏ルート――不正行為が罷り通っているという証拠となっているのだから。
中華連邦も宦官達が居た時代の裏ルートが幾つも存在しているから容易に商品を入荷できるのだが、それに比しても欧州はザルの様な状態であった。
これが日本製やブリタニア製となると銃器一つであっても途端に入手困難となり、せいぜいが第三国輸出分のスペックダウン型が手に入るかといった程度で、多くを仕入れるのには困難を極める。
鎖国状態にあるオセアニアもどうやら独自開発したKMFを配備しているらしいと裏業界の情報屋から耳にしていたが、此方も日ブ同様に入手不可な状態だ。
それらと比較して欧州製が幾らでも手に入るのは、正しく政・官・軍、そして人心までもが腐り切っている証しであるとも言えた。

「お前さんの気持ちは分かる。お前さんを含むマグレブの住民の気持ちはな。だが今少しの間待つことは出来んか?」
「待つ? 一体何を待てばよいのだ。国際政治にも詳しく欧州のやり方を熟知しているお前ならば、今の奴らに期待できる物など何一つ残されてはいないという事が分っている筈だ。
 それに少し待った処で何が変わる? 待てば待つほどにマグレブの民の苦しみは長引き、無用な犠牲を産むだけだ」

サングラスで隠れたその瞳はガナバディの小さな一言に対し静かな怒りの炎を燃え上がらせていた。
このままでは近い将来民の暮らしは破壊される。アフリカの生き血を啜りながら今まで生きながらえてきた欲望塗れの欧州に……
奴らに骨の髄まで吸い尽くされれば、その先に待っているのは慈悲無き結末しかないと切実に訴える宰相。
だがそれでも今暫し待てとガナバディは迫った。

「………そこまで引き留めるからには何か理由が有っての事であろうな? 待つに値する何かがあるというのならば待つことも吝かではないが、
 唯危険であるから、適わないからという理由でならば最早私とサハラの牙は止まらんぞ?」

玉砕の覚悟は固めている。例え勝ち目は薄くとも誰かがやらねば何も変わらぬ。我らが散ることで後に続く者達が必ずや現われ、いつの日か欧州の搾取より解放される日が訪れる。
総てがたら・ればの希望的な話に過ぎないが、追い詰められた者達は止まらないだろう。
何か一つの切っ掛けさえあれば崩壊してしまうであろう程に荒廃し切ったユーロピアは、彼らの血の犠牲により分解が早まるかも知れない。
そうなれば南アフリカを除いて植民地扱いを受けているアフリカの国々も利益誘導の不当な圧政から開放される可能性は一層高くなる。


だがガナバディは犠牲を抑えられる道があるのならばそれをこそ選ぶべきではないのかと説得する。
流れなくても良い血。失われずとも良い命。その一滴一つが消えいくのを阻止したいが為に。

「理由ならばある」
「なに?」
「理由はあると言った。お前さん達に待って貰うだけの理由がな」

今日、彼が宰相との大口の商談に応じたのは、何も利益を得る為にだけや単なる仕事の一環としてのみではなかった。
犠牲を抑えた上で圧政からも解放される道がある。これを伝えに来たのだ。

「お前さんはユーロ・ブリタニアという組織、勢力を知っているか?」
「無論知っているとも」

ユーロ・ブリタニア。200年以上前に起こった欧州共和主義革命の際に、当時のE.U.統治者であった各国の王族・貴族の子孫達が神聖ブリタニア帝国にて結成した貴族の連盟。
現在ユーロ・ブリタニアは欧州奪還を目指して予備役と志願兵を合わせ凡そ4,500,000の総兵力を持つ正規軍を組織している。
そして欧州大陸を席巻する為に必要なその大兵力に加え、陸海空の戦力もユーロピア軍を撃破するに足る物を要求し続け大きく膨張していた。

満載100,000t級大型航空母艦ルイ・シャルル級10隻。
主力水上艦艇220隻、潜水艦90隻、揚陸艦艇400隻、他補給艦・支援艦・ミサイル艇・哨戒艇・掃海艦艇等280隻。
第5世代戦闘攻撃機5,100機含む主要作戦機7,900機、VTOL4,600機。
アヴァロン級浮遊航空艦7隻、カールレオン級浮遊航空艦24隻、第5第7世代KMF8,500騎+予備機第4世代グラスゴー5,300騎(日本スメラギ製・ブリタニア製混成)
G-1ベース30両、第3~4世代戦車14,000両、装甲戦闘車両29,000両、自走砲・野戦砲:21,000門、各種兵員輸送車等作戦車両多数。

一組織・勢力でありながらも南ブリタニア全域、ペンドラゴン以南のブリタニアの一地方である中央ブリタニア地域・カリブ海地域に大きな権益と支援者を持ち、
勢力全体の総合力としては世界第三位の大国オセアニアに匹敵するのではないかと目されている歴史上初めて現われた国土無き大国は、
ブリタニア大陸東海岸・ブリタニア北部・カリブ海に拠点を借り受けつつ、
“その時”に備えての強大な軍事力を作り出せる国力……いいや、組織力を蓄えていたのである。
彼等の戦力はその総てが守る戦力に非ず。侵攻作戦の為の戦力。
間借りしているブリタニアの防衛も担っては居たが、“その時”は全力攻勢へと転換するという約定も定められていた。
防衛力であり攻撃力である日本軍ともブリタニア軍とも性質が異なり、純粋に攻撃力としてのみ存在するのだ。
守る物のない彼等だから、父祖の地の奪還のみを目指す彼等だからこそ整備可能となった軍隊。
つまり事を起こすときにはユーロ・ブリタニアの全軍がブリタニア大陸の各所から出撃する事になるという、正しく侵攻軍としての性質を持って組織されていたのである

無論彼の勢力がこれ程までに巨大化できたのは日本・ブリタニアという他とは比較にならない二つの超大国よりの莫大なる支援があったからに他ならず、
組織一つで此処までの勢力に成長することは不可能であった。(日本はユーロ・ブリタニアの欧州復帰後を睨んだ支援でかなりの特需を得ている)

間借りしているブリタニア大陸という広大で肥沃な国土とブリタニアが持つ大きな生産力。
日本が持つ高度な技術力と膨大なサクラダイトの低価格供給。その総てを享受できる位置にある幸運。
総てが複雑に重なり化学反応を起こして変貌した欧州貴族連盟組織――ユーロ・ブリタニア。

「なんとも想像を絶する『レジスタンス組織』よ……」

これと比較した時、己が勢力サハラの牙のなんと儚く小さな事よ……。
比べても意味は無いのだが、それでもサハラの牙にユーロ・ブリタニアの百分の一の戦力でもあればと考えずには居られない。
ガナバディの話に己の非力さを痛感し唇を噛む宰相であったが、続く彼の話に目を剥いて驚く、または放心状態に陥る羽目になるとは、よもや思いもしなかったであろう。

「その大レジスタンス組織がどうかしたのか?」
「うむ……。実は先日な。そのユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団に所属しているアキトなる御仁と面会する機会があってな」
「聖ミカエル騎士団のアキト?」
「ああ、下の名を名乗らなかったが恐らく間違いないだろう。ミカエル騎士団序列第二位――シン・ヒュウガ・シャイングの弟殿だ」
「なんだと? ミカエル騎士団のシャイングの弟?」

ユーロ・ブリタニア精鋭四大騎士団の一つ、聖ミカエル騎士団。国無き国家勢力ユーロ・ブリタニアが誇る欧州奪還を目指して組織された正規軍より選りすぐられた300,000人規模の一大騎士団だ。
同規模のラファエル・ガブリエル・ウリエルと合わせて1,200,000ともなる四大騎士団は、ユーロ・ブリタニア軍の通常軍とは別の同組織中核騎士団としてその名声を轟かせていた。
ラプラタ戦争後より暫しの間続いていたペンタゴン残党による南ブリタニアの紛争や人質事件にも積極介入し、
同じく派遣されていた日ブの対テロ対策部隊と共に、史上初と成るKMF機動戦闘を世に披露したのも同騎士団から派遣されたアシュラ隊と、シャイングの懐刀であるアキトの部隊であると言われている。
(一説には邦人救助とは別に、日ブユで当時第4第5世代機が中心であったKMFの実戦テストデータ採取の為の介入とも言われている)

「そのアキト氏からサハラの牙に伝えてくれと言われていた伝言だ」


『バラバラに戦っていては簒奪者の国に傷一つ負わせることはできない。今は堪え忍ぶときであり新たなる時代を担う優秀な者達の犠牲を最小限に抑えてほしい』


「新たなる、時代」
「遅くとも2020年代後半には全てが動き、2030年代には夜明けが訪れる。その時に備えての連携を模索していきたい。だそうだ」
「そんなにも早く……。それに我らサハラの牙がユーロ・ブリタニアと連携?」

武器商人ガナバディは裏の交友関係がとても広く、日本やブリタニアの暗部組織にも知己が居る。
今回の話、聖ミカエル騎士団序列第三位のアキトと目される人物と面会できたのもブリタニアの暗部組織、プルートーンの次代を担う騎士。
ブリタニアのジヴォン家嫡男オルフェウス・ジヴォンの紹介であった。

レジスタンス組織が無謀な攻勢を続けることにより、欧州民主勢力が経済問題から国民の目を逸らす為の大規模な弾圧を始めたりしないか?
またそれによって無辜の民の犠牲と共に、新生するユーロピアに必要であるマグレブ地方の優秀な人材が失われたりしないか?
そんな危惧を抱いたユーロ・ブリタニアはアフリカ各地で活動しているレジスタンス組織のこれ以上の暴走を抑える為、
そしてレジスタンス組織と共闘態勢を築き外と内からの総攻撃を行う下準備として紛争地域の情勢に詳しく、幾多の武装勢力とも関係の深い武器商人ガナバディと接触していたのである。


「それは……、それは我らを……我らサハラの牙を、ユーロ・ブリタニアの一翼を担う友軍として迎えるということなのか?」
「詳しくは話を伝えてサハラの牙の反応を観てからと言っておったが、まあそういうことで間違いなかろうて」

200年以上も続く計画性無き国家運営により最早滅び行くしかなくなってしまった欧州。
ユーロ・ブリタニアはその欧州を腐り切った簒奪者から取り戻し、民が安心して暮らせる平和で豊かな国へと造り替えるという大望の元、欧州解放を目指している。
簒奪者の圧政よりの解放を目指すサハラの牙は正に自分達と同じ志を持ち同じ目的に向かって歩む同志。それはサハラの牙にとっても同じなのではないか。

「玉砕覚悟の無謀な闘争を行うのではなく、生き残って新しい国作りに参加してほしい。その為には個別に戦うのではなく力を合わせて共に戦うことが大事だ。
 もしお聞き入れ頂けるのならば後日改めて会談の場を持ちたい。それがアキト氏……ユーロ・ブリタニアからサハラの牙へ宛てられた伝言だ。
 どうだね宰相閣下。待って貰うには十二分過ぎる程の理由であるとは思わんか?」
「……」
「それに宰相。お前さんもマグレブ王族の末裔だろう?」


マグレブ王族の末裔。かつてマグレブ地方に存在していた王朝の子孫。

「さてな……そのような大昔のこと、誰も覚えてはおらぬよ……」

ガナバディの唐突な話を受け流した宰相であったが、確かに間違ってはいない。
彼は欧州革命の発端である1789年までフランス王国の庇護下であったマグレブ王国。
現在のアフリカ北部マグレブ地方北西部に存在していた王朝の血を引いている。

皇暦1789年のフランスに端を発した欧州の民主化を目指す民主主義、共和主義の革命。
この民衆中心の革命では政治を国民の手にという言葉を御旗に『王族貴族の存在は此を認めぬ』と欧州王侯貴族達が次々と断頭台に掛けられていった。

悪政を敷いていた者は当然として、民の暮らしを第一に考え、弱者救済の善政を敷いていた王も、王の血族も、貴族の子弟達も、
生まれて間もない幼子すらも、老若男女問わず王族貴族とその血を持つ者全てを処刑していった。
同じ頃、欧州が王族と貴族と王統派の血で真っ赤に染め上げられていく中で、マグレブの王朝もこの革命への対応に迫られていた。

次々と名乗りを上げる旧宗主国と友好国に成立していった民主共和制の新政権を認めるか認めないか?
認めて恭順の意を示す為に王室を廃し、革命勢力へと下るか?

しかし時の王は、王と国民は、欧州諸国の革命政権を認めないという道を選ぶ。

『フランス王室は長きに渡る恩人である。余は、余とマグレブの民は、友ルイ16世陛下と御一族を排斥せし簒奪者の新政権此を断固として認めぬッ!』

君主制とは相容れない革命勢力の姿勢を目の当たりにした時の国王は、フランス王国改めフランス共和国(ユーロピアフランス州)となったかつての宗主国との国交を断絶。
鎖国体制へと舵を切りつつ欧州より逃れてきたフランス王ルイ16世と王妃マリー・アントワネット始め幾つかの国の王族・貴族・王統派脱出の手引きを国を挙げて行った。

保護された欧州の王族貴族は幾多の協力者とマグレブ王室の支援を得てその後新大陸へと渡り難を逃れることができた。だが革命政権を認めないとし、
欧州国民の敵たる貴族を逃がす片棒を担いだマグレブに待っていたのは救い無き未来。

皇暦1815年。革命の混乱が終息しつつあった欧州フランス共和国は、ルイ16世とその家族の逃亡を手助けしたマグレブを『人民の敵』『テロ支援国家』と断定。ドイツ・スペインと共に同国へと侵攻。
元より大国フランスへ抗う術もないマグレブは懸命なる抵抗と国民の多大なる犠牲を払いながらも僅か2年で全土を制圧され降伏。
国土はモロッコ、アルジェリア、西サハラに解体、王国は欧州革命勢力の分割統治下におかれ滅亡。当時の王とその一族は断頭台の露と消えた。

こうしてマグレブ王室の血脈は途絶えた――かに見えたが、たった一人だけ生き残った者が居たのだ。

それは当時まだ生まれてさえいない小さな命。
最後の王が一度だけ関係を持ち身籠もっていた市井の女性。
彼女の産んだ子。

その赤子こそが宰相の祖先であった。



「お前さんがマグレブの民の未来を憂いておるのはそんな自身のルーツも関係しておるのではないのかのぅ」

世が世ならマグレブの王であったサングラスの男。
政治体制や主義思想などどうでもいい。マグレブの民が幸せならばそれで。
そう願うのは父祖の血がマグレブの民の安寧を求めているからではないのか?
彼はそう迫る武器商人の言葉にただ聞き入るだけ。

「お前さんの先祖は人助けをして国を滅ぼしたが、それは国民皆が共に望んだ信義に基づいてのことだ。
 それにあの当時の情勢下では仕方が無い。革命勢力は自分達の旗頭であるナポレオンまでも断頭台に送りおったのだから、
 時の王が暴走する民主勢力を危険だと断じ国交を断ったのも間違ってはおらんし、国丸ごと王統派のようなものであったマグレブに待っていたのは
 遅かれ早かれ大粛正だったろう。だが今は違うぞ。今のお前さんには選択肢が与えられとる。無謀な作戦で玉砕し、欧州よりの更なる弾圧を誘発させるか?
 それともかつてお前さんの先祖が助けた者達と共に戦い、今度こそ民を苦しみから解放するのか?」

極東での戦争に乗じる無謀な決起か?
それとも今暫しの間堪え忍び、万端の準備を整えた後にユーロ・ブリタニアと歩調を合わせて一斉蜂起か?

「…………」

どちらがより良い未来をマグレブの民にもたらす結果となるか。
それは考えるまでもない事。

「それとな、先方が真っ先にサハラの牙を指定してきたのもサハラの牙が有力組織であるからではないぞ? 連中もお前さんの出自を調べ上げた上で声を掛けてきておる。
 義理堅い彼等は忘れておらんのだよ。お前さんの先祖がフランス王族を助けた過去をな」
「……ふん。自分でさえ忘れている個人情報が駄々漏れではないか」
「要するにそれくらい調べるのは朝飯前な組織力を持っておるということだ」




後日、日ブの傘の下で平和を謳歌している中東の国クウェート王国にて、サハラの牙とユーロ・ブリタニアの共闘を確たる物とする調印が成された。
事実上サハラの牙がユーロ・ブリタニアの傘下組織に収まるといった内容であったが、宰相は組織規模の圧倒的なる差からして当然の事と受け入れる。
勝ち目のない絶望的な戦いが勝利を手にする為の戦いへと変わったのだから、なぜに否やと唱えられようか。


ユーロ・ブリタニア聖ミカエル騎士団次席シン・ヒュウガ・シャイング。
ブリタニア帝国ジヴォン家オイアグロ・ジヴォン、オルフェウス・ジヴォン。
ブリタニア帝国ボッシ辺境伯家アルベルト・ボッシ辺境伯。
加えてクウェート訪問中であった大日本帝国の吉田茂特使までが会するという、とても一レジスタンス組織との共闘に関する調印とは思えない面子に
ユーロ・ブリタニアが本気であると知った宰相は、近い将来実現するかも知れないユーロピアの、そしてアフリカの夜明けに思いを馳せるのであった。


アフリカで最も大きなレジスタンス組織サハラの牙がユーロ・ブリタニアの傘下に収まった。
これは瞬く間に他の反体制組織にも知れ渡り、各個バラバラで動いていた彼等は次第に一つに纏まる動きを見せ始める。

『ユーロ・ブリタニアと共にアフリカ解放を目指す』

希望のない彼等の戦いに希望の火が灯り、燃え盛る業火となったのだ。

勢い止まらぬ欧州貴族連盟――国土無き大国ユーロ・ブリタニア。
欧州解放を目指す『レジスタンス組織』ユーロ・ブリタニア。

彼等と一体となって闘争を始めた者達は皆感じていた。

夜明けは近いと……。

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最終更新:2015年07月16日 18:24