あけましておめでとう御座います。
短すぎますが一つ投下します。



新年小ネタ


嶋田・ユーフェミア。


ゴーン……

鳴り響く鐘の音は百八つ。
人間が生まれながらにして内に持つとされる煩悩の数。
ただ静かに、心の奥へと染み渡るかの如き静謐なる音が、深夜0時を越えても尚、帝都に響き渡っていた。


「あけましておめでとう御座います」

折り曲げた脚部。膝を揃えて畳に手を突き深々と頭を下げるのは神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。
下げた頭に桃色の髪が流れ、畳へとこぼれ落ちている。

「あけましておめでとう」

その挨拶を受け、彼女と同様に揃えた膝に向い頭を垂れるのは、大日本帝国元宰相――嶋田繁太郎。

「我が身はブリタニア皇族という身の上故に、ご迷惑をお掛けする事も多きことかと存じますが、どうかこの一年、公私共々に宜しくお願い致します」

ブリタニア第三皇女という己が身の上。
特殊な身分にあるが故に嶋田へ掛かる某かの負担や物事もあろう。
それを承知で今年も宜しくという彼女は、何があってもけして離れはしないとの意思を込めて新年の挨拶とした。

「いえ私の方こそまだ不慣れな日本での生活を送り、駐日大使補佐官という大役をお勤めなされますユーフェミア殿下を公私共に支えられる一年と致したく」

元宰相。現在表向きは民間人である自身は、少し肩の荷が軽くなっている。
夢幻会という大役には未だ就いているとはいえ、ブリタニア皇女として第一線にて働く年若い彼女に比べれば。
そう考えている故に嶋田は年長者として。そして政治の世界に於ける先達として、彼女を支えて上げたいとの思いを告げる。

それは一年の始まりの挨拶。

仲睦まじき普段の二人からすれば余りにも他人行儀とならざるを得ない挨拶は公としての物。

目下の嶋田は目上のユーフェミアが頭を上げるのを待ち、彼女に次ぐ形で頭を上げる。

どんなに仲が良くとも公私を分ける。共に持つ肩書きを考えれば当たり前のこと。
元宰相であり日本帝国伯爵と、ブリタニア皇女。
目上はどちらなのか? 上座に座るべきは? 無論、それはユーフェミアに他ならない。

だがそれは公に於ける挨拶であって、本来在るべき私での挨拶ではないからだ。
だからこそ、そんな堅苦しい公の挨拶はいち早く済ませて、普段通りに接しようという思いが――

「ユフィ、今年も宜しく」
「わたくしの方こそ、宜しくお願い致します」

続く挨拶には込められていた。






玉城・クララ。



威勢良く髪を逆立てた青年が、深夜0時を過ぎた寒い屋外を震えながら歩いていた。

「ああくそっ、寒いなあァ」

片手にはウイスキーの瓶が握られている。
外が寒ければ懐も寒い青年には過ぎたる買い物であったが、この寒い夜に呼び出されて、何も口にせずに歩くなどできそうもない。

「ったく、あのピンクちびめ……」

ぶつくさ文句を言いながら酔いの回った身体でふらふら。
足下のおぼつかない様子だが、それもそのはずだ。ついさっきまで友人と飲んでいたのだから。
どうせ明日は元旦で碌に店も開いてないし、外へ行く予定もなかったので夜通し飲んでやるつもりだった。
高校卒業後に知り合った気の合う連中で杉山と南というのだが、彼等と飲んでいたときに電話が入ったのだ。
断る……という選択肢は無い。
正確に言うのなら、その選択肢を真っ先に潰されてしまった。

「何が“今すぐ家に来なきゃもうお金貸して上げない”だ畜生……」

死活問題だ。
電話の相手が融通してくれたから先月もどうにかなった。
財布の紐を握られているではなく、正しく“生殺与奪の権利が向こうにある”状態。
ぎりぎりの生活を続けている青年には冗談では済まされない。
サラ金に走らないで済んでいるのはその電話相手と電話相手の父親のお陰なのだから。


「お~に~い~ちゃんっ!」
「うわァ!!」

電話相手の家近くまで来たとき、何者かに背後から飛び付かれた。
酔いが回る頭では後ろに気をやる余裕もない為に、突然の衝撃を喰らいびっくりしたのだ。

「あけましておめでと~」

振り返るまでもなくこんなことをする知り合いは一人しか思い当たらない。

「てめっクララっ!! いつもいきなり沸くなって言ってるだろっ!!」

電話の相手こと、クララ。

「沸くってなに沸くって。こんな可愛い女の子捕まえてボウフラみたいに言わないでよ」
「言われるのが嫌なら気配消して後ろから飛び付くなっ!」

振り返ると其処に立っていたのは頭一つ分低いピンクのロングヘアと瞳が特徴的な予想通りの少女。

「む~り! だってクララはスニーキングのプロだよ? お兄ちゃんをスニーキングするなって、それ死ねと同義だから」
「怖いんだよ! なんだよスニーキングのプロって!」

そう、こんな少女だクララ・ランフランクというのは。

「まあそこは置いといて」
「置くなっ!」
「呼んだのはね。初詣行こうって思って」
「初詣だァ~?」

初詣。年明け一日に神社へと参ること。
青年は良く嶋田神社へ行くことが多い。
なにしろ官僚やら政治家やらを目指す手前、大宰相を輩出した神社へ行けば御利益があると思う故に。
しかし、こんな真夜中から行くことはなかった。

「早すぎるだろお前。いま何時だと思ってんだよ馬鹿」

0時30分。草木も眠る丑三つ時よりも前だ。

「早く行った方が御利益も大きいよ多分。だってほら早行きは三文の得って」
「早起きだろ。勝手に作るな」
「それにお参りの後に、初日の出観たいもん」

どうせ行くなら両方とも行こうというらしい。
勿論大好きなお兄ちゃんと――というのが、クララが彼を呼び出した理由であった。

「ったくしょうがね~な~気持ち良く飲んでたのによォ~。ま、いいわ。おっさんには?」
「もちろん許可取ってきたよ。パパも誘ったんだけど、こんな寒い日に真夜中出掛けるとか年寄りにはキツイんだってさ」
「なりはガキみたいな身体してる癖に……。やっぱ中身はジジイだなあのおっさん」
「お兄ちゃん、クララの肩に捕まって。そんなふらふらじゃ転げちゃうよ?」
「お、おう…、悪い」

千鳥足の青年を慮り肩を貸すクララ。

(お? 風呂上りか? 髪から石鹸の匂いがする…って、だからなんでクララ相手にんなこと考えてんだ俺ェ……!)

煩悩を討ち払う鐘。
それはこの青年とは無縁のようであった。



V.V.・ロロ・ゲンブ。



「それでは行ってまいります」

玄関に佇むのは自らの護衛も兼ねる少年。

「うん。まあ楽しんでおいで」
「しかし、本当にいいのですか? 僕は父さんの護衛でもあるのですが……」
「気にしなくていいよ。この平和な日本で誰が僕を狙うっていうのさ。それに僕は不死身だよ?」

兄さんに誘われた。
滅多なことでは自己を優先しない彼だが、こと兄と慕う甥の言葉は父である自分よりも優先する帰来がある。
無論甥の妹ナナリーも大事に思っているのは生活をともにしている関係でわかっていたが。

「逆に君やルルーシュの方が心配だよ僕は。ナナリーには最強のナイトが付いている分安心だけど」
「父さん、僕やジェレミア卿を舐めないでくださいよ?」

本音は心配など杞憂であると知っている。なにせ、彼らにはヴィ家の精鋭が護衛についている。
共に行動するナナリーのナイトこと、枢木スザクも居るのだから心配するだけ無意味。

「風邪だけは引かないように」
「わかってますよ」
「いってらっしゃい──ロロ」


玄関を出る息子の向こう側には大勢の人が列をなしていた。

(枢木家とヴィ家の護衛……物々しいな)

娘を先に外に出したのは正解だった。
娘が惚れているあの駄目ニートにこれを見せる分けにもいかないから。

「特に、あの車に現役総理が乗ってると知ったら、あの馬鹿のことだから紹介してとかいうに決まってるしね」

官僚・政治家を目差している駄目ニートには刺激が強すぎるだろう。

「まさか新年一発目が枢木神社へ初詣とは思わなかったよ」

夜中にお忍びとはいえ現役総理大臣である枢木ゲンブが訪ねてきたのだから、ここら一帯は戒厳令さながらの事態になっていた。

“宜しければV.V.殿も如何ですか? 我が枢木神社は──”

といった感じで自身も誘われたのだが、こんな寒い日に外に出る気はしない。

「そう考えると、僕も年取ったな……」

肉体年齢は10前後のころに停止したままだが、感性というか感覚的に年を取ったと思う彼は、一人静かにコタツへ潜りテレビをつけた。

「老人は老人らしく、暖かな家でのんびりとした正月を楽しむことにしますか」





終わりです。
即興ネタ失礼しました。
できればこの手のネタは山本・リーライナ、嶋田・モニカ、南雲・ドロテアといった別の組みも書きたいですね

リクエスト頂いた分も少しずつ書いておりますので気長にお待ち頂けたら幸いです。

それでは、良きお正月をお過ごしくださいませ。

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最終更新:2015年07月16日 18:52