夢幻会転生・憑依系のオリジナル設定日本大陸ギアスです。

パラレル系ギアス作品の単語や描写が有ります。

サンライズ様公式のコードギアス正史である「漆黒の蓮夜」の単語・人物背景を元にした要素が有ります。

一部オリジナルキャラが存在します。





漆黒の髪。

黒真珠のような輝きを持つ瞳。

平凡な東洋人の容姿に、されど東洋人ではない。

そんな一人の青年が目を覚ました。




深い眠りから目覚めた青年は、どういう訳か混濁している記憶を少しずつ掘り起こしながら辺りを見回す。

(ここは、どこだ……?)

知らない部屋だ。

内装も、周囲の様子も、自身の家の屋内とまったく異なる造り。

(俺は、確か……)

家にいた。
静かな余生を送る終の棲家で眠りに就いた筈だった。

睡眠とは異なる、長き眠りに……。

(じゃあここは)

青年の思考に浮かんだ答えは、たったひとつ。

(黄泉の国?)

辿り着いた答えは、“それ”に帰結する経過を辿りココへ来たが故のものだ。
この身は数刻前に時の終わりを迎え、その役目を終えた筈だとして。

(そうだ。俺は確かに死んだ筈だ)

自分の身体のことだ。誰に言われるでもなく分かっていた。

思うように動かせなくなった頃より感じていた己の死期。
それをここ数日の間は特に強く感じていた。

悟りの境地とでもいうのだろうか? 
人間、不思議といつ頃かというのが見えてくるものだ。

その予期していた通りに訪れた。
予定通りに迎えた『その日』。
彼は薄れ行く意識のなかで騒がしかった日々の情景が思い出しながら。
“その時”を待っていた。

仕事をしていたとき、ふと気が付けば西暦1905年――日本帝国海軍巡洋艦和泉の艦内にいた。
そこで会社員であった自分……神崎博之が、嶋田繁太郎というまったくの別人に憑依してしまった事を知る。

自らの人生で学んだ歴史とは大いに異なる世界の流れ。

流れを変えたであろう者達との出逢い。

それに連なる幾多の戦争と世界経済への介入。

手を出すことなく封じた地域に。

手を出さざるを得なかった地域。

内部の膿を出すためとして、時に同志であった身内でさえも切り捨てながら破滅の未来を回避する努力を積み重ねてきた。

しかし。

その努力の甲斐もなく迎えた最大の難事――対米戦。

確実なる勝利をもぎ取る為として、自然を利用した大作戦すら実行に移した。

その後に訪れた先の読めない世界情勢。

本来の歴史より外れた世界の流れに苦慮しながらも仲間と共に日本を導いてきた年月。

先に逝った友人達の顔を思い浮かべながら、次こそは安寧なる世界で静かな人生を送りたい。

平凡な家庭に生まれ、そしてのんびりとした一生を送りたい。

そんな己が願望を思い描きながら、睡魔に身を任せて目を閉じ。

旅立った。



……そう、旅立ったのだ。

しかし――。

(あの世にしてはこう、らしくないというか)

閉ざされた視界は永遠だったのか?
それとも瞬きほどの一瞬であったのか?
再び目を覚ました時、彼がいたのは此処だった。

光に満ちた草原や、懐かしい顔触れが迎えに来る花畑といった天国的な物でも。
賽の河原に地獄の鬼といった、おどろおどろしい物でもない。

至って普通の部屋。

死後の世界にしては、あまりに現実的なこの風景。
ともすれば、死後ではなく生前その物のような。

つまりこれは、あの世なのではなくこの世なのではないのだろうか?

そう思えるほどに感じ取れる“死”よりも“生”の感覚。

「どうなってるんだろうな、これは」

自分が死んだのは間違いない。
四肢の感覚を失い、己が死を自覚しながら眠りに就いたのだから。
気のせいなどではなく、本当に今までとは異質である眠りの感覚に身を任せて。

ではなぜ、こんなにも生を感じられるような状況下にあるのだろう?

身体のことは分かっても、この事態については何一つ知り得ようもない彼は、袋小路に陥り導き出せなくなってしまった答えを誰かに求めたい。
そんな気分だった。

――丁度その時である。

そんな彼の疑問に、この空間。
この世界は、己に代わって回答させようとでも考えたのか?
この殺風景な部屋と外部とを隔てている扉を、まるで新しい世界の住人を歓迎するかのように、勢いよく開放させたのは。



開かれた扉の向こう側には、扉を開けたであろう人物の――一人の女性の姿があった。

誰だ?

そう思う彼の目が件の女性の碧き双眸と交差する。

瞬間。
ふわりと宙を舞ったのは。
美しき金色と赤――。

「うわっ!」

身体に衝撃が走り、起こしていた上半身がよろりと揺らぐ。
部屋の扉を開いたその女性が、勢いのままに飛び込んできたのだ。

「お気づきになられたのですねっ!」

眉を隠すくらいの位置で一線に切り揃えられた前髪。
その下より覗くのは……深い海の青。
澄んだマリンブルーの瞳が、自分へと向けられている。

「医師からは過労と睡眠不足が原因であると伺っておりますが――」

女性は心よりの心配を表す不安の色をその美しい容貌に浮かべながら語りかけてきた。

「き、キミは……?」

名を呼んだという事は、自身を知る人物である。
もちろん、彼には見覚えがない。

いったい誰なのだろうか?

腰の下、尻の辺りまで届こうという長く艶やかな癖のない髪は、光り輝く黄金色。
後ろ髪をそのまま背に流し、身体の前へと流された左右横側の髪のみ、巻き付けられた鮮やかな真紅のリボンによって纏められ二本の房となっている。
背の裾が長く、先が二股に分れた燕尾服を連想させる白い服。
下は腰までの深い切れ込みの入った同色のタイトなスリットスカートで、その白い服の上からは裏地が紫、表地が黄緑色をした、騎士が身に付けるようなマントが纏われている。

金髪碧眼色白。
その容姿からして日本人ではない事だけは分かる見目麗しい外国人女性。

(欧米系……イギリスの騎士みたいな服装からみるに、英国貴族? それも相当位の高い)

礼装を思わせるその装いから、女性の身分がかなりの高位であることは伺い知れたが。

一体誰か?

訪ねる間もなく己へと縋り付き容態を気遣う女性を前にして、唯でさえ事態が飲み込めないでいた彼の混乱に拍車が掛かる。

「ご無理をなさらないでくださいませっ、貴方のお身体は貴方お一人の物ではないのですからっ……!」

伝わり来るのは、隠しきれない不安と――

「でも……よかった……」

安堵。

二つが綯い交ぜと成った気持ち。

大丈夫であると思っていた。
それでも怖かった。

「どこか、変調はございませんか?」

相反する二つの意味を持つ言葉が女性の口より絞り出される。

「あ……ああ、大丈夫だよ。心配を掛けたな……」









――モニカ


自分の身を案じてくれるそんな女性に対し、自然と突いて出たのは、知らないはずの彼女の名前だった。

それは答えである。
自身が今、どの様な状態にあるのかの。

(そうか……俺は、生きているんだな……)

全ての答えを運んできた女性を前にして、感じていた“生”が漸く本物であると確信した。
すんなりと我が身の状況を受け入れられたのは、それがかつて体験した巡洋艦和泉での出来事を思い起こさせたが故だ。
怪我こそなくとも、気を失いベッドで目を覚ましたという処まであの時と同じである。


(――っ!)

自らの身が“生”の状態にあると自覚し始めたとき、不意に彼の頭が疼きだす。

(これは……、記憶……?)

疼く頭。
その脳裏には彼の記憶と共に、もう一つ別の記憶が浮かび上がってきた。

(違う、これは……“俺”の記憶が……、この“身体”の、脳に……、書き込まれていってるんだ……)

“己という存在”が“この身体”に入ったことで発生した記憶の融合から生じたと思われる偏頭痛。
一瞬にして永遠を思わせるその痛みは、記憶野へと書き込まれる情報の巨大さを表しているのだろう。

(無理もない……か、100年+α分だから、な……。幾ら死ぬまでに使えるのが30%までと言われる大きな容量を誇る謎の塊――人間の脳でも、それは……、不具合くらい起こすだろうさ)

本当に一度あることは二度ある物だと熟々思い知らされる。
記憶の融合に痛みを伴っている分、一度目の時の方がまだましだった。

「シゲタロウ様」

記憶の融合に伴う偏頭痛で顔を歪めてしまったからか。

「やはりどこかお身体が……」

再び不安の色を浮かべ始めた女性の碧い瞳と視線が交差した。

別に何ともない。
膨大な記憶の書き込みが脳に負担を掛けているだけだ。

じきに収まる。

しかし、彼女から見れば体調を崩した病人が身体の異常に苦しんでいるように見えるのだろう。

「大丈夫だよ……。少し、目眩がしただけだ……、医師の言うように疲れているのかもしれないな」

安心させるべく言葉を選び話した彼は、彼女の手を握り微笑みかけた。

大丈夫。
なんともない。

心配されるのは素直に嬉しかったが、本当のところは『憑依・融合』による一時的な影響でしかない。
弁解に用いた医者の話も彼女が言ったことを利用させて貰っただけであり、いま感じている痛みとはまったくの無関係だ。
それだけに騙しているようで心苦しく思った彼は、いま“自分”を融合させつつある“彼”の記憶を探り、女性の事を読み取ってみた。

(モニカ……)

幼い頃。
まだ純真な子供の頃の記憶。
物心付いた頃より遊んでいたという、隣家に生まれた女性。

(モニカ……クルシェフスキー……。クルシェフスキー侯爵家の一人娘にして、俺の……俺の遊び相手……)

大きな家だ。
それは国その物を連想させる大きな大きな領地を持つ大貴族の家だった。

“自家の盟友であり傘下貴族でもある彼女の家”

その家で。
その邸で。
彼女と二人仲良く遊んでいた記憶がはっきりと読み取れる。

自然と思い出せる彼女と遊んでいた頃の記憶と彼女の家の全貌。
それは例え自分が知らずとも自分が入ったこの身体が知っているという、それだけの話。

『二つの記憶の存在』と『自分が何者かという知識』。

己が置かれている状況に対しこれだけで納得してしまえる辺りが所詮は二番煎じといったところなのか。
それとも、経験は物を言うというやつなのか。

この身体の人物が何者で。
どういったことをしてきたのか。

その総てが、手に取るように理解できてしまった。

(なにもかも同じだな。嶋田繁太郎になった“あのとき”と、なにもかもが……)

そしてどうやら、一度体験済みの“憑依・融合現象如きに”驚いてばかりも居られない状況にあるようだということまでも。

(はぁ……、平穏を望んで眠りに就いたっていうのに、どうしてこうも厄介な立場に立たされてしまうのやら……。これは一度本格的な厄払いを行うべきだろうか?)






皇歴2018年。
エリア11として国の名を奪われた絶望の日本を舞台としたあの反逆物語が大きな山場を迎えた年。

彼が目を覚ましたのは。

そんな架空である筈の世界だった。


コードギアス 反攻のシマダ






(それにしても、訳分からなすぎるなこれは)

期せずして此処へ辿り着いたと知ってしまった彼であったが、知ったからこその“違い”に心底驚かされてしまった。

無理もない。
この身体の記憶から読み取れたのは、自身の記憶の中に僅かばかり残っていたあの反逆世界の知識とはまるで異なる世界の形であったのだから。

「一人にしてもらったのは正解だった……。この分だと記憶の整理をしているときに混乱して不審がられる可能性大だ」

あの後、自身を心配して「傍に付いていたい」と申し出てくれていたモニカであったが、彼はその厚意を丁重にお断りしていた。
申し出は嬉しいのだが今はとにかく記憶の整理と現状の把握の為にも一人で考える時間が必要なのだ。
それに大雑把に確認したところ色々混乱しそうな事実ばかりが浮かび上がって来た為に、彼女が傍に居ては都合が悪い事この上なかった。
何かを発見し、また何かに気付くその都度驚いていては変に思われる。
では驚かなければいい。と、言い聞かせて平静を保てる自信は残念ながら無い。微塵も。
それほどの大きな“違い”ばかりあった。

しかしながらこれが“現実”である。

(……。よし、まずは記憶の整理からだ。100年+αの記憶が入ったばかりで断片化されてしまった“彼”の記憶を再構成しつつ、しっかりと把握しておかなければ)

まずこの身。
自分という存在が入ったこの身体は、前世において憑依した仮想戦記の悪役にして史実では東条英機の腰巾着・小間使い・副官。
との、散々な評価を下されていた大日本帝国海軍軍人・政治家としての嶋田繁太郎ではない。

シゲタロウ・リ・シマダ。

(それが今の俺の名前か)

何がどうなったのか、神聖ブリタニア帝国シマダ大公家嫡子――シゲタロウ・リ・シマダという身の上であるらしい。

(平行世界の同一存在や同位体存在とかいうやつなんだろうが。まさかのブリタニア皇族分家筋とは……想定外にもほどがあるぞ)

『リ』とは、その名が示す通り、ブリタニア皇家リ家の名を指す。
コーネリア・リ・ブリタニア、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
リ家の有名処と言えばこの二人だが、彼の中にはこの二人と根を同じくする祖先が居るようなのだ。

(確か反逆物語が始まる年代よりかなり遡った時代の皇帝だったな)

その祖先の名を――クレア・リ・ブリタニア。
民族協和と一つのブリタニアを掲げながら、時のエル家や、クレアの弟であるニールス・リ・ブリタニア皇子等と共に、リシャール皇子擁するロレンツォ・イル・ソレイシィを打ち破り、国家が瓦解する寸前であったブリタニアの内戦を終結に導いた英雄皇帝。
ブリタニア年代記に燦然と輝く彼女の功績は、今尚伝説として語り継がれていた。

(コードギアスで間違いなさそうだが、俺はあの作品についてそんなに詳しくはないからクレアがどういった人物なのかよく知らない。リ家の血が入っただけで公爵から大公へ昇爵するということから考えても、シマダ公も含めかなりの大人物であったのだろうが)

その内戦の最中。一時日本へと逃れていた英雄帝クレアを支え続け、共にロレンツォ率いる当時の純潔派と戦ったクレアの最大支援貴族シマダ家は、後に次代当主がクレアの次女と結ばれており皇家分家筋としてリ家の家名を与えられている。
更にクレア皇帝を支え続けた内戦終結の功労者として大公爵へと昇爵し、新たにバハ・カリフォルニアを与えられ、元々の直轄領であったカリフォルニア・アリゾナと共にペンドラゴン北方の要として繁栄を極めていたのだ。


(入り込んでしまった人物の出自その物がいきなりの相違点とは、イレギュラー過ぎだろ)

そのシマダ大公家なるものだが。
当然彼の知識の中、コードギアスには存在していない。

日系人のブリタニア貴族が居るらしいところまでは識っていたが、大公家でとなるとかなり限られてくる。
日本皇族の血を引くブリタニアの皇帝も歴史上存在しているくらいなので「絶対にない」とは言い切れなかったが、嶋田繁太郎のブリタニア版など流石に考えられる範疇を逸脱し過ぎているだろう。
それも恐るべき事にシマダ家の家系を辿っていくと、皇歴元年へと辿り着くのだからもう訳が分からなかった。

シゲタロウの記憶にあるブリタニア年代記によれば、シマダ家の初代とされる人物はブリタニア皇家の始祖アルウィンと共に彼のローマ帝国ユリウス・カエサルのブリテン侵攻に立ち向かった皇家の盟友であると記されている。

(信じられんな……信じられんが、もし可能性があるとするなら超古代文明時代に何かあったんだろう)

史実ではオカルト話しの域を出ない超古代文明。
だが反逆物語には確かに存在していた。

故にもしもあの時代にブリタニアへ渡った大和民族が居たとしたなら、或いは考えられなくもない。

日本も、ブリタニアも、前身国家を辿っていけば出発点は同じ場所。超古代文明に起源を持つ国。
コード、ギアス等、様々な超技術を生み出し、後に滅びたこの文明は元々一つの統一国家だったと思われるのだ。

であるならば、当時の大和系の部族がブリタニアの地に移住していたとしても何ら不思議なことではない。
それも“ある信じられない事象”から、大和系部族や民族。
つまり日本民族の人口が多かったと考えられるだけに、当時一部の部族がブリテンの地に渡っていたというのは十二分に有り得る話しとなっていた。

それに遺跡と両国の皇家。皇家を守護する存在など様々な共通点が示すその可能性は、反逆世界を“識っている身”としては、無いとは言い切れない部分がある。

(ま、考えられないことであろうと無かろうと、シマダ家の歴史はブリテン島が本土であった時代より続いている。それが真実な訳だが)

だが、そのシマダ大公家の存在により日本とは……大日本帝国とはそれなりに上手く付き合えていたようだ。

(弱肉強食のブリタニアといっても全部が全部そうじゃないからな)

ブリタニアの歴史は元より血と侵略の歴史。
しかし例外的に膨張主義を否定したり、非侵略へと舵を切ることも可能だったであろう転換点と成り得る幾つかの時代が存在している。

その一つがクレア帝時代だ。

クレアの時代には彼女の性格や方針を反映した対外融和路線。
つまりは弱肉強食ではない協調主義の路線が採用されていた。

時代と共に国は再び原点への回帰を図り弱肉強食を国是とする時代に突入していったが、少なくとも彼女の時代から暫くの間は外交問題の解決の為に武力を用いることはなかったようだ。

(シマダ家とクレア帝の影響色濃いリ家の存在が歴史を変えたことで1940年代に起きたとされる太平洋戦争も起こってはいない)

クレア帝御世の記憶が薄れ次代・次々代へと時が移り変わる中、徐々に一国至上主義的な国家へと立ち返っていたブリタニアであったが、当時はまだ日本との友好路線が維持されていたらしい。

但し、それも1997年5月に起きた『血の紋章事件』と呼ばれる大規模なクーデター事件によって激的なる変化を迎えてしまったが。

(あのクーデターを境に即位して間もない第98代帝シャルルが己の立場を盤石な物とし、全世界に向けて覇権主義政策を宣言。隣接する南ブリタニア諸国への侵略戦争を開始している。と同時に日ブ関係も徐々に悪化)

血の紋章事件を契機としてシャルル治世のブリタニアは今まで以上の極端な軍拡に舵を切り、内外問わずより一層の強硬路線を取るようになっていった。
国外に対しては同時侵攻した南ブリタニア北部の国々を瞬く間に飲み込み、南へ南へとその勢力を拡大。
侵略戦争に否定的な見解を述べた日本との関係も悪化の一途を辿り、同じ膨張主義の“大清帝国”へ肩入れを始めるという対日敵視の姿勢へ転じ。
国内においては反皇帝派を次々に粛清、または閑職へと追いやっていき、反戦意見の多かったリ家の勢力と皇帝派とで対立が始まっている。

そして大きな転換点となる二つの暗殺事件が起きた。

一つはブリタニア皇家が一つ、ヴィ家のマリアンヌ皇妃暗殺事件。

(2009年のあの事件でルルーシュとナナリーが人質として日本へ――)

自国の侵略戦争に対し、強力な海軍力を持つ日本からの不意打ちを警戒しての措置。
知識の反逆物語の中でさえ同様の措置を採るくらい日本に対しては警戒心を抱いていたのだから、“ここの日本”相手だと尚更だろう。

皇帝の個人的な事情も勿論あったわけだがそれはそれだ。

(流れその物は変わらずか。国を放り出されてしまったヴィ家の兄妹の心の内もおそらくは変わらずの父憎し……)

ここは既知の流れであった。今更と言えようが、ルルーシュの心にシャルルとブリタニアへの憎悪が宿る切っ掛けとなった事件だ。
それも、彼自身は何も知らぬうちに親のエゴに巻き込まれた挙げ句、自らも己のエゴによって数多の人々を殺戮することになる、その始まりの。

「壊れた大人たちの被害者にして自らも魔神となり壊れ加害者側となる悲劇の皇子。大切な人や何も知らずにただ戦っているだけの者、無関係な人々への殺戮を始めてしまう彼の物語の出発点。……なんとも業の深い一族だ」

その業の深い一族と血が繋がる自分も気を付けなければいけない。
なにが切っ掛けでその血の持つ業に囚われてしまうのか知れた物ではない故に。

(いや――)

もう既にその血の影響は表れているやも知れない……。

二つ目の事件。

(シマダ大公夫妻暗殺事件)

マリアンヌ暗殺と同時期にこの身体の人物――シゲタロウの父と母の爆殺事件が起きていたのだ。

(やれやれ、これがもしブリタニア一族の業が成したものならば、もうこの身は既に呪われているな)

未だ未解決となっている先のマリアンヌ暗殺事件とは違い、この事件については犯人が捕らえられていた。
捕らえられた犯人は民主化を掲げる過激派であったとされているが。

(真相は不明)

不明というのは、犯人であるとされる人物が犯行を行った事に確信が持てないからだ。
誰でも思うし自分でもそう思った。
帝国政府のみが独自見解を示して間違いないと豪語していたが、誰も信じてはいないだろう。

たかが一過激派如きが、皇帝であっても配慮せざるを得ないブリタニア最古の名家の当主夫妻暗殺など可能なのかと。

警備が厳重な大公家の宮殿に侵入し、且つ目的を遂げるのは容易なことではない。
この一点が帝国政府の発表した「過激派によるテロ」の信憑性を損なわせている。
しかしそのハードルを著しく下げてしまう手段については、方法があるということを彼は識っていた。

(ギアス、か?)

古代文明が残した超常の力――ギアス。
人の精神を操り、記憶を暴き、未来線を読み心の声を聴く。
使い手ごとに保持している能力こそ違えど超能力とも言うべきこれらの能力は屡々歴史にその足跡を残していた。

この能力を駆使すれば或いは、そう思わせるだけの力がある。

(可能性の問題だが、大公がギアス関係者に狙われたということも排除は出来ないな)

シャルルの目的の為にはどうしても邪魔になるだろうシマダ大公とリ家が率いる勢力。
これの排除にシャルルが動くとすれば、表からは勿論、裏側からも働きかけるであろうことは想像に難くない。



(他に考えられるのは身内か)

また、記憶の融合によって得られたからこその別の可能性にも思い当たった。
記憶を探り浮かんでくるその可能性を持った人物は、よりにもよって身内らしいのだから質が悪いとしか言えなかったが。
この事実が、自らもブリタニア皇族の血の宿業を背負ってしまったのではないかと懸念した最大の理由である。

(シマダ大公の存在が邪魔であったと思われる輩の筆頭候補)

記憶の中に浮かぶのは2m近い長身に、頑強に鍛え上げられた筋肉質の肉体を持つ、顎髭と口髭を蓄えた茶髪の巨漢。
大公暗殺後、「幼いシゲタロウでは大公家を継ぐに力不足である」と、皇帝や皇帝派との共謀の末に継承順位を無視してシマダ家の実権を握ったブリタニア貴族の権化とも表すべき男。

ヘンリー・リ・シマダ。

ブリタニアの支配に抵抗を示す過激派など反体制的な人間を一族郎党断頭台に掛け、死の恐怖をもってエリア3ブラジルを平定した皇帝派の重鎮。

(その一方で媚を売る者、付き従い服従する意思を示した者へは寛容さを見せている)

ただ恐怖のみで従わせるだけではなく、自らに従う者にはその働きや忠誠に応じて従来よりも多くの報奨や給金を取らせるという“飴”も大量に用意し配っているようだ。
領民やエリア住民が彼に従うのはその恐怖と飴の相乗効果によるもので、平定後に彼が一時総督を務めていたエリア3の政策は一応の成功を収めていた。

(凶暴な野蛮人とはいえ馬鹿ではない、か。……あまりお近付きになりたい人種ではないな)

シゲタロウの叔父にして、亡きシマダ大公の兄であるというこの人物は、貴族というよりも野人といった方がしっくり来る野性的な容貌をしていた。
容貌通り、性格の方も野人と呼ぶべきであろうほどの凶暴な。
亡き大公の先代、自身にとっては祖父に当たる二代前の当主がヘンリーを“不的確”として弟である先代、父に大公家を継がせたようだが、どうもその判断は間違いではなかったようだ。

(平民やナンバーズに対し区別という名の差別を行い積極的外征を唱えるブリタニアの癌の一人。ついでにシゲタロウ……、俺をブリタニアから追い出してくれた乗っ取り屋)

シマダ大公夫妻暗殺後。
皇帝の速やかにして無茶な介入によって大公家の全権を掌握したヘンリーが、シゲタロウを差し置き当代当主の名を名乗ってより直ぐにシゲタロウは日本へ送られていたらしい。
要するにルルーシュやナナリーと同じく人質としての役目を負わされたわけだ。

彼にとり、シマダ大公の意思を引き継ぐシゲタロウの存在はさぞや疎ましかったことだろう。
本当ならシマダ家の長男である自分こそが家を継ぐべきだったというのに継承順を無視されて弟に家督を奪われた。
その弟の息子なのだ。殺されなかったのが不思議なくらいであった。
無論其処にはシゲタロウを殺害することによる“不利益”があったのは言うに及ばずだが。

(益々大公夫妻暗殺を実行したのは、捕縛された犯人とは別の人物であるという疑惑が深まるな。ともかく、大公家の実権が叔父に握られた事は大きなマイナスだ。奴がシャルル支持をシマダ家の名で宣言した為に、結果として外征を推し進めるシャルル体制を強固なものとしてしまった)

ユーロ・ブリタニアのハイランド大公家と同等の権威を持つ救国の英雄にして最古の名家シマダ家が方針を変えれば共に変わらざるを得ない家は数多に上る。
それほど大きな力を持つが故、シャルルも自らの地盤固めに利用するために彼を自陣営へと引き込んだのだ。

その上で大公夫妻を暗殺し、彼に大公家を継承させて要職に据えれば、皇帝派はその力を一気に増す。

暗殺の真相がどうであれ、結果としてシャルルを利する形となっているのは事実である。

“弱肉強食こそブリタニアの理念として相応しく、世界はブリタニアによって統一され本来在るべき自然の姿へと立ち返るべきなのであるっ!”

力こそ正義。
人間もまた自然の一部であって、強い者が勝者となり弱きは強者の糧となるか死すべきであると豪語する彼の野人と、嘘のない世界のためには身内の死ですら俗事に過ぎぬと考える皇帝シャルル。
彼等の共闘は、国内の穏健派を一掃する意味でも大いに意義ある物であった。

(最悪の人間同士が最悪のタイミングで手を組み利用し合っている、そんなところか。追放、処刑、なんでもありとは……いやはや独善主義皇帝と野人の組み合わせには恐れ入る)




弱いから死ぬ。
弱者など必要ない。

(連中にはお似合いの台詞だな。しかしその結果が原作での超強硬派であるコーネリアのまさかの離反と皇帝派対反皇帝派による第二次血の紋章事件、いや事変か? とにかく大規模な内戦を招くとは、皮肉な話だ)

強硬+強硬が掛け合わさった化学反応は恐るべき物で、皇帝に異を唱える者への容赦ない弾圧へと繋がっていった。
爵位剥奪、領地没収、即決による死刑。憎しみを背負うために大虐殺を行った“あの悪逆皇帝”程ではないが、血の紋章時の反皇帝派弾圧の再現くらいにはなっていただろう。
血の紋章事件を振り返れば分かることの一つがシャルルは時に身内の皇家の人間ですらも処刑するほど、一度排除を決めた以上は徹底的にやる冷酷さを持ち合わせているという部分だ。

(命を軽く見ている所為もあるか)

死んでも会えるという様に、人の命を軽く考えているからこそ可能なのかも知れない。
人の生死に意味は無い。
死など一つになる事で解決できる程度の些事であるとでも。

その結果が2009年末~2010年末に掛けてのブリタニア内戦に繋がった。

(しかし圧倒的なる皇帝派の勢力を前に、約1年に渡る内戦の末敗れた反皇帝派は日本への亡命を余儀なくされた)

先導者とされたリ家の一族はシャルルの側に回ったヘンリーと日本で人質となっていたシゲタロウを除き皇籍を剥奪され国外追放処分、または粛清対象となり、関係が険悪化していた日本がリ家の一派や難民を受け入れたことで日ブ関係はそれまでにも増しての冷え込みを見せた。

(第二次血の紋章事変後から対日対ブ、両国の相手国に対する制裁が始まっている)

血の紋章事件後の覇権主義政策を受けて殆どは撤退していたが、未だブリタニア国内に残っていた日本企業と資産についてはこのリ家の亡命受諾を受けての報復措置として凍結・接収されていた。
当然のこと、これに対する報復として日本はそれまで控えていた対ブ経済制裁を発動し対抗、制裁の応酬へと発展している。

(リ家の動きと亡命は日本にとっては良い迷惑だったのか? それともブリタニアの暴走を抑えるためにもシャルルの排除が必要だとし、リ家との共闘を考えた?)

どの様な考えがあったにせよ、遅かれ早かれこの流れは生まれていただろう。
この先にある国交断絶と……そして。

(日ブ開戦)

開戦とは穏やかではないが、しかしシャルルは日本侵攻を確実に実行へと移す。

絶対にだ。

彼が進めている計画を完成させる為には日本の神根島と、“シベリア遺跡”がどうしても必要となるのだから。

(幸いなのは日本その物の事情と、人質として送られていたヴィ家の遺児ルルーシュとナナリーが共にリ家へ合流したことで、亡命貴族の求心力が高まったことか)

ヴィ家の遺児達がリ家を支持する、或いは合流するのは必然だった。
彼等は母親暗殺後の冷たい仕打ちを父より受け、半ば追放されるような扱いで日本送りにされたのだから今のブリタニアに対しては恨みこそあれ従う義理など持ち合わせていない。

(マリアンヌ暗殺からの父親の仕打ちの真相がどうあれ、な。お陰でオレンジ卿……ジェレミアや、キューエルらヴィ家の派閥である純潔派までもがリ家に従い離反し、大きな戦力と成っている)

ある程度の戦力。コーネリア軍を手土産として日本へ亡命したリ家と、皇帝やヘンリーに従わずあくまでも自分達の仰ぐ主はリ家だとし付き従った古参の重臣達。
これにヴィ家の関係者達を加えた彼等亡命貴族達の形成したレジスタンス組織『自由ブリタニア』は、日本政府と連携する形でシャルル政権打倒を目指し戦う道を選ぶ。

(ただ、自分達で選んだとはいえこの選択に頭を悩ませた者も多かったろう)

追放されたリ家やリ家に従った軍の一部はまだいい。
己の意思でシャルル政権に対し反旗を翻した以上、覚悟を決めてのブリタニア脱出だ。
だが後発組の、特に領地持ちの貴族などは、領民を巻き込まない為に敢えてシャルルへの恭順を決意したクルシェフスキー家等、同じリ家の派閥所属の他家を横目にしながら、されど己の信念とリ家への忠誠を裏切れないとして身一つで日本へ渡った者もいるのだ。
なまじ責任在る立場なだけに苦悩に苛まれる中、それでも彼等は現皇帝シャルルと現シマダ大公ヘンリーの排斥こそが祖国の未来の為、自身の抱える領民の為として自由ブリタニアへと合流している。

(壮絶だな。だからこそ結束が硬く心強くもあるが)

コーネリアを筆頭に、ユーフェミア・ルルーシュ・ナナリー等の皇族。
リ家の重臣とヴィ家の一部貴族および純潔派と穏健派。
彼等一人一人、或いは集団が、日本政府の協力を得て、原作の黒の騎士団とは比較にならない国無き流浪の国家組織『自由ブリタニア』を創り上げた。
民間人と戦略の天才ゼロによる一レジスタンス集団ではなく、国家の正規軍規模を誇る一大レジスタンス組織を。

(そういえば亡命貴族の中にはヤマモト辺境伯なんて名前もあったが――)

ギルフォード家、ヴェルガモン家といったリ家の重臣貴族の中にあったヤマモト辺境伯という名前には正直驚かされた。
フルネームをイソロク・ド・ヤマモト辺境伯といって、クレア帝時代にシマダ家と共にブリタニア内戦を戦い抜き、クレア皇帝擁立に貢献した日本から渡り来た士族の一人を始祖とするだとのことだが、そのヤマモト家現当主の名を日本読みに直せばそのまま『山本五十六』だ。
死ぬ前の世界での盟友と同じ名の。

(容姿も同じ)

ふと頭を過ぎったのは、かつての時と似たこの状況下で自分と同じ様に“彼等”も来ているのではないかといった考え。

(まさか、な)

シゲタロウの記憶の中にヤマモトという名と姿を見つけた瞬間、平行世界の同一人物なだけであると理解しながらも、彼はなんとなくそう思った。


そして2015年5月。この自由ブリタニアの存在を認めた日本が、自国の持つ“広大な国土”に亡命ブリタニア人の為の自治州を設置し、同組織への正式な支援に乗り出したことで遂に日ブの国交は事実上の断絶を迎える。
“事実上”というのは、細々としたチャンネルが生きているからに過ぎず、経済的にも外交的にもほぼ断交状態と成っていた。


(そう、日本だ)

実はこれこそが原作と照らし合わせた時に判別可能な最大の変化にして、中身が日本人たる自らにとって最も喜ばしい差違であった。

(俺の存在が路肩の石ころ程度のイレギュラーでしかなくなってしまうほどの、その一挙手一投足が世界に影響を与える最大級のイレギュラー)

それはブリタニア国内が強硬一辺倒に染まってきたにも拘わらず、2010年8月10日より始まるはずであった対日戦が、内戦の影響こそ有れども2018年現在に至るまで未だ回避されていたという事実その物と、シャルルがそうせざるを得なかった最大の理由。

(日本が“この様子”では、早々勢いのままに戦争を吹っかけるわけにもいかなかったんだろう。シャルルの計画の為の世界侵略とはいえ、“この日本に対してまで”同時侵攻を行えば失敗の危険性が出て来るからな)

ブリタニアは強大だ。
大国を相手取った世界同時侵攻を可能とするだけの圧倒的なる国力を備えている。
それはあの作品を通してこの国を見知る自身も承知していることであった上に、今は自らの身がその国の貴族である故、身に滲みて理解させられてもいた。
しかしそれでも尚、“この日本”の存在こそが、知識にあるような同時侵攻を踏み止まらせるという最大要素となっていたのだ。

(しかしまあ何なんだろうか、この)

















――この巨大な日本列島は。

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最終更新:2015年07月16日 18:56