アグレッシブルートのSSです。
漫画:アンドラの魔女に掲載されている『アイガーの魔女』を題材としています。
憂鬱の提督成分はかなり少ないです。
TS表現があります。
基本的にORETUEEE!です。
山の知識なんかない人が書いているので、おかしい部分が盛りだくさんかもしれません。
以上の要素がお嫌いな方は、飛ばしてください。









アイガーの精霊使い:後編



山を登り始めて途中思い出すことがあった。
軍の高官に聞いた話によれば、ネウロイを排除してルート開拓を行う話もあったそうなのだ。
何故それが無理なのか?
単純な話で、ネウロイの物量がネックである。
一度は実地されたらしいのだが、件の敵は分散していて一々探さなければならない。

何時もそこにいるわけではなく、定期的に哨戒しているというのも問題だ。
さらにいえば、ネウロイの黒い体色が山肌に溶け込んで発見し辛いという事情もある。
それを根性でどうにかした彼女等は、共同撃破で6体屠ったそうだ。
翌日には補充されたが。
他にも問題はある。

その他の作戦でウィッチのみで編成した飛行師団を、強行突破させるというのがそれだ。
まあこの話は実現不能として諦められた。単純に人がいないから。
仮にやるにしても、かの有名な【爆撃王:ルーデル】でなければ不可能だと私は思う。
山肌には無数の敵がいて、正確無比な攻撃をしてくる。
その弾幕に突入するなど、自殺以外の何ものでもない。

「よし! ヒラリー君、登りたまえ!!」
「はい!」


一段落出来る出っ張りまでのルートを作った私は、後から登ってくるヒラリー君を見る。
彼の背中には大事な荷物があるのもそうだが、何よりも彼の命が大事だ。
機材など、何時でも作れる。
命はたった一つしかないのだ。
その後ろからレイノルズ君も登るのが見えた。

彼女も頑張る。
見た目にはふさわしくない体力で山に挑み、大人である私達に付いて来る。
弱音を吐かないその姿勢は、好感に値した。
時に山肌から湧き出る水場を見つけては、自分から補給してくる。
どうやって見つけてくるのかわからなかったが彼女曰く、

「精霊に教えてもらった。」

だそうだ。

「ふぅ・・・」
「んぅ。」

二人とも出っ張りに到着して一息ついた。
こうした休息も山登りには必須。働き続けるのが良くないのと同じだ。

「ここまで順調ですね。」
「ああ、そうだな。」

疲れつつも張りのある彼の様子を見つつ、私も同意した。
ここまで上がってきたペースは、私でも信じられないくらいに早い。
正直に言って三人に増えた登山は、もっとかかると予想していたのだが・・・

「このまま、攻めていきましょうか・・・ どうしますか?」
「いや。今日はここまでにしておこう。」
「では、ビバークの準備に入ります。」
「火を起こす。」

アッと言う間に動き始める二人に、内心で苦笑する。
正直、このパーティーはかなりいいと思っている。本当に。
張り詰める空気を和やかにしてくれるヒラリー君。
無表情ながらも気遣いが嬉しいレイノルズ君。
厳しく慎重に歩を進める私。


うむ。バランスが取れているな。
さて、今日の夕飯はどうするかな?

「マロニーさん・・・また缶詰ですか?」
「む? またではない。昨日の夕飯は麺だったぞ。」
「でも、朝昼も缶詰でしたよね。」

呆れ顔でこちらを見るヒラリー君。
良いではないか。人の好みだ。それに今回は麺も使うぞ。
トマト缶を温めつつ、私は乾麺を取り出す。
何の味も付いていない奴だが、構わない。
温まってきた缶詰に、二つに割った麺を投入してしばらく待つ。

麺が柔らかくなってきたら、ほぐしておく。
これでトマトスープスパゲティモドキの完成だ。

「なるほど、そう来ましたか。」
「うむ、うまい。」
「私は扶桑製のコイツを開けますかね。」

ヒラリー君が明けたのは、扶桑で販売中の焼き鳥シリーズだったか?
味が濃くて、良い甘さが私も好きだ。
コイツは登頂したら食べようと思っている。御酒と共にな。
これぐらいの自由があってもいいだろう。

「ムグムグ」

レイノルズ君は粉末のスープを入れて、乾パンを食べていた。
今まで彼女の食事を見てきたが、どれも硬そうなのばかり・・・
硬いのが好きなのだろうかと思い、聞いてみたらそうだった。
煎餅等も好きらしい・・・

「また、その写真かね。」
「ええ、まあ。」

思い思いの食事を終えた後、紅茶を入れてもらいながらヒラリー君がまた写真を見ている。
この写真は北壁を登り始めてからと言うモノ、度々見つめているのが見えた。
聞いてみれば妹さんらしい。そしてウィッチ・・・
なるほど、この作戦に参加したのも頷ける。
そして将来の夢も聞いた。

私は厳しく言ったが、正直私もエベレストはきついものがある。
三回・・・ 三回挑んで失敗した。
だが生きていれば何度でも登頂できると信じている。
その時は、このパーティーで挑みたいものだ・・・

―――――

山の天候は変わりやすい。
と言うのも、高い山になるほど雲が山肌でせき止められ、雨となるからだ。
故に、そういう時は過ぎ去るまでビバークするのが普通。
しかしながら一日中足止めされているとなると話は違ってくる。
今までの工程が順調であったので、一日位は大丈夫だ。

だが・・・ この雲量は異常だ。
二日目に入っても、ぜんぜん雲が晴れない。
軍に聞かされて知っていたが、最近のアンガーは良く雲に閉ざされることが多いという。
山なのだし、自然の機嫌は良くわからないというのが持論ではある。

「雲が無くなりませんね。」
「ああ、そうだな・・・」

思わぬ足止めを食らい、日差しを遮る布一枚だけの簡易テントのなかで紅茶を飲みながら返答する。
ヒラリー君も雲に辟易しているようで、不機嫌な顔が見えた。
航空標識灯が無くとも、有視界でアンガーは飛行可能だ。
しかし、何時も万全な状態で飛行できるとは限らない。
戦闘に出ていけば被弾するのが当たり前と考えれば、航空標識灯が必要だというのはわかっている。


「レイノルズ君は相変わらずかね?」
「ええ、外にいますよ。」

同行者の一人が、昨晩から外に出ては空中を睨んでいる。
最初は普通だったのだが、夜になり始めてからどうにも不機嫌なのだ。
今朝になってもそれは変わらず、外で見張りをしている。

「焦っているのでしょうか?」
「・・・山の機嫌はいつよくなるかわからない。ここは根気を据えて待つほかない。
 彼女とてわかるだろう。」

山に登れば誰でも経験する。順調だった今までが異常なのだ。
紅茶を注ぎ直し、一口含みんだ時だった。

――オォォ…~♪――

「お、また歌ですね。」
「そうだな・・・ 彼女の歌はどこか力を与えてくれる。」

――オッゥゥォォ…~♪――

「・・・どこか、力強い歌だ。」
「そうですね・・・」

思わぬ美声に聞き惚れていた私達だったが、しばらくして日差しが戻り始めてきた事に気が付いた。
二人で目を合わせて外を覗き見ると・・・ そこには眼下の風景が見え渡っていた。
信じられない事だった。
雲が・・・ 雲が同心円状に晴れ渡り始めている!!

――ウォォ…~♪ オォ…~♪――

彼女の歌声はゆっくりとしたもの。しかしそれに答えるように雲が消えていくのが確認できた。
ようやく私は理解した。軍が彼女を同行者に選んだ理由が!

「す、すごい・・・ウィッチは天候すら操るのか!?」

隣でヒラリー君が驚愕している。
わからないでもない・・・ これほどの能力、軍が欲しがらないわけが無いはずがない。
天候で軍の行動は変わっていくものだ。
それを操作できる存在など、宝石よりも貴重だ。
歌い終えたレイノルズ君が振り向いた。

「晴れさせた。今のうちに登ろう。」

それほど長くは出来ない。そう言って荷物を纏めにかかった。
私達も慌てて片付けに入る。その間に私達は説明を受け、彼女の目的を聞く。

  • 昨晩からの雲は、精霊が意図しないモノだった。
  • 軍が困り果てる雲は、意図的なものである。
  • 自分はその解決の為に選ばれた。
  • それ以前に、山の精霊から苦痛の声が上がっていた。
  • 自分はその原因を排除しに来た。

成程・・・ だから違和感があったのか。
別に彼女は登頂しきる理由はない。
飽く迄も別目的のために同行しているのに過ぎなかった。

「なるほど、軍に命令されて「それは違う」・・・違うのかね?」
「軍は知らない。」
「え? では、独断で!?」

ヒラリー君が驚いて問うと頷いた。
原因を知っているのは彼女だけ。軍は知らない。
軍としては天候をある程度操れば、登頂が楽になる程度の考えだったらしい。
まさか・・・ 自分の目的に軍を利用するとは・・・
だが、悪くない。

「済まない。騙した・・・」
「いや、別に良さ。ここまで本気で支援しなかったわけではないだろう?」
「そうだ。」
「私達を見捨てるつもりだったかね?」
「違う。」
「私達は仲間だ。違うかね?」
「そうだ。」

申し訳なさそうだった彼女の表情が、何時もの通りになる。
ヒラリー君も笑顔で彼女の肩を叩いた。
彼も、彼女を認めているのだとわかる。

「さあ! 稼いでくれた時間をいかして進むぞ!!」

―――――

そこからの私達のペースは、当初に比べれば落ちた。
天候を無理して回復させて進む。この工程はどうしても彼女の負担が大きい。
それに歌い続ければ喉がやられてしまう。
高山で歌い続けるというのは拷問に等しい事だ。ましてやここはアンガーの北壁。
思わぬ強風に立ち往生する時もある。

少しずつでもいい、ゆっくり、着実に進んでいく。
途中見張りのネウロイを見かけたが、こちらを無視してくれた。
最初はウィッチがいるから狙われると思っていたのだが・・・
無視してくれるというのであれば、そのまま突き進むだけだ。
彼女が歌い、天候がよくなった時に爆撃機とウィッチの飛行編隊が上空を通過した。

手を振ると、ウィッチと手隙の搭乗員が手を振るが見える。
思わず私達は笑顔になった。
さあ、彼女達が帰ってくる前に到着せねば!
焦る気持ちを押さえつけ、ヒラリー君が見つけたクラックにトラバースする。
一度では無理だったが、私には仲間がいる。

ロープをしっかり握るヒラリー君。
能力向上の歌を歌うレイノルズ君。
彼等を信頼する私を信じずに、誰を信じる!
どんな困難も乗り越えてみせる!

「よし!」

クラックに手をかけ、身体を安定させるとヒラリー君の声が聞こえてきた。
感動して叫んでいるようだ。
ロープを岩に固定し、振り返って怒鳴る。

「慎重に来い! 足場は思っている以上に悪いようだからな!!」
「はい!」

二人が渡り終えるまで私は周りに注意を配る。
レイノルズ君の話が本当ならば、恐らく・・・この北壁は安全ではない。
絶対に何かいる。
しいて言うならば・・・上空にある雲の塊が怪しい。
例の一日足止めされた件からと言うモノ、私達は山頂を見ていない。

厚い雲に閉ざされ。全く見えなくなっている。
だがそれも後200mまでに縮まった。どんなものが待ち受けているのか・・・私にはわからない。
二人とも渡り終え、再び上を目指し始めた時に事件は起きた。
山に異音が木霊し始めたのだ。

「この音は・・・!」
「マロニーさん、あれ!」

ヒラリー君が指差す方向を見れば、山陰から爆撃機が出現した。

「馬鹿な、低すぎる!」
「片肺が動いていない。エンジントラブルで高度が稼げないのか!!」

それは引き返してきた機体だった。
必死に高度を稼ごうとしているのか、機首が何度も上がろうとしている。
しかし、どう見ても高度が足りなさすぎる。
ふと気が付けば、ネウロイがいつの間にか出現して砲身を定めている。

(いかん!)

私は二つの心配事が胸に湧きあがった。一つ目は爆撃機の心配。
高度が稼げない以上、機体を捨てて搭乗員に脱出してくれと祈るしかない。
二つ目は・・・撃墜された時に起きる爆発だ。
燃料タンク・爆弾を満載しているはずの爆撃機が爆発すれば、その衝撃波は山肌を叩く。
そして脆くなっている部分が崩落し、自分達を襲うはずだ。

「伏せろ!」

被害を最小限にとどめるべく、私は叫んだ。
ヒラリー君はすぐに理解して山肌に張り付くように行動する。
そしてレイノルズ君は、スリングで爆撃機を狙って投擲した。
なぜ?! そう思っていると“真上から襲ってきた攻撃”を、スリングの球から発生したシールドが防ぐ。

青白い炎・・・魔力の光を放ってスリングの球が落ちていく。
その後も三回攻撃があったが、いずれも同様の方法で防ぐ。
優しい彼女は必死な友軍を助けたのだ。
この援護を見て取った爆撃機クルーも、機体を捨てる決心がついたのか、次々に飛び出していく。
落下傘が開き、乗員が全員脱出するのを安堵と共に見つめていると、嫌な予感がした。

上を仰ぎ見る・・・ 雲で見えないが・・・ 何か、いる。
そう思った瞬間、轟音と衝撃が山に響き渡った。

「掴まれ(ハングオン)! 二人共ぉ!!」

嫌な予感は的中、大量の土砂と雪が降り阻止できた!
何者かはわかりきっている。ネウロイがこの上にいて、自分達を邪魔しに来たのだと!
攻撃せずとも、この土砂で押し流そうというのだろう。
しかしそれも“駆け上がって”きたレイノルズ君が投擲した杖により瓦解する。
杖を中心に展開されたシールドが、左右に受け流す形を作り上げた。

杖を境目に、二つに分かれた激流がすぐそばを通過していく。
その恐怖に耐えながら、私達の前に躍り出た彼女の背中を見た。
背中越しでもわかる憤怒の気配。
そして歌い始めたその声は、力強く、嵐のような印象を受けた。
それを叩きつける相手・・・ネウロイが雲塊から姿を現す。

十脚の蜘蛛の様なネウロイ。
頭部に一門の主砲、背中には二門の旋回も出来そうな副砲。
足はいずれも太そうで・・・その御尻から水蒸気を吐き出している。
口元を見ればホースのようなモノが見えた。
コイツが怪しい雲の犯人なのだとわかった。

同時にレイノルズ君の敵。
戦慄している私たち二人を尻目に、彼女は杖を引き抜いて一気に駆け上がる。
ジグザクに、私達から離れる様に、小さなシールドを足場にして駆け上がる。
間近で、初めてみるウィッチの戦闘に、私達は言葉が出ない。
険しい山肌をものともしない彼女に、ネウロイは主砲と副砲を向けて放つ。

「くぅ!」
「アウチ!」

余波が私達を襲うが、しっかりつかんだ手は離さない。
ここで動けば彼女の邪魔にしかならない。それはわかる。

――グゥオォォ……!!――

歌声がまるで獣の咆哮の様に変わった。しかし挙動変わらず、敵に接近しようとしている。
近づけまいと、再び攻撃を放とうとしたネウロイが・・・急に滑った。
狙いがずれて明後日の方向に攻撃が飛んでいく。十本の足で踏ん張っていたのに、なぜ滑ったんだ?
私の疑問をよそに、ここからは異常な戦闘が開始された。
敵の攻撃は何かしらの妨害?が入ってミスが連発する。

足を滑らせるのはまだいい。(瓦礫が降ってくるからよくはないが。)
時折崩落が起きて岩が直撃し、ネウロイが落ちそうになる事もあった。
対してレイノルズ君は、スリングの球を落ちてきた瓦礫を掴んで投擲したり。
いい感じに崩れて足場になる場所を確保したりしている。
強い風が彼女を押し上げ、弓を放つ時間を作る補助もする。

異質な戦闘に、私達は声が出ない。
これが・・・ ウィッチの戦闘なのか、と・・・
しかしこれはかなりきつい。絶えず瓦礫が降り注ぎ、危険この上ない。
上に若干出っ張りがあるので、ある程度は防いでくれるが・・・
戦闘が終わるまで私達は耐えなければならない。この不安定な場所で。

「ッ・・・!!」

この時、私は気が付かなかったがレイノルズ君は瓦礫に耐えている私達に気が付いたそうだ。
そしてこの場から敵を引き剥がす事にしたという。

――ウゥ… オオオォォ… グゥゥォォォォ!!!!!――

再び力強い咆哮の歌が聞こえると同時に目を開けた。
山頂に近づいた彼女を狙わんと副砲が旋回して、十脚の足場が全部砕けて落下を開始した。

「ヒラリー君! 耐えろぉォォ!!」
「ヒィィィ!!」

凄まじい巨体を誇る敵が、頭上から落下して来る!
それは巨岩が降ってくるのと同意義。
今まで以上に四肢に力を込め、山肌に引っ付く様にする。


ドッゴォォォン!!!!


盛大な音共に、頭上の出っ張りにぶつかったネウロイは外にはじけ飛ぶ。
その衝撃でヒラリー君は剥がれ落ちてしまう。

「うぉぉぉ!!」

咄嗟に私は片腕でロープを支える。
衝撃と瓦礫の崩落が収まるまでの数秒が、酷く長く感じられた。
思わず目を瞑っていた私は、衝撃と振動が収まるのを感じて目を見開く。
眼下に落ちていくネウロイと、杖を投擲して串刺しにしながら追撃する彼女が見えた。

「サラァァァァァ!!」

落ちながら戦闘をする彼女はあっと言う間に小さくなり・・・見えなくなってしまった。
叫んだ私の声が、むなしく木霊する。
僅かに意識を飛ばしていたヒラリー君は、現状に気が付くと大急ぎで山肌に張り付いた。
そして呆然と眼下を見る私の傍まで来ると、同じように眼下を見る。

「彼女は・・・」
「戦いながら、落ちていったよ・・・」

そう言うしか、なかった。
しばらく沈黙していた私達だったが、すぐに作業を開始した。
彼女は自身の目的のためにここまでのぼり、そして今それをこなそうとしている。
ならば自分達はどうすればいいのか?
決まっている。託された仕事を完遂するのだ。

―――――

最後の登頂は簡単に済んだ。
障害物もなく、足場になる部分が沢山出来ていたのも、一つの要因だろう。
山頂に航空標識灯をセットすると、疲れ果てた私達はその場に座り込んだ。
そして水筒から、彼女が入れてくれた紅茶を飲む。
上空を編隊が通過した後も、軽く手を振りながら私達は呆けていた。

最後の最後で、仲間を失った・・・
その損失感が去来し、どうしようもない感情が渦巻いている。

「マロニーさん・・・」
「なにかな、 “エド”。」
「その呼び方は、下山してからにしていただきませんか?」
「そうか・・・」

約束していた呼び方をしてみたが、彼も思う所があるのだろう。
若い命を犠牲にしなければならない現実が、とても憎らしい。
最後の紅茶を飲み干し、下山の準備をし始めた所で・・・


ッカラン………


何かが落ちる音が聞こえて、その音の方に顔を向ける。
もしや、他のネウロイが上がってきたのかと思い、武器にならないピッケルを構えた。
彼女に習い、自分達も戦う姿勢を見せる。
たとえ報いる事が出来ないとしても・・・
緊張により、自然と手に汗が出始めた。

唾を飲み込み、神経をとがらせる。
そして・・・手が見えた。
手の主は、よっこらしょと言う感じで頂上に這い上がって、

「ただいま。」

普通に私達の前に再び現れた。
思わぬ再開に沈黙が流れる。それを打開したのは張本人であるウィッチだった。

「どうした?」
「あ・・・ いや、大丈夫なのかね?」
「大丈夫。掠り傷だ。」

なるほど、よくよく見れば肌が見える所には土に汚れたのが見える位・・・って。

「無事だったんですね!!」

そう言ってエドが駆け寄り、私はゆっくりと歩を進める。
エドはしきりに質問をして、無事かどうかを確かめている。
同じことを繰り返し言っているようだが、気が付いていないようだ。
対して “サラ”も困惑気味に対応している。

「まったく・・・」
「心配を、かけた。」

苦笑すると、私の方を向いて頭を下げる。
一応悪い事をしたとは思っているようなので、拳骨一つで許す。
痛みで頭を押さえる彼女を見ながら私は微笑む。

「さて、良い時間だから御茶でも飲むか。」

―――――

これが、私がアイガーに挑んだ時の記録となる。
残念なことにサラの戦闘は、私は良く見ていないので、彼女から聞くしかないだろう。
口下手で、寡黙な彼女から聞くのは骨が折れるだろうが、そこは努力してほしい。
ともかくとして、私達三人は無事にアイガーを征服した。
最短時間で登頂した私達の記録は、未だに破られていないという。

残念なことに、これ以降私は彼女共に山に登ってはいない。
エドとは何回かあるのだがね。
ただ、手紙のやり取りはしている。
なにせ・・・ 大事な仲間だからな。





以上です。
前篇よりも長くなった!!
サラの戦闘シーンが短い!!
でも一人称視点で書き終えたぞ!!

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最終更新:2015年08月21日 04:55