163 :Monolith兵:2015/07/08(水) 01:32:47
ネタSS「スパゲッティ・ウィズ・ミートボール」 その4
1943年3月、東京の某所で
夢幻会は会合を開いていた。
前回の会合から1ヶ月も経っていないにも関わらず、短期間で連続して会合が行われたのは、国際情勢が激変した為だった。
そう、アメリカ合衆国の事実上の崩壊である。
ハワイ沖でアメリカ海軍太平洋艦隊を潰滅させ、パルミラ、ジョンストンをも陥落したことで、連邦政府の求心力は消滅してしまっていた。シカゴにあった臨時政府も消滅し、アメリカ合衆国を構成していた各州はバラバラに行動するようになっていた。
そんな中で、メリーランドとバージニアはイタリアとイギリスの支援の元で何とか統制をとる事ができており、ノースカロライナやウェストバージニア等も合流しようとしていた。
その一方で、ドイツなどの枢軸国は南部のフロリダやルイジアナ、テキサスなどへ進出する姿勢を見せており、これに対抗してイギリスもカリブ海の島嶼部やパナマ運河などの確保を進めようとしていた。
イタリアはそんな英独の
アメリカ進出競争で後塵を喫していた。何故ならば、イタリアは国土の大半を枢軸国に占領されている上に、未だ戦災から立ち直っているわけではなかったからだ。
国防体勢こそ、枢軸国とソ連との戦争のおかげで幾らか手抜きが出来るようになった物の、経済については日本の支援で何とか生きながらえていた為に、現在のメリーランドとバージニアへの進出すら身の丈を超えた事業だった。
だが、この先生き残るには日本からの支援は絶対必要だったし、日本の興味を引くためには対アメリカ戦である程度の実績は必要だった。
日本も、と言うか夢幻会もその事は良く理解していたから、イタリアへの支援は引き続き行う事を会合で早々に決定していた。
「問題は、ドイツもアメリカに進出しようとしている事です。」
近衛の言葉に会合の出席者達は深く頷いた。アメリカに進出する国がイタリアやイギリスだけならば問題なかった。イタリアは共に血を流し合った血盟国だったし、イギリスの利用価値は十分あった。だが、第一次世界大戦当時からの敵国であるドイツのアメリカ進出は、日本の方針を変更するのに十分なインパクトを持っていた。
「先に行われた日英独伊の会談では、ドイツはアメリカ南部の分割を要求してきています。イギリスと重なる部分はありますが、住み分けはある程度出来る物と思われます。
それと、我が国の主張はほぼ認められましたが、イギリスは日本とパナマの共同統治を行いたい旨を打診してきています。」
外務省からの参加者の報告で、出席者達はそこかしこで近くの者達と小声で話し合い始めた。その内容は、殆どがイギリスは信用できるのか、イタリアのパナマへの進出は不可能なのかといった物だった。
「イタリアの財政状況から見て、現在でもかなり無理をしています。これ以上イタリアに要求するのは酷と言う物でしょう。
むしろ、イギリスを巻き込んでアメリカ西部に進出して、あまつさえアメリカ風邪の南下を食い止めている事を賞賛すべきでしょうね。」
辻の発言に、近衛や伏見宮と言った重鎮達は深く頷いた。なにせ、イタリアは史実日本よりも低い工業力しか有していないのだ。その低い工業力すらも、ドイツとフランスに北部を占領された事で更に低下していた。
だというのに、イタリアはイギリスを動かしてアメリカに進出し、日本をサポートしたばかりかアメリカ風邪の脅威を防いでいるのだ。
はっきりいって、これ以上の事を望むのは余りにも贅沢だった。
「対米戦ではイタリアにはかなり助けられました。今後は我々がイタリアを助けるべきでしょうね。
4月の核実験で、世界は日本が核兵器を保有した事を理解するはずです。それを利用して、欧州枢軸に圧力をかけ、イタリアの領土を回復する手助けをするべきでは無いでしょうか?」
嶋田の言葉に賛同する者は多かった。
イタリアは末席ながら列強の一角であったし、日本の数少ない同盟国であった。しかも白人国家であったので、対米戦で連戦連勝して増長していた日本国民の頭をある程度冷やす事も出来ていた。
それどころか、対米戦では少数ながらも奮戦していた影響からか、冬戦争におけるフィンランド軍の超人ぶりも合わさって、欧州人は侮りがたいという風潮が生まれつつあった。
164 :Monolith兵:2015/07/08(水) 01:33:41
「イタリアが失地回復でき国力を回復したならば、日本もかなり楽ができるはずです。それに、今のようにイタリアに大量の支援を行う必要もなくなります。
そうなれば、ドイツやイギリスに対してアドバンテージを持つ事も不可能ではありません。」
辻は嶋田の提案に大賛成だった。イタリアへの支援は、如何に対米戦を有利に進めている日本といえども無視し得ぬ負担だったからだ。
また、イタリアからの義勇軍は、特にイタリア海軍の義勇艦隊は軽巡洋艦タラントと旧式駆逐艦4隻と言う陣容だった物の対米戦を行う上では非常に有用な戦力だった。例え、後方支援での活躍だったとしても、補助艦艇の不足、特に巡洋艦戦力の不足に悩む日本海軍からすれば、イタリア義勇艦隊は金よりも貴重な存在だった。
そして、イタリアが復活すれば、日本は世界第3位の海軍大国かつ欧州列強と同盟関係になれる。現在のイタリアも額面上は世界第3位の海軍大国だったが、継戦能力は皆無だった。それどころか1会戦すら出来るかどうかも怪しかった。
「それに、イタリアが復活すれば、作りすぎた兵器、特に艦艇を押し付ける事が出来ますからね。」
身も蓋もない辻の考えは、海軍関係者からすれば少しばかり問題があったが、戦後に軍縮が待っている事は確かであったので、同盟国の戦力アップも兼ねて戦時急造艦や旧式艦を引き取ってもらう事は理に叶っていた。
「イタリアの復活の支援やドイツのアメリカ進出を認めるのはいいとして、ソ連との関係はどうするんですか?」
「現状維持のままでいいんじゃありませんか?ドイツはソ連を攻めあぐねていますし、ソ連もドイツの攻勢に何とか持ち答えていますが、両者の工業力を考えればその内ドイツが優勢になるはずです。
それを考えれば、ドイツのアメリカ進出は渡りに船ですよ。ドイツには、精々北米大陸で国力をすり減らしてもらいましょう。」
ドイツは昨年8月にソ連との戦争に突入していたが、戦況は芳しくなかった。対イタリア戦の影響で多くの損害を蒙り開戦が遅くなった事で、時間的余裕を得たソ連が構築していた陣地が重厚になった事で戦線は膠着していたのだ。
更に、ソ連は日本との貿易という名の搾取によって、ある程度は倒れない防衛体制を構築する事に成功していた。その代価は多大な物であったが、ドイツにとってはたまった物ではなかった。最も、戦後の事を考えれば、筆髭を除くソ連首脳部は頭を痛めていたが。
枢軸国は慢性的な石油不足であったため、ソ連が保有するバクー油田の奪取は欧州枢軸がこの先生き残る為には必要だった。だが、それが失敗した所か、未だソ連との旧国境線にも到達出来ていない事で枢軸国は窮地に立たされた。
そんな時に齎されたアメリカの崩壊である。ここでアメリカに進出し、特にテキサスの油田を確保できれば、対ソ戦でも有利に立てる可能性すらあったのだ。少なくとも、ヒトラーはそう考えた。国防軍や幾人かの閣僚はヒトラーに再考を進言したが、決定が覆る事は無かった。
それを知った辻は、石油不足にあえぐドイツを北米大陸に誘引し、国力を盛大にすり減らしてもらおうと考えていたのだ。
「どうやらイタリアも我々と同じ考えのようです。生き残っていたアメリカ東部のマフィアや、幽閉していたイタリアンマフィアをアメリカ南部へ追放したという情報もありますから。」
イタリアはアメリカ東部への進出に、シチリアマフィアを利用していた。だが、ある程度東部州の手綱を握る事ができた為に彼らの存在は目障りになっていた。
その為、マフィアたちはイタリアの勢力圏からアメリカ南部、主にテキサスやミシシッピなどに追放されていた。手土産として少なく無い量の武器や麻薬を持たせて。
現在のイタリアの国力では、メリーランドやバージニアを確保するだけでも身の丈を超えていた。その為、その他の地域に対しては、手に入らないならば破壊してしまえとばかりに、マフィア連中を利用したり、追放したりして地域経済や秩序の破壊を行っていた。
お陰でテキサスは比較的大西洋大津波の被害が少なかったにも関わらず、既存のギャングやマフィアとイタリアンマフィアとの勢力争いによって、酷い混乱におちいっていた。
それを見たイギリスも、ドイツを意図的にテキサスへ誘導するよう画策しており、ドイツを自ら泥沼に沈めさせようとしていた。
かくして、夢幻会の方針は決したのだった。
165 :Monolith兵:2015/07/08(水) 01:34:44
1943年4月、ドイツ軍はアメリカ合衆国への侵攻を開始した。その戦力は僅か2個師団と心もとなかったが、マフィアやギャング同士の抗争で混乱するテキサスやフロリダなどを相手にするには十分な戦力だった。
だが、アメリカに進出してすぐにメキシコ軍が失地回復を掲げて、北上を始めた。その為、カリフォルニアは日本に、テキサスはドイツにそれぞれ支援を求める事になった。
テキサスはドイツの支援の元防備を固める事に成功していたが、カリフォルニアは日本からの縁が来るまでは単独でメキシコ軍の攻勢に耐えなくてはならなかった。
その上に、カリフォルニア軍にはカリスマ性を備える将官が存在しなかった。ドワイト・D・アイゼンハワーは臨時首都であったシカゴから脱出した後にテキサスに向かったのだが、そこはマフィアの抗争で混乱していた上に、日本軍に敗北した連邦軍に対して冷淡な対応をされた。黄色いサルに負けた軍の将官など、テキサスからすれば必要なかったのだ。
だが、それで絶望しなかったアイゼンハワーは、部下を引きつれて自身の能力を発揮できる場所を求めた。そんな折に、アイゼンハワーはメリーランドやバージニアからの、正確にはそれらを支援しているイタリアやイギリスからの誘いを受けた。
既に祖国アメリカは崩壊しているとは言え、外国の傀儡になっている場所に向かうのは躊躇した。しかし、南部はナチスに毒され、西部は敵国に支援を求めている。そんな状況では、同盟国だったイギリスや中立国のイタリアが支配する東部に向かう他に道は無かった。
「まさか、再び東海岸に戻ってくるとは・・・。」
アイゼンハワーは、リッチモンドで州軍や旧連邦軍の残党をまとめ上げ、イタリア軍やイギリス軍とも折衝を行い、復興の指揮を取っていた。
かつて見捨てたアメリカ東部に帰ってきた事に運命の皮肉を感じてはいたが、アメリカ合衆国の残光が色濃く残る東部諸州の復興にやりがいを見出していた。
「現在はそれほどではありませんが、対メキシコ戦が集結すればドイツ傀儡の南部や、日本の傀儡の西部と睨み合いになる可能性が高いです。
現在の戦力では、我々旧連邦軍の一部が何とか使える程度ですので、早急に各州軍の能力向上を行う必要があります。」
副官の懸念に、アイゼンハワーは笑みを浮かべながら、そこまで急ぐ必要は無いだろうと答える。
「イギリスは日本との関係修復を求めており、イタリアに至っては日本と同盟関係にある。となれば、注意が必要なのは南部のナチスどもになる。
その南部にしても、日本の支援を請けたカリフォルニアと睨み合いをしなければならない以上、我々に対する圧力も低下するだろう。
それ以前に、ドイツはテキサスやフロリダを掌握するだけで暫くは一杯一杯だろう。
その間、我々は復興を急ぎ、十分な国力を蓄えるべきだ。軍事力の増強はその次だよ。」
アイゼンハワーは、軍事力の拡充は暫くしなくてはいいと考えていた。なにせ、テキサスはメリーランドやバージニアよりもカリフォルニアの方が近いのだ。例え間にはロッキー山脈がそびえているといっても、脅威度としては西海岸の方が大きかった。
「それよりも、復興と疫病の侵入の阻止の方が余程重要だ。話によれば、東北部の疫病はペストである可能性が高いと言うではないか。
下手をすれば50年前のペスト禍や20年前のスペイン風邪の二の舞になりかねない。我々が世界の命運を握っていると言う事を各員に強く言い聞かせるんだ。」
アイゼンハワーの言葉に、副官も強く頷いた。そう、今のメリーランドやバージニア、最近合流したウェストバージニアにとっては、メキシコやテキサス、ドイツなどよりも北部から迫りつつある疫病の方が余程厄介だったのだ。イギリスとイタリアからの支援によって何とか持ち答えているが、自立できなければいつかは防疫線を突破されてしまう。
戦後、北米東部連合大統領となるアイゼンハワーの戦いは、まだ始まったばかりであった。
166 :Monolith兵:2015/07/08(水) 01:35:45
対メキシコ戦に日本や欧州勢力が参戦し、メヒカリに地上の太陽が出現した事で、メキシコ継続戦争は終結した。メキシコは屈辱的な条件を呑んで降伏したのだ。
アメリカ風邪は東部では何とか阻止する事が出来ていたが、中部では急速にその勢力を拡大していた。メキシコは中部へ進出し、アメリカ風邪を広げようとしたため、各国から宣戦布告を受けたのだ。
それも、メキシコの降伏によって何とか阻止する事ができた。
一方で、メヒカリを消滅させた原子爆弾と投射手段である富嶽の性能に、英独は頭を抱えていた。特に、ドイツは日本と二度に渡り戦争をしたことで、日本から目の敵にされていたので、深刻度はイギリスの比ではなかった。その上に、日本第一の同盟国であるイタリアの国土を占領している上に、未だ睨み合いを続けているのだ。
もし、イタリアに富嶽と原子爆弾が配備される事になれば、対ソ戦と北米への進出で国力をすり減らしているドイツの国力では、国内の都市は軒並み灰燼に帰す可能性すらあった。
「ゲーリング!何としてでも富嶽を迎撃できる戦闘機を開発するのだ!
そして、原子力兵器の開発を進めるのだ!」
ヒトラーはそう言い、何としてでも日本に対抗できるようにしろと閣僚に命令した。それにシュペーアは莫大な予算がかかる為、不可能であるとヒトラーを諫めたが、ヒトラーは考えを翻す事は無かった。
「ここでなにもしなければ、我々は日本に遅れを取るばかりになる。それどころか、イタリアがこれらの兵器を日本から導入すれば、我々は立ち枯れてしまう・・・。」
ヒトラーの懸念は最もだった。だからこそ、ヒトラーはある決断を下した。
「イタリア北部の返還と引き換えに、欧州への原子爆弾と富嶽の配備を止めさせるしかない。」
ヒトラーの言葉に、幾人かの閣僚は目を輝かせた。
イタリア北部を占領したドイツとフランスだったが、その統治費用は右肩上がりだった。潰しても潰しても雲霞のごとく現れるパルチザンに、局部を腐り落とされた軍人や親衛隊員が続出しており、ドイツにとってイタリア北部の維持は負担でしか無くなっていた。
しかも、パルチザン達はM38Aのみならず、水道管のお化けであるステンガンすら保有しており、イギリスの関与が疑われていた。欧州でソ連とイタリア、更にはイギリスと対峙し、北米で日本や英伊と対峙する事になれば、如何なドイツと言えども劣勢に立たされる事は間違いなかった。
最も、ステンガンの殆どは現地の町工場などで生産された代物であり、イギリスから送られた支援はほんのすずめの涙でしかなかったので、ドイツの懸念は間違いであったのだが。
それらの事を考えれば、イタリア北部を放棄するとその分の戦力を対ソ戦に投入できる。そうなれば、戦況を変える事が出来るかもしれないのだ。
「リッベントロップ、その方向でイギリスや日本と調整をするのだ。出来るな?」
「解りました、努力します。」
かくして、イタリアは失った国土を回復する事になった。
それは、イタリアの列強への復帰と共に、日本にとって有力な同盟国が誕生すると言う事でもあった。
おわり
最終更新:2015年09月08日 22:55