852 :ham ◆sneo5SWWRw:2015/09/28(月) 19:22:29
1945年11月7日、現地時間午前7時
「進めぇえええ!!!!」
「「「わああああああああ!!!!!」」」
アルグナ王とモゥドワン王は、それぞれ自軍を率いてアルヌスの丘を目指し進撃を開始した。
リィグゥ公王の軍勢もこれに続いて出陣し、エルベ藩王デュランも自軍の出撃準備に入った。
だが、
「帝国軍が一兵もおらんだと!?」
「は!先陣のアルグナ王国軍、モゥドワン王国軍、リィグゥ公国軍は確認できますが、帝国軍は兵どころか旗も天幕ありません!」
「旗すらもか!?」
無線機が発明されるまで、軍隊の命令伝達において軍旗は重要であった。
なにせ兵士が指揮官からの命令を受け取るための手段は目と耳しかなかったのだ。
そのため、軍の位置や戦闘の優劣を確認するなどのために軍旗は重要であった。
つまり、その軍旗がないということは帝国軍は一兵もいないことを意味する。
「まさか・・・いかん!出陣を急がせよ!」
作戦会議の席上から感じていた疑問。
どうして帝国が連合諸王国軍を結成させたのか、
どうして帝国側が作戦会議に顔を出さなかったのか、
その疑問の正体に気付き、胸騒ぎを感じたデュランは出撃を急いだ。
一方、先方のアルグナ王国軍、モゥドワン王国軍は敵陣まで6kmの地点に到達していた。
敵は8万か9万ほど。
こちらは合わせて約4倍の30万。
しかも何をしているのか、穴に掘って籠り、細い鉄線の柵を作って防御しているという。
このような敵は楽に倒せるだろう。
そう思っていた両軍に突如、太く低く、少し反響した声が聞こえてきた。
「異界の軍勢よ。これより先に進むことは許さん!」
「だ、誰だ!? 名を名乗れ!」
突然の声に驚いたアルグナ王がそう言って周囲を見渡す。
しかし、自軍やモゥドワン王国軍の軍勢以外に怪しい人間は確認できなかった。
周囲の兵士も上空の竜騎士も突然の声に驚いて留まり、周囲を確認する。
声の主が再び喋る。
「我が名は日本、お主らの言う異世界の国の神の1柱。
火の神カグツチより生まれし、剣と雷を司る武神、タカミカヅチだ!」
「なんと!? 異世界の神だと!?」
モゥドワン王は声の主が異界の武神だということに驚く。
特地の神は基本的に精神体の状態で存在しており、物理的な会話が不可能である。
もし会話するならば、魂力の高い人や亜人(主に神官)の体を借りる必要がある。
しかし、タカミカヅチを名乗る異世界の神は、その様な事をせずに会話しているため、彼らは余計に驚いた。
「異世界の神が何故我らを止めるか!?」
「お主らが我を崇め敬う日本の民に害を成そうとしているからだ!」
「なにを!害を成すのは日本の民だ!我らが世界に勝手に攻めてきて、神聖なるアルヌスの丘に居座っているではないか!」
アルグナ王はそう言って責めたが、タカミカヅチを名乗る声はそれを意に反さないように嘲り笑う。
853 :ham ◆sneo5SWWRw:2015/09/28(月) 19:23:05
「ハッハッハッハッハッハ・・・・勝手に攻めてきただと?攻めてきたのはお主ら異界の軍勢ではないか!
帝国などという輩が門を開き、我を敬う民の国に攻め、その民を悉く殺した!
それで自らが攻められただと?人すら劣る薄汚れた奴らよ!」
「「な!?」」
アルグナ王とモゥドワン王は驚いたが、あり得る話だと思った。
帝国は侵略を国是としていると言っていいほど、戦争に明け暮れており、
攻め込んだ相手と一旦協定を結び、偶発的な問題を理由にして反故にする騙し打ち戦略を常套手段していることがよく知られている。
そんな帝国ならば、自分達が攻めたことを隠して、異世界の軍勢が攻めてきたと嘘をつくことだってあり得る。
しかし、彼らは退けなかった。
連合諸王国軍に参加し、しかも先方についているのだ。
ここで勝手に引けば、帝国に攻める口実を与えることになるし、対外的に信用のならない国という印象を与えることとなる。
それに、タカミカヅチを名乗る声が最後に言った言葉が気に食わなかった。
「この私が、アルグナ王を名乗る私が人すら劣るだと・・・なんたる侮辱か!? その言葉取り消せ!」
「侮辱ではあらぬ。事実を言ったまでだ。
異界に勝手に門を繋げ、話をしようともせずに攻め入る。
自らの非を認めぬ。
そればかりか、自らが非を受けていると申す。
このようなことを人が行うのか?
否、せぬ!
するとすれば、それは人に非ず!
人の姿をした猿にしか過ぎぬ!」
「黙れ!この私が猿だと!許せん!異界の神よ!貴様を敬うという日本は我が自ら滅ぼしてくれるわ!」
「ほう。それより足を踏み入れるというのか?我は先に進むなと言うたが?」
「黙れ!全軍、進めぇええ!!!」
アルグナ王の命令でアルグナ王国軍は前進を再開する。
モゥドワン王も怒りを表して軍を進めている。
その両軍にタカミカヅチを名乗る声は言った。
「よかろう!どうしても進むと言うのであれば、我が裁きの雷を受けるがいい!!」
声はしばらくして聞こえなくなった。
両軍は何らかの攻撃が来るとして警戒しながら進む。
しかし、その警戒は無意味だった。
突如として轟音と共に両軍は爆発に巻き込まれ、炎に包まれていく。
数分後には両軍が居た場所には、物を言わぬ骸しか無かった。
854 :ham ◆sneo5SWWRw:2015/09/28(月) 19:23:51
裁きの雷は後続のリィグゥ公国軍、そして追いついたエルベ藩王国軍からも見えていた。
リィグゥ公国軍もタケミカヅチを名乗る声を聞いており、一度足を止めていたところに、急いで出撃してきたエルベ藩王国軍が追いついたのだ。
「リィグゥ殿!まさかアルヌスの丘が噴火したのか!?」
アルヌスの丘から聞こえくる爆音と見えている爆炎が火山の噴火のように見えたためにデュランはそう訊ねた。
しかし、帰ってきたのは予想外の答えだった。
「いや、先程タケミカヅチという異世界の神の声が聞こえてきて、『アルヌスの丘に近づくことはならん』と言ってきたのだ」
「異世界の神!?」
タケミカヅチを名乗る声を聞いていないデュランは、リィグゥ公王の説明を始める。
「そうだ。アルグナ王とモゥドワン王は問答の末前進をしたようで、タケミカヅチが『裁きの雷を受けるがいい!!』と言った途端、あのように・・・」
「『裁きの雷』だと!?」
デュランは、ただただ驚くばかりであった。
しかし、ここに留まっているわけにもいかないため、リィグゥ公国軍と共に前進を進める。
そして彼らの前には、パエリアのように人間が、亜人が、軍馬が、攻城兵器が、翼竜が、掘り返された土と混じるように骸を晒していた。
どれも五体満足は無く、必ず身体のどこかが無くなっていた。
わずかに生き残った者の呻き声もかすかに聞こえる。
「これが……これが神の裁きだと言うのかッ!!」
あまりの惨状にリィグゥ公王はそう叫んだ。
そんな彼らに再び声が聞こえてくる。
「我が裁きを見た異界の軍勢よ!
再び日本を攻めようとするのではないぞ!
さすれば今度は貴様らの国に、街に、村に、我が裁きを加える!
裁きを受けたくなければ、自らの愚かさに悔い、直ちに帰られよ!
ハッハッハッハッハッハ・・・・」
タケミカヅチを名乗る声の高笑いが、戦場に尽きることなく響いた。
この日、アルグナ王国軍4000名とモゥドワン王国軍6000名、合わせて10000名の軍が文字通りこの世から消えた。
なお、アルグナ王とモゥドワン王はこの後の作戦会議の場に、いや本国にすら姿を現すことは無かった。
1945年11月11日
4日後、連合諸王国軍の第二次総攻撃が開始される。
攻撃前にタケミカヅチを名乗る声の警告が再び聞こえたが、連合諸王国軍は無視して前進。
日本軍が砲兵師団などで火力が強化されていたこともあり、約5万5千人の戦死者を出す。
最終更新:2025年03月04日 22:13