220. earth 2011/07/22(金) 22:38:20
  勢いと電波に導かれて書いた嶋田さん不老不死化のネタ話です。
  続きません(爆)。
  

  強引に不老不死にされた挙句、海軍元帥として、時には政府顧問として激務に従事する嶋田は久しぶりに会合に出席した。
  尤も会合メンバーが一堂に集うと政治的に面倒だし、注目を浴びすぎるので、秘密通信回線を使っての議論が主流となっていた。
嶋田は会議室の壁に埋め込まれた画面に映るウインドウに、会合メンバー全員が現れたのを確認して話を開始する。  

「それで今日は何の用です?  正直、忙しいのですが」

  一向に減る気配が無い仕事に嫌気が差しているのか、嶋田は少し苛々した声色だった。
  だがそんな嶋田に気を配るような人間は会合メンバーには余りいなかった。無恥厚顔を地で行く辻が平然と言う。

『欧州で面白い試みが行われているようです』
「欧州で?」

  20世紀後半に発生した事実上の第三次世界大戦でドイツ第三帝国が崩壊して以降、欧州は低迷が続いていた。  
  イギリスは日本に尻尾を振ることで、何とか生きながらえていたものの、他の国々は悲惨だった。日本の後押しで復活した
ロシア王国は日本の支援や資源の輸出で活気付いているものの、他の地域は閉塞した状況だ。
  故に嶋田はわざわざ会合で議題に挙げるとなると、相当の事が起こっているのではないかと考えた。
  
「ナチの残党が大規模なテロでも?」

  かつて白人のテロによって死んだことがある嶋田としては当然の発想だった。  

『いや、ある意味、経済的に、あと学術的に興味深いことですよ』

  辻の言葉に嶋田は首をかしげる。

「学術的に?」
『ええ。連中、過去の偉人のクローンを量産するつもりらしいです』
「……はぁ?」
『いやいや傑作ですが、連中、過去の栄光を取り戻すために過去の偉人を再生するつもりのようです』
「……クローンと言っても同じ人間になるとは限らないでしょうに」
『それだけ追い詰められているのでしょう。さしずめ毒(クローン)をもって毒(不死者)を制すといったところですか』

  辻は肩をすくめる動作をする。

「その動きを潰すと?」
『クローン技術が他国で発展するというのは面白くないでしょう?  商売敵は潰すに限ります。
  ネタは色々とあります。ネオナチも絡んでいるようなので、万が一に備えて軍の準備もお願いしたいのです』
「良いでしょう」

  だが欧州も黙って計画を潰されるつもりはなかった。彼らは過去の有名人のクローンの売却を日本の富裕層に持ちかけた。
また熾烈な競争のために一人でも多くの優秀な技術者を欲している日本企業も巻き込み、夢幻会を牽制した。
221. earth 2011/07/22(金) 22:38:52
『……さすが欧州、裏取引はお手の物といったところでしょうね』

  会合の席で辻はやや苦い顔をする。

「それでは?」
『我が国の馬鹿共を何とかする必要があるでしょう。全く過去の遺物に縋るなど』
「我々が言っても説得力は無いでしょうに」

  嶋田の言葉に誰もが苦笑する。第三者からすれば過去の偉人の集団である夢幻会は、未だに隠然とした影響力を持っていた。  

『何はともあれ、監視は必要でしょう』
「スパイでも送ると?」
『いえいえ。もっと手っ取り早い方法がありますよ』

  辻がニヤリと笑う。その表情を見た嶋田は、また自分が無茶振りされる可能性を感じて予防線をはる。

「私は忙しいから無理ですよ」
『大丈夫です。統合参謀本部や政府からは了承を取り付けています。ああ環太平洋条約機構軍についても問題ありませんよ』
「………」

  助けを求めるように嶋田は、他のメンバーに視線を向ける。だが誰もが気まずそうに顔を背けた。

「糞、すでに根回し済みか!  事後承諾とは卑怯だぞ!!」
『卑怯だの何だのは敗者の戯言ですよ』

  こうして嶋田は偉人のクローンたちが集められた学園に、監査役として赴任させられることになる。
  勿論、日本海軍元帥、日本政府政策顧問など色々な肩書きを持つ超VIPの嶋田自らが赴任するとの提案に、欧州は渋い顔
をした。だが今や大口スポンサーとなった日本企業や富裕層も、嶋田の赴任を支持したために認めざるを得なかった。
しかし欧州側は条件をつけた。それは嶋田に教師としての職責も果たして欲しいというものだった。

「連中は何を考えているのやら……」

  欧州に向かう日本政府専用機の中で嶋田はため息をついた。
  こうして監査役(兼教師)として、偉人のクローンに囲まれた生活が始まる。

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最終更新:2012年01月02日 18:20