- 335. earth 2011/08/07(日) 17:50:39
- 転生や憑依なしで、架空の世界に干渉する方法を考えたら出来た実験的SSです。
肥やしにするのもあれなので載せて見ます。
電脳世界のエトセトラ
「信介叔父さん。叔父さんの技術が凄いことは判るんだけど……この技術を使えばもっと金儲けできると思うよ」
平均的日本人の外見から逸脱しない、ごく普通の容貌をもつ青年・濱崎大輔はそう嘆息した。
彼の視界にあるのは、SFに出てきそうな宇宙戦艦の艦橋であり、そしてその外には広大な宇宙があった。
「全く。何をどうやったらこんなことが出来るだよ?」
何も無い空間に向けて彼は問う。客観的に見れば独り言以外には見えないのだが、驚くべきことに、彼の
問いに対して返答が返ってくる。
『そんなに大したことはやっていないと思うが?』
その返答と共に空中にやや小太りの男の映像が映し出される。
「これで大したことがないなら、世間一般の科学者の立場が無いよ……」
『まぁ愚痴を言わず、付き合ってくれよ。どうせ暇だろ? それに普通のゲームをやるよりはよっぽど刺激的な
ことは保証するぜ』
天才科学者にして、天才投資家。20代半ばにして日本を代表する一大企業を作り上げたチートな叔父の言葉に
大輔はため息をついた。
交通事故で亡くなった自分の両親の代わりに自分を育ててくれた叔父は尊敬の対象であった。だが些かマッドな
ところがあり、よく実験に付き合わされて酷い目にあっていたので、大輔はこのような実験においては叔父を今一
信用できなかった。
「どちらかというとモルモットにされてるって感じがするけど……」
- 336. earth 2011/08/07(日) 17:51:19
- ぶつくさ言いつつも大輔は手を握り締めたり、頬をつねる。
「やっぱり感覚がある。凄いな……」
彼が居るのは信介が自宅のお手製スパコンで作り上げた超仮想現実空間ともいうべき空間だ。
尤もより正確に言えば彼自身がいるのではなく、信介の研究室から、この仮想空間に彼の意識をダイブさせているのだが。
『それじゃあ始めようか。なぁに少しリアルな宇宙戦争と思えば良い』
その直後、大輔の傍に控えていた副官が敵艦隊出現を報告する。
「第一種戦闘配備。全艦、砲雷撃戦用意!」
『おおっと。ノリが良いね』
「ここでテンション下げていても仕方ないよ」
『ははは。確かに。それじゃあ、大戦果を期待していますよ。艦隊司令官殿』
信介がそういった直後、通信が切れる。
「艦隊司令官……ね。まぁその響きも悪くないか」
そう呟くと大輔は目の前の敵艦隊撃滅に集中する。SLGを好む彼としては、このシチューエションは中々に燃えるもの
があるのは否定できない。
「まぁデータが蓄積できたら叔父さんに頼んで、リアルな銀英伝とかメビウスリンクのゲームを作ってもらうか?」
そう呟いた1時間後、会戦は終了する。大輔艦隊の勝利という形で。
「某会社のAIほど馬鹿じゃないけど、もう少し改善の余地があると思うよ」
現実に帰還した大輔は卵のような形状をしたカプセルから出ると、そう信介に告げた。
「ははは。実験中だしな。その辺は勘弁してくれ。まぁ今後も頼むよ」
- 337. earth 2011/08/07(日) 17:51:58
- そのような実験も何度か繰り返され、システムの完成度は上がっていった。
その過程を見ていた大輔は信介に尋ねる。
「これってどうするの?」
「リアル.hackにするのもあり出し、まぁ色々と考えているよ」
「シミュレーションマシンとしても、かなり使えるんじゃない? ゲームばっかりじゃ勿体無いって」
「判ってるさ。だけどこいつは、半ば趣味で作っているものだからな……」
道楽にかける情熱も凄まじい叔父に、大輔は嘆息する。
同時にこのような性質が、叔父の才能を形作っているんだろうと思うと苦笑した。
(全く、信介叔父さんのようにはなれないな……)
やれやれと首を横に振った後、大輔は信介に問うた。
「だったら、既存のゲームとか漫画とかをこのシステムで再現できない?」
「既存のゲームを? なるほどロールプレイングをやってみたいと」
「あとは、原作にはない第三勢力を登場させてみるとか、面白いと思わない?」
「ふむ。歴史シミュレーションも考えていたんだが、それも中々に興味深いな。よしやってみるか」
かくして現実世界では架空の世界が、電脳世界では現実の世界として構築されていくことになる。
最終更新:2012年01月02日 18:16