このお話は同人誌「スフィンクスの魔女」1巻を参考にしており、モロネタバレと言っていい物です。
ネタバレが嫌な方は見ない方がいいかもしれません。
また、若干のキャラ崩壊があります。
この人はこうじゃないぞ!という文句が生まれることがあるかもしれません。
この他オリキャラや転生者、オリジナル設定、個人的解釈があります。
以上を理解し、同意した上でお読みください。






北アフリカの四馬鹿親父





それはスエズ奪還作戦、第一次スフィンクス作戦が発動されるより前の事である。





1939年より全世界に猛威を振るい始めたネウロイ。
北アフリカに置いてはエジプト王国がその脅威に襲われ、スエズ運河防衛に失敗、首都カイロも陥落し、人類連合軍はリビアのトブルクまでその前線を押し下げられていた。



そのトブルク周辺の人類軍将官会議が行われる天幕。
そこに火の点いた葉巻を加えた初老のリベリオン中将が入ってきた。
新しく北アフリカに派遣されたリベリオン第2戦車軍団の軍団長ジョージ・S・パットン中将である。

「ヨォ将軍共! ワシの分の敵(エネミー)は残しておいてくれてるかね?」

タバコが嫌いなのか中で吸っている将軍の紙タバコの煙に咳き込む男が答えた。
ブリタニア陸軍第8軍司令官のバーナード・ロー・モントゴメリー中将だ。

「君が最後だ。時計を変えた方がいい。壊れてるぞ、それ。」
「そりゃナイスアイディアだ、モントゴメリー! こいつはロンドンで買ったやつでね!」

モントゴメリーの神経を逆なでするかのようにパットンがそう言うと、紙タバコを吸っていたもう一人が横から言う。
砂漠の狐、カールスラント陸軍のエルヴィン・ロンメル中将だ。

「カールスラント製にしたまえ、正確だ。君が使いこなすかどうかは別問題だが?」

そしてもう一人、他の三人とは違う東洋系の男が口を開いた。
マレーの虎、扶桑陸軍、山下奉文中将である。

「それはカールスラント製が凝り過ぎた作りをしているからだろう? 扶桑製の方が扱いやすいぞ。もっとも良い時計を持っていても、当人の心がけ次第では無駄だがな。」

四人の将軍がそれぞれ言った言葉でギスギスする空気。
その中で、内心怯えている扶桑人が一人。

(俺はなんでこんなところにいるのだろう・・・)

扶桑陸軍中将、牟田口廉也はそう思った。

なぜマレーの虎の山下奉文がここにいるのか?
それは加東圭子ら扶桑陸軍アフリカ派遣独立飛行中隊、通称"砂隊"の設立時に起きた問題が原因である。
当初、教官職を望んで現役復帰願いを出した加東だったが、苦戦の強いられるアフリカへの欧米諸国の増援要請に答える上層部の一部がこれ幸いにと押し付けたのだ。


参謀総長や陸軍大臣などに説明も許可も取らずに。


しかも事後報告すらしていないどころか、担当した当人が完全に忘れる始末。


それだけならまだしも、なんとさらには基地中隊として配属される士官が途中のジブラルタルで部隊運営資金ごと降りて、横領するなんて馬鹿をやらかした。
最も、古参下士官で最上級の氷野曹長らがこれを察知し、荷物をすり替えたために運営資金の金塊は無事だったが。

ともあれ、加東と同じく配属された新任の稲垣真美軍曹は、マルセイユが夢であった国籍を問わずに仲間を集めた自分自身の部隊を設立したいがために、統合戦闘飛行隊を創りその一員となることになった。
加東らにしても自分達が使う飛行場を新たに用意する手間も省け、他国の協力が得られるために最終的に合意し、統合戦闘飛行隊「アフリカ」が始動した。
そして、その事実を新聞で知った参謀本部では大混乱となった。
上層部の、それも長たる人間に許可なく部隊を創るなんて一歩間違えられれば国家反逆罪に問われたっておかしくないこの事態に夢幻会も大慌てとなった。
夢幻会の介入で扶桑軍は全体的に綱紀粛正と体質改善を行ってきたが、働き蟻の怠ける割合が変わらないのと同じか、はたまた歴史は変えられないのか、どうしようもない馬鹿が残念ながら居たのであった。
原作である同人誌や小説を読んだ転生者もこれだけ綱紀粛正しては、やらかす馬鹿はいないだろうと楽観視していたのも災いした。

夢幻会では今後も一層の綱紀粛正を行うこととして、忘れた馬鹿、許可も説明もしなかった馬鹿、そして横領した馬鹿を軍法会議にかけてそのほとんどを極刑にし、部隊を正式なものと認定して、海軍から副隊長に事変の戦友とも言える真嶋志麻を、陸軍から新たにベテランを1名を派遣することになった。

これだけで終わればよかったのだが、マルセイユらから伝え聞いたカールスラントとブリタニアにもこの事実が知られてしまい、外交カードに使われてしまったのだ。
アフリカ方面への扶桑陸軍地上戦力派遣の対価として。

扶桑本土周辺やオラーシャ、アジア諸国に専念したいところだが、もし公表されれば反夢幻会派の格好の攻撃材料となりかねないこともあり、しぶしぶと了承。

各国との調整役に本編で出番の少なかった寺内寿一大将を置き、現場指揮官に山下奉文中将を置き、参謀長に牟田口廉也、そして戦闘部隊にはインパールの名コンビ(桜井省三、宮崎繁三郎)指揮の歩兵連隊戦闘団編成を2個、栗林忠道少将指揮の戦車連隊戦闘団編成を1個用意し、陸戦ウィッチも合わせて北アフリカに派遣することとなった。
なお、参加する戦闘部隊の兵士には生のウィッチを見たい転生者が多数配属されていたのはご愛嬌である。

そして、現在に至る。

(杉山さんや東条さんは年齢と階級的にまだわかるが、前田さんに木村さん、そして他の奴ら。皆逃げやがって・・・)

内心で逃げた他の陸軍高級将校の転生者に悪態をつく牟田口を知ってか知らずか、四将軍の会議は進む。

「魔女(ウィッチ)の空陸協動部隊(エアランドバトルユニット)?」

葉巻を吸い終え、新しい葉巻の吸い口を切ろうとしているパットンが咳き込むモントゴメリーに訊ねた。

「その通り。ここ数回の防戦で露呈した、各国の魔女の連携の遅れ…その解決策だ」
「確かに賛成だ。これまでの危機は現場の魔女同士の運用(アドリブ)によってなんとかなった。しかし今後もそのままにしておくのは上級指揮官の怠惰以外の何者でもない!」
「ふむ。マルセイユ君とマイルズ君のコンビネーションに頼ってばかりというのも問題だろうな。」
「砂漠戦はそこにある砂のごとく流動的だ。逐一変わる状況変化に対応するためには航空部隊との連携が必要不可欠だな。」

パットンの賛成意見にライトニングフォックスコンビの活躍をよく見ているロンメルが同意し、夢幻会の暗躍で砂漠戦に関する知識を身に着けさせられた山下も賛同を示す。

「―――――で…誰の指揮下に入るのかね?」

パットンのその一言でまたも天幕内の空気が悪くなる。
最初に口を開いたのはロンメルだ。

「――まあ、ここは士気の観点からも北アフリカ随一の戦術家たる私に任せて頂きたい!」

モントゴメリーは相変わらず咳き込みながらそれに異を唱える。

「素人は戦術を語り、玄人は戦略を語るものだ! 全戦線の総予備部隊として私が適切に運用させてもらう!」

そのモントゴメリーにパットンが文句を言う。

「バカ言うなモンティ。お前に任せたら戦力差1対15になるまで魔女を温存しかねないだろ。魔女が皆上がっちまう! 俺ならスパッと送るぞ!」

そして我らが山下中将はというと、

「こういう部隊は時間との勝負だ! 先程遅刻した人間に任せたら、到着したときに戦闘は終わっているだろう。それに統合飛行隊の隊長は扶桑人だから、扶桑人同士のほうが都合がいいだろう」

三馬鹿親父に交じってこの売り言葉である。
そして、四将軍による拳を交えたOHANASHIが始まった。

(もうゴールしてもいいかな・・・)

今大戦の名立たる四将軍のボクシングをリングサイドどころかリング内という特等席で見ながら、牟田口は現実逃避した。

―――翌日

昨晩、三将軍とOHANASHIによって傷だらけの山下中将と一人蚊帳の外で無事な牟田口の前に扶桑の陸戦ウィッチが集合していた。
なお、扶桑の陸戦ウィッチの隊長は、どう見てもガルパンの西絹代であった。

(キャラ原案同じだったもんなぁ・・・ある意味予想道理か・・・)

内心そんな風に考えている牟田口を余所に、山下は作戦の説明を始める。

「これより我が軍は味方勢力圏内をうろついている逸れ地上ネウロイを殺る。これは英独米も参加するため、我が国が3ヶ国より先じて叩かねばならん!」

昨日ロンメル将軍を襲撃し、マルセイユが惜しくも逃した逸れの地上ネウロイ。
これを先に倒した国の指揮下に入れるということで昨夜の会議は決着し、各国とも陸戦ウィッチを集めて作戦の説明をしていた。

「いいか!他国より先に!我々の手で、だ! 諸君らの働きに期待する。解散!」



砂漠の中の渓谷にマイルズ隊の4名が布陣していた。
マイルズは相棒ともいえる餓地輪を展開していて部下達を配置させる。

「まったく、やりにくいわね…」

現在マイルズの隣には大隊境界線が敷かれ、カールスラント軍とリベリオン軍、そしてさらに別の所には扶桑陸軍が展開している。
お互いを境界線で区切る事にマイルズは不満たらたらであった。
高台に布陣している将軍たちを見ると、自分が特等席を取ろうとお互いで張り合っている。
それを見てマイルズの溜息はさらに深くなる。

「(今度の賭け勝負で将軍からいいお酒たっぷり持っていってやろうかしら? そういえば、ティナが新しいお酒を貰ったって話を聞いたわね)」

マルセイユが謎の悪寒に襲われたその時、リベリオン軍側で爆発が起きた。

『目標発見(タリホー)!戦闘開始(ロックンロール)!』

リベリオン隊の境界線内に敵が出現したようだ。

「リベリオンウィッチ隊! 助力するがいかが!?」

援軍にいこうとしたマイルズだが、帰ってきた無線に彼女を苛立ちを覚えた。

『今のところ無用!獲物は私達がイタダキよ!』
「あいつら…狐狩り(フォックスハンティング)でもしてるつもり!」

普段からマイルズの扱きを受けている部下たちは若干怯える。
しかし、リベリオン隊の派手な攻撃にも関わらず、ネウロイは健在で、徐々にマイルズ隊の方に近づいてきた。

「1匹に手こずって…機会があったら、みっちり教育してやるわ!」
「射撃用意!」

副隊長の指示でマイルズ隊の隊員が2ポンド砲を構える。

「リベリアンが追ってくる! 同士討ちに注意・・・」

マイルズが注意するがそれを隔てるように巨砲が火を吹いた。
いつの間にかマイルズ隊の後ろにいたカールスラント軍のティーガーの88mm砲である。

「シャーロット!?」
「こら!シマを荒らすな!」

マイルズが驚き、副隊長がティーガーのウィッチ、シャーロットに文句を言う。

「ご…ごめんなさい。でも、えらい人に命令されて…」
「あんの馬鹿親父共!」

シャーロットの弁解を聞いてマイルズは高台にいる将軍たちを罵った。

一方、その馬鹿親父共はというと、

「交戦規定違反だ!貴様のような男にワシの魔女など預けられん!」
「何を!思いやりのない貴様に渡すくらいなら…」

相変わらず、喧嘩していた。

「西中佐!シマは関係なしだ!思う存分ネウロイを狩ってこい!」
「ヤマシタ、てめぇ! 何指示してやがる!」
「うっせぇ、ロンメル!てめぇがシマ荒らした時点で交戦規定も糞もねぇだろうが!」
「貴様らより我輩の養女になったほうが幸せだ!」
「何どさくさに言ってやがるんだ、モンティ! 」
「パットンお前も何か言え!」

その時、今までじっと双眼鏡で様子を見ていたパットンが振り向いて口を開く。



「―――あの娘らは全員…」



この事態を抑える言葉を言うのかと思ったが、



「ワシの天使(エンジェル)ちゃんに決まっとろうが――っ!!」



そんなことは無かった。

「抜けえ貴様等ぁ!!」
「「「望むところだ!」」」

パットンが腰のホルスターから拳銃を取り出しながら、喧嘩を売り、他の三将軍はそれを買った。
たちまち昨晩のボクシングの第二ラウンドが始まった。
それを視界に入れないようにして、牟田口は頭を抱えたり、目を背けたり、耳を塞いだりしている他の各国の将校たちに顔を向ける。

「あー、将軍たちは現在暴漢に襲われて負傷中のため、私が指揮を執るが、いいよな?」
「「「「イエッサー(ヤボール、ジェネラルレウトラント)(了解)!」」」」
「とりあえず、パットンガールズ(リベリオン隊)とマイルズ隊はそのまま挟撃して、ティーガーは後方から支援砲撃に徹し、西隊はティーガーの護衛に」
「「「「イエッサー(ヤボール、ジェネラルレウトラント)(了解)!」」」」

こうして一時的に連合軍の指揮を牟田口が執ることとなった。
牟田口の指揮でそれまで各国でバラバラだった攻撃は、徐々に統率を戻して一体的になっていく。
ネウロイの前からマイルズ隊が攻撃し、パットンガールズが後ろから攻撃し、横に逃げようとすればシャーロットのティーガーがそれを阻止する。
そんな中、上空にいる加東ら統合戦闘飛行隊から警報が届いた。

「警報!! 新手のネウロイ!!」
「何っ!?」
「ど…どこだ!?」

先程まで喧嘩していた四将軍もこの警報を聞いて辺りを見渡す。



「位置は―――将軍閣下(あんたたち)の真ん前よ!」



加東がそう言った時、崖下からサソリ型の大型ネウロイが顔を出した。

「じょ…上等だっ! このネウロイめ!」
「バカ野郎!パットン逃げろ!」
「拳銃でどうにかなる相手じゃないだろうが!」

パットンは持っていたリボルバー拳銃で応戦し、ロンメルと山下はそれを止め、モントゴメリーは退避する。
あわや殺される。そう思った時…

「どっ、せーい!」

扶桑の陸戦ウィッチが着剣した三八式歩兵銃でネウロイを刺突した。
将軍たちの護衛に配された北野古子軍曹である。

「おじさま方!逃げてください!」
「将軍!早く退避を!」

古子と後ろから来た牟田口が退避を促す。

「おじさまも逃げてください!」

古子はやってきた牟田口にそう言った。
しかし、牟田口は拒否した。

「心配するな。こいつがある!」

そう言って牟田口が取り出したのは九五式対戦車噴進弾である。
憂鬱世界で猛威を振るった和製パンツァーファウストたるこれは、史実と違いインフラが絶望的なため戦車の開発が難しいことから、転生した一木らによって急ぎ開発されたものだ。
牟田口は自衛用としてこれを普段から持ち歩いていた。

(全く。俺はディーン将軍じゃねぇぞ!)

心の中で愚痴りながら、照準器を上げて後方の安全を確認する。

「離れろ!」

牟田口が古子にそう叫び、古子が離れるのを確認して、引き金を引いた。
発射された弾頭は、腹を見せていたネウロイに命中し、外殻が剥がれ、コアが露出する。

「マティルダさんっ!」

古子の声を受け、同じく護衛についていたマルセイユの従卒、マティルダが持っていた槍を投擲し、コアを射抜いた。
コアを破壊された大型ネウロイはたちまち爆発四散した。

「ウオオやったー!」
「ネウロイを倒したぞーー!」

ネウロイが倒されたのを見て喜び踊る四将軍たち。
その彼らに加東は青筋を立てた笑顔で訊ねた。

「閣下たち?」

加東に言われ顔を青ざめる4人。

「この無様な戦いは――一体誰の責任です?」
「「「「・・・・・・」」」」

一時無言で立ち尽くす4人。
そしてすぐに立ち直るとこいつが悪い、とお互いを指差した。
そんな4人の頭にどこからともなく拳骨が飛んだ。
北野古子軍曹である。
突然のことに加東も牟田口も、この場にいる全員が唖然とする。

「もうっ! おじさま方!? 仲良くしてください! メッ!」
「「「「―――――はい…」」」」

自分が恐れ多いことをしたのにも気づかずに、古子は悪戯っ子を躾ける様に言った。
こうして彼女の「意見具申」のおかげで、統合戦闘団への合意は進んだのである。



ちなみに牟田口は、この時の活躍から、パットンガールズ、マイルズ隊、シャーロット、西隊、マルセイユ隊からなる統合戦闘団の総司令官に抜擢されることとなり、
多数の転生者から嫉妬を買われることとなった。

「どうしてこうなった!!?」

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最終更新:2016年02月14日 08:30