―――ブリタニアのとある基地
そこには、小さな基地であったがウィッチ達が集まって訓練をしていたが
その日の少女達はそわそわしていた

なぜなら、今日凄腕教官の「チーター」が赴任されるのだ
チーターはかの扶桑の伝説のウィッチ九曜葛葉の教育を受けた、ライトニングフォックスの一員で
彼女の指導を受けた部隊は必ず一流に上れるほどの、指導が上手なのだ

本名と容姿は不明であるものの、チーターと付くからに、きっと精悍でカッコイイ王子様ウィッチが来るだろうと
少女達はワクワクと期待していたのであった。


だからだろうか?


「本日付けで教官職になりましたウィルマ・ビショップです。みんなよろしくね」
今日赴任してきた教官をみた第一印象が、近所にいる普通のお姉ちゃんみたいな人で
皆失望してしまったのである

こうして、ウィルマの教官生活はよそよそしい状態でスタートしたのである




      • だが

「射撃が下手くそ?そんなことないよ。ほら、ここまで近づいて撃ってごらん?当たったでしょ?
ここから少しずつ離れて、遠くても的に当たるように頑張ろうね」

「自信が無い?皆凄いのに、自分は何もできなくて?あー、分かる分かる。私もね、何もできないと自信無くした時あるけど
勉強が出来ない子がいてね、丁寧に教えてあげたら、私に教えてとたくさん頼られたのよ。
だからね、何もないと卑下しちゃ駄目よ?必ず自分にしか出来ない役目が来るのよ」

「どうしたの?喧嘩しちゃった?なら、仲直りしなくちゃ!
こういう時は甘い物が一番!クッキー作った事ある?
無い?なら、お姉ちゃんと一緒に作ろうか」


よそよそしかった隊員であったものの、ウィルマはどんな手品を使ったのか、隊員はいつの間にか、彼女の懐に入られ、悩み事を吐き出していたのである
そして、ウィルマは隊員がそれぞれを持つ悩み、射撃・ストライカー機動・人生・自信無さなど、様々な悩みを一個一個
丁寧に解消し、優しく教えたのである。解決したウィッチ達はウィルマをお姉ちゃんと呼ぶようになったのである


それでもなお、面白くない者も同時にいたのである

「おい!私と勝負しろ!弱いあんたが、チーターなんて認めない!!」
それは、ウィルマにとっては突然の事だった

みんなとキッチンで昼食を作り、食べ終えて片付けた所に、一人のウィッチが上の言葉を叫んだのである

「ちょ・・・ちょっと!何言ってんのよ!?」
隊長がすぐさま言うが、ウィッチは止まらない

「あんたは、色々としているけどな、そんなんで実戦に役立つのかよ!
実戦はストライカーが使えてこそ役立つものだ!私と勝負しろ!」
その言葉に、隊長が叱咤の声を出そうとしたところで、ウィルマが手をかざして止めると同時に

「いいよ。いつやる?」
「今すぐだ!ストライカーの準備もしてある!逃げずに来いよな!」
そういって、返事も聞かずに部屋から出る

残ったのは気まずい空気だけであった。
隊長はため息をついて、ウィルマに言う
「ごめんなさいね。あの子は、チーターに憧れてたみたいで、強いウィッチを想像してたんでしょうね
あの子は思い込みが強いというか・・・困った子ね」

その言葉にウィルマはいいよいいよと手を振る
「気にしなくていいよ。私は弱いというのも事実だし。
私も暫く飛んで無かったしね。・・・それに飛ばないと・・・」

ウィルマは胸を持って
「この胸がまた太っちゃいそうなのよ」


このジョークに一同はドッと笑い声が上がる

飛行場に多く人だかりが出来ていた
その中心地には2人の少女がいて、ストライカーを履いて暖気運転していた

ウィルマはいつも通りの表情だったが、少女はやる気満々の表情で言う
「勝負は三本勝負で、先に二回勝った方が勝ちだ!スタートは空中でお互いにすれ違ってからでいいな?」
「うん、それでいいよ」


        • そして、二人は同時にスタートして、左右に分かれて離陸する


(認めない・・・・あんなのをライトニングフォックスの一員などと・・・)
あの人は、戦闘の事は教えず、毎日誰かの悩みやどうでもいい事をしているだけで、戦闘の事は一切しなかった
本当は弱くて、ライトニングフォックスに所属したことも嘘ではないのか?


(ならば、ここで化けの皮を暴いて、追い出してやる!!)
少女はそう決意して、向こうから近付いてくるウィルマとすれ違った瞬間
ゾクッと背筋が凍るような感触を覚えたが、気のせいだと思う事にした





        • だって、いつも笑顔で何事もあっても笑顔を崩さなかったウィルマが・・・・






無表情で冷たい目をして、私を見ていただなんて・・・


空中戦は拮抗していた。どちらかが後ろを取ると、かわされ、逆に後ろを取らされるというのを延々と繰り返していたが
少女の方が後ろを取る回数が多く、大勢は少女の勝利であろうと思われた


      • しかし、それが一人の魔女が演じていた結果であるとは誰にも気づかなかったのである



(な・・・・なん何だ・・・コイツ・・・・)
少女は底冷えるような感覚を感じていた

確かに後ろは取れている。
だが、それがわざと取らせているような感じで、攻撃出来ても素人目には分かりづらい
僅かな軌道でかわしている。

今も、態とらしく大きくロールしてかわしているが、タイミング良くかわしているので
2撃目を叩く事が出来ない


少女がそのように苦戦していると、通信に楽しげな声が入る


『ウォーミングアップ終了ね、それじゃあ本番行きましょうか!』


その瞬間、少女はチーターを見た
同じスピットファイアなのに、目の前のウィルマは鮮やかな軌道を描く
全速のスピードに乗りながらだ

これは速度を殺さずに機動をこなすといえば分かるのだが
言うは易し、行うは難しで、これをこなせるウィッチは全員でどれだけいるのだろうか?

少女は必死に追いすがりながら、ヘッドオンに来たウィルマの攻撃をかわすと同時に
体を強引に反転させて、後ろを取ることに成功する


少女は、歯を食いしばりながら、機関銃をウィルマに向けると引き金を引く
そのことで、少女は勝利を確信する

(貰った!!)

だが・・・・・


「な・・・なにぃ!!」
少女は驚いた。ウィルマは体の仰角を上げて、機銃の射線をかわすと同時にオーバーシュートさせた
相手をオーバーシュートをさせるマニューバは、様々な方法があるものの、体の姿勢を一切変えずにそのままの姿勢でさせるこの高度機動名は・・・・

「コブラ!!」
少女が驚きの声と共に後ろを振り返れば、至近距離に機関銃を構えたウィルマがいて、そのまま銃撃された



その後も、もう一本勝負されたが、ウィルマがピッタリと少女の後ろを付いていく機動を取り続け
少女が疲れた所で、撃墜されて、模擬空戦はウィルマの勝利に終わった・・・

その日の夜、ウィルマはお風呂に入っていた

「いや~極楽極楽♪」
そのように楽しんでいると

「あ・・・あの・・・」
「うん?」
声がしてみた方を見れば、昼間模擬戦をした少女が風呂の外で所在無さ気に立っていた

「およ、どうしたんよ?そこにいると風邪ひくから、お風呂入りなよ」
「は・・・はい・・・失礼します」
そういって、少女はちゃぽんと入る


しばらく無言になる・・・・


「あ・・・あの・・・昼間はお見事でした。今までの数々の無礼をお許しください」
「ん?ああー・・・いいよいいよ。私は弱いというのは事実だし」
「そんな・・・・あれだけ飛べたのに・・・」

少女は驚いてしまうが、ウィルマは何でも無いかのように言う
「あれぐらいは普通だよ。私はティナちゃんのように射撃上手くないし、ナオエちゃんのように堅いシールド張れないし
ヘルちゃんのように頭良くないし、セシリアのように回転なんてできないし、他の人の様なシールドブレードも使えない
私はなーんにもないのよ。唯一、良かったのは他の人に教えることが上手かった事なの」
「でも・・・戦場に立てれば、大活躍できますが」

少女は尚も言い募るが、ウィルマはふうとため息ついて
「私ね・・・昔、大事故に遭ったのよ。それで後遺症として、普通に教えるための飛ぶ事なら問題ないけど・・・・
戦闘に耐えれるのは30分、良くて1時間しか戦闘できなくなったのよ」
「え・・・・?」

少女は絶句してしまう。そのような体なのに、昼間ではあのような無茶な機動をこなしてみせたのだ
「な・・・なぜ、昼間はあのような機動を!?」
「ん?うー・・・んとね。私がチーターだからかな?君は私に憧れてたんでしょ?
なら、その憧れのチータの目標を作ってあげたかったからかな。君の動きは良かったけど、まだ、堅かったしね。
スピットファイアの可能性を見せたかったのもあるし」

そういって、チャポンとするウィルマ。少女は納得がいったが、まだ、疑問が残っていた
「あの・・・どうして、チータと呼ばれてるんですか?」
「うん?ああ・・・・あだ名の由来ね。そもそも最初からチーターと呼ばれたんじゃないのよ」
「え?チーターではなかったんですか?」

少女は驚き、ウィルマはほらっとする
「あたしね、教えるの上手いじゃない?だから、最初はティーチャーと呼ばれてたのよ。
だけど・・・教え子達が他の人達に教えて行くうちに段々と言葉が変わって、チーターとなったのよ
これが、私のチーターのあだ名の由来」

少女は大いに納得した。チーターというあだ名がウィルマには似つかわしくないからだ
「それで、教え子達はどうなっているのですか?」
「うん、みーんな大活躍してるよ。中にはエースになった子も出てきたって」
そういうウィルマは嬉しそうだった

「あの・・・自分よりも教え子が活躍したと聞いて・・・悔しいとか思わなかったのですか?」
「んー・・・無いと言えば、嘘になるけど・・・それよりも大活躍してると言う事は、それまで生きているという事なるんだよね
私は、戦果を上げるよりも、生きて帰ってくる方が嬉しんだよね。君も生きて帰ってきてね」
そういって、ギュッと抱きつく。抱かれた少女は慌てるが、だんだんと抵抗は弱くなっていく


(ああ・・・・皆が・・・おねえちゃんと呼ぶ理由がわかったような気がする・・・)
少女はだんだんと意識を閉じて行った・・・





数ヵ月後、ウィルマが次の教官赴任地に行く頃には、滑走路には多くの人が見送り、中には泣きながら見送る人が大勢いたという・・・





ブリタニアには2人の名物教官がいる。 鬼のマイルズと仏のウィルマ という名物教官がいたのである
ネウロイ大戦の後半期には彼女らの教え子達が大活躍し、大戦果を上げたと言われている・・・

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最終更新:2016年02月14日 08:39