419 :影響を受ける人:2015/11/22(日) 23:00:39
この作品にはTS要素が含まれています。
オリキャラ化が含まれています。と言うかオリキャラが出てきます。
最低系である最強要素があります。
オリジナル設定、個人的解釈が入っています。
それでも良い、という方のお読みください。
江藤敏子が最初に駅に降り立ち、穴吹智子と加東圭子がその後ろからついていく。
最後に、北郷章香と共に坂本美緒が降り立った。
一行は無言で改札口を向かうのだが、向かってくる女性軍人を見た駅員が驚いたように目を見開く。
事実驚いているのだが、しかしすぐに職務を思い出して出された切符を回収する。
出ていく際にちらちらと顔を覗き見るのだが、その駅員の行動を一同は内心で苦笑した。
というのも、彼女等の顔は広く知れ渡っているからだ。
戦場の活躍により、注目されるという事もあるが、なによりも“美人”である事が大きい。
戦争が始まる前や、少し落ち着いた時に写真撮影などをしている。
軍のプロパガンダだったり、新聞社のブロマイドだったりと、広報にも力を入れている証拠だ。
まあ、大抵は婿募集の面も有る。
そう言う事で、彼女等はかなり有名人なのだ。
故に、一同に気が付いた者達はハッとして、遠巻きにこちらを見つめていた。
「いやぁ・・・まいっちゃうわね。」
「そうかしら。 敬子は気にし過ぎだと思うけど?」
自己顕示欲がソコソコある自称:扶桑の巴御前は、まんざらでもないように腰に手を当てて軽くポーズをとる。
すると、少女たちが黄色い悲鳴を上げた。
それにご満悦の智子だったが、後ろ見ないで殺気を放ち始めた総隊長にビビり、すぐに直立する。
圭子は苦笑いするのみ。
章香も苦笑していたのだが、後ろからついてきている美緒が未だに緊張していることに気が付く。
無理もないと内心で思う。
これから向かう場所は、己が原因で死んだ人の生家。
いかに自分の中で折り合いをつけていると言っても、それはあくまでもその時点での自分なりの覚悟。
肉親からの言葉によっては揺らぐことだってあり得る。
坂本美緒はまだ若い。若すぎる。
それでも乗り越えねばならない“壁”。
だから連絡し、彼女は了承した。
ならば、自分はどうすべきか?
決まっている。年長者として、支えるのだ。自分も若いが、頼れる大人を知っている。
大佐に相談するのも良いだろうと、心の中で決めておく。
―――――
一行はバスに乗り込み、早良ミチルの生家近くまで向かった。
軽口も無く、全員が前を向くか、外の風景を見つめるばかり。
時折乗り込んでくる乗客が、こちらに気が付いて驚いたりするのが、唯一全員が反応しめす時だった。
目的のバス停に到着し、一同はそこから徒歩で向かう。
大通りから小道に入り、進むことしばらく・・・
早良ミチルの家が見えた。
自然と全員の表情が硬くなる。
ふと何かに気が付いた智子が呟いた。
「本当に柿の木があるのね。」
「柿の木?」
圭子が問いつつも早良家を見る。
玄関横から、塀越しにはみ出ている樹木がある。
確かによくよく見れば、葉の付き方や形が柿の木のモノだと気が付く。
「少しだけ実家について話したのよ。その時に・・・」
「仏頂面で、頑固だったからよく貴方は食って掛かっていたっけ?」
「気にし過ぎていたのよアイツ。こっちの息が詰まるくらいにね。」
「まあ、あの時は事件の直後みたいなものだったし。」
「泣いたり、八つ当たりするぐらいすればよかった。
全部自分で抱え込んで、馬鹿らしい。」
「・・・・・・馬鹿らしいですか?」
後ろで何気なく聞いていた美緒は、聞き捨てならない事を言った智子を睨む。
しかし振り返った当人の表情を見て、睨むのを止めた。
智子は無表情だったが、その目には悲しみが宿っていたから。
「あなたはそれなりに慕っていたみたいだけど、私から馬鹿よ。
さっきも言ったけど真面目すぎて融通が利かない。
馬鹿正直すぎて、指摘をすれば何時間でも反復練習する。
本当に、馬鹿で・・・
優秀で・・・
せっかく助けられた命だったのに、粗末にして・・・」
420 :影響を受ける人:2015/11/22(日) 23:01:15
早良ミチルは優秀だった。ウィッチ全体の力量からすれば平凡レベルだが、指揮官能力とは別。
彼女は同級生から信頼されていたし、上官に対してもある程度意見を言う度胸もあった。
育て上げれば優秀な部隊指揮官になっただろう。
しかしそれも可能性の話。もうどうにもならない架空の話・・・
それぞれが深い思いに浸かりつつあったが、両総隊長は手を叩いて覚醒させる。
「話はそれくらいにしなさい。」
「そうだな。全員、服装は大丈夫かな?
では、いくぞ。」
一行はそのまま早良家前までやってきた。
柿の木は、ちょうどこの時間だと玄関に木陰を作ってくれる。
今日は快晴だから、ちょうどよい。
早良ミチルはこの木に登って遊んだことがあるのだろうか?
そんな事を考えつつ、敏子は玄関を軽く叩く。
いや、叩こうとした。
叩こうとしていた手は、急に開いた玄関に当たらず空を切る。
そして無邪気な、
「おねえちゃん!」
嬉しそうな笑顔の少女が飛び出してきた。
しかし少女は開け放たれた先にいる人物を確認すると、その笑顔を急速に曇らせていく。
「ちがう・・・」
そういって閉めようとしたので、敏子は慌てて話しかけた。
「なんですか?」
「えっと・・・ 早良ミチルさんの、妹さんでいいのかな?」
「そうです。おねえちゃんのおともだちですか?」
「まあ・・・ あるいみ、そのとおりかな。」
幼い妹がいるというのは聞いていた。
だがこの様子を見る限り、姉の死を知っているようには見えない。
だから言葉を濁らせるようにしか言えず。どうしようと思っていると、
「あの・・・ 軍の方ですか?」
母親が出てきた。
すぐさま敏子は表情を引き締め、「そうです。」と答えた。
「本日は、御焼香を上げに来ました。」
―――――
早良ミチルの遺骨が納められた箱の前で、美緒は手を合わせて冥福を祈る。
その後ろでは、休日という事もあって父親もいた。
北郷章香と江藤敏子が並んで両親の前に座り、穴吹智子・加東圭子がその後ろに座る。
「遠い所から、有難うございます。」
「いえ。一度は来ないと、と思っていましたので。」
母親はぎこちない笑顔のまま、敏子たちは気を引き締めた顔で対面している。
父親は憮然としており、先程までいた少女は父親に「部屋で遊んでいなさい。」と言われたのでここにはいない。
全てを終えた美緒が章香の後ろに回って座ると、敏子は本題を切り出す。
「軍からは、どのような説明を受けていますか?」
「友軍の兵士を庇っての戦死だと、聞いている。」
「それだけ、でしょうか?」
「後は遺品ぐらいだ。」
「私物は全てありましたでしょうか?」
「ああ。あの子は私に似て、真面目で頑固だったからな。」
確かにズバズバいう所はそっくりだ。顔は母親似だったのに。
「それで、用件はおわりですかな?」
「いえ。まだです。」
父親はさっさと話しを終わらせようとしたようだが、敏子はまだ粘る様に言う。
何せここからが本題だからだ。
「後ろに控えている者達は、早良ミチルと関係が深かった者達です。
なにか、お聞きしたい事があればどうぞ。」
「・・・ふむ。」
父親は智子・圭子と視線を移し、最後に美緒を見る。
「その少女は?」
「学徒兵として軍に協力している坂本美緒です。」
「ぬぅ・・・」
421 :影響を受ける人:2015/11/22(日) 23:02:01
章香が答えると父親はおもわず唸り、睨み付けるように美緒を見る。
正直言うと、自分の娘との接点が見えない。
しかし以前説明された状況から見て、“友軍の兵士”というのが彼女であるならば、繋がりはある。
何か言いたそうになった父を屋の雰囲気を察した章香は、横にづれて美緒を前に促す。
彼女が前に出てくると、改めて父親は姿勢を正した。
「なまえは?」
「坂本美緒です。」
「学年は?」
「小学部六年です。」
「どのような関係だった?」
「先輩後輩です。
ですが、隊長でもありました。」
父親の眉がピクリと上がる。「隊長」と言う単語に反応したのだろう。
ゆっくりと、敏子の方に目を向ける。
「娘はなぜ、そんな事をやっていたのですかな?
普通ならば、軍の者が付くのが道理でしょう。」
「おっしゃる通りです。ですが、あの時の状況が許してはくれませんでした。」
敏子は出来うる限り説明した。
幸い、早良ミチルはしっかり報告書を上げていたし、命じたのはほかならぬ自分。
そして、戦死するところまで話が進んでいった。
「そして最後の出撃をしました。ここからは彼女が説明します。」
「失礼します。あの時、自分達は何時もの通りに任務を遂行していました。
そして帰還しようとしたのですが突如、新しいネウロイが出現しました。
猛攻撃に隊は分断され、隊長と二人になりました。
隊長は・・・帰還する前に任務を果たすと言い、敵に向かていきました。
本当なら、帰還すべきでした。
ですが隊長は、先輩は私の事を気遣ってくれたのだと思います。
突撃した私達は敵の圧倒的な弾幕に翻弄され、離れ離れになってしまいました。
そして結果は失敗。
私は失敗したことに動揺し、敵の接近に気付けず・・・
隊長に押し出されて私は無事でしたが、隊長は腹部に攻撃を受けて・・・」
全てを語り終えた美緒は、グッと拳を握りしめる。
彼女が死んだ一因は自分にもある。だから何を言われても良いように。
感情に任せた衝動に耐えるために、歯を食いしばった。
しかし、
「・・・・・・そうか。」
の一言で父親は終わらせた。
「母さん、自分は少々席を外す。」
「あ、はい。わかりました。」
父親はそのまま出ていく。何もせず、仏頂面な顔のまま。
何もしない事に驚き、罰してもらえない事に落胆する。美緒はそんな気持ちに気が付くと、ギュッと唇をかみしめた。
こんなことを考えるなんて、自分は最低だ。その為に来たわけではない。
ただ、謝りたかった。それだけだったはずなのに。
一行は母親とも話したが、父親は戻ってこなかった。
仕方なく帰る事にしたが、見送りに来た少女の「おねえちゃん。はやくかえしてね。」と言う言葉が、重く圧し掛かる。
敏子は「わかった。」と言ってあげたかった。でも言えなかった。
ただ、苦しそうな笑顔でうなずくしかなく。章香は友人に対して何もできない自分を罵る。
美緒達は苦い思いを抱えて帰還した。
もしかしたら、それこそが父親が与えた罰なのかもしれない。
以上です。
心理状況は難しい・・・
最終更新:2016年02月14日 22:12