- 724. ひゅうが 2011/10/28(金) 07:48:41
- ミスの多いネタを投稿してしまったようなので追加ネタを一本。
こっちもまた仕事が粗いですがご容赦のほどを…
ネタSS「怪物が生まれた理由?」
――1928年某日、ワシントンD.C
「ううん。話は分かるがね。」
大統領府の高官はトントンと指で机をたたいた。
「これは、巨額だよ。確かに実現できたのならメリットは計り知れないが…もう少し時を待ってみてくれないかね?ただでさえこの好景気だ。セメントや重機の需要は計り知れないし、何より労働者も足りない。」
「ですが。」
アメリカ海軍省では裏方の、基地港湾局…海軍基地や港湾施設の管理を行う部署に所属する技官は、机に広げた図面を見やり、もう一度高官の方を見た。
「パナマ運河が現状で限界に達しつつあるのはご承知の通りです。幅100フィートでは、近年建造されつつある超大型客船はもとより、大型タンカーでもギリギリです。
まして運河は閘門式。一日当たり通行可能な船は限られています。」
「確かにそうだ。だが、好景気とはいえ連邦政府はドイツ向けの援助に10億ドルもつぎ込んだばかりだ。先ごろチンタオに出兵したジャップのマンチュリア・レールウェイを買収でもしない限り、そんな大金は出せないよ。それに――」
高官は、技官をじろりとねめつけた。
「あの、ダニエルプラン。海軍はあれの復活を狙っているんじゃないのかね?ただでさえあのジャップ相手に3分の5倍程度の海軍力で妥協させられたんだ。
それにあのティルマン上院議員と組んでやらかしたバカげた騒ぎでネックになったパナマ運河の幅。あれを改定したいというのは分かるが。」
鋭い。と技官は思った。
実のところ、彼の上司になった元判事は、海軍近代化の要として技官にこの話を持ってきていたのだ。
「まぁ、大統領に上げるのは無理だろうが、知り合いに話だけでも紹介はしてやってもいいぞ。ただし、秘密で、だ。」
なにせ相手は民主党の議員だからな。と、高官は笑った。
感謝しろよ?今日も俺は宝くじに当たって機嫌がこのところの株価なみに天井知らずなんだ。もしこんな幸運がなかったら、一介の技官なんかにこうまで骨を折ってやることもなかったろう。
「だが、賭けてもいい。この提案が通るのは、この国が不況のどん底で失業者が暴動か革命でも起こそうかって騒ぎにならないとあり得ないってよ!!」
――1934年 夏 日本帝国 帝都東京 海軍省
ひとりの男が廊下を疾走していた。
軍服の上に白衣をはおり、目は血走っている。右手には、何か、白い紙ともうひとつ新聞の切り抜きらしきものを持っていた。
男は4階にひと息にかけ上がると、第2会議室と書かれたドアを勢いよく開いた。
「パナマックスが変わります!」
会議室では、中で会議がされていたらしく、大勢の男たちが入ってきた男に視線を向けた。
「何・・・だと?」
しばらくの沈黙を経て、座長らしき男がゆっくりつぶやいた。
荒い息をついていた白衣の男は、息を整え、水差しからコップに水をそそぎ、ぐいとやってから、言った。
「ローズヴェルト大統領の『新規まき直し』の一環だそうです。1940年を目途に、海軍工兵隊と新たに設置されるパナマ運河新造公社に20万人を動員。
あの運河を、閘門式から全通式に作り替えると…」
ざわっ。
「バカな。いくらかかると思っているんだ!」
「いや。うちでも高橋さんが似たようなことやっているじゃないか。こりゃおおごとだぞ。テネシー川開発は利益性が薄いって上院で反対をくらっているが、パナマ運河ともなると、通行料による増収は計り知れない。」
「おい見ろ。大西洋と太平洋には潮位差があるからその差を利用して数百万キロワットの発電ができると書いているぞ。ヤツは本気だ。中米に電力を売りさばく気だぞ!」
「新しいサイズは!?」
「おいおい…優に100メートル超だと!?何を考えているんだ!?」
「これでは、1号艦建造の前提は…アメリカ人はダニエルプランで18インチ砲を実際に試作しているんだぞ!?」
結局、その日の会議は打ち切りになった。
彼らが検討していた、設計番号「A−140」、仮称「1号艦」と呼ばれる新型戦艦の設計は、原案段階で思わぬ影響を受けることになったのである。
- 725. ひゅうが 2011/10/28(金) 07:50:15
- ――1935年、第1次ヴィンソン案。第2次ロンドン条約、決裂。
「奴ら、正気なのか!?戦艦8にその他120隻を新造だと!?」
「空母だ。空母を作るんだ!」
「うるせー!源田は黙ってろ!」
――1937年、第2次ヴィンソン案。スターク案。
「あばばばばばばば」
「どうしよう…次は本気で18インチ積んでくるぞ…」
「どうしようって…これ以上起工延期したらどうなるよ!?」
「ともかく米内のバカを止めろ!日華事変の拡大なんて冗談じゃない!陸軍に妥協してもいいが、こっちも統帥権をちらつかせて…」
「あいつら大好きなドイツ人の、そうだ、トラウトマンってのがいただろ!そいつに和平仲介させろ!」
――1938年、ノモンハン事件。パネー号事件。
「ぎゃああああああ!」
「もう、あいつら何とかしろ!やっと起工したんだぞ!?」
「幸い、お上が激怒されているとのことだ、あのハゲなら死んでも何とかする…筈!?」
「3番艦以降の予算が…やっと満州国に英国の支持が得られたのに。」
「戦争なんてやってられっか!俺の、俺の1号艦が!」
――1939年、第2次世界大戦勃発。
「陛下の詔勅のおかげで何とかなったが…どうする?」
「いや、防共協定はそのままだけど、同盟はねぇ?」
「ま。露骨すぎたからなぁドイツは。山東利権回収なんて言わなきゃ…独ソ不可侵条約がなければ…」
「よせよ。山本さんなんて大はりきりだぞ。これで日米の接近がって。」
――そして…1942年。
「誰が沈めた!?」
「アメリカ船籍の輸送船なんて怖くて手が出せないですよ!しかもわざわざバシー海峡で!」
「何だこの無茶苦茶な要求!あいつらソ連の手先か何かか!?ハル覚書とかいってるけどあの大統領何か頭に沸いてないか!?」
「幸いあっちの議会や国務省はこっちに同情的なんだがこっちの新聞は煽りに煽るし…まぁあの禿が必死に潰してるけどさ。」
「英国は?」
「とりあえず資源と船くれる方の味方らしい。一応自制は促してくれてるが・・・」
「けっ。何が第2次英国の戦いだ。」
「こーなったら、やるしかない。一撃して、講和!ただでさえあの大統領最近落ち目なんだ。ドイツの『ついで』でわが帝国をつぶさせてたまるものか!」
「う〜む。わかった。…はぁ。陛下に何て言おう。」
――1943年某日 太平洋上。
「搭乗員はそろったか?」
「はい。」
「皮肉なものだな。僕はこの艦の建造に反対していた。なのに、今やそれを率いて艦隊決戦だ。」
「泊地強襲ですが…まぁ同じことですね。でも大丈夫。やれますよ。このデカブツなら。まぁ敵に30隻以上の正規空母があれば話は別ですが。」
「…まぁ、何とかなるだろうよ。」
連合艦隊司令長官 山本五十六大将は、連合艦隊旗艦 戦艦「大和」の艦橋でそうつぶやいた。
窓の外には、これまでの戦闘を戦い抜いてきた連合艦隊の戦艦たちがいる。
彼女らは、旗艦の「大和」とようやく就役した「武蔵」を先頭に単縦陣になり、白波を蹴立てて赤道にほど近い海を驀進していた。
「あの忌まわしい巨大運河…この大和の誕生の原因になったあれを壊さない限り、あの狂った大統領を倒さない限り戦争は終わらない。」
「長官!敵、第2太平洋艦隊を視認しました!旗艦に、大統領旗を確認!米新政権の情報通りです!」
「全艦、最大戦速!目標、敵旗艦、いや。『元』大統領座乗艦、『ユナイテッドステーツ』!あちらとこちら、どちらが真の怪物か、思い知らせてやれ!」
――パナマ運河の太平洋側、ペドロミゲル河口で、「太平洋戦役」最後の艦隊決戦がはじまる。
パナマックスに翻弄された大統領とGF長官は、同じくパナマックスのために誕生した巨大戦艦に乗り、こうして邂逅した…
※「怪物」の性能はとかどんな戦争だったのかとか細かいところは考えてないのでご自由にご想像ください。
最終更新:2012年01月02日 18:43