九曜葛葉自殺未遂を阻止し、トイレ掃除をした翌日の日曜日。
倉崎重工に立ち寄ったときの話。
鉄門を通り過ぎてそのまま開発部署に向かう車。
倉崎製の、魔力を動力源として駆動する乗用車だ。
九曜葛葉が天皇御家族を安全に送り届ける為に製作されたもので、彼女の魔力とシールド能力があれば装甲列車の突撃にも耐え、逆に弾き飛ばせるほど。
そんな高級車に乗っている宮藤芳佳とエイラ・イルマタル・ユーティライネンは、もの珍しそうに工場を見ている。
分体が運転する車はそのまま開発部署にある駐車場に止り、認識阻害結界を張った九曜が先に降りて二人をエスコートする。
ここの開発部署には、転生者のマッドサイエンティストがたむろしているので別に姿を隠さなくてもいい。
しかし九曜の存在を知らない一般人もいる為、念を入れて自分を意識外に置いたのだ。
「ここ、お父さんが勤めている所だ。」
「芳佳、ソウナノカ?」
芳佳はキョロキョロしていたが、すぐに幼き記憶から一度だけ連れてきたもらった事を思い出す。
隣に並んだ九曜は分体を戻して建物を見上げる。
「今なら開発部署にいるかもしれないわね。会いに行く?」
「どうしようかな・・・」
「行ってもいいわ。私は倉崎翁と話があるし・・・」
「私も開発ニ、興味が有るんダナ!」
元気な子孫に苦笑しつつ途中まで案内して三人は別れた。
―――――
久しぶりに父なった芳佳だが、あまりにも汗臭く、汚れきった姿に唖然呆然。
ちょっとした御小言と共にプリプリ怒って、父親を反省させた。
その姿を見つつ、エイラと芳佳の原作二人に興奮していた野郎どもは、お近づきのしるしに仲良くなろうとして・・・強烈な殺気に怯えて引き下がった。
もしもの為に姿を光学迷彩シールドで隠したチビ九曜(六尾)が原因である。
孫馬鹿になった九曜により、護衛として頭上に滞空していたのだ。
三人には殺気がいかない所に器用さと、無駄な技量が発揮されていた。
そんな事は全く知らない芳佳とエイラは九曜からの念話で話を切り上げ、テスト飛行場に向かう。
そこでは後に一式戦闘脚「飛燕」となる試作ストライカーを履いたベテランのウィッチ達が、大空に舞い飛んでいた。
「オオ! 凄いゾ!!」
「ふわぁ・・・ はやい。」
「ふふ。そうだろう、そうだろう。」
少女たちの無邪気な感動に倉崎翁もご満悦だ。
その隣では九曜が佇んで・・・いない。
一般人が多いので、姿を現す事が出来ないのだ。認識阻害結界も万能ではない。
「良いナァ・・・」
良いストライカーに乗って空を飛ぶというのは、ウィッチ達には格別な事。
自由に空を飛べ、あらゆる物から解放されたような感覚は何事にも代えがたい。
羨ましい。そんな表情を浮かべたエイラを見て、倉崎翁は悪戯心と好奇心でもって提案してみた。
「どうかね。あれに乗ってみないか?」
「エ!? 良いノカ!!」
「海外に輸出する事も考えているのでね。問題ないよ。」
ストライカーに関する統合整備計画案はすでに出ており。
更に言えば純粋的な軍事面で見ると、ウィッチと言う職種は本当なら後方任務がメインとなる。
いまはネウロイと言う特殊な敵がいるから前面に出ているが、いなければ純粋な戦闘機に負けるのが当たり前。機密的には低い。
それにただのパイロットがスパイ行為なんてできないだろう。
黙っているつもりだし。
そんなこんなで試作ストライカーに試乗出来る事となったエイラは、関係者が見守る中で大空に舞い上がる。
最初は簡単な機動から複雑なものへ・・・
標的まで出して貰い、扶桑製の武器まで使用してご満悦だ。
最終的にはテストパイロットの、痛い子中隊から来たウィッチ三人と模擬戦をして勝利する。
その光景にみんなが拍手を惜しみなく送った。
だが、そんな中で厳しい目で見るものが一人。
その人物は着陸して休憩をしているエイラの元にやってくると、額に手を当てる。
「ふむ。 熱はあまりないようですね。」
「オバサマ。今日は使ってナイ「二回使いましたね。」・・・ゾ。」
抗議もあっさり見抜かれて尻込みしてしまう。
怒られのではないかと思ていたエイラだったが、九曜は苦笑するのみで軽く頭をなでる。
未来視のデメリットをよく知る九曜としては使ってほしくない。
しかし戦場ではそんなことは言っていられない。
「これもいい機会です。次は私が相手をしましょう。」
「エ・・・」
「「「「「なにぃぃぃぃ!!」」」」」
―――――
九曜VSエイラ
あり得ない対戦カードに、
夢幻会関係者のみで固められた観客席で芳佳が不安そうに上空を上げていた。
大空には二人が浮かんでいる。
片や現役ウィッチ、片や伝説の守護者。
勝負はする前からわかっている。なぜなら、使用してもすぐに回復する魔力を持つ九曜が勝つに決まっている。
魔力のゴリ押しが可能だが、シールドを張っていても、一発でも当たればエイラの勝ちとしているので全力で回避するつもりだ。
「本当にストライカー無しで、浮けルンダナ・・・」
「慣れればどうってことないですよ。」
夢の中で知ってはいたが、改めて出鱈目だと思うエイラ。
九曜は自然体で宙に浮いている。足首から魔力翼のようなモノが見えるので、それで浮いているとわかるが慣れる事は出来ないだろう。
「能力を使用してみなさい。その身に、直に、デメリットを教えてあげます。」
「・・・負けないゾ!」
そう言い、さっそく能力を使用して銃を構え、先制攻撃を仕掛けた。
(右に避ける!)
初段は外れるとわかっている。
九曜が右に動いた瞬間引き金を引く・・・が、シールドを足場にした九曜はそのまま左に回避した。
「エエ!」
「ふっ!」
驚くエイラに、念動でペイントボールを突撃させた。
慌てて予知して下に逃げるが、上に行く筈だったボールは急降下、慌てて射撃して撃ち落とす。
しかし間髪入れずに背後からボールがやってくると予知し、身を捻るのだがボールは急停止。
「へ?」
回避して射撃を考えていたエイラは突然止まった事に驚き止ってしまう。
それを逃がす九曜ではない。
「はい、終り。」
止ったボールはそのまま爆発し、彼女の顔を真っ赤に染めた。
―――――
その後、何度か九曜に挑んだエイラだがいずれも負けた。
機動戦においては先読みの先読みで逃げられ。
射撃もボールで相殺され。
時間差攻撃と範囲攻撃にペイントまみれにされた。
「か、カテナイ~・・・」
ここまでコテンパンにやられた事が無いエイラは、ちょっと自尊心が傷付けられて涙目。
洗浄に付き合っていた芳佳は、傍に寄りたつ九曜をチラリと見つつ聞いてみた。
「どうやって未来予知を破ったんですか?」
「簡単よ。私はエイラの視線と表情を読んだの。」
「視線・・・ですか?」
「そうよ。」
九曜曰く、エイラはまだその辺が隠しきれていないのだとか。
視線はモノを言う。ましてやタイミングを計るために、どうしても予知した場面を見なければならない。
さらに筋肉、避ける前の癖、等々・・・色々弱点はあるのだそうな。
「ウ~・・・」
それを横で聞いていたエイラは決心した。シールドを覚えようと。
能力ばかりに頼らないで、能力を昇華出来る様に。
学校で習ったが、能力は磨きをかけると変わる事があるという。
それを目指すことにしたエイラであった。
最終更新:2016年02月15日 02:02