- 996. yukikaze 2011/11/12(土) 22:14:26
- earth様が大英帝国の崩壊endを書かれていましたので、それを利用しまして
『黄昏の艦隊』
戦艦ロドネーの艦橋から見える光景は、まさに悲惨の一言であった。
ここ2時間ほど続けられた空襲によって、イギリス東洋艦隊は無残な姿をさらしていた。
イギリス海軍にとって至宝ともいうべき空母群は、真っ先に狙われて既に海神の御許に送られ、
これまで海の女王として君臨していた戦艦群も、執拗な攻撃によってどれも傷つき、そして力尽きるように、
インド洋の海底へと沈んでいった。
重巡以下の艦艇についても、黒煙や炎を上げていない艦を探す方が難しい有様であった。
日本の空母艦載機はそれこそ旧式駆逐艦といえども一切容赦せずに攻撃を加えたからだ。
「司令長官。被害報告がまとまりました」
そう伝える参謀長の声には、疲労と絶望が漂っている。
無理もない。これほど激しくかつ執拗な攻撃を、ドイツ空軍も
イタリア空軍も繰り出したことはないからだ。あの短くも激しかった
クレタ攻防戦の時ですら、これほどまではなかった。
「戦艦5隻の内、先ほどの空襲で爆沈したマレーヤを除いて、
本艦とウォースバイトは中破。ネルソンが大破です。バーラムは先ほど
総員退艦の命令が出たそうです。重巡はロンドンとデヴォンジャーが撃沈。
シュロプシャーとノーフォークが中破。軽巡はダイドー級6隻の内、2隻撃沈、
残りの艦も中破以上です。駆逐艦も16隻いた内、4隻が沈没し、無事なのは3隻
のみという有様です」
「つまり・・・東洋艦隊は実質的に壊滅・・・いや消滅したという事だね」
東洋艦隊司令長官ソマーヴィル中将の簡潔な要約に参謀長は唇をかむ。
つい昨日までは戦艦5隻、空母3隻の威容を誇っていたイギリス海軍唯一の機動艦隊が、
こうもあっけなく叩き潰されるなど、今のこの状況を見てもなお信じられなかった。
開戦劈頭で叩き潰されたアジア艦隊の戦訓を元に、空母部隊は全て戦闘機に置き換え
(それも最新鋭のシーファイアを、それこそ英本土中からかき集めてだ!!)、
英海軍の中でも防空能力が優れたダイドー級を6隻、空母の直衛艦として、考えられるだけの方策をたてた。
少なくともこれ以上のことを行うのはだれであっても無理であったろう。
しかしながら、日本海軍の攻撃はそんな努力をあざ笑うかのような凄まじさであった。
2次4波にわたる攻撃のプレリュードは、今や連合国にとって死神というべき烈風による先制攻撃であった。
艦隊上空に直援していたシーファイア30機と、敵機来襲に伴い、緊急出撃した15機、併せて45機は、
彼らの2倍弱いた烈風によって、艦隊防衛どころか、自分が生き残るのに必死となり、その隙をついてあらわれた
流星90機の攻撃を防ぐことはできなかった。
- 997. yukikaze 2011/11/12(土) 22:17:16
- そして艦載機の防衛ラインを悠々と突破した流星は、それこそ教科書通りと
言ってもよい雷爆同時攻撃を空母群に仕掛け、必死の防空砲火をあざ笑うように、
次々と爆弾や魚雷を命中させていった。
彼らが去って行った後は、松明のように燃え盛る3隻の空母と、空母を守るために盾となり、
同じように魚雷や爆弾を受け、傷ついた巡洋艦や戦艦の姿があった。
この時点でサマーヴィル中将はコロンボへの撤退を命じたのだが、舳先をコロンボに向ける前に、
日本海軍の攻撃部隊が襲来。邪魔をする戦闘機がいないことから、流星だけでなく烈風も、
機銃弾やロケット弾による攻撃を加え、東洋艦隊はまさに狩られる獲物に成り下がっていた。
(やはり・・・我々は彼らと戦うべきではなかったな)
今更ではあったがソマーヴィルは思う。彼らは2度に渡る欧州大戦で盟友として共に戦い、
惜しみない信義と勇敢さを見せてくれた。少なくとも、金は貸すがろくに血を流そうともしない
植民地人達に比べればはるかに信用ができた。
しかし祖国は、そんな盟友を平然と裏切り、後ろから斬りつけるような真似をした。
誇り高い侍の子孫がそのような行動許すはずがないと思っていたが、どうやら彼らは自分の予想以上に、
自分たちの裏切りを憤り、報復を果たさなければ気が済まないようだ。
そうでなければ、宣戦布告をしたものの、津波によってダメージを受け、
アメリカの戦争協力に消極的になった祖国に対し、「インド独立」というカードを切ることはなかっただろう。
国力を回復させるためには、インドの存在がこれまで以上に大きくなった祖国には、日本のこのカードを無視
することなど到底不可能であり、そうであるが故に、可能な限りの戦力をインド洋へと派遣したのだ。
そして日本人は、自分たちにとって虎の子の艦隊を、それこそ完膚なきまでに叩き潰すことによって、
インドはおろか欧州における祖国の影響力の弱体化を成しえたのであった。
恐らく・・・いや、確実に祖国はこれから苦難の道を歩むであろう。
艦橋の外から見える夕日に、ソマーヴィルはそっと溜息をつく。
あれこそまさに、今のこの艦隊、いや・・・祖国を表すものもないであろうと。
1943年4月15日。
ここにイギリス東洋艦隊は終焉を迎えることになる。
旗艦ロドネーと運命を共にしたソマーヴィルの最後の言葉は「祖国よ、永遠なれ」
であったが、彼が大英帝国の崩壊を見ることがなかったのはまだしも幸福であった
といえるであろう。
最終更新:2012年01月02日 20:12