570 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:28:30
ネタSS「
憂鬱日本欧州大戦 -筆髭のいない戦場②-」
第二次世界大戦は、もはや連合軍の勝利で終わりを迎えつつあった。
当初はその圧倒的な戦力と優秀な兵器で戦争を優位に進めていたソ連であったが、
アメリカの連合国側での参戦によりそれも覆されてしまっていた。
すでに両陣営の上層部では終戦に向けた協議は進んでおり、停戦日時まで決定していた。
だからと言って、戦争が終わったわけではなかった。停戦が発行するその時まで、両陣営は少しでも優位な状況で停戦を迎えようと戦い、また相手が停戦を守らなかった時の事を考えて警戒をしていた。
そして、停戦が発行するはずの1943年12月24日。この日もソ連の陸と空ではまだ戦いが続いていた。
『前方約2000に敵戦車4両他歩兵を発見!』
モスクワに程近い雪に覆われた平原にて、フランス陸軍第46戦車大隊第3小隊を率いるピエール・ミシェル中尉は無線越しに部下の報告を聞いた。ピエールを隊長とする小隊の戦力は戦車3両と随伴歩兵が20名程度なのに対して、敵はT-39と思われる戦車4両に少なくとも歩兵が30名以上いるらしい。敵の部隊は小ぶりな丘の上に陣取っており、普通に考えるならば敗北は必須だった。しかし、現在のソ連軍にまともな練度の将兵はほぼ皆無だ。
その上に、ソ連軍でもっとも数が多い戦車は基本的には軽戦車であり、中戦車にしてもピエールらが乗っているB3bisはソ連軍のT-39に対して優位だった。初期の物こそ足回りを中心に不具合が多発していたがそれも改善された。
更に、B3bisは被弾経始を取り入れた45度の傾斜装甲の最大厚は実に120mmにまで達しており、T-39の76.2mm砲を(1対1なら)十分に防ぐ能力があった。これに対してB3bisの70口径75mm砲はT-39の装甲を易々と突き破ることが出来た。問題があるとすれば、敵がT-39/85だった場合である。
とは言え、油断は禁物だった。昨日の戦闘ではJS-2を含む敵部隊を撃破するために第3小隊は4号車を失ってしまっていた。
571 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:29:28
敵の戦車の数が1両多いのが懸念材料だったが、それは練度と性能で補うことが出来るとピエールは考えていた。以前ならばともかく、現在のフランス戦車の性能は他の列強にも劣るものではなかった。
だから、1500まで近づくとピエールは隷下の戦車に対して敵への攻撃を命じた。
「撃て!」
ピエールの命令とともに、3両の戦車はほぼ同時に停車し発砲した。そしてすぐさま移動を開始する。敵戦車はやや遅れて発砲したために砲弾は地面にむなしく命中するだけだった。
こちらが発砲した砲弾は1発が敵の最右翼に命中したようで、爆発とともに急停車した。内部から兵士が出てくる様子も見られないことから、中の戦車兵もろとも破壊されたのだろう。
そして、敵がこちらに砲の照準を向けている間の隙を狙って2号車が中央の敵を狙って発砲した。砲弾は狙いを違わず命中し、敵戦車は爆発に包まれた。負けじとピエールの乗る1号車と3号車も続けて発砲する。1号車は敵の右翼2両目を撃破し、これで数は3対2となりこちらが有利となった。残念ながら3号車は2発続けて外したが、いつもの事なので気にしなかった。
「一気に畳み掛けるぞ!」
ピエールの号令の元、小隊は突撃を始めた。残った敵戦車2両はそれに恐れをなしたのか、後退を始めた。迷わずピエールは追撃を命令した。敵がこちらを罠にかけるべく後退している可能性もあったが、罠を恐れていては勝利を掴み取ることは出来ないと考えていた。
そして、確かに罠はあった。雪に隠れて対戦車砲や野砲が隠されていたようで、3号車がそれらの砲撃を受けた。とは言え、数発までは耐えることが出来たので、その間に小隊は後退しながら砲撃をすることで敵の数門の砲を破壊することが出来た。だが、それが限界だった。まず3号車が破壊され、続けて2号車とピエールの載る1号車がほぼ同時に破壊された。
ピエールは這う這うの体で生き残っていた通信士とともに1号車を脱出した。敵に囲まれた中で脱出したために機関銃や小銃が彼らを襲い、通信士は数発の銃弾に貫かれて死亡した。
ピエールも銃弾が1発足首に当たったが、何とか戦車の陰に隠れてやり過ごすことに成功した。だが、それもいくらか時間を稼いだだけになるだろうと考え、一矢報いようと何とか持ち出せたMle1935拳銃の安全装置を解除しスライドを引いた。
その間にも銃弾は絶え間なく浴びせかけられていたが、1号車の残骸はそれによく耐えていてくれた。だが、それも終わりに近づいたようで、銃声の中で敵歩兵が雪を踏みしめる音が聞こえてきた。随伴歩兵はどうしたんだと思ったが、対戦車戦に気をとられているうちに後方に置き去りにしたのだと思い出した。
いよいよ年貢の納め時かと思い、せめて一人は倒したいと残骸から敵のいるであろう方向へ発砲しようとした瞬間、上空から爆音が聞こえた。それと同時に残骸越しに大きな爆発が起きたのが感じられた。
何が起きたのかと思い、恐る恐る顔を出してみると、先ほどまであった敵の陣地は完全に破壊されており、砲の残骸と人体であったと思しき肉塊が、炎の中に転がっているのが見て取れた。
呆然としているピエールであったが、すぐさま何があったのかを理解した。いつの間にか上空にはフランス空軍の国籍マークを描いた航空機が飛び回っていた。
(もう少し早く来てくれていたら・・・。)
空軍の連中のせいで小隊が壊滅したわけではないが、どうしてもそんな思いがこみ上げてきた。
「中尉!」
その時、後方から随伴歩兵がようやく追いついてきたようだった。他にも2号車と3号車の陰からそれぞれ2人と3人が這い出てきた。それらを見てピエールは先ほどの暗い思いが少しばかり消えたのを感じた。
そして、気を取り直したピエールは上空を舞う味方の航空機に大きく手を振ると、生き残った部下たちと合流すべく歩き出した。
572 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:30:10
一方で、モスクワの上空では連合軍とソ連軍が入り乱れての航空戦が行われていた。
モスクワ外周の陣地を爆撃しようとする連合軍の爆撃機とそれを迎撃するソ連軍の戦闘機、更には護衛の戦闘機にソ連軍の爆撃機もが入り乱れての戦いであった。
その中にあって、一際異様な姿形をした戦闘機がモスクワの空にあった。
(よし、今だ!)
フランス空軍第3戦闘飛行隊所属のマルセル・アルベール准尉は敵戦闘機が機銃の照準に入ったことを確信して、機銃の発射レバーを押した。放たれた機銃弾はまるで吸い込まれるかのように敵機に命中し、敵機はガクッと機首を落とすと煙を吐きながら急速に速度と高度を落としていった。
「1機撃墜!」
マルセルは冷静に敵機を葬った事を無線で隊長機に報告した。興奮は無かった。これまでに10機以上撃墜してきたからということもあるが、今撃墜した敵のパイロットの技量が余りにも未熟だったということもある。
(もう、ソ連にはまともなパイロットは残っていないのだろう。)
ポーランド戦からソ連軍機と戦ってきたマルセルは、赤色空軍の成長と没落をすべて見てきていた。初期の赤色空軍は個人でも組織でも能力は低く、同数ならば敵ではなかった。だが、ソ連は数倍からひどい時には10倍近くもの物量を投入することで連合軍に打撃を与えてきた。
まやかし戦争が終わり本格的な戦争が始まると、赤色空軍はポーランド戦の時とは比べ物にならないほど厄介な相手となっていた。確かに技量も組織立った戦闘能力も連合国と比べたら低かったが、確実に上昇したそれらに加え、ポーランド戦の比ではない物量差に連合軍は苦しめられたのだ。
とはいえ、その栄光の日々も長くは続かなかった。欧州列強各国の戦時体制への移行やアメリカの連合側での参戦、さらにはそれまで中立国だった欧州各国も参戦するようになるとソ連軍は劣勢に立たされる様になっていた。
そして、今日がソ連の終わりの始まりとなる日となるにいたったのだ。
「次の獲物は・・・と。」
マルセルは未だ戦闘が続くモスクワ上空を旋回しながら次の獲物を物色していた。そして、1機だけ離れたところを飛んでいるIL-2に狙いを定めた。どうやら敵は戦闘空域を抜けて、モスクワ外縁で戦う地上部隊の支援に尚も向かおうとしているらしかった。
だが、それは無謀であった。新米のような連中が乗っている上に、数にしてもこちらより少ないのだ。もともとが成功の可能性が無い作戦を尚も続けようというガッツは認めるが、それは勇敢ではなく無謀でしかなかった。
マルセルは機首を敵機に向けて旋回させ、スロットルを一杯まで振り絞った。すると速度計が急速に上がり始め、マルセルは強いGが体にかかるのを感じ始めた。すでに速度は600kmを超え700km近くにまで達していた。
「流石はVK.01だ!」
マルセルが乗っているのはフランスの最新鋭戦闘機であるVK.01であった。この戦闘機はフランスのアーセナル国営航空工廠と日本の倉崎重工とが共同開発したもので、全長10.5M、全幅11.2MとVG.39と比べて一回り以上大きく、4トン近い自重の機体を推進式二重反転プロペラで飛ばすという、かなり奇妙な姿をしたものであった。
VG
シリーズを設計したヴェルニスは、元々タンデム双発戦闘機としてVG.30を開発していた。それが第二次世界大戦の勃発により、急遽高性能な戦闘機が必要になったことから日の目を浴びることになり、VG.39戦闘機へと繋がっていく。
そして、ヴェルニスは倉崎重蔵と運命の出会いをすることになる。その結果生まれたのが、マルセルが乗るVK.01(VG.40)戦闘機であった。エンテ型推進式二重反転プロペラという日本の変態紳士たちにとってどこかで見たことのあるような戦闘機は、こうして生まれた。
この機体が完成したとき、倉崎は感動の余り人目を憚らず号泣し、富永は裸でベルリン市内を駆け巡り雄叫びを上げた。もちろん逮捕された。
そして、両者は協力して日本陸海軍にこの機体を売り込みにかかり、正式採用されるに至った。実は、倉崎はVK.01(日本名:蒼來)の設計をする際にジェットエンジンへの換装も考慮していたのだ。軍事費を気にする大蔵省が4式戦闘機疾風の定数を減らしてハイローミックスによる軍事費の削減が出来ると考え、彼らの後押しをしたのも大きかった。
574 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:30:48
それはともかくとして、マルセルが操るVK.01は敵機に向かってぐんぐんとスピードを上げて近づいていた。だが、あと少しで機銃の射程距離に入るというところで、突如として戦闘停止命令が下った。
「チッ。」
機銃の発射ボタンから指を離し、旋回しながら機首を上げながら時計を見ると、時刻は正午を過ぎていた。事前に知らされていた話だと、今日の正午が停戦時間であった。チラリと先程のIL-2を見やると、反転して元来た道を戻っていく様子が見て取れた。
「まったく、命拾いしたな。」
マルセルは顔も知らぬ敵パイロットに対しそんな言葉を吐きつつ、自身も無線越しに聞こえてくる隊長の命令に従って味方陣地上空へと向かった。
575 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:31:37
「時間です。」
前線から10kmほど後方の村に司令部を置いたフランス陸軍第4機甲師団長のシャルル・ド・ゴール中将は、副官の声を聞いて軽く頷いた。時刻はちょうど正午になったが、雪がちらつくロシアの空は太陽の光を雲が阻んでいた。昨日も一昨日も先週もずっと似たような天気であり、兵士の中には凍傷や低体温症に罹ったものも少なくなかった。
「静かだな・・・。」
停戦時間から数分で戦場からは砲声と銃声が消えた。共産主義者どもは停戦合意を守ったようだ。それ自体は喜ぶべきことなのだろうが、シャルルの胸の内は複雑だった。なにせ後半月、いや1週間もあれば彼らはモスクワ市内へ突入できたかもしれなかったのだ。パリを卑劣な攻撃で破壊した連中へのちょうどいい仕返しのはずだったが、それを実行する機会は永遠に失われた。
もっとも、モスクワで市街戦となればその損害は凄まじい事になるだろうと言う事は容易に想像がついたので、そうならなくて済んで安心する気持ちも少しばかりあった。
いくら勇敢なフランス軍将兵と言えども、死ぬ時は死ぬのだ。
「これで奴らが降伏する意思は確かだとはっきりしたな。」
シャルルは、当初ソ連は降伏する振りをして奇襲をしてくるつもりではないかと警戒していたが、1時間近くたっても戦闘が再開されない様子を見てソ連が降伏するという話は本当だったと信じ始めていた。
「師団長。敵から軍使が送られてきたという報告が入ってきています。」
参謀の一人がそう言ってシャルルに報告してきた。その顔は不満に満ち溢れていた。彼はパリ出身だったな、と思い出しながら軍使に会うので準備をするように命令した。
「本当に終戦になればいいが、ならなかったとしてもモスクワを攻略する栄誉が手に入るだけだ。どうなるか楽しみにしておこう。」
シャルルはそう呟くと、一人で軽く笑い声を上げた。
「静かになったな・・・。」
一方で、ドイツ軍の陣地でも静寂な戦場に違和感を覚える者たちがいた。
「ソ連は約束を守ったということか。」
約束破りで有名なソ連だったが、流石に今回だけは約束は守ったようだった。もっとも、守らなかったら守らなかったで彼らにとっては飯の種が増えるだけのことである。将校の中には、ソ連が約束を破りますように、と神に祈っていた者もいるという噂も流れるほどだった。
「敵陣地に動きは無いか?」
「静かなものです。もっとも、弾薬不足か以前より砲撃は散発的でしたが。」
第56軍団長の宮崎繁三郎大将はソ連軍の動向をドイツ人やポーランド人の幕僚に尋ねたが、幕僚は笑いながら以前よりソ連軍陣地は静かだと返してきた。
「それで、フランス軍の陣地はどうだ?」
宮崎がそう尋ねると、周りにいた将校たちは笑いをこらえきれなかった。
ソ連との停戦で最大の懸念はソ連軍が実際に停戦するのかということだったが、それと同じくらい懸念されていたのがフランス軍が停戦するかどうかだった。もしフランス軍が戦争を継続した場合、連合軍同士で相対する可能性も排除できなかった。
「残念ながらフランス軍陣地も沈黙しています。」
「やれやれ、本当に戦争が終わってしまったわけか。」
宮崎が肩をすくめるしぐさをすると、再び司令部となっているテント内は爆笑に包まれた。
宮崎はこれまでに何度かフランス軍部隊を救出していた。その多くは逸ったフランス軍が無謀にも突撃を繰り返して敵中に孤立したことが原因であり、そのために宮崎のフランス軍への心象はもはや覆しようが無いほど悪かった。無論のこと、それはドイツ・ポーランド統合軍においても同様であり、何かあればすぐさまフランス軍陣地を攻撃してやろうというジョークまでもが飛び交う始末だった。
「これで諸君と戦場を共にするのも後少しとなったわけだ。」
宮崎の言葉には、名残惜しさが滲み出ていた。ドイツ人やポーランド人の将校たちもその気持ちを共有しているのだろうか、幾人かはうっすらと涙さえ浮かべている者すらいたほどだった。
第二次世界大戦の会戦以来、宮崎は常に欧州の第一線で戦い続けていた。だからこそ、ドイツ・ポーランドの将校たちに尊敬される存在になっていた。
「これで諸君らとの縁が切れるわけではないが、いい機会だし言っておきたいと思う。諸君らとともに戦えたのは私の生涯で一番の宝となるだろう。これまで諸君らとともに在れたことを私は誇りに思う。ありがとう。」
そう言って敬礼した宮崎に、幕僚たちは綺麗な答礼で答えた。
576 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:32:24
「何てことだ・・・。」
アメリカ合衆国大統領のウェンデル・L・ウィルキーは、ソ連との間で停戦が成立したことを受けてホワイトハウスの大統領執務室で頭を抱えていた。あのソ連が停戦を受け入れるはずが無いと考えていたが、現実にソ連は停戦した。この後は降伏文書の調印を経て、武装解除と並んでソ連の解体とロシア帝国の復活に向けて進んでいくことになるだろう。
だが、それはアメリカにとって悪夢だった。なにせ、アメリカは今年になってようやく戦時体制へ移行することができたのである。そのために投資された資金は回収される見込みはなくなったのだ。既に停戦の報を受けて、ニューヨークの証券取引所では株価が下落しつつあった。共産主義者と奴らがばら撒いたペスト(襲撃が無ければペストは漏れる事が無かった)から守りきったニューヨークは、今やアメリカ経済を内側から破壊する拠点となりつつあった。
(このままではホワイトハウスから追い出されることになってしまう!)
それだけは何としてでも防がなければならなかった。だからこそ、ウィルキーは覚悟を決めた。
「プランBで行くしかないのか。」
それは、インドで内戦を引き起こしそれに介入することで大量の武器や軍需物資、車両などを売りさばくというものだった。同時に、直接軍事介入することで軍需企業の救済を行うというものだった。
幸か不幸か、今のインドは内戦寸前でありいつかは軍事介入を行う必要があった。それに、大金をはたいてイギリスから購入した本格的な海外植民地である。自分たちの意のままに操るためには、インド人たちに身の程を知らせる必要があった。
「それを考えれば、イギリスがインドの武装組織に援助しているのを見逃したのはよかったのかもしれないな。」
アメリカは無能ではない。かなり初期からイギリスがインドの武装組織に資金や武器を援助しているのは知っていた。だが、対ソ戦での足並みが乱れるのを憂慮したアメリカ側がそれを見逃していたのだ。何せイギリスはアメリカ最大の顧客なのだ。
「インドを完全に平定すれば、中国と並びわが国の良い生産財の輸出先となるだろう。そうなれば、私は偉大な合衆国大統領として賞賛されるはずだ。いや、賞賛されるに違いない。」
偉大な大統領として歴史に名を刻む光景を想像したウィルキーは笑い声を上げた。先程まであった不安など見事に吹き飛び、素晴らしい未来が待ち構えているのが手にとるようにわかるような気がした。
だが、ウィルキーは後世の教科書では”失われた20年”と呼ばれるアメリカ合衆国史上最悪の時代の元凶として語り継がれることになる。後に、ヒンドゥー教やイスラム教などによってアメリカ国内で頻繁にテロ活動が行われるようになり、ウィルキーもそれの標的になることを彼はまだ知らなかった。
577 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:33:18
「やっと終わったか・・・。」
イギリスはロンドンのダウニング街10番地にて、チャーチルはソファーに腰掛けてようやく終わった戦争にため息をついた。第二次世界大戦はイギリスに多くの物を齎したが、同時に多くの物を奪っていった。齎したものは欧州各国の団結であり、特に一時期対立していたドイツとの融和がなされたのは大きかった。一方で、多くの人命が失われイギリスの心臓とすら呼ばれたインドすら手放す羽目になっていた。
そして、チャーチルにとって最も重要な好敵手であり同盟者であったチェンバレンもまた第二次世界大戦中に命を落としていた。これが原因で元々嫌っていたフランスを更に毛嫌いするようになったのは当然の成り行きであった。
「スコッチとグラスを二つ・・・用意してくれ。」
チャーチルは秘書にそう言うと目を閉じた。思い浮かぶのはこの部屋でチェンバレンと幾度として戦争の行方を語り合った光景だった。時には対立し時には協力し合った仲だったが、それももはや遠い過去になりつつあった。
そうしている内にテーブルにグラスが二つとウイスキーボトルが置かれた。一つは自分のグラスだったが、もう一つは今は亡き僚友のものだった。
「戦争はようやく終わった。君や私の努力は実ったのだ。」
グラスにスコッチを注ぎながらチャーチルはもはや存在しない好敵手に向かって語りかけた。同時に心中では自分の役割は終わったことも理解していた。自分はあくまで戦争を乗り切るための戦時内閣の長としてのみ存在を許されたのだ。
そのように、今は亡き親友と語り合っているチャーチルを見て秘書は部屋から退室しようとした。だが、退室しようと扉を開けたその時になって一人の男が息を切らして部屋の中に走りこんできた。男はイーデン外務大臣だった。
イーデンが息を切らして部屋に入ってきたのを見たチャーチルは何事かと顔を向けた。
「フランスが、あの蛙食い共がまたやらかした!ボルドーで継戦派によるデモ隊が暴徒化して、フランス政府はボルドーを船で脱出してトゥーロンに向かっているそうだ。」
それを聞いたチャーチルは静かにグラスを机に置くと、秘書に向かってドイツや日本、更にはオランダやベルギーといった国々と連絡を取るように命じた。
「一体何を・・・?」
「決まっているだろう。あの蛙食いどもの首根っこを引きちぎって、二度と馬鹿な真似をやれないようにするのだよ!!」
こうして、連合国各国がフランスに向けて進軍することになり、後にフランスオリンピックとも称されることになる。
隠して、第二次世界大戦はポーランドに始まりフランスで終わることになるのであった。
おわり
578 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:34:18
おまけ
フランスで暴徒が暴れまわっていると情報を受けた
夢幻会では急遽会合が開かれ、これからの対応について協議していた。その中にあって、嶋田は特に浮かない顔をしていた。
(畜生、これじゃこれまでの計画がすべてパーだ!)
嶋田は自身の後任に山本をすえることを計画し、海軍内部で根回しを進めてきていた。連合艦隊と軍令部に加えて海軍情報部が夢幻会の手中にある以上、山本が勝手な振る舞いが出来るとは思わなかったが欧州での活躍とそれまでの雌伏の時の行動に感銘を受けているものも少なくは無かったために、夢幻会の良き対抗者・好敵手として活躍してくれるだろうと考えていた。
そして、それらの根回しをした上で、夢幻会の会合で自身の引退を認めてもらうつもりだった。これからは国際協調下での軍縮の時代が来るため、軍拡期に海軍の要職を努めてきた自分が引退することで、日本が列強各国と事を構えようなどと考えてはいないことを示す、とりわけ東南アジアの植民地に手を突っ込むつもりは無いことを明確にするためだと、会合の出席者たちを説得するつもりだった。英仏は日本の戦争協力の見返りに各植民地での経済活動の拡大を認めているため、こういったアピールは必須であった。
だが、それも今回のフランスの暴挙でふいになる可能性すらあった。
「陸軍としてはドイツで再編成中だった第18師団から一部を抽出してフランス進行へ振り分ける予定です。それ以上はとても無理です。」
永田は余りにも予想外の出来事に、内心フランスを罵倒しながら今出来ることを言った。第18師団は再編成中とは言え、実質戦争が終わったと考えられていたことから帰国の準備を進めているところだった。そのため、まともに戦闘に使える部隊は少なく、せいぜいが臨時編成の一個増強連隊連隊程度しか使えそうに無かった。
そんな陸軍だったが、海軍よりははるかにましだった。海軍は欧州からほぼ撤収してしまっており使える駒が皆無だったのだ。もっとも、フランス海軍はボルドーから脱出した政府を正当なものだとしているので、海軍がいたとしても果たして活躍の場があったかどうか疑問だったが。
「とりあえずわが国が取れる対策はその程度か・・・。間違っても仏印に進駐するなんて妄言が表に出ないようにしてほしい。」
伏見飲み屋の言葉に、出席者たちは重々しくうなずいた。今回の事態を受けて、一部の過激な連中が「この機に仏印にも進駐するべきでは?」と言ったいう話が既に聞こえ始めていた。真意は不明だが、そのような事が外部に漏れたらえらいことになるのは間違いなかった。
「それと、残念なことに辻君の消息は未だ不明です。最悪の事態も考える必要もあるかもしれません。」
この絵の行ったことに、内心ガッツポーズをしつつ沈痛な面持ちをした軍関係者は果たして幾人いたであろうか?少なくとも嶋田は一連の出来事の中で唯一良さそうな情報だと思えた。
一方で、辻の後継者候補であり夢幻会の会合に出席していた大蔵官僚の男は、自分の大蔵大臣就任のときが近づいたと感じ、重々しくうなずいた。
もっとも、この2日後辻が五体満足でフランス政府高官らとともにボルドーに避難していた事が伝わり、この話しは無かったことになるのだがそれは余談である。
ついでに、嶋田は海軍大臣の引退は認められたものの、貴族院の勅撰議員として引き続き夢幻会の一員として活動していくことを半ば強要されるのだが、それはもっとどうでもいい話だった。
579 :Monolith兵:2016/03/30(水) 01:35:50
これで憂鬱日本欧州大戦は終わりとなります。
初めての長編ということで、途中幾度か中断したりしましたが、何とか終わらせることが出来ました。これも読んでくれる人がいるから出来たことだと思います。ありがとうございました。
ただ、これで長編はもう懲りました。w
他の書き手の方で長編を書いてる人たちはすごいなぁと改めて思いました。エタる人もおおいですが、仕方ないのかもしれません。
本当は他にもやりたいネタがあったりするのですが、私の能力的にこれくらいが限界のようです。モルヒネデブが身分を隠して義勇軍に参加していたり、辻ーんのボルドー珍道中とか、フランスオリンピック(連合軍によるフランス侵攻)とか。
それではまた。
最終更新:2016年03月30日 21:54