- 175. yukikaze 2011/12/12(月) 21:54:59
- 前スレ
>>801
の続きを投下します。
『オペレーション・ポーラスター』
カナダへの大規模な飛行基地建設を行うこの作戦において、
最大の問題点は、当たり前のことではあるがカナダの動向であった。
しばしば誤解されがちではあるが、アメリカ政府はカナダの意向について無頓着ではなかった。
むしろ逆で、最大限に注意を払っていたといえる。
何故なら、下手にカナダと敵対関係になった場合、カナダが、自国防衛のために日本との同盟を結ぶ可能性もあり、
そして日本の重爆撃部隊がカナダに展開したら、目も当てられない被害を受けかねないからであった。
そうであるが故に、アメリカ政府はカナダに対して、外交ルートを通じて、彼らの同意を受けて侵攻しようとした。
しかしながら、半ば予想されていた事であったが、交渉は難航する。
カナダにしてみれば、アメリカのこの提案は、自国を戦場にしてくださいと
ルビを振ってお願いしているようなものである。
最悪な場合は、本国政府が馬鹿やらかしたことで、英連邦に対して徹底的に
不信感と嫌悪感を示している日本に制圧されたり、あるいは、迎撃のために
日本軍が領土内に攻め込んだら、アメリカ自らが自国への保障占領の口実に
しないかという疑念を有していた。
カナダ政府がそう疑ってしまうほど、アメリカ政府の対外印象と信頼性は地の底に落ちていた。
そして、進まぬ外交交渉を尻目に、合衆国政府はどんどん追い詰められていく。
いかに散発的なものであったとはいえ、逆にいつどこに降ってくるかわからないと
いう恐怖におびえる合衆国市民と財界関係者の突き上げ。そして本命であった海軍戦力が
遂に消滅したという事実に、合衆国政府はついに、カナダの了解なしでの越境を決意する。
無論、この決定に異を唱える者も多かったのだが、国内に高まる不満をこれ以上放置するわけにもいかず、 更にカナダに侵攻したとしても、
最悪でも英連邦との間での通商の制限や停止処分以上のリアクションは
ないであろうという観測が上回った結果、最終的には了承されることになる。
1943年5月24日早朝。
眠い目をこすりながら歩哨に立っていたカナダ軍兵士は絶句する。
元々、国境沿いには警察部隊に毛の生えた程度の部隊しか配置されていなかった
(これは、カナダ政府がアメリカに対して余計な刺激を与えたくなかったのと、
万が一紛争が起きた時に、国境沿いで叩き潰されるのを嫌った点がある)のだが、
そんな彼らの目に、アメリカ側から続々と軍隊が進撃してきたのである。
そして驚きふためく彼らに対して、アメリカ軍は容赦がなかった。
侵攻3日目にはバンクーバーを包囲して、同日中に制圧しているのだから、
彼らの行動がいかに手早かったのか見て取れる。
そして突然の侵攻に右往左往しつつも、米国に対して猛烈な抗議をするカナダ政府を尻目に、
侵攻した米軍は、すぐさまバンクーバー郊外に飛行場を建設し始めた。
来襲した2個軍団4個師団の仕事は、同飛行場の拡張と整地にあったと、
同軍団の兵士からジョークの種にされた程であった。
かくして彼らは、侵攻1週間後には、バンクーバーに広大な飛行場を整え、
そして同地に航空部隊を展開させることになる。
アメリカ陸軍の工兵技術が意地を見せた瞬間であった。
こうしたアメリカの行動に対し、列強の動きは遅れた。
6月中旬にハワイ侵攻作戦を計画していた日本軍は、
アメリカのこの不可解な侵攻に戸惑いを見せていたし、
そして枢軸国側も「ヤンキーは何を考えているんだ?」という
疑問以上のことを思い浮かばなかった。
そしてイギリスにおいては、これまでの親米政策による批判を受け続けていた
ハリファックス内閣が遂に総辞職をし、しかもその後継を巡って、
保守党と労働党が互いに暗闘を繰り返し、ものの見事に政治的空白を作ってしまう。
後に『大英帝国最悪の一週間』と、歴史家から酷評される有様であった。
結局、この政治的空白は、両政党の醜態に業を煮やしたジョージ6世が、
ある1人の男に挙国一致内閣の組閣を命じることにより、ようやく収まることになる。
男の名はロイド・ジョージ。第一次大戦において英国を勝利に導いた存在であった。
- 183. yukikaze 2011/12/12(月) 23:21:54
- 1943年6月4日。
一人の老紳士の声が、ラジオを通じて全世界に響き渡った。
『世界の皆さん。私はこのたび大英帝国宰相を拝命しましたロイド・ジョージです。
まずはこの老人の言葉に耳を傾けていただきたい』
そう静かに語るロイド・ジョージは、まず大西洋大津波で被害を受けたすべての国と
そして失われた命に黙祷を捧げたいと告げた。
約1分間ほどの黙祷の後、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
『世界の皆さん。我々は今回の地震で、国や人種を問わず多くの悲しみを受けました。
この災害復興には、多くの時間と労力が費やされることになるでしょう。
ですが、私は人の持つ可能性を疑ったことは一度たりとてありません。我々人類は
かならずこの被害から立ち直ることができるでしょう』
そう一度言葉を区切った後、彼は先程までの口調とはうって変わって、冷ややかな口調で話し始める。
『しかしながら、このような混乱のさなかに、災害復旧よりも、武器を持って暴れることを好む無法者がおります。
彼らは恥ずべき理由で戦争を起こし、そして毒ガスという時代に逆行するものを使って、力弱い者や
自国民すら殺してのけ、そしてその愚行に対してなんら自省することができない未成熟な存在がです』
それがどこの国を指すのか、彼は具体名を挙げてはいなかったが、誰の目にも明らかであった。
『無論、我が国とて、かの国を批判できることはできません。目先の利益に捉われ、長年に渡って盟約を守り続けた
友を平然と裏切ったからです。『日、没することなき帝国』として、断じてしてはならない行為であったのは
間違いない事であります。この点について私は一切弁明をするつもりはありません。私は、彼の国に参り、彼の国の
民衆に対し、過ちを心より詫びる所存であります。
勿論、こうした行為で許されるとは思ってはいません。しかしながら、過ちを過ちと認め、そして真摯に詫びる。
これは老いたりとはいえ、帝国の矜持であります。
仮に、彼の国において、この身がどのような目にあっても、それが友好の階となるのならば、本望であります』
あまりもの率直な発言に、夢幻会上層部は思わず舌打ちをする。
くそ。これ程率直に自らの過ちを認め、殉教者の如き覚悟を見せられれば、多くの連中はガーナーの
言い訳じみた演説と嫌でも比べちまうだろうな。
何しろ、熱しやすく冷めやすいのが我が国の国民だ。こうした潔い態度に情を絆される奴も出てくるだろうし
何より真摯に詫びる老人に無理難題を言ったら、向こうが同情を受けることにもなりかねん。
あの古狐め。伊達に第一次大戦を乗り切ってはいない訳か。
そう独白する中、老紳士の演説は続く。(とりあえずここまで)
- 188. yukikaze 2011/12/13(火) 00:03:18
- と、いう訳でロイド・ジョージ登場。
正直、この時期の英国で、老練な政治家って彼くらいですから。
で・・・ネタバレいくつか。
ポーラスターは、ある作戦における重要なカギの一つとなっています。
ここら辺は、ロイド・ジョージの演説終了後に明らかになりますが
正直な話、「追いつめられた国ってどこもやること一緒だよね」としか・・・
歩兵師団の速度を聞いたのは、攻略にかかる時間を設定するためでした。
ぶっちゃけ、この時期のカナダ軍の戦力って、侵攻軍よりも低かったような。
ちなみにこの2個軍団の役割は、飛行場の防衛と、飛行場とワシントン州との
連絡線の防衛ですね。
なお、ロイド・ジョージの演説は、欧州向けと米国向けに続きます。
そしてその演説に各国首脳部はどう反応するかが、次回のポイントになるかと。
最終更新:2012年01月11日 00:56