- 216. yukikaze 2011/12/13(火) 23:07:23
- では、ジョージの演説の続きを。
『さて、私といたしましては、何よりも先に、恥ずべき裏切り行為に対して、
彼の国の民に直接謝罪に赴くのが筋であると思う訳ではありますが、
しかしながら今2つ程、我が国にとって解決しなければならない問題があります。
それは津波による欧州の混乱とカナダ問題であります』
話が欧州にまわったことで、今度は欧州の指導者達が固唾をのむことになる。
『先日、自由フランスのド・ゴール将軍と、自由ポーランド政府の方々が、
私の所に来訪しまして、こう話しました。『津波で我が国の民が苦しんでいる。
どうか助けてはくれまいか』私はこの両者の発言にとても感動いたしました。
国を追われてもなお、祖国に心を馳せている訳ですから』
ド・ゴール達はにんまりとし、ヴィシーの面々は苦虫を噛み潰していた。
津波を使って体のいい宣伝をしやがってと。
『故に、私はこの津波による被害と、そしてそれに伴う混乱を一日も早く終わらせるべく、
邁進するつもりであります。具体的には、ドイツとの直接会談を行う用意があります』
この瞬間、全員が絶句した。
それはそうだろう。休戦条約を結んでいたとはいえ、実際にはいつやりあうかわからない
存在に対して首脳会談を行うという事は、関係改善に転じたという事に他ならない。
正直、この発言に快哉を抱いたのはヒトラー位であった。
『ただいまの発言に対し、多くの方が思う事でしょう。『イギリスは、今度はドイツと手を組むのか』と。
勿論、私は彼らの行動理念について賛同するつもりはありません。しかしながら、津波による被害と
その混乱を放置することは、更なる混乱と破壊を促すことにもなります。
それは大国の指導者としてはしてはならないことなのであります。
先日の両政府の代表の言葉で私はそのことに気付かされました。
両政府の代表に心から謝意を述べるものであります。ありがとう』
白々しいことを言いやがって!!
正にそれがダシにされた両政府の率直な思いであった。
確かに彼らは、ロイド・ジョージに対し、そのような発言を行った。
だがそれは「さっさと対独戦を再開しろ」という意図を言外ににじませていたのだ。
だが、ロイド・ジョージは、それを理解していながらも、
建前上の発言を徹底的に利用したのである。感謝という表現を利用して、徹頭徹尾、
両政府に責任を押し付ける形で。
- 217. yukikaze 2011/12/13(火) 23:11:24
- そして、両政府と同じような思いをしていたのが、ヴィシー・フランスであった。
それはそうだろう。何しろ彼の発言の中には、ヴィシー・フランスに対する謝罪はおろか、
名前すら出ていなかったからだ。
日本に対して謝罪をするのならば、フランスに対しても謝罪をするのが筋であるのに、
彼はそういったことに一言も触れずに、彼らの頭上で関係改善を図ることを宣言したのだ。
平たく言えば、彼らは完全に無視されたのだ。プライドを傷つけさせるには十分であった。
そして彼らにとって腹だたしいのは、盟主であるドイツが、恐らくこの関係改善をのむだろうと予想できることであった。
戦争遂行と津波被害の回復をやらねばならないドイツにとって、様々な資源や物資は喉から手が出るほど欲しいであろう。
故にドイツは「津波による被害とその混乱の回復」というロイド・ジョージの綺麗ごとを是とするであろう。
反対する者に対しては「では被害の回復を遅らせろというのだな?」というレッテルを貼って。
(ちくしょう。こうなったら津波被害回復を名目に、イギリスから徹底的にむしり取ってやる。
回復したらドーバーを渡って攻め込んでやる)
フランスが暗い情念を抱くのを尻目に、ロイド・ジョージは次の話題に移る。
『そしてカナダ問題であります。これはもう論じるまでもありません。
アメリカ合衆国の破廉恥な行為を見逃す理由などどこにもありません。
我が国は主権国家として、このような不法行為に対して断固とした対応を取ります。
その第一段階として、彼らが即時撤兵し、更に今回の件に対して、責任者の処罰並びに
賠償が行われるまでの間、大英帝国内にありますアメリカ資産を凍結いたします。
勿論、この資産を帝国外に出そうとしたものは罰せられることになります』
アメリカ政府首脳部は、そろって舌打ちをした。 せいぜいが英連邦との間での通商の制限や停止処分と思っていたのだが、彼らはのっけから
禁輸措置というカードを繰り出してきた。
実の所、大津波による被害と戦争によって、英連邦との交易は、戦前と比べて格段に減少していたし
企業も第二次大戦の頃から、資産をスイスに預けなおしたり、工場の移転などを行ったりしていたことから
同決定に対しては、軽いとはいえないまでも、致命的なものではなかった。
もっとも、アメリカが英国政府に貸していた借金が、事実上棒引きにされたという事実は、腹の立つことではあったが。
だが、ロイド・ジョージの次の演説が、彼らを蒼白にさせることになる。
『なお、我が国は、日本国政府がアメリカ合衆国に先ごろ出した休戦条約案に対して、
改めまして賛意を述べるものであります。今回の無分別な侵攻作戦を見る限り、
彼らに自省を求めることが困難であると認識せざるを得ないからであります。
なお、同休戦条約案において、列強による査察団派遣の項がありましたが、
これについても、ドイツとの会談で議題に挙げる予定であります。
また、これ以上合衆国政府が津波回復に対して無頓着であるというのならば、
列強共同による国際支援を行うのにやぶさかではありません。津波による被害とその回復の遅れが、
現在の混乱を産み出し、それを助長させているとしか言えないからであります。
合衆国政府が自らの力で回復できるというのならば、自らの非を認め、直ちに戦争をやめるべきであります。
世界は我儘な子供の横暴を許してやるほど甘くはないのであります。ご清聴ありがとうございました』
誰もが言葉を失っていた。
ロイド・ジョージが言わんとするところは明白であった。
これ以上戦争を続けるというのならば、イギリスだけでなく欧州が太平洋戦争に
介入する可能性を示唆したのである。
そしてそれを止めるには、合衆国が徹底的に骨抜きにされるしか手段はないのである。
正に退くも地獄進むも地獄の状態に彼らは立たされてしまったのであった。
そして、追いつめられた合衆国政府は、ロイド・ジョージの演説に
明確なリアクションが決められないまま、ポーラスターの第二段作戦へと進むことになる。
最終更新:2012年01月03日 19:25