365 :名無しさん:2015/04/18(土) 20:22:21
流れをぶった切ってしまいスイマセン。ssを投下させてもらいます。



1944年6月某日   小笠原諸島硫黄島

太平洋に浮かぶ孤島、硫黄島。海底火山によって生み出されたこの島の中腹を無数の男たちが手に鶴嘴や円匙を持ち、別の者たちがモッコや猫車を使い土砂を運び出していく。ここ三ヶ月ほど続けられた光景だった。

「くそ、いつまで掘り続けるんだよ」

延々と続く重労働に西郷一等兵がやけになったように鶴嘴を岩盤に叩きつけながらうめいた。

「そうは言うても、ここは神聖な国土の一部じゃろうに」

傍で同じように鶴嘴を振るう樫原一等兵が相手をする。こちらも汗だくになり褌一丁で作業していた。

「何が神聖だよ、こんな何にもねえ岩だらけの島。アメ公にくれてやればいいんだよ。そうすりゃ家に帰れる」
「まともな水が飲めるようになっただけ、マシじゃわい」

樫原も作業に嫌気が差しているのは同じでも、ここ数日で設置された濾過装置によって、まともな真水が配給されるようになったお陰で調子を取り戻した腹を叩きながら苦笑を返した。
それでも西郷は気晴らしがしたいのか、話が続く。

「大体よ、アメリカの艦隊は連合艦隊がぶっ潰したはずじゃねえのか?」
「大戦果だったゆう話やな」

それは新たに設置された濾過装置を運んできた輸送船の乗組員が興奮気味に伝えてきた大本営発表だった。

南雲提督率いる連合艦隊はマリアナ沖にて米空母12隻、巡洋艦以下多数を撃沈破せり、味方の空母は被害なし

「あんな話、信じてられねぇよ。戦争が始まってから、たった三年でそんだけの軍艦を造れる国がどこにあるってんだ」

本土にいる間に何度も聞かされた大本営発表の味方の大戦果の続きに西郷はかなり疑ってかかっているようだった。
海軍は真珠湾で戦艦を壊滅させ、インド洋ではイギリスでも戦艦を沈め、ミッドウェーでは少し躓いたようだが、
ソロモンでは一連の海戦でそのお返しとばかりにアメリカ海軍を叩きのめし続け、トラック沖でダメ押しの一撃を
加える。
陸軍では中国軍に連戦連勝、ガ島やサイパンでも互角以上に渡り合った。
これが大本営からは国民に知らされた正式な戦果だった。

366 :名無しさん:2015/04/18(土) 20:23:51
「まぁ発表が本当だったら、アメリカは連合艦隊並みの数を丸々沈められとるはずだな」

話に加わってきたのはモッコに砕けた岩を乗せていた野崎一等兵であった、生来のうわさ好きらしく、船員からこの話を仕入れてきたのもこの男だった。

「まぁ、話半分でもそれなりの戦果はあげんたんじゃろうよ」
「もし本当だったら、こんな本土の近くに攻めこれる訳ないだろうな」

野崎は言葉を返しつつ、岩を運びだそうと相方とモッコを担ごうとして、顔を青ざめさせた。
近くにいたのは谷田大尉、西郷たちの所属する機関銃中隊の指揮官である。

「この非国民どもがぁ!!」

怒号とともに一番文句の多かった西郷を初めに、全員を殴り飛ばした。それだけでは気がすまないのか指揮棒を振り上げた。

「一堀の土は、血の一滴!それがわからんのかぁ!!
その上、わが大日本帝国がうその戦果を国民に知らせる、恥知らずとはなにごとか!
この非国民めがぁ!!!」
「やめたまえ」

怒鳴りながらも叩き続けていたが、それも穏やかな声が響いたことで止んだ。
声の主の陸軍中将の階級章を見て、殴り倒されていた者も含めて全員が気をつけの姿勢をとり、谷田大尉が敬礼を送る。

「何をしている?」
「こやつ等が非国民のごとき、戯言を吐いておったので性根を叩きなおしておりました!」
「そうか、しかし彼らが戦えなくなったら代わりの戦力があるのかね?」
「いえ、ありません」
「では、体罰は止めたまえ。昼飯抜きということではどうかね?」
「了解しました」

その返答に頷くと、中将は辺りを見回しつつ満足げに頷く。
西郷たちが掘っていたのは島で最も標高の高い擂鉢山と島の北側を結ぶための大坑道であった。このままのペースで作業を続ければ三ヶ月もあればこの通路は完成するだろう。
最も、掘るべき坑道は他にも幾らでもあり、彼らの穴掘りはまだ半年以上も続くこととなる。

「兵には十分な休息を取らせるように。見たまえ、ひどい顔だ」

中将はそれだけ言い残して、共の尉官を連れて他の坑道の視察に向かっていった。谷田大尉はそれを見送ると憮然としつつも命令を下した。

「全員、作業やめ!昼飯の用意をせよ」

その号令に従って、周りで見守っていた兵達も含めて全員が喜んで坑道から出て行った。

去っていった将官の名は栗林忠道陸軍中将、新たに小笠原兵団の最高指揮官として着任した、後にアメリカ海兵隊から魔人のごとく恐れられることになる男であった。





硫黄島の話が何度か出てきたので、書いてみました。もとの映画みたいに綺麗には出来ませんが、指摘などがありましたならよろしくお願いします。
最終更新:2016年08月10日 09:34