837 :硫黄島の人:2015/04/29(水) 03:03:12
地獄の硫黄島

1945年4月      小笠原諸島硫黄島


太平洋の孤島で、爆炎が吹き上がり、轟音が辺りを支配していた。それらが生まれるたびに命が失われていく。

ちくしょう!チクショウ!!畜生!!!

ラルフ・“イギー“・イナトウスキー一等兵はこの島に上陸してから何度上げたかわからない罵り声を上げた。

なんで死んでないんだ、ジャップどもは!

それもまた、多くの米兵が思っていることだ。
彼は今、他の大勢の海兵隊員と共に連日の砲爆撃機によって出来た窪地に頭を抱えて伏せていた。そこから一歩でも出れば、周りを飛びかう銃弾によってあの世に強制的に転属させられる。自分たちが戦う前に日本兵は全滅しているんじゃないか?、そんな風に考えていた数日前の自分を殴り倒したい気分だ。
上陸前のブリーフィングどおりであれば、五日目である今日にはこの島は自分たちのものになっているはずだ。
この想定に対して、戦後に公開された情報を知ったものたちは口をそろえて言った。

「甘すぎる」

実際に、キング長官がごり押した沖縄攻略戦と連動した硫黄島上陸戦は、初手から躓いていたといえる。
事前に二十日以上続けられた爆撃は何の妨害もなかった。しかし、順調だったのはそれだけだった。
上陸の直前に行われた第七艦隊(戦艦4隻、護衛空母5隻、軽巡3隻、駆逐艦20隻)による砲撃は十日の予定がわずか三日しか行われなかった。護衛空母の内の一隻が日本の潜水艦によって撃沈されたことで、海軍側が周辺海域の安全が確保されていないと主張したのがその理由だった。
そんな事情を知らぬ多くの米兵は、艦隊の砲撃によって打ち崩される島を見て歓声を上げていた。胸中の不安を少しでもごまかす為に。
イギーを含めた、第一派の部隊が上陸したときはスムーズだった。味方の艦隊も誤射を避けるために砲撃をやめ、居るはずの敵も何の反応も見せなかったからだ。
地獄の釜が開いたのは海兵隊が海岸を埋め尽くし、内陸部に歩を進めようとした時だった。
先頭を進んでいた兵達がなぎ払われたのと同時に、海岸に砲弾の雨が降り注いだ。沈み込む砂浜に足を取られ、まともに動けないうちに打ち据えられたのだ。頼みの戦車も、ほとんどが撃破されてしまう。
這い蹲って進み、掩蔽壕を焼き払い、白兵戦を繰り返すことで海岸を確保したが、上陸初日の死傷者は3000名を越えた。


それから、五日がたった今も状況はあまり変わらない。この島で唯一の高地、擂鉢山を確保しようと攻撃を仕掛けているが、裾野に張り付くことすら出来ていなかった。

「イギー、無事か?」

親友のジョン・“ドク”・ブラットリー衛生兵が近寄ってきた。何度も狙撃されながら生き残っているタフガイだが、負傷者の血で汚れきっている。

「ああ!なんとかな」
「海軍の連中はなにやってやがる!給料泥棒のクs「モーター!!」」

警告によって、悪態は最後まで続かなかった。二人が反射的に頭を抱え込んで伏せると独特の風切音が聞こえ、数瞬後に衝撃が辺りを揺らした。周りを見ると、別の分隊がいた窪地が無くなっていた。迫撃砲の直撃だった。

「畜生、まただ!」
「やつら、狙ってやってるのか」
「ドラム缶みたいなやつでかよ」

イギーはやけくそ気味に、ドクは敵兵の技量に戦慄しながら、至る所から発砲炎を上げる前方とその奥にある擂鉢山を見つめた。そばでは分隊長が無線機で航空支援を要請しているが、このままでは自分たちもやられると絶望しかかったときに、キュラキュラという異音が聞こえてきた。

「戦車だ!」

838 :硫黄島の人:2015/04/29(水) 03:03:47
後方から10両ほどのシャーマン戦車が、イギーたちの周りに進出してきた。それにつられて援護の砲撃も数を増していく。
味方は戦車を破城槌に見立てて、随伴歩兵と協同して強引にでも突破する策に出たようだ。軟弱な地面に揺られながらも突き進む鉄牛に、勇気付けられた海兵隊員も後に続く。
援護砲撃によって、日本の砲火も弱まっていた。M4自身も砲塔を旋回させて、敵が潜んでいそうな岩陰や稜線に榴弾を打ち込んでいく。
進んだ距離としては200mほどだが、僅かな希望は生まれた。しかし、それは打ち砕かれる。
はるか先に幾つかの光が出来ると、先頭と最後尾を進んでいたM4が吹っ飛んだ。それを合図にするかのように、偽装された機関銃による掃射が辺りを凪ぎ払い、逃げ遅れた兵を正確な狙撃が襲った。
その場所は新たなるキルゾーンのど真ん中であった。

「散開しろ!」

分隊長の命令を待つまでもなくイギーたちは物陰に隠れた。だが、M4達は砲撃を続けながら、前進する。
彼らは歩兵と分断されつつあることに気づけなかった。

「戻って来い!」

イギー達が叫ぶが、狙撃されたことであわてて身を隠した。
半ば暴走的に全身を続けるM4の周りに、数人ずつに分かれて接近する日本兵の姿があった。米兵からの射撃で何人かが倒れるが、50mほどに間合いをつめると彼らは抱え込んでいた武器を肩に担ぎ、狙い、撃った。
ロタ弾と呼ばれる対戦車ロケットによる攻撃だった。M4は半数が撃破され、ようやく孤立していることに気づいたのか後退を始める。
イギー達も必死に、日本兵や掩蔽壕に銃撃を加えるが、遠距離からの砲撃でさらに一両のM4が吹き飛んだ。
その時に、腹に響く爆音が高速で近づいてくる。支援要請を受けて、護衛空母を飛び立ったコルセアが駆けつけてきたのだ。
上空からロケットを撃ちこんでいくと、一際大きい火柱が上がった。うまい具合に誘爆がおきたようだ。
歓声を上げるイギー達だが、「後退」の命令が聞こえると、撤退を開始した。陣地防御に徹する日本側の追撃はない。

のちに「まごう事なき地獄であった」と称される硫黄島の戦いは、まだ一ヶ月以上続くことになる。



あとがき
以上で投稿終わりです。陸戦の描写をすると、これまでの三番煎じにしかなりそうになかったので、アメリカ寄りの視点で書いてみました。
これまでの分も合わせてwiki掲載は大丈夫です、ご意見等ありましたらどんどんお願いいたします。
最終更新:2016年08月10日 09:58