552 :名無しさん:2014/07/18(金) 22:06:38
戦後夢幻会ネタ
ある海兵隊員の思い出
――オキナワの話を聞きたいんだったね
それがインタビュー最初の会話だった
『地獄に一番近い島』
かつてそう称された島での戦いから数十年
生存者も少なくなったあの戦いの記録を残すべく、我々は今回の取材を行なった
――何から話そうかな
そう言ってコーヒー入りのカップを傾けた彼の瞳は、今ではない、ここではない場所を写していた
――そうだなぁ、私の話からにしようか
――当時の私は新米の海兵隊員でね
――恥ずかしながら戦場がどういった場所かよく分かっていない子供だったんだ
彼は苦笑していた
ただ、その顔に込められた感情は複雑で、そして大きいものだった
――訓練を終えた私は第6海兵師団に歩兵として配属になってね
――“ニップなんか全員俺が殺してやるぜ!”なんて息巻いていたんだ
――我ながらあの時の自分の単純さと無知さには恥ずかしくなってしまうよ
恥ずかしさからか、彼は自分の顔を隠しながらそう言った
553 :名無しさん:2014/07/18(金) 22:08:05
――先輩の海兵隊員達に“日本軍は強いぞ”なんて言われても私は信じなくてね
――“だってもうニップの奴等は艦隊もボロボロで、本国のすぐ近くまで攻めこまれちまってるじゃないですか”
――“それにチビで貧乏人のニップなんかに俺達が負けるわけ無いですよ”
――そんな風に言ったかな
――日本軍が強い、なんてのは『どうせよくある先輩が後輩を脅かすための作り話』だと私は考えていたんだ
そう言う彼のコーヒーを飲む顔つきは若干硬い
――あぁ
――まったく
――知らないとは恐ろしい
そう言いつつ天井を見上げた彼には何が見えていたのだろう?
――むしろ私達が皆殺しにされないか心配するべきだったのに
その言葉が、地獄への旅の始まりを告げる、死神の呼び声だった
最終更新:2016年08月13日 20:57