「虚構の老帝国」
――1945年4月1日 大英帝国 首都ロンドン 首相官邸
「ではアトリー君、後は宜しく頼むよ。」
首相を退任することになったハリファックスは後任のアトリーへの引き継ぎを終え談笑していた。
「ええ、経済も好調ですしね。日本から収奪・・・譲渡された技術が役に立っていますよ。」
彼らの言葉の通り、現在の英国経済は順調に伸びていた。
ドイツとの屈辱的講和後、
アメリカの要求により日本を連合国より追放。
その後、日本の対米宣戦後に支援を条件に連合国は日本へ宣戦布告した。
一時は日本軍の大攻勢でインドも危うくなったがアメリカの無差別生物化学兵器使用により逆転。
日本を降伏に追い込むことに成功したのだった。
「賠償の一環として譲渡された艦も将兵には自国製より評判が良いですからな。」
アトリーは自国海軍で使用中の日本製軍艦に言及した。
英国が賠償として手に入れた主な艦は
- 戦艦 陸奥(英国名:ジェリコー) ・富士型超巡洋艦 艦名不明(英国名:ドレーク)
- 航空工作艦 龍驤(英国名:スエズ) ・他
である。
狙っていた大和級(未完成)や大鳳級はアメリカから認められなかった。
他にも英連邦諸国や亡命政府用に多数の艦(軽艦艇中心)を接収していた。
「ですが懸念事項もありますな。」
「まあ恨みを買うのは分かっていたがな。」
彼らの言葉通り英国(英連邦・旧連合国含む)は日本人から凄まじい恨みを買っていた。
欧州線の支援にも関わらずアメリカの要求で連合国より追放し更に宣戦布告。
戦争中は毒ガス攻撃に加担したうえ、無制限潜水艦作戦により多数の民間船も撃沈。
更には豪州や南アなど白人至上主義者が多数を占める部隊による捕虜・民間人の虐殺。
おまけに戦後の多大な賠償要求や戦勝国裁判において先の欧州大戦時に自国の救援に関わった
者を含め多数の軍人や政治家を戦犯として告発。
これらのことから日本人からは常に殺意や憎しみに満ちた目で見られ、GHQ派遣スタッフ(主に民政担当)や
駐留軍兵士からは軍紀違反者のみならず精神疾患で本国に送り返される者も多く出ていた。
「でも仕方ない事でしょう。全ては我が国の発展の為。」
「そうだな。まあ、彼らが国を復興し我らに忠実になれば再び連合国に迎えることも検討してやるか。」
2人の会話からは罪悪感は感じられなかった。いかなる手段を用いても自国を発展させる。
そのことしか彼らの頭の中には無かった。
- やがてその傲慢な考えが自国を衰退に導くとも知らずに・・・
最終更新:2012年02月12日 07:48