217 :ひゅうが:2015/11/13(金) 00:16:08

戦後夢幻会ネタSS――「特別飛行指令」



――――西暦1945(昭和20)年5月7日 館山基地を一群の大編隊が飛び立った。
その機数、実に29機。
先頭に2機の二式大艇を有するこの大編隊の行動に、ハワイの暗号解読斑は戦慄する。

「もしや、これはテニアン飛行場に向けた強襲攻撃か?」

暗号解読斑のロシュフォード大佐からの報告に、太平洋上のアメリカ軍は警戒状態に入った。
すでにスイスやスウェーデンで降伏を前提とした交渉が開始されていたことは知られていたが、それ以上に日本本土においてクーデターと思われる動きが発生していたことも同時に情報部は把握していたのだ。
彼らは、編隊の進行方向と思われるマリアナ諸島北方に哨戒線を張ったものの・・・
何もとらえることはできなかった。
だが、ウェーク島方面へ強襲偵察を行っていたF-12「レインボー」は奇妙な着陸機を確認していた。
ここから多数の旧式陸上攻撃機が北へ向かったか、その後帰還したことを彼らはとらえたのだ。
いぶかしがるハワイ司令部。
しかし、前線勤務から基地司令に転じていたチャールズ・リンドバーグ少将が述べた一言から合衆国は戦慄する。

「空中給油か?!」

珍しい発想ではない。
1923年には他ならぬアメリカ陸軍航空隊の手で実験が行われている。
もちろん敵国たる日本人達も、1931年にはこれに成功していた。

「もしや、これは第三次ハワイ奇襲攻撃か!」

日本人達がミッドウェー海戦直前に行った飛行艇によるハワイ奇襲攻撃。
これの再現を彼らは狙っているのではないか。
文字通りの奇襲として。
そうはいかない。
ハワイの基地航空隊は北方に哨戒線を張り、襲来を待ち構える。
だが、何者も現れることはなかった。

「もしや・・・」

米軍は戦慄する。
彼らはさらに先に進もうというのではないか?
まさか。いや、あり得る。

「狙いはアラスカ、ないしは西海岸だ!」

直ちに警報が発せられ、西海岸から大慌てで防空戦闘機隊が飛び立っていく。
しかし、そこでも何もない。
そんなとき、思いもしないところから報告が入った。
相手はメキシコ海軍。
ババ・カリフォルニア半島のはるか沖合に浮かぶレビジャヒヘド諸島の西端、「クラリオン島」沖合で操業中の漁船が日本潜水艦を目撃していたのだ。
艦番号は伊366および伊368
これは明らかに輸送用潜水艦である。

「まさか・・・狙いはパナマ運河か!」

先のウルシー環礁攻撃に代表されるように、日本海軍は潜水艦を用いた奇襲攻撃を得意としていた。
そして、ババ・カリフォルニアの南西800キロにおいて日本海軍が展開していたとなれば、その先にはパナマがある。
唐突に発せられた警報に混乱するパナマ防空隊やカリブ海艦隊航空隊は大慌てでパナマへ集結を開始した。
だが。来ない。

しかし――

219 :ひゅうが:2015/11/13(金) 00:16:49
数時間後、キューバのグアンタナモ基地のレーダーは国籍不明の大型機を探知した。
そして、無線通信が入る。

「こちらは、帝国海軍特別飛行隊。われに敵意なし。本機は貴基地の指揮下に入ることを欲する。なお、本機とは別に特別飛行を実施せる機体あり。これについての情報提供の用意あり。」



そして、同時刻、すなわち日本時間5月11日午後0時。

「朕深く世界の大勢と帝国の現状に鑑み、忠良なる爾臣民に告ぐ。
朕は、帝国政府をして米国の発したるその共同宣言を受諾せる旨通告せしめたり。」

同時刻、アメリカ合衆国東海岸の防空隊はレーダーに大型機を探知する。
だが、欧州における戦争はすでにベルリン近辺にまで移行して久しく、さらには民間航空機と運悪く併走したことから探知は遅れる。

「本機に武装なし。また敵意なし。速やかに貴軍航空隊の指揮下に入ることを求める。」

民間機を通じてこの提案が裏付けられるのを待たず、陸軍航空隊によるエスコートを得て機体はマンハッタン島へ針路をとった。
その側面には、緑十字が描かれていた。



――結局、この緑十字飛行最初の1機は一部を除いてアメリカ国民の記憶に残ることはなかった。
ニューヨーク8番街からタイムズスクウェアにかけて大量のビラをまき散らした二式大艇は、あっけにとられる沿岸警備隊の見守る中ハドソン川に着水。
押っ取り刀でかけつけてきた警察官に対し、漆塗りの箱を手渡した。
その上には金箔の菊の御紋がおされていた。

彼らが運んでいたのは、敵国の国家元首がアメリカ合衆国大統領にあてた親書、そして彼らが言う「玉音放送」の原盤だったのだ。

日本本土を発し、空中給油を繰り返しながらハワイはるか北方から大圏航路を通りクラリオン島へ。
そこで給油を済ませると、燃料切れの機体の搭乗員を潜水艦に移乗させ、未だ参戦していないメキシコ上空を突っ切り、メキシコ湾上空で最後の給油を実施。
最後の1機をもってニューヨークへ。
総飛行距離は2万キロに達する。

もしも終戦が軍事クーデターにより阻止されるという事態が発生したときのための、それは保険だった。


大日本帝国が条件付き降伏を受諾し、後世「真珠湾の裏切り」と称されるレッドセルの浸透がアメリカのジャーナリズムにより白日の下にさらされていなければ、この「情報爆弾」は威力を発揮しようがなかったのだ。

221 :ひゅうが:2015/11/13(金) 00:19:31
【あとがき】――というわけで、一本。
内容としては、史実のブラックバック作戦とK作戦の発展系です。
ご笑納下されば幸いです。

223 :名無しさん:2015/11/13(金) 00:24:12
そういやこっちだと、米国内でのレッドセルは白日にさらされてたんだったな。

225 :ひゅうが:2015/11/13(金) 00:34:08 >>223
某FBI長官と個人的なつながりのあることがありますからね。
開戦前後に熾烈な情報戦がありましたが、そのときのルートが生きた形です。

226 :名無しさん:2015/11/13(金) 00:37:50
フーヴァーの事かな?

227 :ひゅうが:2015/11/13(金) 00:39:34
ですね。

228 :名無しさん:2015/11/13(金) 00:41:43
フーバーって、マジモンの妖怪だったんじゃないかと思うw
もしくは、憂鬱の辻さんやら戦後世界の下村さんの生まれ変わり。

229 : テツ:2015/11/13(金) 00:47:10
ひゅうがさん乙です

最後の最後まで米軍の肝を冷やさせた帝国陸海軍
戦争が終って何十年か経ったら、ハリウッドで映画化されてそう
勇敢な男の物語はヤンキーの好きな題材の一つですし

米沿岸警備隊老士官「ジャp・・・ジャパニーズのパイロットのハドソン川への着水、21世紀になって今でもあの時以上の素晴らしい飛行艇の操縦は見たことが無い」

232 :ひゅうが:2015/11/13(金) 00:56:04 >>229
なんでわざわざ東海岸へ?
といわれるかもしれませんが、万が一にも米側による情報封鎖を受けないようにする目的と、一にも二にも心理的効果を狙ったことが理由として挙げられます。
また、定期航空路が就航しておりそれに伴う防空網の間隙を突ける目算があること、そして西海岸においてはロサンゼルスの戦いに代表されるような防空網がすでに完備されてしまったことが大回りの理由となりました。
だからメキシコを突っ切るなんて無茶をしているのですね。

まぁ、撒いたビラの内容が「そんなこと知ってる(新聞でいっていたし)」内容であったこと、そして日の丸でなく緑十字を描いていたことから「どこかの宣伝だろう」と思われてしまったことも忘れられた理由となります。
「え?あれ、ジャップの休戦使節? 無茶するなぁ」というくらいで忘れられてしまったのですね。

仰る通り、21世紀に入った頃に映画化されるかもしれませんねw
彼らの任務がある意味無駄に終わったのは喜ぶべきところでしょう。

237 :名無しさん:2015/11/13(金) 01:11:16
乙です。紺碧4巻のエピを思い出しました。

239 :ひゅうが:2015/11/13(金) 01:35:49 >>237
あんな無茶はできませんからねぇ…それに超大艇ありませんしw
この「緑十字飛行」、所定のものだったということになって戦後史では小さく扱われることになるのですが、内実がこんなだったと一般に知られるのは冷戦終結後になります。

「緑十字飛行、ニューヨークまで行っていたのか。へぇー。」でそれまでは終わりですね。

実は軍事作戦によって航空機がニューヨーク上空に進入するという前代未聞の事態でしたので実情は箝口令が敷かれたことになります。
なにせ、当の飛行参加部隊ですらも米国側に話が通っていたとばかり思っていましたから。

240 : テツ:2015/11/13(金) 01:37:17
日本のパイロット達にもホウレンソウ徹底してなかったんかいw

241 :ひゅうが:2015/11/13(金) 01:39:07
なお、実際に行われた「ブラックバック作戦」については下記参照。
頭おかしい。

ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E4%BD%9C%E6%88%A6
ttps://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/97/Refuelling.plan.black.buck.svg

242 :ひゅうが:2015/11/13(金) 01:41:45 >>240
いえいえ、成功したので

「あ、これもともと米軍と話を通しておいたのか」

と彼らが思っただけです。
まさか、直前になるまで米軍も知らなかった(情報爆弾のため)なんて思わなかったのですね。
一方の米軍も、自分からわざわざ言うようなことでもないですし、終戦のどさくさにまぎれてうやむやに。

243 : テツ:2015/11/13(金) 02:04:41
知らぬが仏っすな

460 :ひゅうが:2015/11/14(土) 20:58:50 >>217
において「硫黄島方面へ」と書いていた表記を、「ウェーク島方面へ」に修正します。
航続距離的にもこちらが自然ですし、何より地上戦展開中のところへ降りる必要はないw

修正
最終更新:2016年08月20日 13:01