396 :百年戦争:2016/09/18(日) 16:00:33
西暦1905年
大日本帝国海軍所属の巡洋艦和泉にある治療室で一人の青年が目を覚ました。

「……ここは」

体のあちこちに痛みを感じつつ状況を認識しようとベッドの上で起き上がった青年に、白衣を着た男が声をかける。

「目を覚ましたか?」

「!?」

青年は自分の寝ていたベットの横に立っていた年配の男の顔を見て愕然とする。

「大丈夫かね? 落ち着きたまえ」

白衣の男は心配そうな表情を浮かべながら青年の顔を覗き込み、青年が置かれた状況を説明する。

「ここは巡洋艦和泉の治療室だ。そして君は敵艦の砲撃を受けた時に負傷して運ばれてきたのだ。覚えてないのか?」

「そん、な……」

彼は必死に自分の記憶を手繰り寄せ――
そして『三つ』の記憶があることを知り、唖然として凍りつく。

「まあ気にすることはない。君はゆっくり養生すればいい」

一つは神崎博之としての記憶。
もう一つは帝国宰相・嶋田繁太郎としての記憶。
そして――

優しく肩を叩いて青年を再びベッドに寝かせながら、男は誇らしげにこう言った。

「何しろ第三次ハワイ沖海戦も、我が軍の大勝利で終ったのだからな」

「……第四次太平洋戦争って一体なんだぁ!?」

しばらくして響いた青年――嶋田繁太郎の絶叫を聞いて船医は小さく溜息を吐き、手元のカルテに『錯乱有。頭部打撲の可能性高し。要経過観察』と書き加えた。



夢幻会の憂鬱

397 :百年戦争:2016/09/18(日) 16:01:53
1585年
応仁の乱より百年以上続いた日本国内の戦乱はついに『織田信長』による北条討伐完了と、日の本惣無事令発布をもって終焉する。
史実とは違う戦国時代の終わりに、信長の弟である織田信行(中の人の勘違い知識で信勝を名乗らなかった)を筆頭とする転生者集団・夢幻会は不安を抱えながらも安堵し――すぐさま自分達が大きく変えてしまった歴史の流れに頭を悩ませる事になる。


1586年。長崎におけるポルトガルの日本人奴隷売買が発覚し信長が激怒。
奴隷貿易に関わった大友島津の領土を削減すると共に南蛮征伐が発令されるも、西欧との全面戦争を回避したい夢幻会必死の根回しにより、琉球台湾への侵攻に留められる。

日本が対外進出を始めたと認識されてスペインとの関係が悪化し、当時スペインと戦っていたオランダやイギリスに注目され始めた。
しかし倭寇と呼ばれる明人海賊討伐の過程でスペインと戦闘が勃発。
琉球台湾の駐留兵と増援部隊をもってフィリピンに侵攻、1590年にはイギリスとの戦いで無敵艦隊を喪失していたスペインと講和。
フィリピン全域は日本へと割譲・呂宋へと改名。スペインにはマニラの有償使用権が与えられた。

1595年に倭寇の討伐を明国に要請するが無視される。
怒る信長を宥める為に明征伐の下準備として李氏朝鮮沿岸を攻撃。
済州島を占領し、女真族との交易を開始。

1600年。首都機能分散による国内発展と安定を目的とした夢幻会(少しでも史実に近付けて歴史知識を生かしたかった)により、織田信忠が征夷大将軍に就任。江戸に織田幕府が開かれる。
同年織田信長死去。
苛烈な個性の主君が消えた事に夢幻会は密かに安堵するが、すでに対外進出を始めている日本の動きは最早止めようがなくなっていた。

1615年。一向に減らない明人倭寇に対する報復として明征伐が決定。
大陸への深入りを避ける為に、夢幻会は日本との交易で史実より早く女真族を統一したヌルハチの後金と連携する事を提案。
後金と明との戦いを海上から支援していく方針を打ち出し、そのテストケースとして李氏朝鮮攻撃が開始される。
最終的に日本の行動は海南島の占領、大陸沿岸部への略奪的攻撃に留められる。
これにより後金は李氏朝鮮を完全に服属させ、日本の洋上支援を得て明相手に優位な戦いを進めていく。
以降日本は大陸へと大がかりに進出する事はなく、蝦夷=北海道と東南アジアへの移民と同化政策による緩やかな進出を行っていく。

1653年。英蘭戦争が勃発すると日本にイギリスが接近。
東南アジアのオランダ植民地への攻撃が依頼される。
イギリスの目的は植民地への攻撃によるオランダの衰弱だったのだが、すでに開き直った夢幻会は日本の東南アジア制覇の機会として利用する事を決定。
英蘭戦争で戦力を増やせないオランダ植民地を全力で占領し、マラッカ海峡を越えてアンダマン諸島へと進出していく。
オランダから香辛料利権を奪い取る事を視野に入れていたイギリスが気付いた時には、すでに日本から香辛料を購入するしかない立場へと立たされていた。

当然ながら日本によるこの行動はさらなる歴史の変更を世界に強要する事になる。

398 :百年戦争:2016/09/18(日) 16:03:22
1678年。ナイメーヘンの和約によりオランダはフランスへと併合される。
日本によるオランダ植民地への侵攻は、フランスによる1672年から始まったオランダ侵略戦争を戦い抜ける体力をオランダから奪い取っていたのだ。

慌ててセイロン島を占領したイギリスが引き攣った顔でオランダ消滅を告げた時、アンダマンで出迎えた夢幻会の人間は内心で頭を抱える事しかできなかった。

1680年。日本とイギリスの間で日英協約が結ばれる。
アンダマン諸島より東の東南アジアの日本独占の容認と日本による新大陸への進出禁止。

関税自主権の相互承認、阿片等の輸出禁止。


どちらかと言えばイギリス優位な内容であったし、いっそアメリカも誕生前に潰してしまえ、という夢幻会内部の声もあったのだが、急速な勢力圏の拡大と東南アジアの現地勢力との対抗、単純な植民地化ではない東南アジアの領土化の為に落ち着きが欲しい日本にも利点はあると考えられた。
何より当時の対英貿易は香辛料を始めとするアジア物産による日本の輸出過剰であり、この上で新大陸への進出権まで要求すると阿片や天然痘付毛布がイギリスから輸出されかねなかった。

しかしながら落ち着いて国内開発を、という夢幻会の贅沢な願いは結局自分達の行いのせいで叶えられる事は無かった。

1688年の大同盟戦争に始まる第二次百年戦争に日本も巻き込まれていったからだ。
フランスに対抗する為にイギリスは日本によるフランスのインド植民地攻撃とインド洋警備を要請する。
日本としては見返りの少ない事は丁重にお断りしたかったのだが、イギリスが泣きそうな顔で金を積み上げて日本人傭兵を大量に雇い始めると本腰を入れてイギリスを支援せざるを得なくなる。
史実では敵であったオランダを自国へと飲み込んだフランスの国力は、それほどまでに危険だったのだ。

結局日本は1815年のウィーン会議までイギリスを支援しながら東南アジア・東太平洋へと進出。
イギリスの粘り勝ちでオーストラリアとニュージーランドは譲る事になるも、アンダマン諸島からハワイ・フィジーへと至る領域を確保する事に成功する。

オーストラリア・ニュージーランドでの譲歩と引き換えにアラスカ・シベリアへも進出し、ロシアとの対立が目立ち始めた1845年。
イギリス領カナダとの中継地として発展を続ける日本領ハワイ諸島にアメリカ艦隊が来寇する。

コロンバス号とビンセンス号の二隻からなるアメリカ艦隊は、入港を制止する現地役人の指示を無視して真珠湾に入り込み公然と投錨して測量を開始する。
慌てて乗り込んできた日本のハワイ奉行所に対して大統領親書を手交する為に日本本国まで案内するよう要求するにいたり、現地日本人達は激怒した。

同時に行われたアメリカ人の上陸要請を断固として拒否し、砲門を向けられたホノルルから市民の避難を行うと共にハワイ全域で戦闘準備を開始。沿岸警備用のスループ艦隊を真珠湾に呼び寄せる。
緊急連絡用に配備されていた日本のスクリュー式汽帆船が日本本国へ出港しようするのを、アメリカ艦隊が攻撃されると誤認して砲撃。日米両艦隊は戦闘状態に突入した。

この戦闘自体は数と練度に勝る日本側の圧倒的勝利で終結するも、しかしそれ故に事後処理は完全に捻じれていく。

イギリスが主催した調停の場でアメリカは日本から一方的に攻撃されたと主張し、日本はアメリカの外交常識を無視した振る舞いを非難する。
そして日本をイギリスがインドに保有する準保護国程度の存在に過ぎないと認識していたアメリカは、有色人種が欧米並みの外交待遇を求めるのは分不相応だと反発。
艦隊攻撃に対する賠償金の支払いと日本全域の門戸開放を要求する。
この態度に日本はアメリカとの交渉を打ち切ると、即座に宣戦を布告した。

日米による太平洋百年戦争の勃発である。

399 :百年戦争:2016/09/18(日) 16:05:47
今回は取りあえずここまで
続きが出来たらまた投下します
転載・続編何でもOKでち

405 :百年戦争:2016/09/18(日) 16:21:13 イギリス「日米を争わせて漁夫の利でウハウハ……」
ドイツ@未統一「ダメぇ!まだ統一してないのぉ!」
フランス(+オランダ)「ヨロシクニキー!」
イギリス「……そんな風に考えていた時期が私にもありました」

というのを考えてます

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最終更新:2016年09月21日 10:57