645 :百年戦争:2016/09/20(火) 00:00:27
ハワイ・ホノルル海軍病院に収容された嶋田繁太郎は、自分が放り込まれた世界の現実に頭を抱えていた。
「いったいこの世界はどうなっているんだ」
1905年
第四次太平洋戦争。
何がどうしてこうなったのかさっぱり分からない混沌に、嶋田はひたすらに混乱するしかなかった。
そうして海軍病院の病室で唸り続ける嶋田に、主治医が『これはダメかも分からんね』と同僚に話し、海軍省に嶋田の退役を勧める書類を準備し始めた頃、一人の男がやってくる。
「……調子はどうだ、嶋ハン」
「ああ、だいぶ良いよ……高野」
「高野、か――俺が本当に高野だと思うか?」
見舞いに来てくれた同期生の言葉に嶋田は身体を強張らせ、続く言葉に驚愕する。
「この『山本五十六』と一緒に博打を打たないか『嶋田繁太郎宰相閣下』?」
1845年に日米間で戦争が勃発すると、当事者である
アメリカは困惑する。
そもそもアメリカ艦隊がハワイへとやってきたのは捕鯨船の補給地の確保と、イギリスの寡占状態(他にスペインとポルトガル。フランスは百年戦争の結果完全に
アジアから追い出されていた)にあるアジア市場への進出が目的であり、日本に戦争を吹っ掛けるつもりなどは全くなかったのだ。
それなのにアメリカが日本に強硬な姿勢を取ったのは対日貿易がイギリスの独占に近い状態であり、さらにイギリス自身が日本の情報を欧州に広げようとしなかったために、アメリカが日本の事をまるで知らなかったからに過ぎない。
第二次百年戦争の間中イギリスが雇った日本人傭兵と日本自身に酷い目に遭わされ続け、インドの植民地を根こそぎにされたフランスは日本の事を他の欧州諸国より詳しく知っていたが、聞かれてもいない事をフランスがアメリカに教えてやる義理は無かった。
何より日本自身が特に積極的に欧州と交流を持とうとしていなかった事(オランダもフランスもイギリスの支援で植民地を一方的に攻撃されただけ)がアメリカの日本知らずに拍車をかけた。
草原の代わりに海を行きかうインディアン。軽く戦列艦の大砲で脅せは七面鳥を持って降伏してくる。
その程度にしか日本の事を考えていなかったアメリカは、まさか日本から宣戦布告されるなどとは夢にも思っていなかった。
そんなアメリカの無知は非情な現実となってアメリカの予測を大いに裏切る事になる。
太平洋に進出し始めていたアメリカ船舶は、日米開戦と同時に旭日旗を掲げた日本艦船によって次々と拿捕撃沈されていき、逆にアメリカが太平洋へと送り込んだ艦船は夢幻会の開き直りから150年以上海原を駆けまわっていた幕府海軍に全く対抗する事が出来なかった。
青筋を浮かべたイギリスがカナダ国境に兵力を配置しながらホワイトハウスに怒鳴り込んできて、アメリカはようやく事態の深刻さを理解する。
『もう一度だけ聞くが、大人しく日本に謝るつもりはないのか?』
最後通牒その物でしかない質問に、日本はイギリスの抱える原住民の部族国家とはまるで違う存在であるのだと思い知らされたアメリカは慌てて和平交渉の仲介を依頼。
これをアメリカ船舶を見つけるのが困難になり西海岸への上陸を計画していた日本がしぶしぶながら了承し、1847年に第一次太平洋戦争はひどく呆気なく終結をみる。
647 :百年戦争:2016/09/20(火) 00:01:58
アメリカは『和平仲介』の代償としてイギリスと係争中であったオレゴン・カントリーの南半分を購入させられることになり、有色人種に謝罪させられたアメリカは屈辱に震えながら軍事力増強を始め、これを七月革命で共和制になったフランスが支援。
1848年。腹いせのように米墨戦争へと突き進んでいった。
もう一方の当事者である日本の織田幕府は敵軍を撃破して謝罪を引き出させた事に一応の満足をしていたが、さすがに老朽化し始めていた国家制度に頭を悩ませていた。
成立から200年以上が経過した幕藩体制は途中で東南アジアさえ飲み込み、夢幻会が悲鳴を上げながら改正と更新を繰り返して一応は安定していたが、天皇家と将軍家の二重権威で治める世襲制軍事政権という物が時代に合わなくなって来ているのは明らかだった。
アジア太平洋を統治する多民族多宗教国家(しかも産業革命済み)で幕末祭りなど想像したくもない夢幻会は、ほとんど泣きながら明治維新の下準備を開始。
物理的精神的な死者を多数出しながら国内改革に勤しんでいく。
そして長い付き合いで日本のこの動きを察知したイギリスはジョンブルの本領を発揮し、日本を混乱させてそのアジア利権を浸食しようと――出来なかった。
イギリスが日本をけしかけて発生したオランダの消滅が、欧州大陸の力関係を大きくフランス優位に傾けていたからだ。
フランスは1678年にオランダを飲み込む事に成功すると、イギリスと日本によって壊滅させられたオランダの海運力ではなく、アムステルダムに蓄積された金融資本の力を駆使して欧州大陸全土に影響を及ぼし始めた。
未だ統一されていないドイツ・イタリア、民族資本の未発達なロシア・トルコに資本を貸し付けて影響力を確保し、欧州からイギリスを排除しようと画策。
各国への影響を強めすぎた結果ナポレオン戦争で欧州諸国の反発を受けて敗北するも金融資本を足場に影響力は保持しており、ドイツ・イタリアの過半を飲み込んで現代のローマ帝国になりかねない可能性を十分に秘めていた。
イギリスはこのフランスに対抗する為に植民地としてしか扱っていなかったアイルランド政策を変更し(アメリカに人材を流したくない夢幻会からの入れ知恵もあった)、1845年に発生したジャガイモ飢饉を全力で救済することまでやっていた。
それなのにここで日本を混乱させ、まかり間違ってフランス側に走られたら大英帝国は消滅する。
日本が体制改革に失敗した所にフランスが介入してアジア利権を奪われるだけでも致命傷になるだろう。
自分の想像に恐怖したイギリスは日本が首を傾げるほど日本の国内改革に協力的になっていく。
648 :百年戦争:2016/09/20(火) 00:02:32
1850年。米墨戦争が終結。
アメリカは太平洋側への出口を完全に確保するとカルフォルニアのゴールドラッシュとフランス資本を利用し、不要になったメキシコ湾艦隊を転用する事で日本に壊滅させられた太平洋側海軍力の拡大を開始。
これを日本への侵略準備と認識した織田幕府はアメリカに対抗する戦力の整備を始めるが、日米が明確に対立するよりも早くアメリカ国内での対立が深刻化する。
奴隷制を巡る対立、南北の産業構造の差異、そして対外進出の是非。
素朴であるが故に差別的な南部住民は、膨大な資金を投じてアジア市場に進出しようとする北部住民に異議を唱え始めたのだ。
史実とは異なる様相を見せ始めた
南北戦争の予兆を知った織田幕府が、南北対立をアメリカ弱体化に利用する事を決定。
明治維新に向けて全力を挙げる夢幻会が慌てて阻止に動くが、その努力も空しく奴隷制の南部に肩入れしている有色人国家・日本という混沌を産み出してしまう。
1861年。南北戦争が発生すると日本はアメリカ連合国を承認。
激怒した合衆国からの宣戦布告を受けて第二次太平洋戦争が勃発する。
ハワイへと侵攻してきた合衆国太平洋艦隊との第二次ハワイ沖海戦に勝利すると西海岸上陸作戦を実施。
人口の希薄なカルフォルニア全土を占領すると、南軍と共同してアリゾナ・ニューメキシコを連合国側に引き入れる事に成功させる。
人種差別による様々な軋轢を南軍との間に積み上げつつも北米大陸へと派兵。北部に人口で劣る南軍の貴重な戦力として合衆国と戦い続けた。
幕府軍がビックスバーグとゲティスバーグの勝利に貢献する事で南北の戦線維持に成功すると、1864年大統領選挙で主戦派のリンカーンが落選して和平派のマクレランが当選。1865年に南北停戦と日本との講和が合意される。
産業開発と保護貿易の北部合衆国にフランス資本が進出し、資源輸出と自由貿易を行う南部連合国と日本イギリスが貿易する事で北米は大西洋から太平洋にいたるラインで分断されてしまう事になった。
この事態に夢幻会は頭を抱えつつ日本の国内改革の総仕上げを実行。
1867年に大政奉還を実現させ、明治維新を達成する。
10年以上の下準備が可能であった為に広大な領域で混乱がほとんど発生しなかったことが、夢幻会唯一の慰めであった。
しかしながらこの南北戦争の結果は北部合衆国の日本への恨みを更に蓄積させる事になり、第三次太平洋戦争への火種へと繋がっていくことになる。
650 :百年戦争:2016/09/20(火) 00:05:03
投下は以上でした
wiki転載などOKです
どうしても文章じゃなく年表風になってしまう
最終更新:2016年09月21日 11:00