641 :名無しさん:2015/01/28(水) 23:32:22
1945年  6月15日  アメリカ合衆国ホワイトハウス

第二次世界大戦にて参戦から二年で独伊両国を英ソとともに屈服させ、アメリカ国民から『アメリカの正義を体現した大統領』と絶大な支持を受けている男、フランクリン・ルーズヴェルトはどこか不機嫌そうな表情で、去年のエイプリールフールに極東に突如現れた国家に向かっていた外交官を自分の執務室に迎えていた。
「…それで、ニホン国からの返答は?」
外交官には分かっていた。大統領が何故不機嫌で有るのかを。そして外交官は自分の運命を呪っていた。あの交渉とは到底言えない要求を突き付けに生かされた挙句、恐らく自分のキャリアが…目の前の大統領ではなく、身内や国民の手によって…潰える事になるであろう報告をする羽目になった事を…
 「…。『我が国は連合国からの属国化要求を受け入れる事は出来ない』…要約すると、この様な回答となりました。」
そうか。下がって良い。…その一言だけ外交官に告げ、執務室から退室させた後、ルーズヴェルトは車椅子を動かして窓際から外を眺め始めた。空は快晴。透き通るように綺麗な青空が視界に広がっていたが、ルーズヴェルトの心の天気は土砂降り真っ盛りであった。
 「…戦争は終わったばかりだというのに、あの業突張り共はまだ血を流したいのか」
そう呟くと溜息をつく。とは言え、大統領の全権限を用いても、もはや戦争に突き進むこの流れは如何する事も出来そうに無かった。何故なら…


 ソビエト連邦共和国 クレムリン
 ドイツ軍の攻勢をポーランド領内に留め、尚且つその後の反撃からの逆侵攻において米軍とタッチの差でベルリンを陥落させる事に成功し、同志達から『鉄の男』と呼ばれる共産党書記長は、アメリカからの電文を読んでからずっと上機嫌であった。
 「アメリカの同志達は良くやってくれた。これであの島国…と言うには領土が大きいが、あの国の海軍の脅威は大きく減じる事になるだろう。革命の大きな助けとなる筈だ。…赤軍や海軍、空軍もすぐに動けるな?」
最後にソ連軍の将校たちに向かって放たれた一言に対して、それぞれしっかりと頷き返す。
昨日や一昨日に指示されたのならともかく、半年以上も準備期間が有ったのだ。これほど時間の猶予を与えられて準備出来ていなかったら粛清されても文句は言えるはずがない。唯一の懸念は、未だにニホンに対して…様々な形で優秀な人材が懸命に宣伝工作等をしたにも関わらず…自国の思想に共鳴する『同志』と呼べる様な人間が一人も居らず、これまで他国に対して行えていた諜報や世論操作が全く出来ないと言う点だが、各軍将校はそこまで不安視しては居なかった。
 「昨年度就役しましたソビエツキー・ソユーズ級戦艦の乗員の連度も中々のものとなりました。
戦前、戦中に就役したモスクワ級戦艦と合わせて戦えば、問題無く任務を遂行出来るでしょう」
「パイロットの訓練の成果も上々です。新型機の配備、生産、開発も順調であります。」
「我ら赤軍の士気も最高潮です。新型戦車等新兵器を多数配備されたこともあり、以前よりも格段の戦闘力を発揮できると確信できております。」
…このように、全軍に新兵器を配備されていた為である。無論それだけが理由では無い。米英(あと仏蘭等オマケ各国)もニホンとの戦争に参戦する事が確実で有る事、第二次世界大戦で戦争強国と言われた独伊との戦争に勝利し、又その戦争で多数の熟練兵や戦訓を獲得していた事もこの各軍の自信の源であった。そもそもの話、ソ連人である以上、この男の命令には逆らいようがない。


「吉報をお待ちください。同志トロツキー。」

642 :名無しさん:2015/01/28(水) 23:33:13   …この会話より遡ること一年と少し前の話…

 大陸日本歴 1940年4月10日

東京都霞ヶ浦 某会議室 夢幻会会合
 「…現状で把握出来た情報は以上です。」
沈痛な表情で情報収集に当っていた夢幻会員の報告が終わるも、会議室は静まり返っていた。
司会役的存在の嶋田も、あの辻ですらも無言のままであった。
 「…いやはや、なんとも、とんでもない事態になってしまいましたね…」
口火を切ったのは、やはり我らが嶋田さん。憂鬱世界、戦後日本と二度の転生で色々と経験を積まされた結果夢幻会メンバーの中でも異常事態への即応能力はトップクラスである。
 「…そうですね。起こって仕舞った以上嘆いていても仕方がありません。とりあえずこの世界の情報を元に対応策を協議しましょう。こうなった以上一秒たりとも無駄にする訳にはいきません。」
嶋田さんの次に再起動したのは辻。嶋田さんほどではないが精神力の強さは相変わらずな様子である。
静まり返っていた会議室が嶋田さんと辻の一言で動きだし、それぞれ今までにかき集めた情報を元に行動を開始し始めていた。

外務省は各国との国交、外交チャンネルの開設、軍は(海上保安庁等と共同での)他国への警戒配備の準備並びに海中の測量調査、農林水産省は土壌や漁場、気候等の変化による農作物への被害の調査などなど…やらなければならない事は全省庁に例外なく文字道理山ほど積みあがっており、数人の夢幻会員が『最低ひと月は家に帰れそうにないな…』と悟った表情でつぶやいていた。

「どんな状況なんだろうなこの世界は…」
「さあな。だが異世界転移となれば基本的に犬耳猫耳キツネ耳な獣娘のいるファンタジー世界だというのが定石…」
「情報見る限りこの世界は史実と似た世界のようだ。F世界の可能性は欠片もないぞ。いい加減諦めろ。…無言で血涙流すな、鬱陶しい」
…等とそれぞれ雑談しながら会議室から自分の職場に向かって行く会員たちに混じって嶋田さんたちも動き出していた。だが何時もならニッチな雑談に混じりそうな辻や近衛は、雑談に一切参加せず無言で嶋田さんや東條さんと共に足早に歩き続けていた。
…何故なら、雑談する暇が惜しいというのもあったが、報告を受け取ってから全く止まる気配の無い…背筋に氷水を入れられた様な…不気味な嫌な予感を早く吹き払いたいと思っていたからだった。

643 :641,642:2015/01/28(水) 23:35:59
ハイ御免なさい短いですけど書き込み終わりです!

…皆さんの反応が怖すぎる…不快な部分が有りましたらスミマセン…

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年10月10日 16:50