104 :earth:2012/01/03(火) 14:29:16
メキシコ人にとって最悪の状況が頭に浮かんだので……。
本編がこうなるとは限りません。まぁ分岐世界の一つということで。


 『メキシコ人の受難』

 メキシコ合衆国と呼ばれた国は、日本、イギリス、ドイツなどの列強国による共同統治下にあった。
 アメリカ風邪の拡散を防ぐために各国が協調していたにも関わらず、メキシコは自国本位の行動を取った挙句、日本帝国と欧州連合軍の
制裁を受け滅んだのだ。そして世界の敵、人類文明の敵というレッテルを貼られメキシコは各国による分割統治を受けることになった。
メキシコ人はかつての暴走の対価として今日も地獄の中に居た。

「それは家にとって貴重な……」

 一人の老人が家宝を守ろうと必死に縋りつくが、家宅捜索という名目で家に押し入った白人の将校は容赦しなかった。

「黙れ! おい、お前ら、ここの物を根こそぎ持っていけ!! 抵抗組織に関する情報があるかも知れん」

 男は部下にそう命令した。
 その命令を受けた男達は一切反論することなく、無遠慮に老人宅を踏み荒らし金目のものを持ち出していく。

「ま、待ってください、お願いします。そればかりは…」
「お前達は『世界の敵』なんだぞ。それなのに命だけは助けてやるんだ。感謝して欲しいものだな」

 男は冷酷な笑みを浮かべてそう突き放した。尻餅をつく老人。これを見て一人の少女が駆け寄る。

「お、お爺ちゃん!」

 しかしこれを見た男はニヤリと笑う。

「あれはお前の孫娘か?」

 男達に取り囲まれる孫を見て老人は慌てて駆け寄る。

「お、お待ちください、そればかりは」 

 メキシコからはあらゆる物が収奪された。
 資源、文化財は勿論、若い人間でさえ奴隷として外国に連れ出された。連れ去られたら二度と会うことは出来ないと言われている。
 故に老人は必死の形相で頼み込むが……男達は聞く耳を持たない。
 後に残されたのは大怪我をした老人と荒らされた家だけだった。

105 :earth:2012/01/03(火) 14:29:49

 荒らされた家の近所の酒場では、その夜、この強盗騒ぎに関する話題で持ちきりだった。

「聞いたか」
「ああ。あの家もやられたって」
「自慢の孫娘は奪われ、家は荒らされ……気の毒に。全くどうしてこうなったのやら」
「世界の敵になったからだろう。俺達に味方はいないんだ。中国人や韓国人よりも俺達は立場が下なんだ」

 この言葉に誰もが項垂れる。

「いっそ、日本やカリフォルニアが統治している地域に逃げるか? 連中が統治している地域はまだ治安が良い」
「馬鹿な。俺達に2発も原爆を落とした連中の慈悲に縋ると?」
「しかし、ここにいるよりはマシだろう」
「「「………」」」

 太平洋岸は日本軍とカリフォルニア軍の統治下にあった。カリフォルニア軍も苛烈な統治だったが、日本軍の目があるためか
他の欧州連合軍の管理している地域よりはマシだった。そして日本軍の統治している領域はこの地獄とも言うべき旧メキシコ領内で
『支配者に逆らわなければ』、天国と言っても良いほどの統治が行われていると噂されている。
 しかし大日本帝国は、メキシコ人にとっては自国を滅ぼした国でもあった。

「俺の弟は連中の艦砲射撃で消し炭になったんだぞ! 弟は軍や政府と何の関係もなかったのに!」
「……だったらお前は残れば良い。俺はこんな生活は耐え切れない。女房と娘を守るために、俺は逃げる」

 そういうと何人かの男は酒場を後にした。逃げる用意をするために。

「けっ、メキシコ人の誇りがないのか」

 そう吐き捨てつつも男は自覚していた。もはやメキシコ人が自国を、メキシコ人であることを誇るなど出来はしないことを。
 明けない夜は無い。しかしメキシコの夜が何時明けるかは誰にも判らなかった。

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最終更新:2012年01月04日 14:34